海神さんが第四次聖杯戦争に参戦するようですよ?   作:ぴんころ

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第三話:ライダー

「こう言うのってウェイバーくんの専売特許のはずだったんだけどなぁ……くそ、許さねえぞロード・エルメロイ!」

 

 手慰み程度とはいえ魔術師の神性に手解きを受けた少年が、覚えたばかりの低級の使い魔の使役と視界の共有を行いながら文句を口にする。

 その手に持つのはバゼットが買って来た材料で作った牛丼。とにかく魔力の生成を間にあわせるべく用意したカロリーを摂取しながら、身体中を駆け巡る魔力の感覚に顔をしかめて吐き出す悪態の対象は、己のサーヴァントとディルムッド・オディナの激突の瞬間に割り込んで来たライダーのサーヴァントのマスターだった。

 

「それにしても……ここまではそう変わらない感じ、かな」

 

 思い浮かべるのは、もう半ば虫食い状態になった前世の知識。聖杯戦争の真の戦いが始まった最初の一夜の情景。

 

 ランサー(ディルムッド)の誘いにセイバー(アルトリア)が乗り、その途中にライダー(イスカンダル)が参戦。

 さらにそこにライダーの口上に不快感を抱いたアーチャー(ギルガメッシュ)が登場し、遠坂のサーヴァントの出現に憎悪を燃やした間桐のマスターがバーサーカー(ランスロット)を登板させる。

 その光景を消滅を偽装したアサシンが眺める、という彼の知識の中にあるものとはかけ離れているが、大筋としては沿っていると言うのが彼の感想だった。

 

 まず、ランサーではなくバゼットが誘い、セイバーが乗るよりも先にランサーが登場したのだから、当然騎士であるセイバーは一対一の尋常な決闘には参戦しない。

 本来、二人の武勇が死なせるには惜しいと途中参戦するライダーは、その行動原理からしてランサーと互角の戦いができると言う時点で行動が変わらないのはおかしくなかった。

 

 ここまでが実際に起きたこと。であれば、この先に何が起きるのかも想定はできないわけではない。

 

 王を自称するサーヴァントの存在にアーチャーが出現するのはおかしなことではなく、アーチャーが登場するのだからそれを付け狙うバーサーカーのマスターがバーサーカーを参戦させる、と言うのが彼の想定。

 

「だから、多分ここが分水嶺だ」

 

 つい先ほどまでは使い魔の視界によって捉えていた、宝具によって分裂しているアサシンの一体。

 それとセイバーのマスターである衛宮切嗣を使い魔の視界から外し、ライダーからの言葉に困惑を見せるバゼットに念話を送った。

 

『うむ、つまりだな。ひとつ、我が軍門に下り、聖杯を余に譲るつもりはないか? さすれば余は貴様らを朋友とし、世界を征する快悦を共に分かち合う所存でおる』

 

 聖杯を譲れ、代わりに同盟を結ぼう。

 当たり前に考えればありえない提案である。聖杯戦争に参戦するマスターは基本的に『聖杯に託す望み』があり、サーヴァントもまた契約とは別に『聖杯でなければ叶えられない願い』を持つ。

 そんな相手に対して戦うまでもなく恭順を迫るのはまともに考えればありえないことだった。

 

『俺が聖杯を捧げるのは、今生にて新たなる誓いを交わした新たなる君主ただ一人だけ。断じて貴様ではないぞ、ライダー』

 

 だから当然、ディルムッドは断る。彼には聖杯でなければ叶えられない願いはないが、彼の願いは聖杯を主へと捧げることでしか叶えられない。

 ほんの僅かに食い下がる征服王ではあったが、鮮烈なまでの敵意をぶつけられてはその交渉が成立する余地はないと判断したのだろう。

 彼の目が次に捉えたのは、己の提案に対して何一つとして言葉を返さない女傑だった。

 

『では、そちらはどうだ? 余の軍門に下るつもりはないか』

 

『確かに私個人であれば()の征服王の軍勢というのは興味をそそられますがね。ですが、今の私はサーヴァント。その相談は私ではなく私のマスターにしてもらいましょう。私はマスターの剣、マスターの願いを叶えるために応じた身。であれば、貴方の軍門に下ることがその願いの成就に近いと判断するのであれば、そういうこともある』

 

『おお! そうか! では、貴様を余の軍勢に引き入れるためにも、どうにかして貴様のマスターと縁を結ばねばならんな』

 

「いや、その必要はないよ征服王」

 

 ここだ、と判断して使い魔の烏を急降下。バゼットの近辺にて低空を維持させて魔術越しに征服王へと言葉を返す。

 悪態をつきはしたが、第四次聖杯戦争中に同盟を組むのであればウェイバー以外はありえないだろう、と少年は思っている。

 サーヴァントに任せてマスターは引き篭もる、というのはイスカンダルの好みには合わないかもしれないが、そこは祈るしかあるまい。

 

「ありがとうな、アルターエゴ。即蹴るんじゃなくてこっちに任せてくれて」

 

『いいえ、構いません』

 

 僅かに、使い魔越しにすらわかるほどに空気がひりつく。

 アルターエゴ、という呼び名がバゼットを示すクラスなのだとわかったのだろう。

 基本七つのクラスに当てはまらないサーヴァントの存在に、警戒が一段階上がったことを感じる。

 

『ほぅ、お主がそのサーヴァント、アルターエゴとやらのマスターか』

 

「ああ、使い魔越しで申し訳ないがね。参戦するつもりもなかった聖杯戦争に巻き込まれた一般人の身としては生き残ることが一番なので。引き籠らせてもらっている」

 

『巻き込まれ!?』

 

「その通り。死にたくないという願いにアルターエゴは応えてくれたのさ」

 

『だったら、聖杯戦争に参加なんてもってのほかじゃないか。なんでアルターエゴを自害させなかったんだ』

 

「ライダーのマスター、周りをよく見てみなよ」

 

 言われて、周囲を見渡すウェイバーの視界に入るのはコンテナが多量にある倉庫街……ではない。もう、そこは倉庫街としての形を成せない状態。

 コンテナの塗装が剥がれ落ちている程度であればまだマシな方。あるいは拳圧で穴が開き、槍が擦過したことで真っ二つに切り裂かれ、挙げ句の果てには土台から引っこ抜くかのように転倒しているものもある。

 おそらく明日にはガス爆発として処理されるであろうその被害は、聖杯戦争の恐ろしさを如実に示すものだった。

 

「こんなことができる奴らが七騎、アルターエゴを除いても六騎いるんだ。言い方は最悪になるが、それに対抗できる唯一の武器を自分から手放すのは阿呆のすることじゃないかな?」

 

『あるいは、魂食い。あるいは宝具同士の激突の余波。聖杯戦争中のこの街には死ぬ要因が多すぎる。街から出ていけないのであれば、私という剣を手放さず、迅速に聖杯戦争を終わらせるというのはそうおかしな選択肢ではないと思いますが』

 

『つまり、己のマスターの安全を保障しろ、ということか』

 

『ええ。私も負けるつもりはありませんし、勝利を掴む気ではありますが、マスターの願いを叶える手段が多くて困ることはない。万が一に備えておくのは当然のことでしょう』

 

『ううむ……見事な忠節よ。あいわかった! それほどの忠義を持つ者を引き入れられるとなれば、そのマスターも庇護下に入れることにはなんら問題はない!』

 

『嘘だろ……マジで成功するのかこの勧誘……』

 

 自分が口を挟む暇などほとんどないままに締結されてしまった同盟に、思わずと言った様子で呟くウェイバー。

 いや、ウェイバーだけではない。口にしたのが彼だったというだけで、おそらくはこれを見ている全てのマスターが同じように思ったことだろう。

 

『では征服王。いい加減、貴方が途中で強引に止めてしまった戦闘を再開しても? 流石に一対一の尋常な決闘に、これ以上の介入は王であろうと許されませんよ』

 

 そんな、わずかに弛緩した空気がアルターエゴの言葉で一瞬で引き締まった。

 

 言葉自体はライダーに向けたものでも、彼女の意識が向いているのはただ一人、ランサーのみ。

 当然ランサーもその闘志に応えないはずもなく、未だ一解放しただけで一度も行使していない紅槍を構える。

 

『ふむ、そういうことであれば我が部下となった者の決闘を邪魔させるわけにはいかんな』

 

 少年のわずかな緊張をよそに、イスカンダルの号砲が響き渡る。

 ビリビリと気合が使い魔越しに伝わってくるほどの征服王の言葉に、きっとギルガメッシュは出てくるだろう。そうすればランスロットも。

 セイバーの有無、どう行動させれば正解なのか。考えはしているものの、ライダー陣営との同盟関係を無事に軟着陸させるための最適解がわからなかった。

 

『聖杯に招かれし英霊は、今! 此処に集うがいい!』

 

 さあ、どうなる? ゴクリと、少年が喉を鳴らした。




やりたかったディルムッドくんとの戦いはやってしまったからもうどうしようかなってずっと悩んでる。
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