とある世界のとある時代。
『迷宮都市オラリオ』と呼ばれる巨大都市。その中心部地下に存在する天然の地下空間にして、世界三大秘境に数えられる洞穴、『
その最下層……と思われる場所にて、魔王こと常磐ソウゴは一人彷徨っていた。
「参ったな、迷ってしまった」
さして悩んでなさそうな顔で、ソウゴはそう呟く。
領土拡大を目的に適当に選んだ未開の世界に降り立ったソウゴだったが、到着と同時に視界に広がったのは暗い洞窟だった。
最初は即座に天井をぶち抜いて地上に出ようかと思ったのだが、少し視線を逸らすと下に続いている階段を発見し、少しの冒険心が疼いた結果そのまま階下へと足が進んでいた。
そのまま下に向かって進み続けると、次第に魔物と思わしきモンスター達が視界に入る様になる。だがそれらはソウゴを見た途端逃げ出すので、戦闘が起こる事は無かった。そのまま勘と勢いを頼りに突き進んでいくとどんどん道を外れていき、現在に至っていた。
そして逃げ出すモンスター達をサンドバッグ代わりに攻撃しながら歩いていると、いつの間にか大きな扉の前に辿り着いていた。
「特に仕掛けがある訳では無さそうだが、さて……」
石とも鉄とも分からない扉をペタペタと触りながら、罠や魔術、呪いの類が施されてない事を確認するソウゴ。
するとその扉は、材質やサイズから想定される重量を感じさせる事無く、軽く力を掛けるだけで開いていった。その途端、
「……何かいるな」
その奥からとても大きな、しかし希薄とも言える気配をソウゴは感じ取った。その珍しい気配に、ソウゴは興味を惹かれて足を踏み入れていった。
そこから少し進むと、石造りの玉座に腰掛ける老人の姿が目に入った。
「……この様な辺鄙な場所に異界からの客人とはな」
「それはこちらの台詞だ、まさかこんな黴臭い場所に天空神がいるとは……」
老人が若干の驚きを帯びて口を開くと、ソウゴも同様な感覚で話しながら老人の正体を見破る。
ソウゴの前に座る老人こそが天空神ウラノス。この迷宮の管理者にして、恐らくこの世界の神々のトップである。
「して、如何な用件かな? 異邦の神殺しの魔王よ」
「神殺しは止してくれ、忘れたい黒歴史なんでな」
ウラノスの問いかけに、ソウゴは苦笑気味に答える。序に手をヒラヒラと振れば、ウラノスも「それは失礼した」と了承を示す。
「ここに来たのは……まぁ、あれだ、仕事半分趣味半分と言ったところか。特別用というものは無いのだがな」
そこでソウゴが来訪の理由を説明すれば、ウラノスは淡々とした声で応じる。
「その様な理由で気軽に来訪されるとは。他の神達が驚いてしまったよ」
「あぁ、先程地上から貴様に似た気配がごっそり消えた理由はそれか。だとすると、少々手間をかけさせてしまったかな?」
ソウゴが悪びれる様子も無くそう訊けば、ウラノスは答えない。ソウゴも答えが欲しくて訊いた訳でもないのでそれで終了とし、話題を切り替える事にする。
「ところでウラノス神よ。先程記憶を覗かせてもらったが、ここでは随分と愉快な事をしている様ではないか」
「そうあっさりと記憶を読まれては、神も形無しだな。……この街は、ずっとこの場所の探索によって栄えてきた、それを愉快と思ってくれるならなによりだ。私は、ここでモンスター達が外に出ない様に祈り続けているのよ」
ウラノスから都市の説明を受け、ソウゴは思いついた様にクスリと笑う。
「ふむ、中々好奇心をそそられる。ここは一つ、暫く留まって盗掘師の真似事をするのも一興か……?」
ソウゴが冗談交じりにそう言った。すると……
「……それは出来ん」
ウラノスは、静かにそう言った。
「…………その心は?」
ゾワリ、と。途端にソウゴの纏う雰囲気が変化する。先程までの温和な空気は一切消え去り、抜き身の妖刀の様な禍々しい気配を纏っている。
ソウゴの気に当てられ、さしものウラノスも冷や汗を掻く。
「貴殿の力は強大すぎる。冒険者としてここに潜れば、一瞬で全てを暴いてしまうだろう。そうなればこの都市は成り立たなくなる、故に直接関わる事は許可出来ない」
「……成程。そうなれば楽しみが減るか……」
ウラノスの言葉に一応の納得を示したソウゴは、剣呑な雰囲気を収めつつ指を立てて提案する。
「ならば、ここの神々の真似事ならば問題あるまい?」
「ファミリアか……。それならば問題無いが、眷属にあてはあるのかね?」
「無論。伊達や酔狂で長生きしている訳では無い」
そう語るソウゴの背後には、いつの間にか数十の木箱が存在していた。その一つ一つからソウゴには及ばないまでも、凄まじい力を感じる。
それを感じ取ったウラノスが首を縦に振ると、木箱は宙に溶ける様に消えていった。
するとソウゴは踵を返してウラノスに背を向ける。
「何処へ行くのかね?」
「何、これから長い付き合いになるかもしれんのだ。ちと挨拶をな」
ソウゴはそう言いながら上方を指さす。その意味を理解したウラノスは「穏便に済ませてくれ」と零したが、既にソウゴの姿はどこにも無かった。
それから二日後。
日の上り始めた明朝頃、オラリオ某所の屋上にて。
「……夜明けか。私とは真逆だが、物事の初めには丁度いい」
そう呟くソウゴの背後には、ソウゴの選んだ三十五人の戦士達が立つ。その視線は、何れも迷宮を見据えている。
「……行くぞ諸君。『オーマジオウ・ファミリア』の最初の一歩だ」
夕暮れを冠する魔王の眷属達が、朝日に包まれて歩き出した。
ファミリアメンバーはありふれ九話の後書きで書いたメンバーの内最初に思いついた面々です。後々増えます。
オリジナルで考えやすいのって冥闘士と天闘士だよなぁ、と思う作者であった。「ファンタジー世界って大体修羅道と人間道で無双出来るんじゃ?」とも思う。
因みに後書きで書いた時より増えて、現在108人です。