ソウゴがファミリアを立ち上げて、一週間が経った日の昼頃。
ソウゴは側付きであるミクとサターンを伴って、オラリオの市街を歩いていた。街中の、しかもダンジョンとは反対側の方角に向かっているというのに、大仰な黄金の鎧を纏っている二人の少女は当然というべきかそれなりに目立っていた。
散歩という訳ではない。三人は、明確な目的地を定めて歩みを進めていた。
既に歩き始めて十分程経過しており、程なくして目当ての建物に辿り着く。
「ここだ。……仮にも神が住む場所にしては、随分と貧相よなぁ」
「で、でもご主人様。これはこれで……風情があっていいのでは? ね?」
「それに小父様。ここは最近立ち上げた上に、団員が一人だけだと聞いています。財政難であるならば、少しでも切り詰めるのは当然かと」
「懐の寒い神とは、ありがたみの欠片も無いな」
そう話す三人の目の前には、古ぼけた廃教会があった。
「邪魔するぞ」
「? いらっしゃ……げっ! 君はこの間の!」
心底嫌そうな顔でソウゴ達を迎えたのは、長い黒髪を二つに結んだ背の低い少女。窯と貞操を司る女神ヘスティア。このヘスティア・ファミリアの主神である。
「一体何の用だ!? ここには僕意外誰もいないぞ! はっ、まさか僕の体が目的──」
「そんな訳無いだろう。ただの挨拶と報告だ、土産もあるぞ」
そう言ってソウゴはヘスティアの許可も無く椅子に座り、机に何処からか取り出した食料と酒を並べる。
ヘスティアは一瞬、山の様なご馳走と酒に目を輝かせるが、直ぐ様不審者を見つけた番犬の様に唸りだす。だがソウゴが「毒なぞ入れとらんから座れ、話が出来ん」と着席を促せば、恐る恐る席に着いた。
「遠慮するな、全てくれてやる」
そのまま数秒の間ヘスティアは食料を見ていたが、ソウゴの言葉を受けて手を伸ばした。
「……美味しいじゃないか。で? いきなりの訪問の理由は何なのさ?」
一口食べてみて、その味に不審なものが無く安心したのか、ヘスティアは胡乱気な目をしながらソウゴに目的を質問した。
ソウゴはそれこそ世間話でもするかの様に、訪問した目的を話し出した。
「何、そう畏まった話をする訳でもない。ちょっとした事後報告の様なものだ」
「事後報告?」
「恐らく貴様は既知の仲だろうから伝えてやろうと思ってな。既にウラノスとヘルメス、ヘファイストスには伝えてある」
「ま、待て待て、待ってくれ! 一体何の話だ!?」
突如この場にいない顔なじみやこの都市のトップの名前を出され、ヘスティアは話が見えないと混乱する。
そんなヘスティアに向けて、ソウゴは本題を切り出した。
「この都市の外に、アレスの治めるラキアという国があったろう? あれを落とす事にした」
ソウゴの発言に、ヘスティアは一瞬固まった。何を言っているか理解出来ないのだろう。だが少しすればソウゴの言葉の意味を理解出来たのだろう、ヘスティアは焦った様な声音で返答した。
「おいおい、君はラキアを滅ぼすって言ったのか!? アレスに
「いや、戦争遊戯ではない。ただ単純に私が奴の統治が気に食わんから、奴を殺す為に一方的に仕掛けただけだ」
「なっ……君は神を殺すっていうのか、そんなの不可能──」
「だと思うか?」
途端、ソウゴの気配、纏うオーラの様なものが変化するのを感じ取った。その瞬間、ヘスティアは恐怖した。
今目の前にいるこの男は、間違いなく人間だ。ならば、感じるこの神威は何だ。
ウラノスがいる。ロキがいる。フレイヤがいる。それだけじゃない。ヘルメスもアポロンもアルテミスもヘファイストスもタケミカヅチもミアハもガネーシャもアレスもいる。ゼウスも、ヘラも、それ以外の神もいる。
それどころか、自分自身も彼の中にいる。その全てが訴えている。
絶望と憎悪を、それ以上の"死の恐怖"を。
その事実が雄弁に訴える。この男こそ神殺し、全ての神格を下して自身が神となった、暴虐の化身だと。
「……了承したのか」
「言っただろう、既に伝えたと。ウラノスは"黙認"を。ヘルメスとヘファイストスは"沈黙"を約束してくれたよ」
「……君の、いや……お前の目的は何だ?」
ヘスティアが普段に無いキツい表情と声音で問う。ソウゴの答えは……
「暇潰しだな」
実にあっさりしたものだった。まるで道端の石ころを蹴とばす様な、何でもない様な気軽さで告げられた答えに、ヘスティアは激昂する。
「そんな事の為に僕達を殺すのか!? お前の自己満足の為に! そんな理不尽が許されると思ってるのかっ!!?」
ヘスティアは今にも掴みかからん勢いで捲し立てる。しかしソウゴは柳に風とばかりに受け流す。
「おいおい、自覚が無いのか?」
ソウゴはヘスティアを指さし、笑みを浮かべながら告げる。
「
ソウゴの言葉に、ヘスティアはフラフラと腰を下ろす。
「ではな。それは迷惑料も込みだ、返却は受け付けん」
それだけ言うと、ソウゴはミクとサターンを伴って部屋を出ていった。
「ほたる、首尾はどうだ?」
ヘスティア・ファミリアからの帰り道、ソウゴはサターンに戦場の様子を尋ねる。ソウゴの施した術によってファミリア全員が感覚を共有する術を持っており、それを使えば現地にいなくとも状況を把握出来るのだ。
「少しお待ち下さい。……現在、皆様は五方に分かれて攻め立てております。最も数の多い
「順調だな」
「ご主人様、私達も向かいますか?」
サターンから報告を受けたソウゴは、続くミクからの質問に否を示す。
「いや、こちらは通常通りダンジョンの方を進もう。メンバーを増やす」
「「畏まりました」」
まるで一国に戦争を仕掛けているとは思えない程の気軽さで、一行は自分達の本拠地へと戻っていった。
同時刻 オラリオ外、ラキア公国正面。
雨が降っていた。赤い、紅い、朱い、有象無象の血で出来た、赫い雨が。
彩るのは幾万の悲鳴。時折手足や首、原形を留めない肉片が飛び交い、その光景は地獄絵図。
「梨璃……何処? 何処にいるの、梨璃?」
そしてその雨を浴びている、心細そうな表情で誰かを探す少女が一人。
長い黒髪と紫の眼。抜群のプロポーションを、翼を持つ黄金の鎧に隠し、その手には機械仕掛けの血濡れの大剣が一振り。
彼女の名は白井夢結。
そして、この地獄を作り出した張本人だ。
「うぉぉおおおっ!」
ラキアの兵士が一人、夢結目掛けて剣を振り下ろす。完全に死角。兵士は勝利を確信する。
しかしその瞬間、その兵士の腕と首は宙を舞った。夢結の無意識の反撃は、目にも止まらぬ速さで敵を冥土に旅立たせる。
「ひ、怯むな! 敵は一人だ、畳みかけろ!」
ラキア軍の指揮官と思しき者が発破をかける。すると夢結の腕は、自然とその指揮官に向く。
夢結の持つ大剣、彼女の
「梨璃……梨璃? 何処にいるの?」
しかし当の本人に敵を討ち取った喜びは無く、ただこの場にいない妹を探すばかり。
そんな彼女に、指揮系統を失った兵達は混乱して無我夢中で向かっていく。
途端、そんな彼等を視界に収めた夢結に変化が表れる。
その艶やかな黒髪は太陽を反射する様な白銀に変化し、右目は赤い風車の様な紋様の、左目は幾重に重なる渦の様な紫の瞳に変化する。
その体は白銀の光に包まれ、次第に紫、黄金と色を変えていく。
「貴方達……梨璃を、……私の梨璃を何処にやったの!?」
その光は爆発し、ラキアの兵達を飲み込んでいった。
「何だあの化物はっ!? ……うわあぁぁぁ!」
「撤退、撤退し……ギャアア!?」
金雷を伴って獅子が吠える。衝撃を纏い駿馬が駆ける。その余波だけで、兵達は木っ端の様に吹き飛ぶ。直撃した者は言わずもがなだ。
そんなラキアの兵達を追い詰める様に、何体もの巨大な魔獣が襲い掛かる。
それらを操るのは、溶岩の体を持つ牛人の肩に乗る一人の青年。細身の体躯に似合わぬ、隆起した山脈の様な黄金の鎧を纏う青髪の男。
彼は暁古城。
古城は自らの眷獣である『
雷撃が、振動が、輝きが、溶岩が、斬撃が、猛毒がラキアの兵隊達を蝕んでいく。
「悪いな。アンタ等に恨みも何も無いんだが、こっちもこれが仕事だ。つぅ訳で、通らせてもらうぜ!」
左右非対称の赫と紫の目を持つ吸血鬼は、獰猛な笑顔を浮かべながらラキア兵を蹴散らしていった。
「やっ、てぁっ!」
赤みがかった黒髪を二つに結んだ少女が、気合の声と共に愛刀を振るう。その剣閃は一刀確殺と言わんばかりにラキア兵の鎧や盾、武器を両断し致命の一太刀を与える。
「はぁ! ……ふぅ、数が多いなぁ。光牙君は大丈夫かな?」
『人ノ心配ヲシテイル場合カ?』
「おっと! ……そうだったね、今は目の前の事に集中しないと!」
突如聞こえたこの場にいない声に驚く事無く気を取り直す少女。その刀は時折炎を纏い、振るえば一瞬にして兵達を飲み込んでいく。少女は天使と悪魔を模した様な二対の翼を輝かせ、縦横無尽に戦場を駆け刃を振るう。
彼女は安桜美炎。
「先生や先輩達はもっと進んでるだろうし、私達もそろそろ決着つけないと! 行くよカグツチ!」
『アァ、全力デ行クゾ』
その言葉と共に美炎の眼は色を変え、髪は燃え盛る様に赤くなる。愛刀『加州清光』にカグツチの炎が宿り、美炎は思いっきり振り下ろして一撃を放つ。
「
銀河を斬り裂く星々の砕ける破音と共に、目の前の兵士達を塵に変えながら道を切り開いた。
『……何ダ今ノハ』
「……やってみたくて」
他方、別の戦場でも蹂躙は行われている。
「ギャアアアッ!?」
「何なんだその男は!」
「奴の攻撃が……全てすり抜けてくるっ!」
ラキアの軍勢は、一人の男の奇怪な攻撃に翻弄されていた。
紫や蒼の炎を纏ったその斬撃は、兵達の防御をすり抜ける様に通過していく。その上、その攻撃を受けても外傷は一切無い。
だというのに、その攻撃を受けた者は例外無く倒れていく。正に奇々怪々としか言い様がない。
「怪我したくねぇなら退いてくれ。用があんのはアレスって奴だけだ、お前らじゃねぇ。それでも立ち塞がるってんなら……容赦はしねぇ」
その男、黒崎一護。
一護の言葉と共に眼が赫紫に染まり、彼の相棒『天鎖斬月』に積尸気の冥火が迸る。
「月牙……天衝!」
死を運ぶ黒い斬撃が、冥界の息吹を伴って衝撃と共に兵士達の魂を刈り取った。
「や、奴の攻撃に触れるな! 奴は……死神だっ!!」
『「波ぁぁぁぁぁーーーっ!!』」
閃光が走る。爆発。閃光が駆ける。爆発。
人が飛ぶ。腕が飛ぶ。足が飛ぶ。首が飛ぶ。血飛沫が蒸発する。
戦場の一角で、そんな光景が繰り返されていた。
『「どうした! 俺に立ち向かう奴はいないのか!?』」
そして、そんな怒鳴る様な問いかけが響き渡る。発生源は空中、山の様に積み上がったラキア兵達の頭上。
宙に浮かぶ、黄金の鎧を纏う尾の生えた偉丈夫。
彼はゴジット。
彼の纏うオーラは様々な色が混じりあって虹色に輝き、両の掌に光球となって現れる。
『「受けてみろ、これが俺の本気の一撃!』」
眼の色を変えたゴジットは掌を合わせ、逃げ惑うラキア兵達に向かって開き放つ。
『「金色猿咆かめはめ波ーーーっ!!』」
最強のサイヤ人の渾身の一撃は、巨大な光の柱となってラキア兵を飲み込んだ。
……後に残ったのは、底の見えない巨大な破壊痕だけだった。
一方、全ての戦場がその様にド派手になっているという訳でもなく。
極めて地味に、静かに、しかし確実に進む戦場というのも存在する。
「何処だ、敵は何処に行ったっ!?」
「おかしい、さっきまで目の前に──」
そう言った男の首が突然飛ぶ。周囲が混乱に包まれた瞬間、そこから少し離れた所にいた兵士の集団が突如地面に空いた大穴に落ちる。
それに気づいた者が目を向ければ、今度はその視界の外の者達が隆起した砂や岩の刃に貫かれる。
誰一人気付いていない。目の前の異常事態を起こしている元凶が、すぐ隣にいる事に。
自分達が必死に探し、または逃げようとしている敵の少女が、一歩も動いていない事に。
彼女は飛鳥、
「……」
風車と渦を描く目を伏せる彼女に、ラキア兵の姿は映らない。目にする価値を見出していないのか、響き渡る絶叫や悲鳴すらもシャットアウトし、彼女はただ自分自身の心のみを見つめている。
時折その手に持つ刀で、自ら敵兵の首を刎ねる。
しかしそれでも、最早彼女の心は動かない。
「行くぜ重明!」
『承知』
勇猛果敢な呼び声と共に、男の背中に虫の様な羽が生える。男は羽を羽搏かせ、空中へと躍り出る。
「上だ! 奴は上に飛んだぞ!」
「撃ち落とせ!」
ラキア兵から矢や魔術弾が飛んでくるが、男は軽快な動きで躱し、または纏う鎧に備えられた武器で弾いていく。
「今度は牛鬼、頼むぜ!」
『任せろ!』
先程とは違う声が心に響くと同時、男の手は印を結んで息を吸い込む。
((蛸墨隠れの術!))
途端男の口から墨の様に黒い煙が噴出し、ラキア兵の視界を奪う。
「くそっ、目くらましとは卑怯な!」
「何処だ!?」
その瞬間にも男は手を動かす。男の纏うオーラが伸び、黄土と青の二本の腕を形作る。
「主鶴、又旅。キツいの頼むってばよ!」
『よしきた!』
『行きます!』
反応が返ってくると共に、その手には風と火花が出現する。
『風遁・練空弾!』
『火遁・ねずみ毛玉!』
圧縮された空気弾が射出され、兵団を一気に吹き飛ばす。投げられた炎の毛玉が鼠の様な不規則な軌道で駆け回り、突如弾けて周囲を燃やす。
だがその勢いで墨が晴れ、男の居場所が判明する。
「いたぞ、あそこだ!」
「かかれ!」
ラキアの兵士達が武器を構え、思い思いに男に向かって突撃してくる。
「相手してやるってばよ!」
男も両手にトンファーを構え、相手の武器を捌いていく。その重装な外見からは想像つかない程の身軽さで、男は反撃しながら距離を取る。
(出番だってばよ。孫、犀犬!)
『応、ぶちかませ!』
『あいよ~!』
男の呼び声に、力強い返事が響く。
『溶遁・蛭間~!』
「からの——」
『熔遁・灼河流岩の術!』
男の口から、強酸の雨と火山弾が乱れ飛ぶ。溶ける肉体、灼ける仲間に混乱するラキア兵を他所に、男は印を結ぶ。
「磯撫、重明!」
『了解! 霧隠れの術!』
『秘伝・鱗粉隠れの術』
濃霧と細かく光を乱反射する粉が散布され、ラキア軍は再び男を見失う。
「また見失った!」
「奴め、どこまで姑息な手を!」
愚痴を吐く兵達を見据え、男は三叉槍を構えながら足を引く。
(穆王、行くってばよ!)
『勿論ですとも』
声が返ると同時、男の体が沸騰するかの様に蒸気を噴き上げる。そのまま衝撃音を響かせながら、男は突貫する。
そのまま霧と粉を晴らすと同時、男は其々色の異なる九本の腕を伸ばしながらエネルギーを固める。
「行くぜ九喇嘛! 特大のを出すってばよ!!」
『思いっきり行けナルト!!』
男の名はうずまきナルト。オーマジオウ・ファミリアの副団長。
「尾獣螺旋丸!!」
義兄弟と同じ眼を宿したナルトの放つ巨大な黒星が、塵芥の如きラキアの兵達を押し潰した。
そこは静かだった。
凡そ戦場とは思えない程の静寂。勝鬨も悲鳴も無い、静謐の空気が一帯を支配する。
だが誰もいない訳ではない。そこには、大勢の人間が横たわっていた。
その全員が、外傷も無く事切れていた。
「つまらないな……」
そこにただ一人。自分の足で確りと地面に立つ男が一人。
鋏の様な翼を持つ黄金の鎧を着た男は、その言葉通りの退屈そうな表情で歩き出す。その様子は、先程数万単位の兵達を一瞬で殺害したとは思えない程他人事だった。
彼はゼレフ。
「アレスとかいう神様は、もう少し楽しめるかな……?」
ゼレフは歩む。赫と紫の光を宿しながら、他の仲間達も向かっているであろう戦神アレスの下へ。
「ペガサス……流星拳!」
裂帛の声が響くと共に、その名の通り空を駆ける流星の如き拳が降り注ぐ。
秒速一億発の連打が、迫りくるラキア兵を殴り飛ばす。その鋭さ、正に矢の如く。その拳を受けた者には、皆一様に貫通する様な穴が開いている。
その拳を放ったのは、大空を制するかの様に輝く黄金の翼を広げる赤髪の青年。
「怯むな、かかれっ!」
「! ぅぉぉおおおおっ!」
次から次へと迫るラキア兵の猛攻を、光牙は自身の
そして、宙に浮き上がった兵達の隙を逃さず追撃を掛ける。
「シャイニング・ファング!」
それは彼が射手座を受け継いで編み出した、彼自身の名を冠する技。鉤爪の様に構えられた十指に、輝く刃の如き雷が宿る。
その閃光を受けた者は、まるで巨大な猛獣に食い千切られた様に鎧を引き裂かれる。
「そんな攻撃じゃ、俺は止まらないぜ!」
「くっ、化物め!」
悪態を吐く指揮官を他所に、光牙は大宇宙を拳に集中させる。その高まりに呼応する様に、両の眼は変化する。
その一撃は、巨大な光星となってラキア兵の頭上を埋め尽くす。
「ペガサス……彗星拳っ!!」
「どうしたどうした!? もう終わりかぁ!?」
一人の男が暴れている。背後には、血溜りに倒れる大量のラキア兵。
左右には炎、水、雷に風。頭上にはラキア兵達が落とした武器に、破壊した大地。
手には愛刀、身には生前存在しなかった数多の能力。
男は物足りない様に文句を言うが、その顔は笑顔を浮かべていた。
敵が物足りないのは難点だが、その力を存分に振るえる状況は実に面白かった。
「ニューゲートに金獅子、それにリンリンの能力! それ以外にもまだまだありやがる! 試し足りねぇ、もっとかかって来やがれ!」
悪魔の様な角を持った鎧を纏い、龍の鱗を持つ大男は挑発する様に大笑する。
その男、ゴール・D・ロジャー。かつて世界の富・名声・力、全てを手にした海賊王。オーマジオウ・ファミリアの団長にして、
自らの覇気によって黒く染まった愛刀『エース』を振りかぶり、赫と紫の瞳でラキアを睨み、海賊王は台風の如く戦場を荒らしまわった。
「未熟ですね……私も、貴方方も」
そんな言葉を残し、音も無く白金の影が駆け抜ける。次いで、後方に立っていた者達も音無く倒れる。
立っているのは、駆け抜けた白金の者のみ。まるで神話の中の登場人物の様に美しいその女性は乱れた銀髪を流し、白い翼の様な双剣の血を掃う。その動作に、流れる川の如き翼が煌めく。
振り返り目を向ければ、倒れているラキア兵が傷口から徐々に凍り付いていった。氷結はその身体の半分を覆ったところで止まり、凍った部分が砕け散る。
「……一週間経ちますが、まだ慣れませんね。精進しなければ」
そう呟く彼女の言葉は、自身が起こした現象に対して放たれたもの。そして独り言を零しつつ、異色の眼とその双剣は新たに向かってくる兵達を捉えて首を刎ね、宙を舞う氷片に変える。
冷気を操るこの能力は、生前から彼女が持ち合わせていたものでは無い。
彼女の授けられた冷気の本来の威力なら、彼女が駆け抜けると同時にラキア兵達の全身を完全に凍結させ砕く事が出来る。それが出来ないのは、言葉通り彼女自身がまだこの能力に慣れていないからだ。
それでも同時に与えられた水を操る能力に比べて、こちらの方が上達が早い。何故かと訊かれれば、彼女が生前北欧の氷山頂上に住んでいた事が関係しているのだろうか。
彼女の名前はエーデルワイス。生前は『比翼』の二つ名で呼ばれた世界最強の剣士にして、
そして、決してツッコんではいけない。
彼女が『世界最強の剣士』と呼ばれたのは才能があったが故の偶然であり、剣の道に足を踏み入れた元々の理由は、ただのダイエットである事を。
口では精進だの未熟だの言いつつ、内心では「じゃが丸くん食べ過ぎたから、ちょっと運動しないと……」という思いで戦っている事を……。
「ディバイン、バスター!」
戦場の空に、その声音と裏腹に幼さを感じさせる叫びが響く。だがその響きとは逆に、齎す結果は相対するラキアの兵達に絶望を与える。
兵達の頭上を飛ぶ魚の鰭の様な翼の黄金の鎧の女性、彼女の持つ機械の槍の様な物体の穂先から桃色の閃光が走り、地上をラキア兵ごと消し炭に変える。
自分の攻撃の結果を見て、彼女は外見からは想像出来ない幼子の様な無邪気さで燥ぐ。
「やった、いっぱい倒せたよ! 帰ったらおじいちゃん、褒めてくれるかなぁ?」
コテンと首を傾げる彼女に答えたのは、彼女の手の中の槍だった。
『Of course, my master. Mr.Sougo will also plaise you』
「えへ、だと嬉しいなぁ。よーし、もっと頑張るぞー!」
似て非なる二つの眼を向けて、彼女は空を駆ける。
彼女の名は高町なのは。魚座ピスケスのΩ神聖衣を与えられた空戦魔導師であり、生前はソウゴが孫の様に可愛がっていた少女。
何の不具合かソウゴと初めて会った時と同程度まで精神年齢が退行してしまった彼女は、ソウゴに褒められたい一心でその力を振るう。彼女の相棒であるデバイス『レイジングハート』はただ、主の行いに従うのみ。
増えますからね。