「よし、絶対生き残ってやる」
俺は今、今世に於いて最初の壁を乗り越えるべく、気合を入れていた。
ここは藤襲山。
鬼殺隊に正式に入隊するための最終選抜の会場。合格条件は藤の花で鬼達が閉じ込められたこの山で七日間生き延びること。鬼殺隊とは読んで字の如く、鬼を殺すことを目的とした組織。
俺は転生してから死に物狂いで鍛錬を積んできたのだ。
「先生へ恩を返すため、必ず生き延びてやる!」
俺は……死にたくない。
「正面から来たら熱界雷、二体きたら熱界雷二連続で飛ばす」
俺の攻撃手段はただ一つ。斬撃を飛ばし相手を吹き飛ばすことのみ。それも逃げることを目的として鍛えてきた。
「極めろ熱界雷、目指せ一撃逃走」
俺は一人呟き自分に言い聞かせる。
これは俺の目標であり、人生の指針。
そして、今回の最終選別の合否によって俺の人生が決まる。いわばターニングポイントである。
「「では、ご武運をお祈りしております」」
顔が瓜二つの白髪の少女二人が宣言し、ついに始まった。
震える体に鞭を打ち、戦場、藤襲山へと入り込んだ。
俺は将来、クズに成り果て死ぬ運命がある。
そのことがわかったのは十一歳を迎えたとある日。外で一人で過ごしている時、不覚にも転倒し頭を強打してしまった。
それがきっかけだったのだろう。
脳内にさまざまな情報が流れ込んできた。
今現在の大正の世からは想像できないほどの都会の街、便利になった情報社会。
別世界の人間の記憶が急に流れ込んできたのだ。
俺は頭痛のせいでその場に座り込んでしまった。
頭を強打したあと、しばらく時間が経ち脳に記憶が定着したのか頭痛は無くなった。
どれほど時間が経ったのか、気づくと周囲は薄暗くなっていた。
俺は自分に流れ着いた前世の記憶、そして今世の記憶からこの世界についてある一つの推測を導き出す。
「もしかしてここは鬼滅の刃の世界?」
これはあくまで憶測だ。
確かな確証はない。
俺自身の名前、獪岳といつもお世話になってる寺の主の悲鳴嶼さん。
そして、今の境遇からの推測だ。
鬼滅の刃は少年漫画で爆発的な人気を誇り、アニメ化、そして映画化された不朽の名作。
竈門炭治郎という名の主人公がある日、ラスボスの鬼舞辻無惨に家族を殺され、鬼にされてしまった唯一の生き残り、妹の禰豆子を鬼から人間に戻すため奮闘する、王道の物語だ。
そしてこの俺こと獪岳というキャラは鬼滅の刃の人間サイドに於いて最もカスでクズ。
自己保身が強すぎで救いようがなく、ファンからも最も嫌われていた人物。
だが、もしかしてたまたま名前だけ同じだけかもしれない。たまたま寺で過ごしているだけ。悲鳴嶼さんの名前もたまたまかもしれない。
「おや?こんなところに子供一人か?」
ふと、俺に声をかけてくる人物がいた。
俺は振り返り声をかけてきた方を向く。
「……え?」
現実逃避もいいところだ。
どうも俺の推測は当たってしまったらしい。
理由としては目の前にいる生物が物語っていた。
目は赤く、血が滲んだボロボロの着物、特徴的な牙、そしてツノ。そして何より、嗅いだことのないくらいの異臭。
推測だけで終わって欲しかった。当たってほしくなかった。
ここ、間違いなく鬼滅の刃の世界だ。
目の前の死亡フラグがあるにも関わらず俺は一人納得したのだった。
この物語は獪岳に転生してしまった俺がクズにならないため、生き残るために奮闘する王道とはかけ離れた物語。