童磨の一件が終了し一週間ほどが経った。
終わった後は少々面倒臭さかった。
それもそうだ。上弦の鬼二体と短期間に遭遇、そして生き延びた。
これは俺が思っていた以上に大事件らしい。
ここ数百年、上弦の鬼の顔ぶれは変わってなく、仮に遭遇したとしても全て全滅。
能力はもちろん、容姿すらも不明。
そんな上弦の鬼に対して隊士が一度だけでなく二度も生還、しかも有益な情報を持ち帰る。
これは鬼殺隊全体にとっても利益が大きく、今後の対策、訓練の仕方によっては充分対策が取れる。何より上弦の鬼に匹敵する速さをもつ隊士がいるという基準も分かっている。
俺は大いに評価された。
お館様も「獪岳……本当にありがとう」と直接お礼を言われた。
その時柱たちは動揺し、約一名俺に殺気を向けたのは気のせいだろう。
それでも、良い話しだけではない。
それは今の鬼殺隊にとって悲報。
花柱 胡蝶カナエの戦線離脱。
ただでさえ柱の空席が空いている状況。これは鬼殺隊にとっても痛手だ。
事件終了後、三日ほどで目を覚まし、体は大きな怪我もなく今では健康状態。
でもカナエさんは童磨との戦闘で呼吸が使えなくなってしまったのだ。
俺はそれを聞いた時、二つ思ったことがあった。
一つはとりあえず結果はどうあれカナエさんが無事でよかった。
もう一つは俺また柱に誘われるかなーと思った……最終的に誘われることはなかったが。
今回の件で俺は実績を上げた結果、かなりの報酬をもらった。
階級も、「戊」からさらに三つ上がり「乙」となった。
最後にお館様から今後の柱たちの訓練、俺自身の訓練のための土地……というより森をもらった。
それは大きすぎて流石に断ろうかとも思ったが、もらえるものは貰っておこう。
そう思い、全て受け賜った。
そして現在俺は蝶屋敷でカナエさんが改めてお礼をしたいとのことでテーブルを挟み食事を取っていた。
今この場にいるのはカナエさん、俺、しのぶ、カナヲの四人。
並べられた食事は豪華で、高級旅館で出されるような料理が多い。
……一体いくらしたんだろう。
そんな感想すら出てくるくらいだ。
「獪岳さん……改めて、ありがとうございました。私が今この場にいられるのはあなたのおかげです」
「いえ……無事なのはよかったけど、でも……鬼殺隊を引退することになってしまって」
「もうそのことはいいんです。上弦の鬼に遭遇した時点で生き延びられる、それだけでも凄いことなのですから。獪岳さん…もしかして自分に責任があると思ってるんですか?」
「まぁ、そりゃもっと早く着いていれば……」
カナエさんは本当に察しがいい。
俺は常々もう少し早く着いていれば……そんなことを思っている。
俺は俯いて考え事をしていたがふと、右手を包むように温もりを感じた。
俺は右手を確認すると俺の正面に座っていたはずのカナエさんがいた。
しかも結構真剣な表情。
雰囲気を気遣ってかしのぶとカナヲが退出した。
………いらないよそんな気遣い。
「獪岳さん……何度も言っていますが、私が助かったのはあなたのお陰です」
そう言ってカナエさんは俺に笑みを向ける。
「獪岳さんに命を助けて頂いたのはこれで二度目ですね。……一度目は最終選抜、そして今回。私は返しきれないほどの恩を作ってしまいましたね」
その言葉を聞いた瞬間俺は胸に激しい痛みを感じる。
二回目は分かる。でも一回目は違う。
俺は決めた。もう嘘はつかないと。この人には誠実でいなきゃいけないと。
だから俺は真実を話す。
「それは違うよカナエさん」
「何がですか?」
「確かに今回の一件は俺が助けた。でも最終選抜の時は違う。あれば無意識だったとはいえ、俺の自作自演なんだ。あの大木を凄い勢いでカナエさんに飛ばしたのは俺なんだ。それがなければ今この場で俺とカナエさんが一緒にいることはない。……本当にごめん」
俺はそう言ってカナエさんに頭を下げる。
カナエさんはそれを聞いた後、何も言わずにいた。
おそらく軽蔑しているのだろう。
しかし俺の考えは次のカナエさんの話を聞き、驚く。
「本当に獪岳さんは誠実な人ですね」
「いや、違う!俺はそんな人「知っていましたよ」……え?」
「最終選抜の件は知っていました……いや分かったと言った方がいいですかね。私もあの後少し考えたんです。少し不自然なところがありましたから、現場、そして何よりあなたの態度、それを考えれば誰でも分かると思います」
「………なら何で?普通なら軽蔑する場面では?」
わかってるんたら何で引き離さなかったのだろう?
俺の問いにカナエさんは何故か大きな深呼吸をする。
そして顔を赤くして話し始める。
「あなたのことが……好きだからです」
「……え?」
「確かにきっかけは最悪だったのかもしれません。それでも最終選抜残りの数日間。あなたと過ごして、あなたの人柄に触れて気がついたら惹かれていました。……手紙で文通拒否された時なんて凄いショックだったんですよ」
俺はカナエさんの言葉を聞いて何も言えずに黙ってしまう。
ただどうしよう。
そんな考えが頭によぎる。
「あなたと会えない日々が続いて、貴方への想いは強くなりました。そして、あなたと再会し、しばらく一緒に過ごしてこの気持ちを自覚しました」
俺はカナエさんからの告白を聞いて、俺の答えは決まっている。
俺は少し考え、話し始める。
「カナエさん……ごめん。俺は君の気持ちには応えられない。俺は自己保身の強いクズだ。自分から何もできないヘタレだ。そんな人間と一緒になるべきじゃない」
「………そうですか」
カナエさんは俺の返事に対して一瞬悲しそうな顔をし返事をする。
しかしすぐにいつものような笑顔になり、話し始めた。
「そうですか……それは残念です。…私にここまで想わせた獪岳さんには責任をとって欲しかったんですが……分かりました。でも、これで私も決心がつきました」
「本当にごめん」
カナエさんは俺に告白の一件はなかったかのような表情をする。
そんなに気にしてないようでよかった。
でも何の決心がついたのだろう?
俺との縁を切る決心かな?
「大丈夫です……私も薄々こうなることは予想していましたから」
「……そうなんだ」
なんか話の論点がずれているような……気のせいだろうか?
俺がそんな考え事をしているとカナエさんはパチン!と手を叩いて話し始める。
「もう料理も無くなりましたし、終わりにしませんか?」
「そうだね」
そうカナエさんが言って、パーティは終了した。
俺は終了したことが分かり帰ろうとしたらタイミングよく入ってきたしのぶがお盆に二つのコップを持ってきてカナエさんと俺の前に置いた。
「さすがに栄養が偏ると思いまして……姉さんに薬として飲んでもらっている栄養ドリンクです。その……獪岳さんもいかがですか?」
「あらあら、しのぶったら別に気にしなくてもいいのに」
「……ダメよ姉さん!病み上がりなんだから。しっかり栄養は取らないと!」
「分かったわよ、もう!過保護なんだから!」
「……飲んだらさっさと寝てよ!」
「分かったわ」
なんか少しよそよそしい態度で栄養ドリンクを渡してきたしのぶ。
なんか様子がおかしい?
てかカナエさん急にご機嫌になった?
気のせいかな?
「獪岳さん、しのぶの折角の厚意ですし、いただきません?」
「……そうだね。なら頂こうかな」
俺はカナエさんの言葉に賛成し、お互い乾杯をした。
その時しのぶが逃げるようにして部屋を退出した。
「しのぶ、どうしたんだろう?」
「あらあらまあまあ、あんなに慌ててどうしたんですかね?」
俺の言葉にカナエさんは栄養ドリンクを飲みながら話す。
俺は気になりながらも真似るようにして飲み始めた。
「ん?結構美味しい。……でも何か変な味がするけど……」
「栄養ドリンクなんてこんな物ですよ。しのぶお手製ですから市販には出てない代物ですよ」
「そうなんだ」
俺はカナエさんの説明を聞き、しのぶは薬学に精通しているんだっけなと思い出しつつ栄養ドリンクを全て飲み干した。
そこでふと、カナエさんを確認したら何故か顔を真っ赤にしていた。
そして俺の体の内側から今まで感じたことのない生暖かいような、変な温もりを感じる。
「獪岳さん……責任……取ってくださいね」
「え?」
そう言ったカナエさんの表情はどこかおかしかった。
ただわかることは目のハイライトが消えていたことだけ。
俺はカナエさんの言葉の意味を理解出来ず、そこで俺の意識は途切れた。
起きると俺はベットに寝ていた。
昨日何あったんだっけ?
昨日はカナエさん達とご飯食べてその後は………何だっけ?
しのぶが持ってきた飲み物を飲んでその後は?
「ん……」
俺が考え事をしていると隣から女性の声がした。
そしてふと確認すると隣には何故か裸のカナエさんがいた。
………てか俺も裸の何だけど。
「え!」
全てを自覚した瞬間俺は焦った。
そして俺は掛けてあった掛け布団を引き剥がし中を確認。
そうしたら何か赤いシミのようなものがあった。
「何で……」
俺に記憶はない。
でも今の状況を整理したら大体予想がついた。
裸の俺とカナエさん、シーツの赤いシミ。
「……ふぁん、あら、起きたんですか獪岳さん」
「え?」
俺が焦っている時、隣からカナエさんの声がした。
まだ考えがまとまっていなかった。
考えついていたなかった。
しかし、カナエさんが俺に言った言葉で全てを自覚した。
「獪岳さん……責任……取ってくれますよね?」
カナエさんは完全に目のハイライトが消えていて、笑っている筈なのに今まで感じたことのない恐怖心を感じる。
「…………はい」
俺はカナエさんの言葉に対してそう返事するしかなかった。
どうしてこうなった……
読んでくださりありがとうございました。
形はどうあれ無事フラグ回収ですね。