カナエさんと一夜を過ごした後俺の生活風景は随分と変わった。
今まで溜め込んでいたものから一気に解放されたこと、カナエさんに嘘をつき続け後ろめたい気持ちがあったが、それもカナエさん自身も元から知っていてそれでもなお俺と一緒に居たいと言ってくれた。
正直言ってしまえば俺はカナエさんが好きだ。
彼女のかわいい容姿はもちろん、性格、髪型、匂い全てが好きなのだ。
これは全てから解放されてようやく気づいた。
鈍感と言われても仕方がないと思う。
でも昔ではなく今、それが大切なのだ。
そんな俺の生活だが、変わった……というよりも恐怖を感じたことがいくつかある。
まずは一つ目。
寝て起きたら必ずカナエさんが隣にいる。
これは今朝のこと。
「ふぁー」
俺は朝気持ちよく起きた。
策略とはいえ童貞を卒業した俺はいつも見える世界が違う。
なんというか、大人になった?みたいな……。
そして、美人の恋人もゲット!!
これは人生勝ち組。
「起きてたんですか獪岳さん……おはようございます」
「うんおはよう……なんでカナエさんここに居るの?」
「なんでって、私も獪岳さんと一緒に暮らし始めましたし、居るのは当然ですよ?」
「いや、そう言う意味じゃなくて……」
俺の質問に何変なこと聞いてるの?みたいな雰囲気で返すカナエさん。
俺が聞きたいのはそこじゃなく、なんで俺の布団に入っているかということ。
俺とカナエさんは同居を始めた。
まぁ、必然的だし、そこは別にいい。
俺が気にしているのはドアに鍵がかかっているはずの部屋にどうやって入ったかということだ。
俺とカナエさんは二人暮らしを始めたまではいいが、まだデートすらしたことがない。
色々と段階を越えすぎていたため、どう接すればいいのかわからない。
それに俺はカナエさんに喰われた。
その恐怖からか、せっかく作ってくれた食事にも何か変なものが入っているんじゃないか?また襲われるんじゃないか?
失礼だが、そんな疑問さえ感じている。
だから少しずつ距離を詰めるため、心の安寧のためドアに鍵をつけた……はずなのだが。
「いや、確かこの部屋鍵が付いていたはずだけど………」
「鍵ですか?ついてなかったです」
「いやそんなはずは……」
カナエさんの言葉に否定をしようとして自室の扉を確認しようとしたら……ドアが破壊されていた。
「ねぇ……もしかして無理やり開けた?」
「さぁ…どうでしょうね?ふふふ、入る時少し硬かったような気はしましたね」
「………」
……どう反応すればいいのだろう。
本当にこの前の一件から遠慮というものがなくなっている。
でも、これは今後のためにもちゃんと言っておいた方がいい。
「カナエさん……俺は恋人にn「夫婦ですよ」……え?」
「私たちは昨日で夫婦になりましたよ」
「………意味が分からないんだけど」
「あらあらまあまあ、仕方ないですねぇ、獪岳さんは」
カナエさんから分からない単語が聞こえた。
夫婦?何それ美味しいの?
するとカナエさんは俺の寝ていた布団から立ち上がり部屋を出て行き、数秒後紙切れを一枚持って帰ってきた。
「これは写しですが、役所に提出しておきました」
「ごめん……理解が落ち着かないんだけど……婚姻届って書いてあるの気のせいかな?あと、出したっていつ?俺書いた覚えないんだけど」
「それについてはご安心を……お館様に頼んで獪岳さんの身分や戸籍を作ってもらいました。あと、筆跡は似せて書いていますので安心して下さいね」
「………」
話が噛み合わない。
ちなみにこれが二つ目の恐怖。
知らないうちに話が進んでいて、外堀から埋められて逃げ場が完全になくなって行くこと。
身分、筆跡、戸籍の偽装。
犯罪のオンパレード。
俺はもともと決まった戸籍がない。
そのため作ってくれたのはありがたいと少しは思う。
でも、作った経緯に素直に喜べない。
「確認しますか?」
「………うん」
カナエさんがそう言い、婚姻届を渡してくる。
俺は中身を確認したら自分の名前の欄に目がいく。
なぜか胡蝶獪岳と書かれていた。
「……なんで俺の苗字胡蝶になってるの?」
「それは獪岳さんが婿入りした形になってるからですよ」
「………でもなんで?」
「胡蝶という苗字はしのぶとのつながりですし、どうしても変えたくなかったんです」
「……そうなんだ」
「ダメでしたか?」
俺の反応に少し不安な表情をしているカナエさん。
……今更だ。カナエさんの意向は出来るだけ叶えてあげよう。
でも、一応俺は元とはいえ桑島獪岳だ。先生からもらった苗字……変わってしまったので報告に行かないとな。
「大丈夫だよ……カナエさんの思った通りにしていいから。でも、俺の苗字は先生……師範から桑島の苗字を頂いていたから、そのことを報告しないとな」
「それについては大丈夫です!おじい様の許可はいただいていますので」
「………え?いつの間に……」
もう完全に外堀を埋められているらしい。
流石に用意周到すぎる。
でも、カナエさんは勝手に事を進めすぎだ。
言う時は言わないとだめだ。
「カナエさん……俺との関係のことで今度何かするんだったら断りを入れてくれると嬉しいな?」
「え……許可くれましたよね?」
「いや、そんな記憶はないけど」
「言ってくれましたよね?責任とってくれるって……さっきからどうしたんですか?もしかして、私から距離開けようとしてます?」
カナエさんはそう言ってさっきまで心からの笑顔だったはずが、絶対零度の顔へと豹変。
俺は怖すぎて即時に否定する。
「そんなことないよ……嬉しいよ。ただ、俺とカナエさんの二人のことだから今後相談して決めたいなーって思って……」
「そう言うことでしたか」
俺の苦しい言い訳にカナエさんは納得してくれ、表情が戻る。
よかった本当に。
俺は心臓バクバクしているのを悟られないようにカナエさんの様子を伺う。
そしてカナエさんは俺と目を合うなり頬を染めて目を逸らした。
うん、かわいい。
俺の立ち位置は手遅れ。
覚悟を決めてカナエさんを幸せにしよう………
そう決心しました。