気づけばカナエとの一件から四年の年月が経った。
蝶屋敷には神崎アオイをはじめ、きよ、なほ、すみの計四名が加入し、賑やかになった。
もちろん俺は彼女らと良好な関係を築いている。
この四年間、物語が大きく左右する特別なことは起きていない。何をしたか、そう問われれば、一つは聖地巡礼、もう一つは修行と死線を彷徨ったくらいだろう。
一つ目の聖地巡礼と行っても一年ほど前に一度だけ遊郭に行ったくらいだ。遊郭は物語が進むと上弦との鬼の戦闘で跡形もなく無くなってしまう。なくなる前にどんな風景だったのか、店の中には入らず景色だけ見に行った。
中に入らない理由はお分かりだろう。命を失いたくないからだ。なら行かなければいいじゃんと思うがどうしても見にいきたかったのだ。男の花園を。
二つ目の死線を彷徨った主な原因は柱との稽古で、木刀とはいえ攻撃が直撃して怪我したり、訓練中の事故で恋柱の甘露寺蜜璃と思いっきり密着してしまい変な体勢になってしまい、間が悪くカナエに目撃されてしまい、ボコボコにされてしまった。
それらを通して俺は大きく三つの分野が成長することができた。
回避の技術に熱界雷の威力向上、そして体が丈夫になった。
最後の体が丈夫になったことに関しては鍛えたのではなく、カナエの攻撃で骨折か骨にヒビが入り続け、それを繰り返した結果、今ではカナエの花の呼吸を食らってもあざくらいで済むようになった。
……あまり嬉しいことではないが。
そんな嫉妬心強すぎるカナエだが、この前との一件以降、独占欲は前よりかは落ち着いた。
事件発生→カナエ嫉妬→花の呼吸で攻撃される。慣れかそれとも俺の信頼度がましたか不明だがこのサイクルを繰り返した結果、よっぽどのことがない限り怒らなくなった。
そんなカナエだが、しのぶの努力あって全集中の呼吸を使えるくらいに回復したのだ。そのおかげで呼吸を使えるようになったのだ。
めでたいことなのだが、これが原因で何回命を奪われそうになったか……。
まぁ、この話は置いておこう。
カナエは童磨戦での症状が回復し、訓練を再開したのだが……鬼殺隊に復帰はしなかった。
理由は、サポートに徹したいと言う本人の願いから。
しのぶの私邸である蝶屋敷は負傷した隊士の治療所として解放はもちろん、訓練所としての役割を果たしている
カナエは現在、治療と一緒に復帰前の隊士に稽古をつけている。
柱たちは皆始めは復帰を望んでいたが、隊士たちの質が年々落ちていて、カナエの功績で多少その質が向上したため、今では何も言ってこなくなった。
ちなみにそんな柱たちだが、原作通りに九つの柱の席は全て埋まった。
原作通りに進んでとても嬉しいことだ。二つの意味で。
理由は柱の空席がなくなり、俺の仕事が減ったこと。もう一つは柱稽古も徐々に減っていき、今定期的にやっている者は甘露寺さん、杏寿郎の元師弟コンビくらい。偶に気が向いた時にやりにきている柱もいるが。
柱たち曰く、もう慣れたらしい。始めは苦戦していた癖に今となっては俺のスピードについてこれるようになり、今では自分なりの稽古をしている。
本当に柱は化け物揃いである。
天才は1%の才能に99%の努力と言われてるけど、柱はそれに当てはまらない。
100%の才能に努力だ。
あいつらは人間じゃない。
特に霞柱……無一郎とか。
さすがは剣を持って数ヶ月で柱になったやつだと言えよう。
俺自身、熱界雷と動きの速さだけと偏った鍛え方をしているから柱と互角に戦えるが、全てを鍛えようとしたらツキとスッポンであっただろう。
この四年間も変わらず極めろ熱界雷、目指せ一撃逃走の目標を掲げて訓練を続けた。
この判断は間違っていなかったと思う。
柱たちは原作に比べ強化され、俺自身も大きく成長できた。
何よりカナエたち家族を守るために強くなれた。
良かったと思っておこう。
さて、こんなことを語った俺が現在浅草にいる理由だが………
一応先に言っておくが、ラスボスの鬼舞辻無惨と会いたいとか、原作主人公の竈門炭治郎に会いたいとかではない。
山かけうどんを食べにきていたのだ。もちろんカナエには内緒で。だって男一人で過ごす癒しの時間が欲しいんだもん……。それに原作ではあまり描写はないが、鬼滅ファンとしては絶対に食べたいのだ。
俺はこの数年、薄らとした記憶を頼りに探し続けた。
結果、山かけうどんにありつけた。
俺は見つけた瞬間、歓喜した。山かけうどん食べて感動した。
俺は食レポできないから一言で言うと、めっちゃうまい。
麺もコシがあり、汁も店主自慢で独自研究して作り出したとのことだ。
炭治郎は原作ではこんなうまいものを地面に落としたのか。そして、店主に謝罪に行った時、一気飲みみたいに二杯も胃に流し込んだのか。
本当にもったいない。
そんな山かけうどんの出店だが、仕事の合間を見て現在少なくても月一の頻度で来ていた。
本当ならカナヲが鬼殺隊になった後、炭治郎が柱に会うまで行くのをやめたんだが、どうしても食べたくなってしまった。
まぁ、もう流石に結構時間経ったし大丈夫かなと判断し、今日、休日で時間が有り余っていたので食べに来てしまったのだ。
それほど山かけうどんは飽きないし癖になるほどのうまさを誇る。
「お……にいちゃんか。久しぶりだなぁ!」
「いやぁ、最近仕事忙しくてね。なかなか来れなかったんだよ。店主のうどん食わんとやっていけないね!」
「嬉しいこと言ってくれるねぇ。いつものでいいかい?」
「それで」
俺に元気よく話しかけてくれたのはスキンヘッドで吊り目の特徴を持つうどん屋の店主。
前回うどんを食べに来たのはカナヲが隊士になる前だからおよそ一ヶ月ぶりだ。
浅草は炭治郎と鬼舞辻無惨が初対面し、そこから重要人物である珠世 愈史郎と交流を持つ重要イベントがおこる。
だからそれが終わるまでは行かないようにしていた。
だが、残念ながら我慢ができなかった。
そろそろ1ヶ月と数日経ったし、流石にイベントは終わってると判断し、今日は訪れた。
「山かけうどん。一丁出来上がり」
「さんきゅ。いただきます」
俺は割り箸を割り、食べ始めた。
いやーうまい。
炭治郎はこんなうまいものをわんこそばのように食べていたのかよ。
食べるたび思う。
「ご馳走様!」
「おぉ!相変わらずうまそうに食べるな!」
「いや、本当に美味いんだって」
「嬉しいねぇ。さっきの兄弟もそうだが、俺の出したうどんを美味しそうに食べてもらうこれ以上に幸せなことはねぇよ!」
「………うん?」
今俺にとって不穏な単語が聞こえた。
……兄弟?
いや、落ち着こう。
違うかもしれないし。
「おいおい!どぅしたんだよ急に黙り込んじまって」
「……いや、なんでもない」
一旦落ち着こう。
俺は深呼吸をし、店主に確認するため質問しよう。
「ちなみにその兄弟って……特徴的な二人だったり?」
「ん?まぁ、そうだったなぁ。妹は竹を口にーーー」
俺はそれを聞いた瞬間焦りが増した。
竹を銜えた妹。それは炭治郎の妹、竈門禰豆子の特徴である。
つまり、今この街にはやばい人が集まっている。
ラスボスの鬼舞辻無惨、主人公とその妹、珠世さんと愈史郎。
物語の主要人物が揃っている。
なんだよこの魔境。
俺はそう思い、すぐに退散することにする。
「店主、これお勘定ね。美味しかったわ」
「おい、どうしたんだよににいちゃん。顔色悪いぞ」
「本当に大丈夫。ちょっと急用を思い出してね」
「……そうか?……ならいいが」
「じゃー俺行くわ。また来るから!」
「にいちゃんが平気ならいいや。まいどぉ!」
俺は逃げるようにその場を後にした。
だが、世の中そんなに甘くない。
鬼殺隊とは鬼を狩るもの。
「カー!カー!鬼出現!鬼出現!南南東方面。距離二百!急行セヨ!急行セヨ!」
鬼いるところに鬼殺あり。
食べに来なきゃよかった山かけうどん……。
最後まで読んでくださりありがどうございました。