「以上が報告になります」
「そうか……ありがとう。獪岳」
「いえ、鬼殺隊として当然のことをしたまでです」
場所はお館様の屋敷。
日が沈み、あたり一面薄暗くなった現在、お館様から招集を受けたため、参上した。
俺はことの詳細をお館様に報告をしていた。
俺が珠世さんに提案した鬼殺隊への協力要請は、見事に引き受けてくれた。ただ、愈史郎は最後まで否定していたが……。
それでも、珠世さん絶対主義の愈史郎は意向に従ったのだ。
少し騙すようではあったが、お館様の意向、そして安全を保証することを条件にした。
決め手になったのはお館様の代で
珠世さんは鬼舞辻無惨を相当恨んでいる。内容としては珠世さんの協力を取り付けたこと。
「それにしても、まさかあの場に獪岳がいるとは思わなかったよ。本当に悪かったね。休日だったのに」
「いえ、お館様の意向に沿うのは当たり前のことでございます」
「その割には渋っていたみたいだけど?」
「……」
痛いところを疲れた。
確かにその通りだ。でも、まさか本当にカラスと直接パスがつながっているとは思わなかった。……いや、まずカラス達の能力や感覚共有は産屋敷家の能力だから、当たり前か?……もう考えても遅いが。
「……結果的に珠世さんの協力を取り付けられましたし、過程は良いのでは?」
「たしかにそうだね」
経緯はどうあれ、結果を出せた。その事実だけが大切だ。
お館様と話すと毎回思うのだが、……この人は苦手だ。
全てを見透かされているみたいで本当に嫌になる。
嫌いではない。むしろ尊敬をしている。
だが、あまり長居はしたくない。
そのため、要件だけ済ませて早く帰ろう。
「お館様……先日カラスを経由して報告した内容についてはご了承していただけますか?血気盛んな柱……特に不死川や伊黒に知らせるのは少し先が良いかと」
「今回の件は獪岳に一任するよ。珠世さんもまだ鬼殺隊を信用している様子じゃないんだよね?」
「……はい。……俺には多少信頼してもらえていると思いますが、完全には……」
「そうか」
お館様は俺の回答にそう返事をした。
少し心配しているようだけど、俺は大丈夫だと思う。
「珠世さんの件はカナエに任せたいと思います。彼女は元々鬼に好意的でしたから」
「カナエは鬼と仲良くすることを夢見ていたからね。今頃喜んでいるかもしれないね」
「そうかもですね」
カナエの鬼と仲良くしたいという夢は柱ならば皆知っている。
現実を見ろと言うものがほとんどだったが、それでもカナエは諦めることはなかった。
「今日は遅い。詳しい内容は後日お願いしようかな。こんな遅くにきてもらって悪かったね、獪岳」
「いえ、お館様直々のご招集。……鬼殺隊として参上するのは至極当然でございます」
「ありがとう。これからも鬼殺隊として支えてほしい」
「承知しました。失礼いたします」
「獪岳」
話が終わったと思い、一礼して帰ろうとしたらお館様に声をかけられた。まだ何かあるのだろうか?
「カナエへの隠し事はほどほどにね」
「……別に隠し事なんて!……いえ、なんでもありません」
意表をつくのをやめてほしい。驚いたじゃん。
そういえば遊郭の件といい、なんで知ってんだよ。
「……お館様」
「何かな?」
「遊郭のこと以外どこまで把握しているのですか?」
俺の質問にお館様はふふっと笑いこう答えた。
「鬼殺隊の長として、子どもたちのことを知ることは当然だよ」
やっぱりこの人尊敬できないわ。目的のためならなんでも使う腹黒さがある。この人の策略に何度引っかかったことか……。
俺は失礼しますと言って逃げるように退出したのだった。
俺はお館様と別れた後、珠世さんに報告をするために一度蝶屋敷を訪れた。
玄関まで行くのが面倒臭くなり、塀を飛び越え、玄関に入る。
「ごめん、誰かいる?」
玄関に入り、声をかける。
今日は蝶屋敷の住人は全員いるはずなんだけど。
人の気配が少ないか?
「獪岳さん!いらしてたんですか」
俺が詮索を開始しようとしたら凛とした女性から話しかけられた。
「あ、アオイさん。夜分遅くに申し訳ないね」
「い、いえお気になさらず。どうかされたんですか?」
「いや、ちょっと様子を見にきたんだよ。ほら、新しい住民が増えたし」
「…なるほど」
俺に声をかけてきたのは青い蝶の髪飾りで髪をツインテールに結んでいる、隊服に割烹着をきた蝶屋敷の住民の一人……神崎アオイさんが声をかけてきた。
ただ、彼女は常に凛とした声でハキハキと話すのだが、今日は少しおどおどしている。
もしかして、珠世さんのことでまだ緊張してるのか?
「どうしたのアオイさん……」
「いえ、なんでもありません」
「そう、ならいいんだけど。早速で申し訳ないんだけど、珠世さんってどこにいる?少し話したいことがあって」
「珠世さんならしのぶ様と処置室にいらっしゃいます」
「処置室?……今何かやってるの?」
「はい。……今もなお、薬や医学について討論をしています。急ぎの用ですか?」
お、早速始まってるのか。しのぶは薬のスペシャリストだし、話が合うと思った。
なら、邪魔するのは悪いかな。
「いや、急ぎって訳じゃないけど、結構話し込んでる?」
「はい。もう一時間は話し込んでますね。しのぶ様があんなにも人と熱心に話すのは初めて見ました」
「そうか。なら、邪魔しない方がいいかな。これ、お館様との話し合いで決まった内容のメモなんだけど、後で渡しといてもらえる?あと、内容の質問は明日俺が答えるって伝えておいて」
「承りました」
俺はそう言いながらメモをアオイさんを渡した。
しのぶと珠世さんの場所はわかったけど、他の人どこだろう。
珠世さんと愈史郎送ったとき、みんないたからいるはずなんだけど。
「愈史郎は処置室いるからいいとしてのみんなの場所ってどこいるの?なんか今日静かじゃない?」
「……何故愈史郎さんだけ場所がわかったんですか?」
「そりゃ、愈史郎は珠世さん信者だからいっときも離れてないでしょ?」
「……なるほど」
それだけでアオイさんは納得してしまった。まだ、数時間しか経ってないのにわからせてしまうなんてすごいな、珠世さん信者は。
変な空気になってしまったが、アオイさんは一人納得したあと、咳払いをして話し始めた。
「えーと、皆さんの居場所でしたよね。………カナヲは中庭で素振り、きよたちは疲れて寝ています。カナエ様は先ほど獪岳さんの家に向かいました」
「ああ。行き違いになっちゃったかぁ。それにしてもカナエが途中で帰るなんて思わなかったよ。何かあったの?」
あれ?カナエ交流してると思ってたのになぁ。鬼と仲良くするのが夢だったはずだが……。
「カナエ様は……」
俺がカナエのことを考えていると、アオイさんが何かを思い出したのか、
「先程まではしのぶ様と珠世さんとお話ししておりましたが、愈史郎さんと少しお話した後、すぐに蝶屋敷から走って獪岳さんの家へ向かいました」
「……ちなみにどんな表情してた?」
まさかね?
そんなはずはない。
ただの気のせいだ。
「……存じておりません」
アオイさんは目を逸らしてそう言った。
「………え?」
逝くべきか逝がないべきか。
人は地獄があると分かっていて、その地獄に向かうのは余程のチャレンジャーまたは変態じゃなければ行かないだろう。
俺はどちらでもない。
でも、カナエが怒る理由はわからない。カナエから以前自分としのぶ以外の異性にはさん付けで呼ぶように強よ……ゴホン!お願いされていたので、その件ではないはずだ。
まさかお館様が遊郭の件を伝えた?……それだったらかなりやばい。
でも、今回怒った原因は、アオイさんは愈史郎に何か吹き込まれたと言っていたから、その件だと断定付けた。
だから俺は今日は自宅に帰らず宿に泊まろうと思う。
数日時間をあければ流石のカナエも、多少は冷静になるだろう。
俺はアオイさんと別れたあと、行動方針を決め、蝶屋敷を出ようとした。
だが、俺の考えは甘かった。
「夜分にお出かけですか?」
「………」
振り返るとそこにはハイライトが消えた、おなじみの鬼がいた。
俺はやっぱり逝くのか。
いや、まだだ。
まだ、俺の命はつきていない!
「いや、今アオイさんから聞いてカナエをお迎えに行くところだっ「我が家とは真逆の方向でしたけど?……」
…………まだ。
「いや、実は珠世さんの件でお館様に用があった「確か報告した内容の確認で向かっただけでしたよね?事前に報告書を提出していたと聞いていますが?」……」
ダメかもしれない。
まさか、事前に報告したのが仇となってしまった。
……話をすり替えればいけるか?
「カナエ、珠世さん達と会ってどうだった?カナエは鬼と仲良くするのが夢だったみたいだからね!」
「とても嬉しかった……ですよ」
あれ、今過去形だった?いや、聞き間違いかな?
「そっか、喜んでくれてよかったよ!よし、早く蝶屋敷に戻ろーー」
「獪岳さん?」
「……はい」
「何故誤魔化そうとしているんですか?」
「いや、そんなひぇ!……なんでもないです」
……もう手遅れらしい。
カナエに言い訳をしようにも日輪刀を手にかけ威圧してきた。
「愈史郎さんから全て聞きましたよ」
「……愈史郎と何話したの?」
俺は無意識にこの言葉を発していた。
カナエに対する恐怖のせいである。
「珠世さんに見惚れて鼻の下伸ばしていたそうですね?……私というものがありながら……他の女性にうつつを抜かすなんて……。ここへ来るまでの道中、通りかかった女性を見つめていたらしいですね。今思えば、蜜璃さんと初対面の時、少しいやらしい視線を向けていましたね?その時の私は見間違いだと思っていました。……私……知りませんでしたよ。獪岳さんが浮気性だったなんて……。これらのことについて……家で詳しくお聞かせくださいね?」
「いやぐえ!」
全て出鱈目だ!
そう言おうとした瞬間カナエに手で無理やり口をふらがれた。
その時のカナエさんは真顔で俺を見ていた。
そして、引きずられるように死地へと向かった。
「つまり、全て愈史郎さんの虚言なのですね?」
「最初からそうって言ってんじゃん!俺はカナエ一筋だよ!他の女にうつつを抜かすとかありえないから!」
「そうでしたか……ごめんなさい」
「大丈夫だよ」
俺は現在自宅に戻ってから一時間にわたる弁解の結果、誤解を解くことに成功した。
俺は安心し、気を抜いた。
……抜いてしまった。
「疑ってごめんなさい」
「だからいいって」
よかった誤解が解けて。前までのカナエなら何かあったらすぐに俺に攻撃していた。が、今は少し話を冷静に判断できるようになった。
「私の悪い癖ですね」
「大丈夫だって、気にしてないから」
「ありがとうございます……それにしても珠世さんって見惚れるほどの美人ですよね」
「そうそう!すごく綺麗……あ」
「うふふふふふ」
「待って……今のは違う!ーーー」
カマかけられた!
………終わった。
『花の呼吸 伍ノ型 徒の芍薬』
九つの斬撃がまたも俺を襲った。その日再び静寂の夜に俺の悲鳴が鳴り響いた。
「あぁぁぁぉぁぁぁぁ!」
どうしてこうなってしまった?
考えなくてもわかる。
全て……全てあいつが悪い。
愈史郎許すまじ!
最後まで読んでくださりありがとうございました。