お館様と柱の9人が集まるのは基本的に柱合会議だ。
会議は緊急以外を除いて、半年に一度定期的に行われ、会議の細かい議題はその都度変わる。大まかな内容は各柱達の担当区域の鬼の動向、調査も含めた半年間の報告や方針を決定する。
俺も何回か参加をさせられたことがある。一応は実力は柱クラス。上弦の鬼二体と戦闘経験があり、十二鬼月はもちろん情報が少ない鬼や厄介な血鬼術を使う鬼の仕事が回ってくるのは少なくない。
ついこの前も珠世さんと愈史郎の件でお館様に会ったばかりだ。
俺は一般の隊士でありながらお館様と定期的に会うことのできる異例の存在だ。
別に俺自身産屋敷邸に行くことは決して嫌ではない。
ただ、お館様に会いたくないというだけで。
矛盾していることは自覚している。それでも、聖地巡礼と観光気分で行くと思えば決して嫌ではない。
今回の件を除いて。
今日、俺はいつもとは違う理由で呼ばれた。
柱合裁判。
議題は鬼を連れている隊士の処遇、及び鬼を匿う柱について。
そう、竈門炭治郎と禰豆子、珠世さんと愈史郎について。
さぁ、どうなるのか。
この柱合裁判において俺の役目はお館様が来るまで他の柱たちをどう説得するかだ。
鬼を極端に嫌っている柱、鬼を悪と掲げている柱はまず話し合いにすらならない場合がある。
原作では不死川は話をせず即禰豆子を殺そうとした。
杏寿郎、天元、伊黒、悲鳴嶼さんの4人は会議の段階で認めることはなく、即刻首を刎ねた方が良いと思っていた。
まぁ、警戒すべきはこの5人だろう。今回の件は原作とはかけ離れている。
しのぶは完全に俺側だし、義勇は当事者。
甘露寺さんは元々中立を示しており、時透は興味すら持っていない。
まぁ、既にある程度手は回してある。俺は事前に不死川を除いて交渉材料を用意し手紙を出していた。
だって不死川と俺仲悪いし、俺との実践の稽古を除いて関わりはない。
正直俺あいつ嫌いだ。なんで稽古なのに俺を殺す気でいるんだよ。不慮の事故でも装う気だったのかよ!
閑話休題。
とにかく、できることは全てやった。後は柱合裁判での他の柱の行動次第。
もしも俺の提案した内容で納得しなかったら終わる。柱を数人敵に回したら勝ち目はない。
成り行き任せな部分が多いが、まぁなんとかなるだろうと結論づけた。
「あの、獪岳さん……俺」
「そんなに不安に思うことはないさ。別に悪いことをしていたわけじゃない。堂々としろ」
「……はい」
柱合裁判が行われる産屋敷邸に向かっている。俺はお館様に指定された時間に今回の当事者である竈門炭治郎、禰豆子を連れ歩いていた。
禰豆子は炭治郎の師である鱗滝さん作の木でできた焦茶色の収納箱に入っている。
炭治郎は事前に今日の件を聞いており、とても不安がっている。
俺はそんな炭治郎を励ます。だが、彼は落ち込んだままでいる。那田蜘蛛山の件で何か思うことがあったのかもしれない。
とりあえず、話題を少しそらそう。
「それにしても、今回は大活躍だったようだな。那田蜘蛛山で先輩隊士を救い、下弦の鬼に一矢報いたらしいじゃないか」
「……はい」
これは俺が帰還した後、しのぶから聞いたことだ。
本来の原作の流れと大きく変化がある。それはかまぼこ隊の3人が大怪我を負っていないこと。そして、先に那田蜘蛛山にいた先輩隊士を救ったこと。
死傷者はいるが、生還者がいたのだ。
賞賛したのにまた俯いてしまった。
何か悩み事か?
「何をそんなに悩んでいるんだ?……俺でよければ話を聞くが?」
「……でも、自分のことですので」
「なら、なんでそんなに悩んでる?話すことで楽になることもある、人の意見を聞くことでわかってくることもある」
「……わかりました」
炭治郎は俺の説得もあり、話始めた。
「今回の件で俺は弱いと思い知らされました。守りたいと思っている存在を守り切ることは出来ず、仲間に守ってもらうことが多かった。俺は何もできず、むしろ足を引っ張ってしまいました」
「……炭治郎はすごいな」
「……へ?」
急に誉められたことで炭治郎は戸惑う。
「自分は弱い……そう認められる人間はそうはいない」
「……」
「普通の人なら自分の弱さに気付かされたとしても、向き合うのは無理だと思う連中、最初から諦めてしまう人は大勢いる。自分には力がない。これ以上強くなるのは無理。そう決めつけて、突破口を見つけようともせず、足掻こうとしないで考えを放棄してしまう人もしかり」
「……はい」
「だからこそ炭治郎はすごいと言える。自分の弱さを認め、どうすれば良いかと考えた。なら、それは一種の才能だし、伸び代だ」
やはり原作の炭治郎と変わらない。
自分のことよりも他人を優先する。他人の痛みも分かち合うようよりそう心優しい男の子。
それが竈門炭治郎という人間なんだ。
だから、こんなに萎らしいのは似合わない。君には俯いている時間なんてないんだ。今後鬼との戦いは激化する。
ここで躓いてしまっては困る。
「守れないなら次守ればいい。力がないなら訓練をすれば良い。落ち込んでる時間があるなら試行錯誤し行動しろ」
「……はい!」
俺も何偉そうに語ってるのやら。
まぁ、今言った言葉は俺に当てはまることが多く、内容が違うだけで全て俺自身がやってきたことだ。
死にたくないから受身、避けの技術を身につけ、速さを鍛え、熱界雷を磨き続けた。
途中、守るべき存在ができ、今のままではいけないからと強くなるために試行錯誤をした。
無理かと諦めようとした時期もあったがそれでも諦めずに自分と向き合った。
「強くなりたいなら誰かに師事をお願いすればいい。なんなら俺が紹介することも可能だ!」
「……それでは獪岳さんに迷惑をかけてーー」
「迷惑ならかけていい。むしろ頼ってくれ。後輩を鍛えるのは先輩の役目だしな……。まぁ、考えておいてくれ、とりあえずはまず片付けなきゃいけない問題があるしな」
「え?……はい」
産屋敷邸に到着したため、炭治郎の話を遮るように話を切り上げた。
まぁ、少し中途半端だが、話すべきことは全ていえたから良しとしよう。
先ほどの悩み相談とは雰囲気が変わり緊張する炭治郎。
俺は深呼吸し、屋敷へ入っていった。
「よぉ、裏切り者。遅い到着だなぁ。どんな神経してんだよ、あん?」
ついた時には既に柱は全員揃っており、俺の到着にいち早く気がついたであろう、不死川が声をかけてくる。
明らかに不機嫌だ。
まぁ、いつもカリカリしているので平常運転だなぁ。
「いや、俺は指定された時間通りに来ただけだ。何も悪いことはない。それと俺は鬼殺隊を裏切る行為などしてないぞ不死川」
「んだと?」
俺の煽りに対し殺気を向けたのは風柱不死川実弥。刀に手をかけるが理性はしっかりとしているようで切り掛かってくることはない。
当たり前か。
顔を含め全身傷だらけ、何も知らない奴はヤクザに見間違えるだろうが柱だし。
全体を見渡すとしのぶと義勇が離れた場所にいて、伊黒は松の木の上で俺に視線を向けている。
さあ、決戦のときだ。