お館様の一声で不死川は落ち着いた。
俺はその場に跪きながらも当初の目的を達成して安心した。
「お早う皆、今日はいい天気だね。空は青いのかな?」
お館様は挨拶から始める。
「顔ぶれが変わらずに半年に一度の柱合会議を迎えられたことを嬉しく思うよ」
相変わらず、お館様の声はよく響く。
例えるなら慌てている相手でも落ち着きを取り戻す、一種の魔法みたいな。包み込むような声はいつ聞いても慣れない。
「お館様におかれましても御壮健で何よりです。益々の御多幸を切にお祈り申し上げます」
お館様の挨拶は早い者勝ちだ。
今回は不死川のようだ。本当にお館様の前だと理性的に話すその姿はいつも慣れない。
よほどお館様への忠誠心が強いようだが、その気持ちをもう少し他の人に向けられればいいのに。
毎回思うのだが、一度そのことを指摘したら舌打ちされた。
「畏れながら、柱合会議の前に柱である胡蝶しのぶが屋敷に鬼を匿っていた件、竈門炭治郎なる鬼を連れた隊士について、ご説明いただきたく存じますがよろしいでしょうか」
先ほどの俺とのやりとりから理性的に話す不死川に炭治郎は驚いている。
さて、お館様はなんと答えるのだろう?
原作と違って珠世さんと愈史郎の件もある。
「……そうだね、驚かせてしまってすまなかった。実弥が言っていることは全て私が容認していた」
不死川が少し驚いている反応をした。
そして、お館様は話を続ける。
「しのぶから事前に説明を聞いているだろうが、珠世さんとは以前から……私が生まれる前から接触の機会を伺っていたんだ。珠世さんと我々鬼殺隊は利害が一致していたからね。珠世さんの高度な医療知識は勿論、鬼についての研究はどうしても取り入れたいと思っていたんだ。……それが偶然にも獪岳が接触することができてね。獪岳に交渉をしてもらった結果、身の安全を保証することを約束し、協力関係を結んだんだよ」
「……何故それほど重要な件を一部のものにしか情報共有しなかったのでしょう?」
「鬼殺隊の中で鬼に対しても公平に物事を見ることのできる人間は少ないからね。鬼の研究に最適な場所で珠世さん達の安全を守るために蝶屋敷の人間に任せるのが最良だと判断したからだ」
「……お館様の命であるならばそれが最良なのでしょう。しかし、匿っていた鬼たちが裏切らないと言う確証はありません」
「それについては大丈夫だよ。全てを考慮してしのぶにお願いしているのだからね」
「……なるほど。蝶屋敷の鬼については承知しました。では、竈門炭治郎の件はどうお考えなのでしょう?」
……俺初めてお館様を尊敬したかも。
蝶屋敷で匿うと提案したのは俺だ。
ただ、カナエを思って発言しただけなのだが、ここまで理由をでっちあげるのはすごい。そして、少しの説明だけで意図を察した不死川もだが……。
蝶屋敷には柱クラスが4人いる。
蟲柱のしのぶ、元花柱カナエ、そして俺。それに加えて原作に比べ強化されているカナヲ。
お館様の指示で常に誰か一人は蝶屋敷にいるように指示があったが、このような意図があったとは。
監視をするために指示をする。誰かしらが屋敷にはいるという事実を作る。
何を言われても対処するためにこのようなことをしている。
……今度からお館様の命令は素直に聞こう。
弱みも握られてるし。
すると、俺のそばにいる炭治郎が不死川とお館様のやりとりを見て発言をしてきた。
「禰豆子は人を喰ったことはないんです。今までも、これからも、人を傷つけることは絶対にしません!!」
急な発言にこの場にいる全員の視線が集中する。
するとお館様が一瞬驚いた。
「……手紙を」
「はい」
お館様は柱達の意見を聞くと、手紙を読むように指示をした。
「この手紙は元柱である鱗滝左近寺様からいただいたものです。一部抜粋して読み上げます。炭治郎が鬼と共にあることをどうかお許しください。禰豆子は強靭な精神力で人としての理性を保っています。飢餓状態であっても人を食わず、そのまま2年以上の歳月が経ちました。俄には信じられないことですが、紛れもない事実です。もしも禰豆子が人に襲い掛かった場合は、竈門炭治郎及び鱗滝左近次、冨岡義勇が腹を切ってお詫びいたします」
鱗滝さんからの手紙を読み終えた。
炭治郎は涙を流していた。俺も格好つけて柱の人を説得する時に真似て目の前で腹を切るといった。鱗滝さんの真似をしたが、本物はやはり違うな。
「このように、禰豆子は鬼になっても2年以上もの年月の間、人を食らうことなく過ごしている。皆にお願いなのだが、炭治郎と禰豆子のことを認めてはくれないだろうか?」
「嗚呼……私はお館様の願いに承知しても良い」
「俺も派手にOKだ!鬼を連れた鬼殺隊員なんて派手でいいしな!」
「私は全てお館様の望むままに従います」
「僕はどちらでも……すぐに忘れるので……」
「俺も別に……」
「心より尊敬するお館様たっての願いでも賛成しかねる!!しかし友が命をかけると言った!!俺は様子を見るべきだと思う!!」
お館様の願いにそれぞれの意見を言った柱たち。
ここまで原作と違うと流石に驚く。俺が説得しただけでここまで違うとは。
俺って結構信頼されてるかな?
だが、反対意見を貫き通す人間が1名いる。
「2年間、人を食っていない?……切腹するから何だと言うのです!何の保証にもなりはしません!」
「確かにそうだね。人を襲わないという保証ができない、証明ができない。ただ、人を襲うということもまた証明ができない。禰豆子が二年以上もの間、人を喰わずにいるという事実があり、禰豆子のために6人の者の命が懸けられている」
……あれ?今何人って言った?
俺を含めても4人。
後二人は誰だよ。
……ふと、なんとなく思いつきそうな人物……しのぶに視線を向けるが……笑顔でウィンクしてきた。
うん、かわいい。……てか、お前かい!
しのぶということはあと……カナエか!
「これを否定するためには、否定する側もそれ以上のものを差し出さなければならない。それに……炭治郎は鬼舞辻と遭遇している」
お館様が涼しい声でそう言った瞬間、柱たちはざわめきだした。
それはそうだよな。今まで鬼殺隊で鬼舞辻無惨に接触したのは誰もいないからな。
「鬼舞辻はね、炭治郎に向けて追手を放っているんだよ。その理由は単なる口封じかもしれないが、私は初めて鬼舞辻が見せた尻尾を掴んで離したくない。おそらくは、禰豆子にも……鬼舞辻にとって予想外の何かが起きていると思うんだ。わかってくれるかな?」
「分かりません、お館様。人間ならば生かしておいていいが鬼はだめです。承知できない」
ここまで説明してまだ認めないのかよ!
どこまでお堅いんだよ不死川。
……反対意見が不死川しかいないため、引き下がると思ったが、考えが甘かった。
一応、不死川が納得……はしないだろうが、引き下がる事実を作る方法はある。
俺は黙って手をあげ、提案をする。
「お館様、発言をお許しください」
「なにかな獪岳?」
全員の視線が集まるなか、不死川は舌打ちをした。
それは余計なことを言うなよ面倒くさいと言う意味が込められているような感じだ。
だが、勘違いしないでほしい。
俺が今からする提案はお前の為になる提案なんだぞ。
「たしかに不死川の言う通り、このままでは禰豆子が人を襲わない証明ができません。中立を示した柱の中には完全に納得したものはいないでしょう。ここで、提案があります。これをすれば不死川も納得することでしょう」
「それはどうやるんだい?」
俺の提案にお館様は興味を示した。
「不死川自ら証明してもらうのです。お館様も不死川の稀血の性質はご存知でしょう?」
「は!そりゃ名案だ!お前と初めて意見があったぜ!」
俺の発言にざわめきが現れる。
炭治郎は意味がわからないまま、俺と不死川を交互に見ており、お館様も少し戸惑っていた。
不死川実弥は稀血だ。
稀血とは栄養価の高い人間で一人を食べることで普通の人間を50人、100人食べたのと同じ栄養を得られるもの。
さらに不死川の稀血はその中でも「血の匂いを嗅いだ鬼を酔わせる」効果のある希少なもの。
これで証明するのが最も効果がある。
「炭治郎、禰豆子の入った箱を貸してくれ」
「あの……獪岳さん、何をするつもりですか?」
「そうだな。……残念ながら詳細は教えられない。でも、今からやることを禰豆子が耐えられれば人を襲わない証明になるんだ」
炭治郎は箱を守るように抱える。
信じていた人に裏切られた。少し警戒心を向けられている。
だが、みんなを納得させる方法はそれしかない。
だから、俺は炭治郎に言葉をかける。
「自分の言ったことに責任を持て。禰豆子は人を襲わない、これからも。それを言ったのは炭治郎だ。それにだ。お前は自分の妹を信用できないのか?……信じてやれよ。自分の妹を」
「……わかりました」
……俺の説得に炭治郎は素直に箱を預けてきた。
心配そうに見つめるも、これは俺への信用の表れなのだろう。
「お館様……失礼仕る」
そう言って不死川は屋敷の中へと入っていった。
「おい、早く鬼を連れて来い!俺が本性を暴いてやるからよ!」
「わかったよ。お館様、失礼致します」
俺は不死川の言う通り箱を背負い、ゆっくりと歩いて向かう。
俺は向かう中、禰豆子にあることを言い聞かせる。
「人間は皆お前の家族だ。人間を守れ。人は守り、助けるもの。傷つけてはだめだ。絶対にだ」
それは鱗滝さんが禰豆子に施した暗示の言葉だ。
そして、最後にこう言った。
「禰豆子、頑張れよ」