熱界雷で猗窩座を森林に飛ばすことを成功させ、すぐに戦闘は始まった。
後は可能な限り時間を稼ぐために攻撃を仕掛けるだけ。
俺はこの4年間、ひたすら猗窩座との戦いを想定して訓練を積んだ。
木から木、岩へ移動する訓練。最小限の動きで行う。
また、柱との特訓で最適化と遠距離攻撃だけの駆け引きも学び続けた。
「くそ!ちょこまかと!」
猗窩座と森林での戦いを続け十分が経過した。
4年前とは違い、有利に戦いを進められている。4年前は俺は逃げることに精一杯だったが、戦況は大きく変わった。
猗窩座は俺の動きに翻弄され、実力を出せていない。
『雷の呼吸 伍ノ型 熱界雷』
木から移動をしながら遠距離攻撃を繰り返す。
「ふん!」
猗窩座は放たれた熱界雷を拳打で受け止める。
それにより視界が少しぼやけたので俺は撹乱するため猗窩座に少し接近する。
『雷の呼吸 伍ノ型 熱界雷 三連』
接近し、地面に砂埃を広げるために三発放つ。目眩しだがそれでも数秒は稼げる。
戦いが長引けばそれだけ木々が倒れてしまう。
環境破壊、植物たちには申し訳ないが、今はそれを気にしている暇はない。
一秒でも長く時間を稼ぐにはそれしかない。そのためには手段は選んでられない。
俺と猗窩座はこのようなやり取りを繰り返す。
「4年前とは比べものにならん!」
『破壊殺 空式』
「そうかよ!」
『雷の呼吸 伍ノ型 熱界雷 四連』
お互いの技がぶつかり爆発が広がる。
猗窩座はとても楽しそうだ。
真正面から戦うのを好んでいると思ったが、戦闘自体が楽しいらしい。
その反面俺は結構しんどい。
型の連発、高速で移動し続ける。これだけでも辛いのだが、実践の殺し合いで一度のミスも許されない。
いつも以上に注意をしなければいけない。緊張のせいか、精神力、集中力を削られてしまい、いつミスを犯すのかわからない。
それにやはり一度同じシチュエーションで猗窩座とは戦っているため、慣れているのか、対処として猗窩座は『破壊殺 空式』を使い木々をどんどん倒していく。
俺もそれを踏まえて場所を移動しながら戦う。今回の森林は規模が広い。
木々が倒されようが、移動すればまた仕切り直しができる。
だが、俺有利に戦いをしているのにもう、適応してくる。さすがは数百年鍛えた武闘家と言ったところか。
もう少し適応するのに時間かかると思ったが、思い通りにはならない。
……そろそろ頃合いか。
木々が少なくなってきたので移動を開始した方がいいな。
猗窩座はまだ土埃の中だ。
様子を見て熱界雷8連を放てば遠くへ飛ばせる。
ただ、それを読まれないようにしなければいけない。そのためには接近と離脱を繰り返し翻弄し、隙を作り放たないと。
俺は木から木へと移動をし続け、猗窩座に少しずつ近づく。
だが、おかしい……俺の熱界雷と猗窩座の空式がぶつかり土煙が広がっているのに猗窩座は移動するそぶりを見せない。何故だ?だが、猗窩座の場所は大体把握しているし、なんの問題はないが。
「お前は場数を経験すればもっと俺と戦えたかもしれないな」
「は?」
突然土煙の中から猗窩座の話し声が聞こえてきた。
何を言っている?今有利なのは俺のはずだ。
だが、聞こえた話し声の方向で猗窩座の位置を完全にわかった。
「ならば教えてやろう」
だから今のお前に何が……?
『破壊殺 終式 青銀乱残光』
「な!?」
『雷の呼吸 伍ノ型 熱界雷 八連』
俺は反射的に技を放った。
まだ、そんなの隠してたのかよ!
突然放たれた先程とは比べものにならない速度と威力を誇る拳打を周囲に放ってきた。数にして百発。
乱れ打ちのように放たれたものは先ほどから猗窩座が応戦していた拳打以上の威力がある。
俺は冷静にそれを避けるため、熱界雷を8発最大火力で応戦するも、全ての威力を受けることはできなかった。
「く!」
俺は防ぎきれなかった攻撃を直接日輪刀で受ける。
直撃するよりかはマシだ!
バキ!バキバキボキ!
俺は大きく後方へと飛ばされてしまう。
威力をいなすことはできず、何回か木に背中をぶつけてしまう。
「かは!」
そして、猗窩座に森林の外へと飛ばされ、どうにか背中の痛みに耐えて受け身をとり、致命傷を避ける。
「はぁ……はぁ……はぁ」
体を確認し、動けるかを確認する。肋の骨は何本か折れてしまった。
打ち付けられた場所を打撲してしまっているが、まだ動ける。戦える。
体は正常に動くかを確認。そして呼吸を整える。
「獪岳さん」
ふと、後ろから俺の名を呼ぶ声が聞こえる。
……思っていた以上に飛ばされていたらしい。
後ろには炭治郎たちが心配そうに見ていた。
見える範囲でだが、猗窩座は歩いて近づいてくる。
「獪岳、今助けに」
「来るな!下がってろ!待機してろと命令したはずだ!」
「?!……でも、このままだと獪岳さんは」
「足手纏いだということがわからないのか!」
「?!」
俺は炭治郎と善逸の心配を拒否する。
今、戦いに参戦されたら俺の苦労が全て水の泡になる。
二人は悔しい表情を見せるが、自分たちが足手纏いなだけだと解っているらしく、それ以上は何も言わない。
それでいい……だが、状況は最悪だ。
油断はしていなかったはずだ。
……まさか、あのような技を隠していたなんて、知らなかった。
……いや、原作知識で知っていたが、あそこまで威力があるとは想定外だ。
だが、まだ戦える。受け身をとった時に何箇所か骨折してしまっているが、致命傷はなく、少し骨にヒビが入っているが呼吸は使える。
……だが。
「……マジかよ」
猗窩座の攻撃を受けた時、何が嫌な音が聞こえた。
日輪刀を確認すると……ヒビが入っていた。
……いや、判断は正しかった。
あの時、直撃していたら即死だった。
幸いなのは形状が少し特殊だったので、折れることはなかった。
この壊れかけの刀ではもうあの技は……。
「生きていたか……」
俺の内心の焦りとは裏腹に余裕の表情で近づく猗窩座。
「だが、もうお前に勝ち目はない。……これ以上は無駄だ。死に急ぐだけだからな」
ち、否定はできない。
「お前の戦法は素晴らしいかった。終式を使わせたことは称賛に値する、誇っていい。……だが、詰めが甘かった。無意識だったのかは不明だがお前の動きには規則性があり、なれてしまえば動きをよむのは容易い」
「化け物が」
なるほど。経験が足りないとはこういうことか……それにしても、そんな癖があったなんて自覚できなかったよ。
いや、もうそのことを考えても仕方がない。
四年間の鍛錬で、はじめの猗窩座とのやり取りで行けると思ってしまった。
戦えると思っていた。
「ああ……やはり惜しい。獪岳、考え直せ!鬼になるべきだ!」
「はぁ…はぁ……断る」
「何故わからない!鬼は誰でもなれるわけではない!特別な者にしかなれないんだ!獪岳……お前は選ばれた人間なんだぞ!」
「……お前にそこまで評価してもらえるのは素直に嬉しい」
「なら鬼に「だが!」」
俺は猗窩座の言葉を遮り、叫ぶ。
「いかなる理由があろうとも!……俺は鬼にはならない」
「……そうか。生身を削って戦ったところで無駄なんだよ獪岳。お前が俺にくらわせた攻撃もすでに完治してしまっている」
「何が言いたい?」
自慢話なら他でやれよ。
「俺に比べてお前はどうだ?疲労困憊で所々怪我をしている。……何より壊れかけているその刀。今のお前には何もできない」
状況把握ならばこっちもできてるわ。
「どう足掻いたって人間は鬼には勝てないんだよ」
「うるさい!」
俺はその場で日輪刀を地面に叩きつける。
ヒビが入っていた刀身は折れ、長さは半分ほどになる。
いつ折れるかわからないならこっちの方が本気で振れる。
俺は日輪刀を鞘に修め、構える。
もう、俺には勝ち目はない。
俺との戦闘で時間は二十分は経っているはず。もともと下弦の壱が出現した時点で柱に声がかかる。
援軍の柱が近くに来ているはず。
ならば俺は次の柱が戦いやすいように、少しでも猗窩座にダメージを負わせるのが最善の選択。
俺は今ある最後の力を振り絞る。
「獪岳……お前」
「俺は……俺の責務を全うする!……ここにいるものは……俺が守り切る!」
やはり俺は人のカッコいいセリフをパクるのが得意らしい。
別に意識はしていない。自然と出た言葉だった。
『雷の呼吸』
限界を越えろ。
全てを出し切れ。ここで俺が負ければ全てが無駄になる。
だからここで引くわけにはいかない。
俺にできるのはただこれだけ。
転生して……これだけをひたすらに鍛え続けた。
猗窩座は真正面から迎え撃つだろう。
それが俺の狙い。だが、今からやろうとしている仕込みのため俺は猗窩座の全力の攻撃を相殺しなければいけない。
そのためには8連よりももっと……。
「ああ……素晴らしい闘気だ。……追い詰められてもその気迫……精神力。一分の隙もないその構え。ふはははは!やはりお前は鬼になれ獪岳!永遠の時を戦い続けよう!」
『破壊殺 滅式』
猗窩座は俺に接近してくる。
限界を……越える!全てを出し切れ!
『伍ノ型 熱界雷
十連』
限界を超えた俺の決死の技と猗窩座の血鬼術がぶつかり合った。
「「「獪岳(さん)(ガイコツ!)」」」
炭治郎、善逸、伊之助の3人は獪岳と猗窩座の決死の技がぶつかり合う。その時、反射的に獪岳の名を叫ぶ。
自分たちは無力だ。
それは今の3人の共通認識。
自分たちは強くなった。
十二鬼月と戦えるくらい強くなった。
そう思ったのも束の間、上弦の参。
その鬼が自分たちの前に現れた。
攻撃に反応することができない。
獪岳と猗窩座の戦いを目で追うことすらできない。
それほどまでに目の前の獪岳と猗窩座の次元は違うということをいやでも思い知らされた。
だが、どこかでこの人なら大丈夫。そう思っていた。
それは獪岳の過去の実績。
上弦の鬼二体と遭遇するも生還する。それを知っていたから、今回も大丈夫だと思った。
その証拠に獪岳と猗窩座の戦いは拮抗していた。
森林に入ってからは見えはしなかったが獪岳が有利に戦っていたと思う。
この人なら大丈夫。絶対に生きて戻ってきてくれる。
だが、その期待は裏切られることになる。
獪岳と猗窩座が森林で戦い始めて十分が経過した時であった。
大きな爆発音が聞こえた。
その後、一つの人影が勢いよく飛ばされてきた。
それは大丈夫と信じていた獪岳の姿であった。
立ち上がった時呼吸は荒く、立つのがやっと。よく見れば刀も壊れかけていた。
炭治郎たちはすぐに助太刀に入ろうとするが獪岳により止められた。
足手纏いだとも言われた。
だが、それをわかってしまっていたため、何もできなかった。
それがどれだけ悔しかったことか。
『破壊殺 滅式』
『雷の呼吸 後の方 熱界雷 十連』
その後、獪岳の決死の覚悟で放たれた限界を超えた一撃と猗窩座の一撃がぶつかり合い、爆風がした。
爆発が収まったのはそれから数十秒後だった。
土煙が広がり、うっすらであるが、二つの影が見えた。
「あ……あああ……あ」
だが、その見えた影に炭治郎は狼狽える。
猗窩座の拳は獪岳の腹を貫通してしまっていた。
「獪岳さぁぁぁぁん!!」
補足です。
猗窩座が終式を使ったのは主人公への賞賛。確実に仕留めるために使ったとお考えください。