「そうか!倒したか……上弦を。よくやった獪岳、炭治郎、善逸、伊之助、実弥……ゴホッゴホ」
「耀哉様」
産屋敷邸。
現当主で産屋敷耀哉にある一報が届いた。
それは産屋敷耀哉にとっては何かの予兆だと言わんばかりの朗報。
上弦の参並びに下弦の壱の撃破。
耀哉は寝起きということもあるが、何より嬉しさのあまり興奮してしまい、吐血をしてしまった。
天音はそれを支え、心配する。
「百年……百年もの間……変わらなかった状況が今大きく変わった。……天音」
「はい」
耀哉は自身を支えている天音に声をかける。
「ゴホ!……ケホ…ケホ…ケホ……わかるか?……これは兆しだ。運命が大きく変わり始める」
天音の腕を掴み、喜ぶあまり、吐血しながらも話を続ける。
「この波紋は広がってゆくだろう。周囲を巻き込んで……大きく揺らし………やがては……あの男の元へ届く」
耀哉自身の拳を強く握り、自分が感じた予感を確信したと思う。
「鬼舞辻無惨……お前は必ず私たちの代で倒す……我が一族唯一の汚点であるお前は……ケホ…ケホ…ケホ」
「お前たち、湯を沸かしなさい。それから薬と手拭いを……早く!!
「父上」「父上」
天音は急ぎ耀哉の看病を開始したのだった。
「獪岳、不死川により、上弦の参撃破!上弦の参撃破!……獪岳重症!急げー!」
「?!…姉さん!」
「しのぶ早く!」
しのぶとカナエは急いで上弦の参が現れた場所へと向かう。
一時間ほど前までカナエは蝶屋敷で珠世と共に薬の実験をしていた。
いつも通りの日常。ただ、獪岳が任務で外しているが、内心心配はしているものの、いつもと変わらずに過ごしていた。
突然の一報が来るまでは。
最初は下弦の壱が出現したという連絡。
その連絡を聞いた瞬間、カナエは持っていた調合器具を床に落とし、動揺をした。
下弦といえど十二鬼月。
カナエはすぐに数年袖を通していなかった隊服を慌てて着て、日輪刀を持ち、救急の処置のできる道具を持って現場へと走った。
しのぶはその日任務はなく、自身の担当する区域のパトロールをしていた。だが、十二鬼月が現れたことで急いで現場に向かうように指示があった。
しのぶは近くにいたカナヲに引き継ぎをして、現場へと向かった。
途中、偶然にもカナエと合流できた。だが、カナエは呼吸が使えるようになったものの実戦から離れていて心配だったのでしのぶはカナエを行かせないように言ったものの断るの一点張り。
そのため一緒に向かうことになった。
この時点ではあまり二人は慌てていなかった。
その任務に当たっているのは獪岳であったから。
それにその任務には炭治郎、善逸、伊之助の三人も同行していたため。
だが、移動中に新しい一報が届く。
それを聞くなり二人の顔は青ざめ、さらに走る速度を上げる。
上弦の参の出現。
上弦の実力はカナエは一番わかっている。カナエが鬼殺隊引退のきっかけも上弦との遭遇が原因。
上弦の実力は計り知れない。
柱クラスの実力ですら対処は不可能。
いくら獪岳が強くても一人では対応するのは無理がある。
だから、余計に焦りが増した。
愛すべき存在が死ぬかもしれない。その不安が頭によぎり、余計に焦りが増していった。
その焦りが和らいだのはそれから二十分ほどが経過した時。
それは上弦の参が倒されたとカラスから知らせがきてからだ。
これを聞いた時、カナエとしのぶは安堵した。
だが、獪岳は重症。
応急処置は終わっているとしても絶対安心ではない。
二人は急いで現場に向かった。
現場に着いた時、隠たちによる後処理が行われてきた。
列車の乗客から壊れた線路の確認など。
カナエとしのぶはそれらが目に入るものの一番優先しなければいけないこと……獪岳を探した。
「姉さんあそこ!」
「わかったわ!」
しのぶがいち早く炭治郎、善逸、伊之助の三人が固まっている場所を見つける。
三人は倒れている人を囲うように……心配そうに看病をしていた。
「……カナエさん、しのぶさん」
「炭治郎くん、義兄さんの容体は?!」
しのぶとカナエに気づいた炭治郎は獪岳の容体の説明を始める。
「止血は終わったと獪岳さんが言ってました……あと、左足と肋骨が骨折しています。それ以外は……すいません」
「いいのよ炭治郎くん。今までありがとう。これから緊急処置するから離れてもらえる?」
「は、はい」
カナエは炭治郎からその場で容体を聴くと処置を開始した。
本当ならば安定している場所に移動すべきだが、緊急を要する。
しのぶとカナエは顔を合わせて互いに頷く。
二人による処置が始まった。
それから十分ほどで処置は終わった。
結果は命には別状はない。
左足が骨折、肋が3本骨折。身体中に打撲。
左下脇腹に穴が空いていたので接合させた。
傷ついていた内臓はそこまでひどくはなく、しっかりと治療すれば治る。
カナエとしのぶは処置が終わると安堵して座り込んでしまっていた。
「あ……あの。獪岳さんは」
二人の処置を後ろから見ていない三人のうち、炭治郎が代表して聞いてくる。
カナエは笑顔で返答する。
「命に別状はないからもう大丈夫よ。安心して」
「よかったです……本当によかった」
「あらあらまあまあ。泣かないで。大丈夫だから」
炭治郎はそれを聞くと安心からか泣き始めてしまう。
カナエは少し困った表情をしてしまう。
「俺……何もできなかったんです。上弦が現れた時……体が震えてしまって……動けませんでした。……獪岳さんが負けそうな時も俺は何もできませんでした。……すいませんでした」
「「……」」
炭治郎はカナエに謝罪し、善逸と伊之助は黙って見ている。
それは今回の一件での自分の無力感から。獪岳が安全だと分かると一気に緊張が途切れ、感情が爆発した。
「俺は……どうしたらいいんでしょう……何か一つ出来るようになっても……目の前に分厚い壁があって……獪岳さんのようにすごい人はまだまだたくさんいて……俺はその人たち比べて弱すぎる……こんなところで躓いてしまっている俺は……俺は……獪岳さんのようになれるのでしょうか……」
今日の一件を通して、目の前にある分厚すぎる壁に炭治郎はショックを受ける。
獪岳のアドバイスもあって一ヶ月で大きく成長した。
だから、自分達は強くなったと思い上がってその直後に分厚い壁が目の前にあることを自覚させられた。
今日あったことは獪岳がいなければ全滅していた。
大切な仲間も失っていた。那田蜘蛛山の一件で自身の力のなさを思い知らされて……それから努力したがそれでもまだ足りない。
炭治郎の思っていたことと同じなのか、善逸、伊之助は俯いてしまっている。
「強くなりなさい」
「……え?」
炭治郎の弱気の言葉。カナエからのその返答はすぐにきた。
炭治郎は顔を上げてカナエを見る。
カナエは真剣な表情で言葉を続ける。
「大切な人を守れるくらいに。どんな強敵が現れても倒せるくらいに。……炭治郎くん、貴方は今日、獪岳さんから何も学んでないのですか?……俯いている暇があるなら前を向きなさい……強くなれるか、なれないのか……そんなことを言っているようでは貴方は成長できない……努力しなさい。強くなるため追求し続けなさい。模索をしなさい。強くなるための近道はありません。人はそう簡単には強くなれないものです」
カナエの言葉は炭治郎、善逸、伊之助の三人のシンの的を射抜く言葉であった。
カナエは言葉を言い合えると、シンとしてしまう。
「と!……獪岳さんならそう言うと思いますよ。ね!しのぶ!」
「はぁ……ねぇさん、台無しですよ。せっかくかっこよかったのに……」
「もう、ため息なんてついちゃ。そんなんじゃ幸せ逃げちゃうわよ?」
「な!別にそんなことないです!」
さっきまでの真剣なカナエとは雰囲気が変わってしまったことに戸惑ってしまう三人。
そんな緊張感のない雰囲気のせいか、先ほどまでの雰囲気はなく、自然に笑みが溢れる。
「俺……強くなります。獪岳さんみたいに守れるように」
「伊之助様はガイコツより強くなってやるよ!」
「獪岳と一緒に背中合わせて戦うのは俺だからな!」
炭治郎、伊之助、善逸はそれぞれの目標をいう。
「うふふふ。それくらい元気があれば大丈夫ですね。……獪岳さんのこの怪我では復帰はしばらくかかるでしょう。……よろしければしばらくは私が稽古の相手をしましょうか?これでも元とはいえ柱。お力になれると思いますよ」
カナエは三人を見て安心し、提案をしたのだった。
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