「今日は大変だったなぁ」
今日は天元と悲鳴嶼さんが見舞いに来てくれた。
療養の中で怪我は順調に治っている。ただ、今日あったことが濃すぎてどっと疲れがきた。
天元の裏切りからのカナエの説得。
それだけで精神的に疲れた。
まぁ、色々と疲れたものの、収穫はあった。
まずは遊郭編が原作通りに進んでいること、沙代たちと関係改善に一歩前進したこと。
二つ目については少し不謹慎だけど下弦の壱に感謝している部分もある。
あの夢を見たのがきっかけで、俺は自分が本当はどう思っていたのかを知れ、一度話してみようと思えた。
「結果はどうあれ……無事終わったからいいかなぁ」
俺は夕焼けが映る外を見る。
一般人からしたら1日の終わり……鬼殺隊からしたら始まりを意味する。
そういえば、俺もここ数年仕事のことを気にしないで休めるのも久しぶりだ。
療養という形なので素直に喜べないが。
それにしても。
「腹減った」
今日色々あって昼を抜いたんだ。
病人なんだから、しっかりと栄養を取れるものを食べなきゃいけないのだが、一騒動あったせいで食べるの忘れてた。
自分で用意しようにも体が思うように動かせない。
……怪我人は不自由だなぁ。
「うん?……なんかいい匂いが」
病室の入り口から何が良い匂いした。
こっちに向かってくる気配が一つと少し離れた位置に2つか。
「……え?」
俺は戸惑う。そこにいた人物の表情に。
「カナヲ?」
両手にトレイをもち、食事を持ってきてくれたその人物はいつもの無表情ではなく、顔を赤らめていて、どこか心配そうな表情をしていた。
……何かあったのだろうか?
「えっと……夜ご飯持ってきてくれたの?」
「……い、いえ……その」
カナヲはソワソワしながら話そうとする。
ここで一番いい対応の仕方は。
「とりあえずこっちきて。ゆっくりでいいから」
「は、はい」
カナヲはハッとしたのか、早歩きで俺に近づき立ち止まる。
「深呼吸して……。別に慌てることはないからゆっくり自分のペースで話しな」
カナヲはゆっくり深呼吸をする。
それから1分ほど経ち話し始める。
「これ……どうぞ」
「えっと……アオイさんからかな?」
「い……いえ、違くて……その……」
だいぶ緊張している。
いつもなら定例文のようにつらつらと命令に従い、それ以外は硬貨を投げて行動を決めていたカナヲ。
「これ…………作ってみたの。よければ」
……これには驚いた。
彼女が自発的に何かをやろうとするなんて。
「その……獪岳にいさんが心配で……何かできないかと思って」
いけない。
驚いていたせいで黙ってしまった。そのせいで慌ててカナヲは理由を話した。
「……いや、ごめん。少し驚いちゃって」
「いけなかった?」
「そんなことないさ。嬉しいよ」
俺は胸の内側が温かくなるのを感じる。
カナヲは前進した。
「カナヲは変わったね。もちろんいい方向に……何かきっかけがあったのかな?」
「それは……」
少しあたふたしている。
今、炭治郎がきっかけで変化の予兆が出てきている。
おそらく今自分の抱いている感情までは理解していないだろう。
今思ってみれば今まで少し茶化しても何も反応を見せなかった。
カナエはカナヲにコインを渡す時、言っていたっけ。
きっかけさえ有れば人は花開くから大丈夫と。好きな男の子でもできたらカナヲは変わると。
「……好きな男の子でもできた?」
「え?」
「危な!」
カナヲは俺の言葉に反応して持っていたトレイを落としてしまう。
俺は落ちる前に腕を伸ばして間一髪でそれを受け止める。
……この動揺はマジだな。
「あの……えと」
「………あ、まってどこに……行ってしまった」
少し茶化しても過ぎたか?
カナヲは顔を赤らめて走り去ってしまった。
まだ、芽生え始めた感情に整理ができていない状態。
後で謝っておこう。
「……少し塩の入れすぎかなぁ」
俺はカナヲが作ってくれたお粥を食べる。
作りはシンプルでお粥に卵が解いてあるもの。
ただ少ししょっぱかった。
もしかして、一人で作ったのかな?
俺はゆっくりと食べ始めた。
「今、カナヲが顔を真っ赤にして走っていくのを見かけましたが、何か言ったのですか?」
「獪岳さんが余計なことを言ったのではないですか?」
食べ始めて少し時間が経った後、カナエとアオイさんが病室に入ってきた。
「カナエとアオイさん……どうした?もしかして入る機会見計ってた?」
「はい。だってカナヲが一人で厨房で何かやっていたので」
「少し気になってしまって」
カナエ、アオイさんが理由を話す。
やっぱりか。
そのあと、二人から何を言ったのかを問い詰められ正直に話すと、
「獪岳さん、カナヲは今変わっている最中なんですよ。言葉は選んでくださいね。恋する乙女は純粋なのですから」
カナエに一言言われた。