獪岳が黒死牟と戦っている中、残された伊黒、カナエ、天元は獪岳に言われた通り手当し、すぐに参戦できるようにした。
だが、その中でも天元と伊黒は自分たちの無力感を感じていた。
「ち……惨めな自分に腹が立つ。鬼の分際で呼吸を使うあいつが気に入らない」
「経験の差ってやつなのか?……随分と足を引っ張っちまったな」
伊黒、天元は自分たちの力不足に苦言する。
柱でもない獪岳に全てを任せて戦わせている状態、自分たちで太刀打ちできなかった黒死牟に今もなお一人で戦っていることへの悔恨。
「お二人とも、悔しいのはわかりますが、今はじっとしてください。すぐに手当を終わらせますので」
「分かってるが、胡蝶お前は平気なのかよ。かなり深いだろ?」
「ええ。私は獪岳さんに守ってもらい、足を怪我しただけなので」
二人の反応に未だ応急処置をするカナエを心配して天元は言葉をかける。だが。カナエは返答はするも黙々と手を動かす。
この中で一番無力に感じているのはカナエだろう。
力になるために戦場に戻った。だが、結果は何もできず獪岳に守られただけ。
「……これで大丈夫です」
カナエは二人の応急処置を終わらせる。
そのまま、カナエは獪岳が戦っている戦場へ視線を向ける。
「今は伊黒さんも宇髄さんも思うところはあると思いますが、今は行きましょう。獪岳さんが待っています」
カナエの言葉に伊黒も天元も特に何も言わず、そのまま立ち上がり準備し、機会を伺い続けた。
「天元!」
天元の名を呼ぶ獪岳の合図と共に、3人は仕掛けた。
「うらぁぁぁ!」
ここで仕留める。
天元の雄叫びと共に接近、火薬玉を黒死牟に投擲する。
このタイミングで俺はすぐに熱界雷を放てるように接近する。
少しでも注意を引くためだ。
「……愚かなり」
『月の呼吸 玖ノ型 降り月・連面』
俺と天元の接近に黒死牟はそのまま反応が遅れるも上空からの斬撃が降ってくる。
「上だ!」
『雷の呼吸 伍の型 熱界雷 十連』
俺は天元に攻撃がくる方向を伝え、警戒させる。
そのまま、少しでも斬撃の威力を抑えるために熱界雷を放ち迎撃。
「効かねんだよ!」
『音の呼吸 伍ノ型 鳴弦奏々』
だが、流石は天元ということか、目が慣れたのかわからないが、上からの斬撃を完璧に避け、二刀を回転させ、爆音を発生させながら黒死牟に接近。
……俺の援護は必要なかったか。
そのまま天元が投げた火薬玉が爆発し、爆煙が黒死牟を囲う。
この煙は藤の毒でできている。吸うだけで効果が出るものだ。
「……なんだ?」
その直後、カナエが離れた位置から黒死牟に接近し、自身の刀を胴体に刺す。
体内に直接打ち込んだのは猗窩座に打ち込んだ毒よりもさらに強力になった藤の毒。
黒死牟は混乱していた。
自分の体の異変にはもちろんだが、そもそも何故自分が気がつけなかったかだ。
何故こんな芸当ができたのか。カナエがつけている呪符による効果。
これは愈史郎の血鬼術で作られたものだ。
効果は「目隠し」つけた対象を周囲から認識されないようにする。
カナエは毒を注入後、バックステップで本気で後ろに飛び距離をあける。
黒死牟にとってこの隙は致命的だ。
400年以上生きてきて、ここまで追い詰められたのは初めてだろう。
まず、俺の挑発から始まり、カナエがどのように接近したのかわからず、猗窩座の血を元にさらに効果が増した強力な藤の毒を刺された。
混乱したことにより、思考速度が周囲への警戒も低下する。
『蛇の呼吸 弐ノ型 狭頭の毒牙』
これで終わりだよ黒死牟。
伊黒は混乱している黒死牟の背後から、完璧なタイミングでの奇襲。
しかも、愈史郎の呪符をつけており、完全に完治することすらできない。
伊黒の放った斬撃は黒死牟の首に迫る。
「終わりだ!」
天元は黒死牟が混乱している時にすでに接近していた。
黒死牟の背後から伊黒が、正面から天元が首を刈り取りにいく。
「俺たちの勝ちだ」
首を斬られただけでは死なないかもしれないが、今の黒死牟には最も強力な藤の毒も注入されている。
猗窩座の時に注入した毒よりもさらに強力なやつだ。
流石の黒死牟にも通用するだろう。
「ふぁぁぁぁ!」
だが、黒死牟の叫びと共に全てがひっくり返された。
黒死牟の身体中から刀身が出ており、その衝撃で斬撃が発生し、迫っていた伊黒と天元は吹き飛ばされてしまう。
伊黒と天元は斬撃を受け、体勢が崩れてしまっている。
カナエは黒死牟に刀を刺した後、離脱したはずなのだが、足の怪我が原因で近くにいる。
だが、今の場にいる3人は黒死牟の攻撃範囲内にいる。
どうにかしようと走り出すも間に合わない。
今の俺には何もできない。
脳内に走馬灯が流れ始め、どうにか打開できないかと考えるも……だめだ。
そもそも間違っていたんだ。犠牲を出さずに黒死牟を倒そうだなんて。
ああ……もう間に合わない。
黒死牟が刀で伊黒、天元、カナエに迫る。
ーードカン!
突然落雷が落ちる大きな音が鳴り響き、意識が再び覚醒する。
黒死牟に視線を向ける。
「ぐははは!伊之助様参上!」
そこには黒い刀が黒死牟の身に刺さり、付近に伊之助が天元を抱え、善逸が伊黒とカナエを抱き抱えていた。