「獪岳さん!」
「やっちまえ!」
「獪岳!」
そんな心配そうな顔で見なくても大丈夫だ。
お前達が作った千載一遇のチャンス……無駄にする気はない。
……足手纏いと見限った過去の俺を呪いたい。
だめだと思っていた局面で逆転の一手をこいつらは作ってくれた。
ナイスタイミングだよ。
炭治郎は離れた位置から日輪刀を投げた。刺さった直後、黒死牟の動きは止まった。
おそらくただ投擲したわけじゃなく、何かの薬を黒死牟に打ち込んだ。
黒死牟は苦しんでいるようで、何かに抗っているようだった。姿もみるみる化け物の姿に変わっていく。
赤いアザのようなものが身体中に広がり、おでこ付近からはツノが2本。
体の大きさも徐々に大きくなり始める。
このままじゃまずい。
どんな化け物に成り代わるのか……今は隙だらけだ。
このチャンスを逃したら今度こそ勝ち目はなくなる。
「覚悟を決めろ……リスクを恐れるな」
自分に言い聞かせるように呟きながら、構える。
鞘から刀を抜き、右脇構えに。右膝は地上スレスレにして重心を下げ、刀身地上と並行に。
普段とは違う呼吸で身体中の血液から筋肉、内臓全てを圧迫する。
急に体に慣れない負荷をかけたことで体内に激痛が、脳内にキーンという音が響いてくる。それでも体を無理に動かす。
以前の猗窩座戦では刀が折れそうで使えなかった。
この技はまだ未完成で雷の呼吸の終の型で、熱界雷の究極技だ。
呼吸の仕方はヒノカミ神楽の呼吸に、善逸の「神速」の技の原理を融合させたもの。
体に負荷がかかりすぎる故に今の身体で使うと壊れる。
今の俺が使うと体の強度が足りず二度と刀を握れなくなるかもしれない。
だが、出し惜しみはできない。
せっかく炭治郎達の決死の覚悟で作ったこのチャンス、無駄にできない。
こいつはここで仕留める。
『雷の呼吸 終の型 天昇鳴龍 樹雷』
「ぐあぁぁぁ!」
「ぬあぁぁぁ!」
低姿勢のまま、左足に本気で力を込める。
全身の骨が軋み、足がブチブチと引きちぎれるような痛みに耐え、混乱しながらも巨大な刀で俺に斬撃を放とうとする黒死牟に接近する。
本当に黒死牟は化け物だが、正常じゃないお前じゃ、この一撃は避けられない。
黒死牟に接近後、二メートルほど間合いをあけて左足で蹴り上げた勢いを殺すように右足で地面を踏み込み、飛び上がる。
「ああぁぁぁぁぁぁあ!」
腰の捻り、脇の閉め、右手で空に押し出すように構えていた刀で渾身の一撃を全身全霊で振り上げる。
振り上げた瞬間、俺の刀は黒死牟に当たることなく空を切り、放たれた斬撃の勢いにより発生した雷撃が黒死牟を捉え、天に昇る雷鳴と共に空へと飛ばした。
「ああ……終わった」
体が空中に浮いている中、黒死牟が空へと向かっていったことが薄めに見える。
ああ……体の感覚ないわ。……意識が……。
ああ、空から日差しさしてるわ。
綺麗だなぁ。
日が指してるってことはもう鬼は来ないから安全だな。
ああ……体が落ちていく、地面に向かって……あ……あれ、なんか世界が逆さまに見えるんだけど?
え?俺落ちてる?……やばい。このまま落ちたら俺……死ぬ?
……やばくない?
早く着地準備を……て、ああ、そういえば無理に体酷使しすぎて動かないんだった。
あ……しぬ。
首の骨へし折れて……えぇ。こんな最後でいいのかよ。
いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!
「獪岳さん。……大丈夫ですか?」
「た……たんじ…ろう」
だが、地面に落ちる寸前に炭治郎がお姫様抱っこで助けてくれる。
……爽やかな笑顔で助けてくれた……何このイケメン主人公。
女だったら惚れてるわ。
「ごほ!…ごほ!」
「が、獪岳さん!」
やば、身体中が痛い。
とりあえず抱き抱えられてると余計痛いから降ろしてもらおうか。
「炭治郎……下ろしてくれ」
「あ、はい。すいません」
炭治郎はゆっくりと下ろしてくれた。
よし、これで、少しは痛みが和ら……がないな。
え?待って体の外と内からすごい痛みあるんだけど。
……落ち着こう。とりあえず止血しないとな。内臓壊れてないよな?
「……ぐ……はぁ……うぐ!……はぁ…はぁ」
……よし。……内臓はいくつも出血してたけど、どうにか止血はできた。
いやぁ、よかった。
まだズキズキ痛むけど、これで出血死は免れた。
……でも、おかしい。
動かないが、手の感覚は多少戻ってきたが、足の感覚がまったくないや。
てか、呼吸で把握できないってどんな怪我したんだか。
「あ……あの」
あ、炭治郎いるの忘れてた。
そんな心配そうに見なくても大丈夫だよ。
とりあえず安心させなきゃな。
炭治郎は身内の死を何よりも悲しむし。
「止血はできた……安心…しろ」
「……はぁぁ」
安心したのか、緊張、不安その他諸々全て吐き出すようなため息だなぁ。
よほど心配していたんだな。
「生き残れたんですね……俺たち」
「……そう…か」
みんな無事……それだけ聞いて安心した。
なら、俺は回復に専念するか。
「なら、後は……頼む。少し……寝る」
「はい……お疲れ様でした。ゆっくり休んでください」
最後に炭治郎に一言交わし、意識は途切れた。
だが、この時の俺は知らない、終の型を使った代償があまりに大きすぎたことを。
未完成の技故に体にかかる負担が俺の想像を超えていたことを。
最後まで読んでくださりありがとうございました。