引退決意から次の日。
「炭治郎、少し話したいことがある。時間いいか?」
「わかりました」
病室で過ごしていたが、外に出たいと思ったので、炭治郎にお願いして中庭に連れ出してもらった。
「……気持ちがいい」
日光に照らされ体がポカポカする。
やはり室内にいるのではなく外にいた方がいい。日光を浴びるとメラトニンが分泌される。
メラトニンは睡眠の質を高めてくれるので、なるべく浴びておきたい。
全集中常中により治りが早いが睡眠の質が高まることでさらに早くなる……と思う。
完治させるためにできる限りのことをした方がいいとカナエから言われた。
これから炭治郎に話すこと……これが俺が原作に関わる最後になる。
「……刀、まだ届かないんだって?」
「はい……そうなんですよ。鋼塚さんに手紙を送っているのですが、返信がなくてですね……やっぱり刀を二回も無くしてしまったのは不味かったですよね」
「なんとも言えないな。今回に限っては刀は黒死牟……上弦の壱と一緒に空の彼方へ行ってしまったからな」
「あはは……はぁ」
炭治郎はため息をした。
多分炭治郎の担当鍛治師の鋼塚さんは怒って無視をしているか、修行をしているかどちらだろう。
「刀鍛冶の里に直接赴くのも一つの手だよ」
「そうなんですか」
「ああ。しのぶや悲鳴嶼さんなんかがそうだな。独特の刀を扱う柱は相談しながら作るから刀鍛冶の里に行くことがある」
「なるほど……獪岳さんの刀もですか?」
「ああ。と言っても俺の刀は刃がないのと、少し小細工してあるだけで他の刀と変わらないけどな。とにかく、音信不通なら一度行った方がいいかもな」
「わかりました」
これで炭治郎は刀鍛冶の里に向かうことが決まった。
黒死牟の生死はわからないが、直接戦ったことで物語にどのような影響が出るかわからない。
色々と手遅れだろうがなるべく沿わせておこう。
「もしかして俺の刀のこと心配してくれたんですか?」
「いや、俺が炭治郎を呼んだのは別の理由だ」
炭治郎と話したのは俺の自己満足。
もしかしたら炭治郎は俺の引退を重く受け止め過ぎてしまっているかもしれない。
「炭治郎……俺が引退することを気にしなくていい。……自分がもっと強かったらって思って気にしてるんじゃないかってな」
「……」
「図星か。そう暗い表情するな。むしろ一日に上弦二体と遭遇して両足失うだけで済んだ。誇るべきだ」
炭治郎は暗い顔をした。
もっと自分に力があればとか思ってんだろうな。
思いつつ俺は地面に落ちた鍔を拾い炭治郎に話しかける。
「俯くな、前を見続けろ。炭治郎、お前が何に対して後ろめたさがあるのかは知らん。そう悩んでいる暇があるなら前を進むことだけを考えろ。人は進もうとしなきゃ成長はしない」
「……獪岳さん」
お前は主人公なのだから。
俺はもう前に進むことができない。
だから、炭治郎には歩み続けてほしい。
「お前は渦中の中心にいる。これから先、鬼舞辻無惨はお前にさらなる強敵を差し向けてくるかもしれない。……だから、俺のことは気にせずに前に進みなさい」
「……はい」
「お前は伸び代がある。炭治郎は俺よりもずっと強くなるさ。だから、証明してくれ……俺が守ったのはこんなにもすごいやつなんだって」
「……はい」
別にこんなこと言わなくても炭治郎は立ち直るだろう。
原作でもそうしてきた。
「……俺、強くなります。獪岳さんみたいに」
「何故俺を?もっと強い人はいる。目指すなら悲鳴嶼さんの方がいいぞ?」
「いえ、獪岳さんは俺の目標です。獪岳さんのようにみんなを守れる隊士になりたいんです」
この子、純粋にこれを言うから反応に困る。少しむず痒い。
ま、ここまで宣言してくれるなら今後の成長に期待だな。
その後、炭治郎は刀鍛冶の里へ向かった。
それから一週間後、俺はお館様に呼ばれていた。
「お館様、御壮健で何よりです。益々のご多幸をお祈り申し上げます」
「ごめんね病み上がりなのに。よく来てくれたね」
「いえ、お館様が望まれるのならいつでも馳せ参じます」
歩けないので車椅子でカナエに押してもらった。
俺はお館様と天音様の三人でいる。
どうも三人だけで話したいとのことでカナエには外で待ってもらい、屋敷の室内にいる。
「話は聞いているよ」
「はい。私の両足を失ったため、前線を退きたいと思います」
「両足のことは残念だったね。生きててくれて本当によかった」
「もったいなき言葉ありがとうございます。これからは育手として鬼殺隊に尽力して行きたいと思います」
「うん、よろしく頼むよ。上弦の鬼と渡り合った君の経験を子供たちに教えてほしい」
「はい」
これからは俺は育手となる。
最後まで原作の役に立ちたい。
このまま何もせずに過ごすのは嫌だ。
「獪岳、君のおかげで鬼舞辻無惨との因縁に終止符を打つための兆しが見えた。鬼殺隊の長としてお礼を言わせて欲しい。ありがとう」
お館様は俺にお礼を言った。
感謝され、戸惑ってしまう。
鬼殺隊に多大な貢献をしたと思う。
可能ならもっと一緒に戦いたかった。
「勿体なきお言葉です」
一言そう返した。
今日この日、俺は鬼殺の育手となった。
その日の帰り道。
お館様の屋敷から俺とカナエはゆっくり帰っていた。
カナエに車椅子を押してもらいながら。
「獪岳さん、お疲れ様でした」
今まで話一つなく帰っていたのだが、カナエが話しかけてくる。
何か話しづらい空気だったので、ありがたい。
「……カナエには色々と迷惑をかけたね」
そう一言返す。
カナエには全面的に支えてもらった。返しきれない恩がある。
「……俺はずっとカナエに支えられて生きてきた。……守られてきたんだなって……引退してから気がついたよ」
引退してから考えるようになった。
今までの自分を振り返るようになった。
遅すぎる気がつき、いつも俺のそばにはカナエがいた。
「遅すぎですよ……そういったことはもっと早く言うべきかと」
「あはは……すまん」
何も言い返せない。
……ここはどう返すべきか。
「……何か俺に出来ることはある?今までの恩返しと言うか……なんでもいうこと聞くよ」
「……なんでも」
「どうした?」
ふと、車椅子が止まる。
思いつきで言ったことだが何かまずかっただろうか?
「……カナエ?」
振り向いて確認すると……カナエの顔は少し赤くなっていた。
どうしたんだよ。
「なんでもって……言いましたよね?……前言撤回とかしませんよね」
「え……まぁ、うん」
カナエはそう確認を入れるように俺に質問してきた。なんだよ、そんなソワソワして。
「私たち……そろそろいいと思うんですよね。お互い引退した身ですし」
「え?……それってどういう……いや、わかった。カナエが望むなら」
俺はそこまで言ってなんとなくでわかった。カナエが望むままに。
「……その……獪岳さんの怪我が完治してからにしましょうか。やっぱり無理して怪我悪化させたくありませんし」
「あ……うん」
蝶屋敷への帰り道、俺とカナエは終始無言でお互い真っ赤だったと思う。
こうして俺は鬼殺隊生活に終止符を打ったのだった。
最後まで読んでくださりありがとうございました。
次回最終回になります。
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↑「実は僕……耳がすごくいいんです」の改訂版になります。小説家になろうにて先行投稿してます。
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