ViVid Strike! バトローグ 作:紅乃 晴@小説アカ
ストライクアーツ。
それは「打撃、組技、寝技を用いた徒手による打ち合い」を主体とし
リングに立ち、相見える選手、そのどちらが強いか。
多彩な強さを証明する格闘技である。
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アリーナに歓声が轟く。
熱狂する観客たちの声にミッドチルダのクラナガンにある総合アリーナが震えているようだった。渦中にあるのはリング。その上では鈍い音を立てながら二人の少女が熾烈な争いを繰り広げていた。
【ここでレヴェントン選手の強烈な膝蹴りが決まったぁーっ!】
実況を務める女性アナウンサーの声が会場に響くと、それに追従するように熱狂の嵐が吹き荒れる。首裏まで手でしっかりと捕まえて放った膝蹴りが、深々と腹筋へと突き刺さる。
固く阻まれる感触に、フーカ・レヴェントンは顔をしかめる。急所には入らなかった。ダメージはあるだろうが、硬い筋肉に守られた場所に打ち込んでも効果は見込めない。
ハッと息を呑む。膝蹴りのために抱えられるほど近づいているのだ。視界の端にとらえた右回りのフック。ギリギリのところでフーカが手を離すと、風切り音と共に訪れた一撃が眼前を掠めていく。
トンっとリングを蹴って距離を取る。目の前には左手を下から抱えるように構えるファイティングスタイルをとった高町ヴィヴィオがいた。鋭い赤と翠の眼光に、フーカは息を吐いて拳を構えた。
(相手はヴィヴィさんじゃ……迂闊に近づけばさっきみたいな電光石火のカウンターが飛んでくる)
クンッと左手がぶれた瞬間、ヴィヴィオが踏み込みと同時にジャブを放ってきた。
すぐさまガードで受けるが、その衝撃はガード越しでも充分にフーカの闘争本能を削り取ってくる。手の甲で炸裂弾が爆発したかと思うほどの衝撃が断続的に襲いかかってくる。こんなものをモロに受ければ意識など容易く刈り取られるだろう。
すぐさま距離をとってリングの端に逃げたくなる情けない思考をフーカは奥歯で噛み殺した。
(ここで前に出られんようじゃ強くはならん!強くなりたい……だから……!!)
断続的な連打。そのタイミングを測ってフーカは意を結した。ヘッドスリップで大きく上半身を揺らして続いていたヴィヴィオのジャブを避ける。青い魔力の炎が宿った拳がヴィヴィオには見えた。
ガァンッ!凄まじい打撃音と一緒にヴィヴィオは大きく後退させられる。ガードは間に合ったものの、その一撃によって今まで有利だった攻撃のリズムが絶たれた。続け様にフーカの連打がくる。このままでは流れがフーカに持っていかれる。
(優勢は渡さない……!!)
そこからは至近距離でのパンチ、キックの応酬だった。超至近距離での技の差し合い。12000あったライフは、互いに3000を切っている。頬を掠める閃光のような拳。ジリジリとポイントを削り取ってゆく。その見応えのある打ち合いにアリーナの観客たちはさらに熱気に包まれた。
【DSAA主催、ミッドチルダ地区でのチャンピオンカーニバルもいよいよ大詰めとなってまいりました!アンダーU15の選手は今年も豊作でしたね!】
実況席にいる女性アナウンサーが解説役であり、DSAA(ディメンジョン・スポーツ・アクティビティ・アソシエイション)の運営メンバーの一人であり、大会解説者へと言葉を投げた。
熱狂に包まれる観客の耳に届いているかは定かではないが、中継されている映像を見ている人には伝わっていることだろう。
【惜しくも敗退したリオ・ウェズリー選手、ミウラ・リナルディ選手もトーナメントでは迫力ある試合を演じてくれました!!】
チャンピオンカーニバル。それは各地区で行われるトップランカーたちによって争うトーナメント大会だ。ウィンターカップや、サマーカップとは違い、このチャンピオンカーニバルは娯楽的な要素が強い。普段は当たらない同ジムのランカーたちが優勝を目指して凌ぎを削り合うのだ。
ミッドチルダ地区では春に行われるチャンピオンカーニバルには、ナカジマジムを筆頭に名のあるジムが参戦。そしてフーカとヴィヴィオが争っているのは大会の準決勝である。
ベスト8で惜しくも敗退したリオとミウラの弔い合戦を制した二人は準決勝で相見えることになったが、二人とも優勝を目指すためにトレーニングを重ねてきたのだ。仲間であろうとリングに立てば関係ない。
リングで相手と向き合った以上、あとは「どちらが強いか」。それを証明するのみである。
【レヴェントン選手は去年は悔しい結果となっています。今年は雪辱をはらすためにトレーニングを積んできたんでしょうね】
フーカ自身も前年度のウィンターカップ決勝戦で敗退している。アインハルトが認めたセンスとフットワーク、そして努力を重ねてきたフーカはさらに成長してヴィヴィオの前に立ちはだかった。
実況席からすぐそこにあるリングでは拮抗が崩れようとしていた。
連打の中で繰り出されたフーカの後ろ回し蹴りをバク転で躱したヴィヴィオは、大きく拳を構えた。大技を放つ準備だと一目見るだけで分かる。
【ここで高町選手も動く!】
ヴィヴィオのライフは残り2000で、対するフーカは1800。ここで勝負をきめにきたのかと、観客や実況席もその展開に大きく沸き上がる。
だがフーカは冷静だった。
後ろ回し蹴りから着地し、すぐにステップインでヴィヴィオへ距離を詰める。ヴィヴィオの大技、アクセルスマッシュは中距離(ミドルレンジ)から放つ。その距離を潰しにかかるフーカだが、突如としてフーカの顔がリングの照明がある天井へとはね上げられた。
【強烈な蹴りがレヴェントン選手の顔を跳ね上げたぁー!これは効いたかぁー!?】
ヴィヴィオの下から放たれた蹴りがフーカの顎を綺麗に捉えた。つま先からのトーキックを受けて攻めに意識を向けていたフーカの体はふわりと宙へと打ち上げられた。
実況席もどよめく中、ヴィヴィオは足先の手応えに歯を食いしばった。その感触は芯を捉えておらず、軽く感じられた。フーカのライフ表記が全てをものがっている。
削れた数値は200程度。
直撃だったら1000は固い威力の蹴りのはずだが、フーカはカチ上げられた姿勢からくるりと後転してリングへと着地すると、何事もなかったかのように拳を構えた。
誘そわれた上で下から蹴り上げたというのに、フーカは咄嗟の判断で上へと体重を逃したのだ。その結果、ヴィヴィオのキックの威力は半減。勢いに身を任せたフーカは軽いダメージでピンチを切り抜けたのだった。
構えるフーカにアリーナが大いに盛り上がる。
なんというセンスの塊か。ヴィヴィオは背筋に冷たいものを感じながら、アインハルトの元で凄まじい成長を遂げるフーカを見据える。
(ヴィヴィさん……笑っておる……あぁ、私も、か)
好敵手。今目の前にいるのは自分の全身全霊。これまで積み重ねてきた努力。与えられた才能という名のギフトを存分に活かしても倒し切れるかわからない相手だ。
そんな相手と、「どちらが強いか」と戦うことへの高揚感。命のやりとりはなく、ルールに則った上で示す力と力のぶつかり合い。これほど楽しい戦いはない。ワクワクする。ドキドキする。そして神経が研ぎ澄まされてゆく。
ヴィヴィオの片足が浮く。そのままステップイン。距離をとったフーカの元へと距離を詰める。途端、鋭くしなやかに振り上げられた左のハイキックが炸裂した。それのインパクトをガードで吸収する。
足による追撃、決まればノックアウトするほどの威力だが止められればその威力と引き換えに大きな隙ができる。
その隙を突く。
足を受けたままフーカは左手のジャブをヴィヴィオの顔面に叩きつけた。
【なんというバランスとタフネス!レヴェントン選手、カウンターを見事に決めました!】
実況の声が響き渡る中で、ひとつ、ふたつ、みっつと鋭く打っては引く拳がヴィヴィオに襲い掛かる。普通なら片足を上げた状態でそんなものを食らえばひとたまりもない。そのまま倒れても不思議じゃないのに、ヴィヴィオは堪えた。
だが顔は痛みに歪み、足がおぼつかない。今にも崩れ落ちそうだ。
(ここだ!!)
ジャブでの牽制は、相手を怯ませる狙い。本命はヴィヴィオが後ろに引いた瞬間だ。右拳を腰に構えて踏み込む。位置はドンピシャ。足の指先から腰へ、腰から上半身全体を巻き込んで肩へ。青い炎に全部を乗せて放つ。
「ハルさん直伝ッ!覇王断空……」
ドンッ。フーカが何が起こったのか気づいた時。それはすでに彼女がリングに腰を落としていた時だった。同時にフーカのライフが0ポイントになったことを示す表記が現れ、試合終了のブザーがアリーナに響き渡った。
【鮮やかなカウンターが決まったぁー!準決勝、勝者は高町ヴィヴィオ選手!!】
試合が終わったことを現実と共にフーカは自分の身に何があったのかを思い出した。絶好の間合いとタイミングで放とうとした覇王断空拳。その強烈な一撃をヴィヴィオは待っていた。全部を拳に乗せて放つ、文字通り一撃必殺の攻撃。そのインパクトをヴィヴィオはカウンターでフーカに返したのだ。
踏み込んでいた体は止まることができず、フーカの攻撃が完了する前に叩き込まれたカウンターの一閃は、一時的に彼女の意識と記憶を根こそぎ刈り取ったのだった。
リング中央に座り込んでいたフーカ。決まると思っていた攻撃。その過程すら狙われていたとは……勝ちを確信していた彼女にとってはあまりにもショックが大きかった。
そんなフーカに、試合が終わったヴィヴィオは手を差し伸ばす。
「強かったですよ、フーカさん」
強者。勝者からの言葉。強かった……なんて言葉は何の価値にもならない。けれど、ヴィヴィオはフーカの努力を見つめてきた。その頑張りに似合った強さをフーカは会得していた。
ただ、その強さよりも、ヴィヴィオが優っていた。ただ、それだけの事実。強さの優劣を決める試合でフーカは確かに敗北したのだから。
悔しい気持ちを押し殺して、フーカは好敵手から仲間に戻ったヴィヴィオの手を握りしめて、立ち上がった。
「えぇ、ヴィヴィさん。けど……次は負けません」
そういったフーカの瞳にはリベンジに燃える光が宿っていた。リングに立つ二人れアリーナにいる観客からの拍手と称賛が降り注いでくる。見応えのある試合だったと誰もが納得できるものだった。
【苛烈な戦いを繰り広げた両選手に拍手が降り注ぎます】
手を振りながらリングを後にするヴィヴィオ。それに続いて、リングに深く礼をしたフーカが去る。これで本日の試合は全て終了した。熱狂が冷めぬアリーナの中で、アナウンスが響く。
【明日は決勝。無敗のチャンピオン、アインハルト・ストラトス選手と、高町ヴィヴィオ選手となります。そのあとは3位決定戦となり……】
フーカがリングから降りて選手の待機室に向かう。通路を少し歩けばアリーナで響いていた歓声が嘘のように聞こえなくなった。
「フーカちゃん」
一人で会長であるノーヴェや、師匠であるアインハルトが待つ部屋に向かっているフーカに、誰かが声をかけた。悔しさに歯を食いしばって俯いてるフーカは、声の聞こえる方へ視線を上げた。
「ナイスファイトだったよ、フーカちゃん」
そこにいたのは同じく、準決勝でアインハルトに敗北したリンネ・ベルリネッタだった。彼女もアインハルトと互角の戦いを繰り広げたのだが、最後は懐に潜り込まれたと同時に放たれた覇王断空拳で意識を失い、KO負けとなった。
リンネの優しい笑顔と一緒に聞いた「ナイスファイト」という言葉。だが、結局負けた。負けてしまった。しかし……敗者に対してかける言葉など、それくらいしかないということをフーカは知っている。
アインハルトに負けて落ち込むリンネにも、フーカはそんな言葉しか掛けられなかったのだから。
「……リンネ」
立ち止まるフーカの背中をリンネは何も言わずに見つめていた。その肩は微かに震えていた。自分の弱さに打ちのめされて、求めた強さの証明に手が届かなくて。
それでも、自分の親友は諦めずに前を向くことを知っている。
「なに?フーカちゃん」
「もっと強くなるぞ……もっと、もっとじゃ」
「……うん、そうだね。フーカちゃん」
「落ち込んでる暇はない。早く帰って……練習じゃ!」
「うん…!」
立ち止まっていた足を前へ。弱さに打ちひしがれて止まってしまえば、自分の求めた強さへの嘘になる。
だから、この悔しさを糧に前に進もう。
フーカの目は、もうすでに前だけを見据えていた。