ViVid Strike! バトローグ   作:紅乃 晴@小説アカ

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第一話 新たなる一歩に向かって

 

チャンピオンカーニバルが終幕して一週間が経った。

 

私が経営するナカジマジムも、随分と有名になったものだと今更ながら思ったりする。ジムがすごいと言うより、所属しているアインハルトやヴィヴィオ、八神家の教えを受けて選手になったミウラ。彼女たちをとりまく環境や、センス、そしてトレーニングに打ち込む努力があってこそだろう。

 

ほんの少し前まで、私がこんな未来を歩むことになるなんて想像すらできなかったはずだが、人生とは何があるのかわからないものだ。

 

チャンピオンカーニバルは、ヴィヴィオと激戦を繰り広げ、辛くも勝利を収めたアインハルトがチャンピオンとなり、トーナメントは終わりを迎えた。

 

雑誌やテレビの取材も落ち着いて、ジムにも大会前のピリピリとしたムードはなくなり、普段通り格闘技のトレーニングに励む日常に戻りつつあった。

 

 

「ラッシュをかけろー!最後まで持つスタミナが大切だぞー」

 

 

私の声に全員が大声で返事をしている。

 

今やっているのは、二人でペアを組み大型のミットシールドを互いに持ち合って拳、蹴りを打ち込む練習だ。

 

アインハルトやヴィヴィオ、リオとコロナが鋭い連打や蹴り技をミットに叩き込んでゆく。その横では、両手にパンチングミットを装着したリンネと、そのミットに打ち込むフーカの姿があった。

 

リンネはフロンティアジム所属ではあるが、突出した才能を持つ彼女について行ける選手も少なく、コーチであるジル・ストーラから相談を受けた私は定期的にナカジマジムへ出稽古に来るよう手配をしていた。

 

バンバンとミットを叩く音が響く。時間はDSAA公式試合と同じく、4分間のラウンドでメンバーが入れ替わり、パンチを主体としたミット打ち、拳や蹴りを全体的に使ったミット打ちを繰り返す。

 

それを5セット。

 

休憩時間は1分も無い中でミット打ちを順繰りに行ってゆくトレーニングは基礎体力の向上はもちろん、体を動かし続ける負担に慣れること、そした柔軟な筋肉を作ってゆくのも目的の一つだ。

 

5セットの内一度訪れるシャドーも重要だ。対戦相手の影をイメージして攻撃を重ねてゆくトレーニングを行うミウラは、随分とシャドーが上手くなっている。今では外から見た私でもミウラがイメージする影を想像できるほど、その影は鮮明に映し出されているように思えた。

 

4分経過のブザーがなり、インターバル中にミットの前へと移動する。今度はフーカがシャドーをする番だ。フーカはまだイメージがおぼつかないのか、首を傾げながらシャドーを続ける。こればっかりは本人の意思やイメージが強く反映されるため、フーガが時間をかけて打ち込んでいくしかないだろう。

 

トレーニング再開のブザーと共にトレーニングルームにはミットに打ち込む鈍い音が響き渡る。

 

 

「よーし、じゃあミット役と交代だ。水分補給も忘れるなよー」

 

 

5セットを乗り越えたヴィヴィオやリオが膝に手をついて息を整える。フーカもかなり堪えたようで、肩で息をしながらマネージャーのユミナ・アンクレイヴから受け取ったスポーツドリンクを飲み干していた。

 

その様子を見ながら私は考える。たしかにチャンピオンカーニバルも終わって、ジムのムードは良くなってはいた。あのトーナメントでそれぞれが自覚したこともあるだろう。

 

次に来るのはウィンターカップの予選。トレーニングは充分だが、選手の練習試合が当面の課題だ。

 

ナカジマジムにいるヴィヴィオやアインハルト。彼女たちは間違いなくワールドチャンピオンを目指せる逸材だ。アインハルトが見つけてきたフーカ。フロンティアジムから出稽古に来ているリンネも前の敗戦から大きく成長している。

 

そんな彼女たちに足りないものは、実践経験。つまり大会に出場する場慣れ。

 

ナカジマジム内でも模擬戦は何度もしているし、夏季休暇では私が懇意にしているルーテシアのトレーニング施設で合宿も行っているが……実戦形式なトレーニングでは大会の場慣れ感を培うには心許ない。

 

とにもかくにも、今のメンバーに必要なのはDSAA公認の大会形式参加することだ。

 

しかし、DSAA公認のトーナメントは冬に行われるウィンターカップと、春先に行われるスプリングカップだ。チャンピオンカーニバルのようなトーナメントもあるが、まだまだ選手人口も足りないので大会や試合に出る回数は制限される。

 

どうしたものか、と考えていると端末に連絡が入ってきた。

 

選手であるヴィヴィオたちに引き続きトレーニングするよう伝えて私は会長室へと向かう。デスクに腰を下ろして通信に出る。そこに映し出されたのは今朝、挨拶をしたばかりの姉と、その相棒だった。

 

 

「やっほー、ノーヴェ」

 

「チャンピオンカーニバル、見たわよ?みんな頑張ってたじゃない」

 

 

開口一番にそう言ったスバル・ナカジマと、彼女の相棒であるティアナ・ランスターだ。

 

二人もヴィヴィオたちが出場していたチャンピオンカーニバルの中継を見ており、ヴィヴィオを下して無敗回数を上乗せしたアインハルトの活躍をお祝いしたばかりだ。

 

そんな二人との世間話はそこそこにして、スバルは以前、私がダメ元で頼んでいたことについて切り出した。

 

 

「前に話していた事だけど、正式に了承してもらえたよ」

 

「ほんとうか!?助かるよ、姉貴」

 

 

スバルのサムズアップに、思わずガッツポーズをした。感謝の言葉を伝えるとスバルはえへん、と大きな胸を張ってドヤ顔で答えた。

 

 

「妹のお願いを叶えるのもお姉ちゃんの役目、だからね!」

 

「アンタは昔の伝で頼み込んだだけでしょ」

 

「ティア〜!ここはお姉ちゃんの顔を立ててよ!」

 

 

相棒からのツッコミに頬を膨らませるスバル。そんなやりとりを見つめながら私は集めていたパンフレットや資料を見つめる。

 

 

(これで土台は整った。あとはあいつら次第か……)

 

 

まだヴィヴィオたちには話はしていないが、一つ間違いなく言えるのは、今年の夏は大いなる躍進につながる。それだけは確かなことだった。

 

 

 

 

 

 

 

「集合!!」

 

 

ミットに拳を打ち込む音が響くトレーニングルーム。全員が集中している中で会長室から戻ってきたノーヴェが声を上げた。

 

 

「フーカさん、行きましょう」

 

「はい!ハルさん!」

 

 

アインハルトは持っていたパンチ用のミットを外した。フーカもグローブやサポーターを外して、軽く水分を取る。

 

他のメンバーもミット打ちや、対人スパーをしていて、ノーヴェの呼びかけに皆もタオルで顔を拭いながら集まった。

 

全員が集まったのを確認してから、彼女は腕を組んで言葉を続けた。

 

 

「今年の夏休みだが、例年通りに合宿を行う予定だ。けど、今回は期間が長い」

 

「期間が長い?どれくらいですか?」

 

「二週間だ」

 

 

その期間の長さに只事ではないと皆がどよめく。ルーテシアのところで合宿をするなら大抵は一週間。それが二週間に伸びるなんて……。そう思っていると、付け加えるようにノーヴェは今回の夏は普段のものとは違うと言った。

 

 

「それに、今回はいつも使わせてもらっているルーテシアのところじゃない」

 

 

ノーヴェは用意した資料を集まった全員へと配ってゆく。どういうことなのか、と全員が資料に目を落とすと真っ先にユミナとヴィヴィオが驚きの声を上げた。

 

 

「アーセナルロッジ!?ここって……」

 

「そうだ、プロの選手が使用するストライクアーツ専門の宿泊施設だ」

 

 

アーセナルロッジ?首を傾げていると、隣いたリンネが少し興奮気味に教えてくれた。

 

アーセナルとはDSAA公認のスポーツメーカー……特にストライクアーツに力を入れている企業だ。自社でプロチームを持っているほどストライクアーツに深く関わっており、自分達が使っているサポーターやミットもアーセナル社のロゴが入っている。

 

ストライクアーツをする選手でアーセナル社を知らない者はいないのだとか。フーカは知らなかったようだが……。

 

そして、アーセナルロッジとはDSAAと共同で建設したストライクアーツに特化した訓練施設なのである。他の競技や、魔法に関するトレーニング施設とは違い、完全なるストライクアーツ専門の施設なので設備がものすごく充実しているのだ。

 

 

「本来なら予約を取るなんて無理だし、アマの選手が利用するのも難しいんだが……」

 

 

ふっふっふっ、とノーヴェは得意げに、全員へアーセナルロッジの使用許諾証を見せた。

 

そこにはナカジマジムの選手のアインハルトたちと、フロンティアジムの選手であるリンネの名が記入されており、その選手らが夏休みの二週間、アーセナルロッジの使用を認めると言う内容であった。

 

 

「今回は特別に夏休みの前半から使用する手筈が整った!もちろん、周りにはプロで活躍する選手もいる。環境も抜群だ。その中で得られるものは多く、学ぶことは多い。私としては、このチャンスをお前たちに活かしてほしいと思う!!」

 

 

ノーヴェの言葉にヴィヴィオたちは歓声を上げた。この時期にするトレーニングは後の試合で絶対に大きな力になる。特にリンネは大いに興奮していた。

 

アーセナルロッジは、DSAA公認の訓練施設であり、そこには無論プロの世界で活躍する選手なども利用しに来るのだ。

 

リンネも施設を使いたいと憧れていたようだが、プロが出入りする施設にアマチュアの選手が入る空きはなく諦めていたようで、今回の話で普段は見せない子供らしさや、はしゃぎっぷりを見せていた。

 

全員の視線を感じて恥ずかしそうに肩を縮めていたが、気を取り直してノーヴェは全員を見渡した。

 

道は示した。道しるべは置いた。

 

この道を進むか、進まないか、活かすも殺すも選手達次第。

 

 

「で、チームナカジマ創設以来の長期夏休み合宿。参加するやつは?」

 

【行きます!!!】

 

 

全員が声を揃えて答える。示した道に全員が迷わず足を向けてくれた。それこそが彼女たちからの信頼の証だった。

 

そう答えたヴィヴィオたちは大いに盛り上がって、トレーニングを再開してゆく。熱も先などよりも高まっていて、リンネは縦にサンドバックを揺らしていた。負けない!と他のメンバーたちもスパーリングやシャドーに打ち込んでゆく。

 

選手たちの様子を見てから、ノーヴェは深く息を吐いて安心したような表情になる。

 

 

「よかったぁ……用事があるって断られたら先方に何て言おうかと思ってた……」

 

「ノーヴェさんって変なところで弱気なんだから」

 

 

となりにいるユミナにそう指摘されるが、こう言ったことは慣れないものだ。

 

もし断られたら色々と動いてくれた姉であるスバルやティアナに頭を下げまくることになったのだが、教え子たちはそんな心配をしなくとも全員、ノーヴェの計らいに応えてくれる。どこか不安だったと言うのは心に留めておこう。

 

 

「けど、どうやってアーセナルロッジの枠を取ったんですか?あそこってかなり倍率高いですし……費用も……」

 

「そこは少し伝があってな」

 

 

そう言ってはぐらかすノーヴェに、ユミナは首を傾げるがとにかく今は夏休みの合宿まで、ジムでできることを続けるだけだ。

 

他のジムとの練習試合や、勉強。やることは山のようにあって、時間は瞬く間のうちに過ぎてゆく。

 

 

 

そして、時期は夏。

 

 

 

 

ヴィヴィオたちの通うStヒルデ魔法学校も、夏休みへと突入したのだった。

 

 

 

 

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