ViVid Strike! バトローグ   作:紅乃 晴@小説アカ

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第三話 アーセナルのコーチ

 

 

 

 

アーセナル・ロッジには中央区画に管理施設と併設してメインアリーナがある。ミッドチルダの首都、クラナガンにある総合アリーナよりも幾分か小さい規模であるが、地方予選程度なら問題なく開催できるほどの収容人数と広さがあった。

 

ノーヴェたちについてきたアインハルトたちもメインアリーナの入る施設へ入り、そのまま管理施設へと向かう。

 

管理施設はアーセナル・ロッジに常駐するスパーリングパートナーや、メディカルスタッフ、トレーナーたちのオフィスがあり、ノーヴェは受付の案内にしたがって一つのオフィスの扉を開けた。

 

 

「久しぶりだな、ノーヴェ」

 

「ケイスも相変わらずだな」

 

 

ジャージ姿でデスクワークをしていた男性が入ってきたノーヴェやアインハルトたちを見渡した。とりあえず全員入室して挨拶をする。彼はデスクから立って全員の前に立った。

 

目の肥えた選手、とくにアインハルトやヴィヴィオは直感で理解した。目の前にいる男性は、相当な実力者であるということを。

 

 

「初めまして、ケイス・テレインだ。今回のロッジの管理とサポーターを任されている」

 

 

ケイス・テレイン。その名前を聞いてリンネとジルが驚いた顔をした。テレインは、アーセナル・ボディーメーカー社の創設者、ウェルソン・テレインと同じ家名だったからだ。

 

単なる同家名なら狼狽えなかったのだが、ケイスは何度かアーセナルの発行する雑誌にも掲載されていた選手でもあり、プロリーグに上がる前の企業チーム「アーセナル」の主将も務めていた実力者だった。

 

 

「テレイン……って、アーセナルの創設一族じゃないですか!?」

 

「俺の親がな。あんまりうれしくはないけど、風呂敷が大きくなっただけだよ」

 

 

テレイン家の出自をケイスは複雑そうな顔で答える。なぜ複雑なのかは、ケイスが魔法使役に必要なリンカーコアを持たなかったからだ。プロリーグは魔法使役も可能になるため、魔法なしのケイスは格闘選手の名家になりつつあるテレインの名で騒がれるのが苦手だった。

 

 

「ちなみにケイスも無魔法のオーディナリークラス(18歳以上の一般クラス)で、三年世界優勝経験者だぞ」

 

「さらっとすごいこと言ってません?」

 

 

無魔法のストライクアーツといっても体術のみでワールドチャンピオンに三年も君臨した強者。なんともないようにいうノーヴェに思わずフーカがツッコミを入れた。

 

アインハルトとリンネは目をギラギラさせてケイスを見つめている。後で手合わせをお願いするんだろうか、とフーカがユミナとヴィヴィオを見たが、二人ともにっこりとした笑顔で「諦めて」と圧で返事をしてくれた。

 

 

「まぁ過去の栄光ってやつだ。引退してるし、仕事も管理局の法務部だし」

 

「え、ケイスさんはここの経営者じゃないんですか?」

 

 

驚くリオに、ケイスはうなずく。彼の本業は時空管理局の法務部だ。次元犯罪者などの処罰を管理し、データとして保管する部門であり、基本的にデスクワーク。出張るといっても犯罪者の裁判や、拘置所での任意調書程度だ。現場に出ることはほとんどない。

 

故に、こうなって夏季休暇もしっかりと取得できる部門でもある。ヴィヴィオの親であるなのはとフェイトは夏季合宿として、教官のヴィータとシグナムと共に、訓練生を扱き倒しているだろう。

 

地獄の夏合宿を味わっているだろう訓練生たちにノーヴェとザフィーラは心の中で合掌するのだった。

 

 

「親に「夏季休暇くらい実家の手伝いをしろ」って言われてな。だからこの時期だけは俺も手伝いをしてるのさ」

 

 

ちなみに手伝いとは言っているが、ケイスのコーチとしてのスキルは一流だった。過去に一人の後輩を指導した結果、地区予選止まりだった彼女をワールドトーナメントのベスト8まで導いた実力を持っている。

 

その話を知る企業チームや、プロチームから指導の依頼がくるが無魔法であることや、すでに引退したことからケイスは断り続けているのだとか。

 

 

「ちなみに会長とケイスさんはどういったご関係で……?」

 

 

フーカの質問にノーヴェとケイスは顔を見合わせる。

 

 

「俺とノーヴェ……というより、俺と彼女の姉がって感じだな。昔、俺が事件に巻き込まれた時にスバル・ナカジマとティアナ・ランスターに助けてもらったのさ」

 

 

過去にケイスは〝ロストロギア級〟の遺失物をめぐる事件に巻き込まれたことがあった。その時に助けてくれたのが、スバルとティアナであり、ケイスがストライクアーツの優勝者であることや、テレイン家の出があったことから、ナカジマジムを運営するノーヴェと知り合ったのだ。

 

今でも魔法なしの撃ち合いならノーヴェやスバルとタイマンを張れるほどの実力を持ってあることから、暇があれば相手をしている。

 

今回のアーセナル・ロッジの予約についてもスバルとティアナがケイスに頼み、実現した話でもあった。

 

 

「さて、おっさんの身の上話しはここまでにしてここに来たということは君たちは強くなりたいということでいいんだよな?」

 

 

ほがらかな笑みを消したケイスの言葉に全員が真剣な表情に切り替わって、大きな声で答えた。

 

 

「アーセナル・ロッジは見てもらった通り広いし、設備は充実してる。トレーニング方法なんて山のようにあるが、それをがむしゃらにすればいいっていうわけじゃねぇ」

 

 

その表情からは僅かな畏怖と圧があった。この場所で何を得るか。それでアインハルトたちがどう成長できるか、可能性が大きく変わってくる。思い出作りだとか、遊びに来たわけじゃない。この場所にきたということは、「強くなる」以外の選択肢など存在しないのだから。

 

 

「この二週間。存分にこの場所を有意義に使え。取れるものは取り尽せ。貪れ。お前たちが強くなるために」

 

【はい!!!】

 

「あー!先に会ってるなんてずるいですよ、先輩!!」

 

 

ピリッとした空気の中で響いた声。全員が扉の方に視線を向けるとトレーニングウェア姿の女性が不満げな顔で立っていた。

 

 

「えっと、ケイスさん……こちらの方は?」

 

「あとで紹介するつもりだったんだが……このアーセナルに所属するコーチだ」

 

「初めまして、皆さん!ルイズ・ロールスロイスです!ここでの皆さんのお世話を任されてます!何か困ったことがあったら遠慮なく言ってくださいね!」

 

 

コーチ?そう不思議そうにするアインハルトたちだが、ルイズは不満げな顔に戻るとズンズンとケイスの元へと大股で向かってゆく。

 

 

「先輩ひどいじゃないですか、ナカジマジムの方が到着したら連絡するって言ってたのに!」

 

「あー、悪かったよ。こっちにも段取りってもんがあるんだよ」

 

「そう言って私のこと雑に扱いすぎてません!?お父さんに言いつけましょうか!?」

 

「それはマジでやめてくんない!?」

 

 

本気で嫌がるケイスに頬を膨らませるルイズ。二人の言い合いを見ながらノーヴェが説明してくれた。

 

二人は先輩後輩であり、ケイスが指導して地区予選止まりだったのがワールドトーナメントのベスト8になった選手がルイズ・ロールスロイスだった。それ以来、ルイズはケイスに頼み込んでコーチとして指導してもらい、今では名コーチとして雑誌にもコラムが載るほどに成長している。

 

言い合いを見られていたことに気づいたのか、ルイズは苦笑いしながら全員に向き直った。

 

 

「お、お見苦しいものをお見せして……あはは。じゃあ皆んなの部屋に案内するからついてきてくださいね!」

 

 

そう言ってメインアリーナ施設から出るアインハルトたち。ルイズを先頭にロッジを目指す中、ヴィヴィオが彼女へ話しかけた。

 

 

「ルイズさんはロッジ専属のコーチなんですか?」

 

「普段は違うけど、夏季休暇の時は先輩……じゃなかった。ケイスさんのお手伝いをしてるの」

 

 

一時期はアーセナルの企業チームでのサブコーチもしていて、今は第6管理世界「アルザス」にあるジムでコーチをしている。ほんわかした雰囲気が特徴的だが、彼女の指導でアルザス地区のワールドチャンピオンも誕生している。コーチとしての手腕はお墨付きだった。

 

 

「相変わらずケイスにベタベタなんだよなぁ、ルイズって」

 

 

そんなルイズにノーヴェがにやにやとした笑みで茶化す。彼女がケイスにベタ惚れなのは二人を知る者たちの周知の事実であり、それでもくっつかない二人をノーヴェはいつも茶化していた。

 

 

「あー、それいう?私に負けたからって腹いせにそれ言っちゃう?」

 

 

二人の出会いはノーヴェが現役だった時。ワールドトーナメンの1回戦でぶつかったのが最初だった。接戦となったが、一瞬の隙をつかれたノーヴェがポイントを削り取られて敗退したのだった。

 

 

「なっぐ……!そっちだって世界大会二戦止まりのくせに!」

 

「ノーヴェ、今行ってはならないことを言ったわねぇ!?」

 

「ちょ、会長〜!こんなとこで構えたらまずいですって!!」

 

 

いうがままにファインディングポーズをとるルイズと応じるノーヴェ。そのまま殴り合いに発展して、慌ててフーカが止めに入った。フーカも大概喧嘩っ早いがノーヴェも普段の凛々しさとは打って変わって、現役時代の子供っぽさが滲み出ているように思えた。

 

妹のイキイキとした姿を見たチンクは全員を連れてルイズから受け取った部屋割り表を見た。

 

 

「さ、皆。部屋割りもわかったので荷物を置いたら着替えるとしようか」

 

「はーい」

 

「誰も止めてくれんのじゃあ!?」

 

 

結局、フーカによる必死の抑えと、ザフィーラの仲裁が入って二人はフーフーと息を荒げながらもバトルを終えたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「今回の合宿にはノーヴェ、ザフィーラに加え、ケイスとルイズがアーセナル側で参加する」

 

 

ロッジに隣接したトレーニング施設で、遅れてやってきたケイスは改めてアインハルトたちを見渡す。全員、私服からトレーニング用のジャージに着替えており、目も真剣そのものだった。

 

 

「アーセナル・ロッジは選手育成の場だ。合宿に来た意味は強くなること。なら新しいエッセンスを外から注ぎ込むのが短期間かつ、効果的に作用する場合が多い」

 

 

アーセナル・ロッジは、リングは計5箇所。それぞれに臨時コーチとサブトレーナーがいて、合宿に来た選手たちをフルでサポートするのが売りの一つでもある。

 

 

「勘違いしてもらいたくないのであえて言うが、ここで俺たちのような部外者が入ることは君たちの指導者の教育や方針を否定しようって言う意味じゃない。ここに来るという以上、君たちの指導者は明確な目的や信念がある。その視点を変えず、別視点から選手の可能性を導き出すのが目的なんだ」

 

 

例えば普段では気づかない選手の癖や、特徴。どこに伸び代があるかは多方面から見なければわからないのだから、それを見つけ、伸ばすのがケイス達、アーセナル側のコーチの役目でもある。

 

 

「というわけで、さっそくだがアップをしてくれ」

 

 

全員、スパーリングの準備だ。

 

 

 

 

 

 

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