ViVid Strike! バトローグ   作:紅乃 晴@小説アカ

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第五話 王者vs王者

 

 

 

怒涛のスパーリングが始まった。

 

 

「リオ・ウェズリーです!よろしくお願いします!!行きます!……轟雷炮!!ヤァアッ!!」

 

 

リオが得意とする古流武道、春光拳。その技とストライクアーツの技を掛け合わせた後ろ回りの飛び蹴り。鋭い回転と矢のような蹴りが飛んでくる技で、これを受けた者は文字通り体がくの字に折れ曲がるほどの衝撃があるのだが……。

 

 

「うわわわわーー!?」

 

 

これもヴィヴィオのアクセルスマッシュと同じく、技単体ではモーションが大きすぎてすぐにミーシャに見破られてしまった。

 

放たれた足蹴りは軸をずらすという最低限の動きで躱された上に足を掴んで思いっきりぶん投げたのだ。

 

自分の蹴りのインパクトと投げられた衝撃でリングロープの向こうに弾き出されたリオに、ミーシャは一括する。

 

 

「攻撃のモーションが丸わかり!次!」

 

 

リングアウトでスパーリング終了となったリオの代わりに今度はコロナが上がる。彼女はオーソドックスな選手であり、魔法なしのルールではヴィヴィオやリオに一歩遅れる点がある。

 

だが、それを押し返すほどの勇気と根性をコロナは獲得していた。

 

ミーシャの手解きを受けながらも倒れることなく前に進み続ける姿に、ミーシャは「フィジカルがついてくれば貴女の努力にきっと答えてくれる。数年後が楽しみよ」と笑顔で声をかけた。

 

ラウンドいっぱいまで手解きを受けて肩で息をするコロナと入れ替わり、今度はミウラが上がった。彼女は八神家で教わった抜剣スキルがある。

 

それを惜しげもなく発揮して打ち込むが。

 

 

「蹴り技にこだわりすぎ!」

 

 

蹴り技主体の攻撃に、カウンターを見事に合わせたミーシャの前にミウラは敗北。ヴィヴィオは決め技の使いどころ、リオは内家拳とストライクアーツの使い分け、コロナはフィジカルの強化、ミウラは足技以外の技の構築と、さまざまな課題が見つかるスパーリングとなっていた。

 

 

「何を迷っているの?」

 

 

そしてフーカのスパーリング。

 

そうミーシャに指摘されてからはボロボロだった。攻勢に出ようとしても後手に回り、攻撃も目に見えて威力が落ちているのがわかる。

 

ミーシャはほんの数打の撃ち合いで、フーカの弱点を見極めていたのだ。

 

彼女の弱さは〝勝負に徹する〟ということ。

 

もともと優しい性格故か、彼女の戦い方は追い込まれて、追い詰められてから本領を発揮する場面が多い。だが、相手が強ければ強いほど、迷いが自分の負けに繋がるリスクも高くなる。

 

そんなフーカの対極にいるのがリンネ・ベルリネッタだった。

 

 

「はぁぁあーーっ!」

 

 

まるで荒々しい暴風雨のようなリンネの剛腕をミーシャは軽やかに捌いてゆく。それもその場から一歩も動くこともせずに。

 

 

「そ、そんな……リンネの攻撃をあんな容易く……」

 

 

同行していたリンネの専属コーチであるジルも流石に驚きを隠せずにいた。

 

リンネはU16クラスでもトップランカーに位置する実力者。

 

U18クラスの王者にどれだけ通用するかという腕試し的な思いもあったが、その感覚は完全に砕かれていた。

 

 

(全然とらえられない……!連打のペースを上げてもついてくる!?)

 

 

顔面付近の上段、胸部から鳩尾にかけての中段、そして下半身を狙った下段。そのどれを撃ち込んでも手で軌道を逸らされる。しかも呼吸が乱れていない。

 

 

「制空圏……」

 

 

その捌きを見て、ザフィーラは過去の戦乱の時の記憶を思い出していた。

 

武道、武術、拳というものはどこで進歩したか?

 

究極的にその根源を辿れば、出自は全て護身や殺人拳など、戦いから身を守る術もしくは戦いの中で生き残る術として大成を果たしてきたものが多い。

 

今の世にあるスポーツ的な武術というもの、活人拳なるものも、戦いの中で洗練された武の研鑽をフィードバックしてきたものが大半である。

 

その戦いの最中、武が進歩の途中であった中で、ザフィーラは一つの技と出会った。

 

「圏」と言う言葉は武道においての〝間合い〟は基礎であり、多くの武術でも名を変えて現れる。

 

人の手が届く範囲、それらは螺旋円、円圏とも呼ばれ、ザフィーラが出会ったのはその間合いである〝圏〟を支配するものであった。

 

 

「ある一定の間合いの中で、自身の間合いである制空圏を構築し、その範囲内に侵入した全ての攻撃を捌く防衛の型だ……。だが、会得するには制空圏の確率と、その範囲内に意識を広める感覚、そして並外れた反射神経が必要になる」

 

 

ザフィーラも会得しようと鍛錬をしたこともあるが、対人戦ではなく、対魔法戦が多かった故か、会得には至らず遠い過去の一つとなっていたが、まさかこの時代でそれを思い出すことになるとは思ってもみなかった。

 

 

「制空圏に気づくとは、お兄さんはお目が高いですねぇ」

 

「あれ、ルイズが教えたのかよ?」

 

「あ、教えたのは私じゃないんですよ。ねぇ、先輩?」

 

 

ニコニコと笑うルイズの視線に、ケイスは気まずそうに目を逸らした。ザフィーラが色々と聞きたそうな目をしていたが、それよりも先にスパーリングの内容が動いた。

 

 

(拳の連打が効かないなら……!)

 

 

制空圏の防御に阻まれ、痺れを切らしたリンネが大きく姿勢を下げてミーシャへタックルを仕掛けたのだ。

 

 

(強引にでも自分の得意な間合いに持ち込む!!)

 

 

足を取ってマウントしてしまえば絶大な防御も無意味だ。しかし、それは相手へのタックルが成功すればの話。リンネがタックルをしたと同時、ミーシャはそのインパクトと共に体を後ろへと倒した。

 

 

(タックルを受け止め切れずに倒れ……)

 

 

その思考の刹那、リンネの体がぐるりと一回転した。視界が上下逆さまになったと思えば、体がリングのロープに叩きつけられた衝撃に包まれたのだ。

 

 

「かーー!タックルに合わせてわざと後ろに倒れて投げ技か、まるで機械だな」

 

 

静と動、剛と柔。近代格闘技であるストライクアーツの「打撃、投げ技、組み技」の全てを使って圧倒するミーシャ。

 

 

圧倒的な技量を誇るU18の王者の前にメンバーたちは完膚なきまでに敗北した。

 

 

「最後、アインハルト!」

 

「お願いします」

 

 

ナカジマジム最後の一人としてリングに上がったのは、覇王流の担い手であり現U16の王者であるアインハルト・ストラトス。

 

覇王流の独特な構えをし、静かに呼吸をするアインハルトの目はギラギラと闘気に燃え上がっているように見えた。

 

〝本気で行きます〟

 

ぞくりと何かが背を撫でる。アインハルトの声がミーシャには聞こえたような気がした。

 

 

「はっ!!」

 

 

一足で踏み込んだアインハルトの掌底。手のひらの硬い部分で叩きつける攻撃は、ガードする間もなくミーシャの鳩尾に叩き込まれた。衝撃と速さ、そして威力に思わずミーシャの顔が歪む。

 

 

(なるほど、これは強いわね)

 

 

咄嗟に距離をとって防御の構えを取る。だが、アインハルトはそれを許さなかった。大ぶりの蹴り技で制空圏を築こうとしたミーシャの間合いを一気に潰す。

 

止まったらいいようにやられる。動け!

 

ミーシャはヴィヴィオとの戦いで見せた軽やかなステップアウトとステップインで体を出し入れし、独特なリズムを刻むアインハルトの覇王流に挑んだ。

 

 

(右側から撃ち込む!!)

 

 

一、ニ、三と連打。蹴りも織り交ぜて機を伺ったミーシャは、攻撃を受けるために大きく左に逸れたアインハルトの隙をついた。右側から最短で、鋭い右のフックを叩き込む……。

 

 

「覇王断空拳!!」

 

 

ミーシャの拳が届く直前、アインハルトの踏み込んだ必殺の一撃が、彼女の左脇腹に深々と突き刺さったのだ。体に伝わる衝撃は、クラッシュエミュレート上で容易くミーシャの脇腹を粉砕したのだ。

 

今まで味わったことない一撃に、たまらずミーシャは膝をついた。

 

 

「うわーーー!!」

 

 

残心の構えをする王者と、リングに膝をついた王者。その光景にヴィヴィオたちの歓声がワッと上がった。

 

誰もが手軽くあしらわれた相手に地をつけさせたのだ。ヴィヴィオやユミナが後ろからアインハルトに抱きついて、凄い凄い!と大きな声で称賛を送っていた。

 

 

「やっぱりアインハルトさん強い!!」

 

「さすかハルさんじゃ!!」

 

 

U16の絶対王者というプライドを押し通したアインハルトは、当然ですと自慢げな笑みを浮かべて全員からの賛辞に応じると、更にみんなの声が大きくなった。

 

が、その時は誰も気づかなかった。アインハルトの少し焦ったような……何かにもがいてるような瞳の揺らめきに。

 

 

「ミーシャ、平気?」

 

 

ナカジマジムのチームメイトに囲まれるアインハルトの側、クラッシュエミュレートを解除して痛みから解放されたミーシャは、コーチであるルイズに声をかけられていた。

 

ふぅ、と擬似痛覚の精神ダメージを息を共に追い出したミーシャは、ヴィヴィオに抱きつかれているアインハルトを見据える。

 

 

「……油断していたわけじゃないわ。正真正銘の強者よ、彼女」

 

 

覇王流というイレギュラー。アインハルトの実践経験と相まったソレは確かに強者に相応しいものだった。

 

これほどまでの敗北は久しい。

 

ルイズからこのスパーリングパートナーを頼まれた時は、「これが自分にとって有意義なものなのか」と疑問に思っていたのだが、とんでもない。ナカジマジムの選手たちは粒揃い。

 

中でも自分に敗北をもたらしたアインハルトは群を抜いている。

 

だからこそ、ミーシャは笑みを浮かべた。

 

 

「けど、もう〝見た〟わ」

 

 

その笑顔には似合わないギラギラと揺れる闘志を宿して。

 

 

 

 

 

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