ViVid Strike! バトローグ 作:紅乃 晴@小説アカ
「どうでした?ウチの選手とやってみて。……まぁ、聞くまでもないって感じですね」
スパーリングが終わり全員がコーチの前で整列する中、ふわふわとした口調のルイズの声が、妙に張り詰めた空気の中で浮いているように思えた。
最初に敗北したヴィヴィオをはじめ、これまで相応に自信を持っていたリンネやフーカたちもどこか打ちのめされたような、焦燥に似た雰囲気である。あはは、と苦笑いするルイズを横に、全体のバランサーを任されたケイスが落ち込むナカジマジムの面々を見渡す。
「このスパーリングをやった目的は二つ。まずはお前たちの実力がどの程度のものかを知ることと、もう一つは浮き彫りなった課題についてどう向き合うかだ」
ただ、設備が整った環境を提供するならアーセナル・ロッジじゃなくてもできるとケイスは断言した。この施設の目的は「訪れた選手を強くする」、その一点に尽きる。
なら最初にやるべきことは選手の〝現状把握〟だ。
強いやつには強いやつをぶつける。それが1番の目的作りにも繋がる上に、得るものも多い。
ケイスはそこで言葉を区切ると、スパーリング後に用意したデータシートをヴィヴィオたちの端末に送った。
今回のスパーリングの結果を見て、最初の一週間で行うトレーニングは二人一組でする。
ヴィヴィオとミウラ。
リオとコロナ。
フーカとリンネ。
組まれた二人はある種の共通点を抱えていた。ヴィヴィオは技の構築と、ミウラは足技以外の技の磨き。リオは古流武道と近代格闘技の使い分けで、コロナは全体的なフィジカルの課題。
そして迷いのあるフーカと迷いのないリンネは互いが互いの欠点を解消するにはもってこいの組み合わせだ。
ただ一人、このメンバーの中で二人組の表に入ってない選手がいた。
「アインハルトは、当面ミーシャと組んでもらう」
ざわりとアインハルトが雰囲気を纏っていた。不満というより、困惑に近い空気だ。表情には出ないものの、その口は一文字につぐまれていて、目にはわずかに焦りのような色が見えていた。
「私は特別メニュー、ということでしょうか?」
自分だけがスパーリング相手に勝ってしまったから?わざと負けておくべきだったかというダメな思考が頭をよぎろうとした途端、ノーヴェに軽く頭を叩かれた。
「勘違いするな。お前はまだ課題を理解できでない。それをまず分かることが重要だ」
自分自身の課題。そんなものいくらでもあるとアインハルトは思った。技に入る時間も理想とはいえないし、足運びや駆け引きの技術は圧倒的にミーシャに劣る。スタミナやエネルギー配分、突き詰めるところはたくさんある。
そう思考を巡らせるアインハルトに、ケイスは少し息をついた。
「おおよそわかっていることと、それを理解するとじゃ認識に雲泥の差がある。それを見つけることが重要なんだ」
余計にアインハルトには意味がわからなかった。ちゃんと認識している。自分の足りない部分はしっかりと。それこそが、認識の〝ズレ〟だと思えないほど真っ直ぐに。
こりゃあ手がかかりそうだと内心で思いながらケイスは手を叩いた。
「じゃあ、クールダウンして今日は解散!」
ミッドチルダ圏内とはいえ、アルトセイム地方までリニアレールで数時間かかる。移動の疲れもあるのでコーチ主体のトレーニングはここまでだった。
チンクやウェンディがまとめたデータシートなどをケイスやノーヴェ、ザフィーラが確認している後ろで、ヴィヴィオたちはさっそく自主練習へと入っていった。
移動の疲れもあるのに元気なものだ。汗を拭ってクールダウンしたミーシャが引き上げの準備をしていると。
「アウトランダーさん!」
いきなりヴィヴィオから声をかけられた。思わず肩を震わせて振り返ると、そこにはヴィヴィオ一人ではなく、コロナやリオ、ミウラもいた。なんだろうか、さっきのスパーリングの不満だろうか。
そうミーシャが警戒していると、その予想斜め上の答えが返ってきた。
「私たち自主練をするんですけど、よかったら一緒にどうですか?」
まさかの自主練習の誘いである。あれほどこっぴどくやられたというのに。やった側からしたら気まずいなんてものじゃない。「私は別に……」、と断ろうかと口を動かした瞬間、ズイッとヴィヴィオがミーシャへと迫った。
「さっきのトリプルクロスってどうやったらできるんですか!?私全然打たれたことに気付きませんでした!!」
「制空圏もカッコよかったです!!」
「あの足運びも是非教えてください!!」
矢継ぎ早に出てくる称賛の声。負けたというのに真っ直ぐ相手の選手を認めた上で、自分より上の技術を学ぼうと向き合う姿勢。そのどれもが、ミーシャにとっては新鮮だった。
プロを目指す以上、後輩やジムメイトにも一目を置かれていたからか……こうやってガツガツ教えを乞いにくる相手なんていなかった。
キラキラと期待を込めて見つめられるヴィヴィオたちの気迫とお願いに負けてか。そういったチヤホヤ感に感化されたのか。ミーシャは後ろでまとめた髪をくるくるといじりながら答えた。
「あ、足運びだけでいいのかしら?」
「わぁー!ぜひ、他にも教えてください!!」
「わははは、U18の王者もヴィヴィオたちにはタジタジってところか」
そのままヴィヴィオたちに取り囲まれてリングへと戻ってゆくミーシャに、ルイズは珍しいものを見るような目をしていて、片付けをしていたノーヴェは面白そうに笑っていた。
「じゃあチンク姉、私たちは準備があるからアイツらが無茶しないように頼んだ」
「あぁ、任せておけ」
コーチ陣は他にもやることがある。ノーヴェたちはロッジへと戻り、自主練の監督はチンクに一任していた。そして、彼女の隣でヴィヴィオたちの自主練を眺めていたウェンディの首根っこをノーヴェは引っつかんだ。
「ウィンディはこっち」
「えぇー!私もヴィヴィオたちの特訓みたいー!!」
「やることは山のようにあるんだから!ほら、さっさと手伝う!!」
ええー、と抗議の声を上げながら引きづられてゆくウェンディに手を振ってチンクは見送った。まぁ主体では動けないが、〝皮むきくらい〟ならできるだろう。
そんなことを考えながら、チンクは若き選手たちの自主練の記録をつけることに集中するのだった。