【本編完結】コントラクト・スプラウト ~ おじさんでしたが実在合法美少女エルフになったので配信者やりながら世界救うことにしました ~   作:縁樹

142 / 539
133【近隣探索】風評の原因?

 

 

「……そうですね。……確かに。集落の方々の中には、それこそが原因であると考える方々も多いでしょう」

 

「あー……じゃあやっぱ印象よくないんだろうなぁ」

 

「……否定はできませんね。……事実、手前も以前は敵愾心を露にされたこともありました」

 

「…………よくそこでめげませんでしたね」

 

「……『契約』履行のためには、集落との交流が必要だと判断しましたので」

 

「あぁ…………」

 

 

 

 ここの地名にも現れているように、かつてこのあたりには『誉滝(ほまれたき)』という滝があったのだという。

 正直いって、規模はそんなに大きくない。岩波川に注ぐ流れのひとつ、その途中にあったのだという誉滝(ほまれたき)だが……その最大の特徴だったのが『岩波川沿いの温泉からその瀑布を眺めることができる』という点だったのだという。

 昼夜を問わず水飛沫と水音を響かせ、訪れる人々を楽しませたという誉滝。その迫力のある音がどこにいても聞こえることから、この地は『滝音谷(たきねだに)』と呼ばれたのだという。

 

 

 ……そんな『滝音谷温泉』の……より厳密にいうと『誉滝』の終焉は、今からおよそ三十年前。誉滝の近くの山肌を切り開き、住宅用地が造成され始めたことに起因する……と、温泉街の人々は考えているらしい。

 土地改良のため地中深くを掘り返され、また地表面が削られ、(なら)され、圧縮され、捏ね回されるに伴い、昼夜を問わず響いていた滝の音は日に日に弱々しくなっていき……ついにはその流れとともに、完全に止んでしまったのだという。

 

 今となっては月に数回、大雨の後なんかに稀に見られる程度。ここに住んでいる人々にとってはそこそこの頻度でお目にかかれるらしいが……最初からそれ目当てで訪れていた観光客にとっては、そうはいかない。

 温泉に浸かりながら瀑布の音と眺望を楽しみたかった観光客にとって……たまにしか見れない、しかも雨天の後でないと拝めない、しかも確実に滝となるかは解らないとあっては、その魅力も褪せてしまう。

 

 誉滝が姿を消して以降は……後を追うように、観光客の姿も消えていってしまったのだという。

 

 

 

「…………ここに住んで……石とか、投げられない?」

 

「……手前はこれでも、粘り強く交流を試みてきたつもりですので。……手前がこの物件の保守管理要員ということは、集落の方々全員の知るところです。頭ごなしに(なじ)られることは無いでしょう」

 

「…………テグリさん、まじぱねぇっす……」

 

 

 観光地としての目玉を奪われたとあっては……観光産業に従事しているこの町の人々にとって、別荘地『フォールタウン』はさぞや憎いものだったことだろう。

 直接的な加害者ではなかったにしろ、あの場に居を構えた者に対する風当たりが強くなってしまっても、それはある意味仕方の無いことなのかもしれない。

 

 そんな逆風も逆風、完全アウェーの中で、二十五年間地道に信頼関係を築き上げてきたというのだ。

 やはりこのメイドさん、半端無いって。

 

 

「……でもさ、雨の後とかにはたまに流れるんだよね? 誉滝(ほまれたき)

 

「……そうですね。……推測の域を出ませんが、完全に滝が死んだわけでは無いのだと思います。この山に滝の水源が存在する以上は、流れていた水が全て消えるとは考えづらいかと」

 

「…………滝まで届かずどっか途中で流れが変わって、雨のあと増水したりするとそこから溢れてくる……みたいな?」

 

「……ええ。確認したことがありませんので、あくまで推測になりますが」

 

「そ、そうなんだ……そんなに険しい山の中、とか?」

 

「……いえ。契約の履行そのものには関係が無いと判断しましたので」

 

「あ、あぁ……なるほど……」

 

 

 

 誉滝(ほまれたき)として流れていた水の流れが完全に消えてしまったのではなく、どこか別の方向へ流れるように変わってしまった説。

 そもそもの水源――この山の地下に蓄えられた地下水――が消滅するなどありえないので、その水はどこかに存在するはずなのだ。

 

 別荘地の造成工事でその流れが変わり、滝へ向かうはずだった水が別のところへ流れていってしまった。

 しかし滝方向へのルート……というか、水は無いが川部分は健在なので、大雨の後とかには水がそこを伝ってくる。……とか。

 

 

 

「……では……見に行ってみますか? 誉滝(ほまれたき)へ」

 

「んー…………そう、だね。せっかくだし。霧衣(きりえ)ちゃんは大丈夫? 疲れてない?」

 

「はいっ! 問題ございません! これでも神使依代に連なる系譜でございまするゆえ!」

 

「じゃあ……ちょっと寄り道。()()()して帰ろっか」

 

 

 

 まぁ、なんにせよ推測である点には変わりない。全然見当違いな考察である可能性だって、充分にあるのだ。

 

 ……だが、しかし。仮にこの仮定が正しかったのならば。

 そのときは……もしかしたらだけど、おれでも何とかできるかもしれない。

 

 まあ()()を行う際には、まずはリョウエイさん達有識者に相談した方が良いだろうけど。

 

 

 とにかく、現地を見てみよう。詳しく調べればもっとスマートで有効な解決策も浮かぶかもしれない。

 おれたちは誉滝(ほまれたき)の現状を確認すべく、テグリさんより道案内を受けることとなった。

 

 

 休憩中のモリアキにもREIN(メッセージ)入れたし……ちょっとした森林浴とトレッキング、ということにしておこう。気分転換気分転換。

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。