【本編完結】コントラクト・スプラウト ~ おじさんでしたが実在合法美少女エルフになったので配信者やりながら世界救うことにしました ~   作:縁樹

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167【披露配信】序列わからせ戦・序

 

 

 わが『のわめでぃあ』の新人れぽーたー、和装いぬみみ娘の霧衣(きりえ)ちゃん。彼女の特技として挙げられるのは、和服の着付けや家事全般。

 お洋服や洋食はまだちょっと未経験だが、こと和の領域のものであれば問題ない。伊達に長年修行してはいないってことだろう。

 

 しかしながら、彼女を主軸に添えて番組を組んでいく場合……そのあたりをメインとして推すには、少々決め手に欠ける。

 和食のお料理番組……とかなら一定の需要は期待できるだろうが、それこそテレビには偉大な先達がおわせられる世界なのだ。某上沼先生とか某平野先生とか。

 彼女ならではの『特徴的な強み』は何があるのか、映像コンテンツとして視聴者さんに楽しんでもらえるものは何があるだろうか。

 

 ライブ配信での交流企画といったら、よく挙げられるのが『遊戯(ゲーム)を通しての交流』だろう。乱闘ゲームだったりレースゲームだったりパーティーゲームだったりと様々だが、どれも白熱した盛り上がりを見せる定番のコンテンツだ。

 しかしながら……おしとやかで可憐で大人しくて控えめな彼女は、残念ながらこれまでコンピューターゲームの(たぐい)に触れたことが無かったらしい。

 そこはおいおいじっくりしっぽり教えさせてもらうとして……じゃあ今回の配信はどうしようか、無難にみんなでおうたでも歌ってお茶を濁そうか。

 ……そんな折、ほかでもない霧衣(きりえ)ちゃん本人の口から、耳を疑う言葉が飛び出てきたのだ。

 

 

「遊戯でしたら……わたくし僭越ながら、鶴城(つるぎ)の宮で五指に入れる種目(もの)がございまする」

 

「エッ!? すごい! ……えっ? でも遊戯って……その、五指に入れる種目(もの)って、なに?」

 

「ふふっ。……()()にございまする」

 

 

 そういって、どこか得意気に胸を張る霧衣(きりえ)ちゃんがお部屋から持ち出して見せたのは……しっかりとした厚紙で作られた箱。

 なるほど()()であれば、ライブ配信で取り上げても映えるかもしれない。日本人なら多くの人が知っていて、それでいて配信者の間で競合はほとんど見られない。おまけに()()は、海外でじわじわ人気が出てきていると聞いたことがある気がする。

 

 

 

 

 

 

 ……とまあ、そんな経緯がありまして。

 本日の霧衣(きりえ)ちゃんお披露目配信では、おれと彼女で()()をやってみようということになったのだ。

 

 

 

「っというわけで、霧衣(きりえ)ちゃんの得意なゲームで遊びます! 霧衣(きりえ)ちゃん、()()はいったい何ですか?」

 

「こちらは、ですね……骨牌(かるた)札、皆様御存知『小倉百人一首』にございまする」

 

「いやぁ、もう……ね? わかるでしょ視聴者の皆さん。こんな可愛い子が(ふる)き良き日本文化を愛してくれてるんですよ……尊い……霧衣(きりえ)ちゃんまじ尊い……」

 

「わ、若芽様……?」

 

 

『尊い』『めっちゃ渋い趣味』『すげえ粋なお嬢さんじゃねえか……』『やまとなでしこ尊い』『容姿だけじゃなく中身も純和風』『ジャパニーズカードゲームOK』『超高純度の和服美少女いいぞ……』『和服似合う美少女すこ』『なかなか見る機会無いからなぁ』

 

 

 最近流行りのネット対戦形式ではない、非電源ゲームと括られるこのジャンル……視聴者さんに不評だったらどうしようかとも思っていたけど、どうやらその心配は杞憂だったらしい。

 おれの日頃の行いが良かったからか、はたまた霧衣(きりえ)ちゃんの正統派和服美少女っぷりが好意的に受け取られたからか(まぁ多分こっちだろう)。ともあれ霧衣(きりえ)ちゃんを交えての百人一首対決は、視聴者さんにも楽しんでもらえそうだ。

 

 

「それじゃ、さっそく準備に移りましょう。ちょっとカメラ動かしますね。……霧衣(きりえ)ちゃん札の準備お願いします。ラニは霧衣(きりえ)ちゃんと札を分けてって」

 

「承知いたしました。……ときに、若芽様」

 

「……こんなんで角度だいじょぶかな。どしたの? 霧衣(きりえ)ちゃん」

 

()()()……如何程(いかほど)お付けいたしましょう?」

 

 

 

 ……ほほう。ほうほうほう。()()()、とな。

 つまりはこの娘っこは……この局長である叡知のエルフわかめちゃんさまに向かって、さも当然のように『ハンデはどれくらい要りますか』などと言ってのけたわけだ。

 

 カメラの配置を終えたおれは、おれの中で渦巻く思いを圧し殺すように、ゆっくりと振り返る。

 字札をおそらく五十枚ずつに分け終えたのだろう……画面右側と左側、同じ高さに揃えられた束を並べ、全く邪気の無い笑顔を向ける霧衣(きりえ)ちゃん。

 

 

「ふふふ…………霧衣(きりえ)ちゃん」

 

「は、はいっ」

 

 

 ……なるほど。いい度胸だ。

 鶴城(つるぎ)神宮で五位に入る実力だ、と本人は言っていたが……ここはひとつ、実力の差というものを理解して貰わないといけないみたいだ。

 

 

 

 

 

「……………………七対三で……お願いします」

 

「はいっ。承知いたしました」

 

「ウーーーン……このヘタレっぷりよ」

 

「だってたぶん勝ち目無いもん!!!」

 

 

『ハンデ貰うんだwwwww』『もらうの!?』『あっさりと力不足を認めるスタイル』『『もん』じゃないんだよ』『六四じゃないんだ……七三っておま……』『よわよわのわちゃん……』『これオチが見えたわ』『のわのわよわちゃん』『よわちゃん』『霧衣(きりえ)ちゃん良い子……』『よわめでぃあだったか……』

 

 

 コメント欄にフルボッコにされてるけど……おれはこの選択を後悔していない!

 だってこうでもしないと『どっちが勝つか』のハラハラドキドキ感を、視聴者さんに味わってもらうことが出来ないからだ!

 

 だから……おれはこの『よわよわ』の(そし)りを、甘んじて受ける覚悟だ。すべては視聴者の皆さんに楽しんでもらうためなのだ。

 

 

 だから……おれはべつに、おこってない。

 おこってないけど、それはそうと視聴者の皆様。いつかおぼえてろよチクショウめ。

 

 

 


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