【本編完結】コントラクト・スプラウト ~ おじさんでしたが実在合法美少女エルフになったので配信者やりながら世界救うことにしました ~   作:縁樹

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185【共演依頼】心の霧は払われた

 

 

 当事者間のミーティングによって、『にじキャラ』所属配信者(キャスター)とのコラボ配信の流れと日程は無事に決定した。

 気になるその日程は……来週の土曜、よる二十一時から。見事なゴールデンタイムである。

 

 詳細は今後随時、チャットで連絡を取りながら詰めていくらしく……とりあえずスケジュールは決定ということなので、現段階をもって晴れて『告知解禁』となった。

 

 つまりは……今夜の配信にて、大手を振ってお知らせできるのだ。

 

 

 

 

『重ねて申し訳ないのですが……此方(こちら)でも告知や サムネイル等に使用させて頂きたいので、お二方の『立ち絵』もしくは『バストアップ』画像提供にご協力頂けますでしょうか』

 

「あっ、承知しました。少々お待ち下さい。えーっとですね…………んー……棒立ちのやつの方がいいですか? ポーズとか取ってると使いづらいですかね」

 

『そうですね……あまり大きな動きの無い画像で、告知に適した表情のものがあれば』

 

「えーと立ち絵立ち絵……とりあえず自分とラニと何パターンか.zipで纏めてお送りしますので、すみませんが使えそうなやつ選別お願いします」

 

『承知しました。ありがとうございます』

 

 

 

 サムネイルの『素材』としてストックしてあったバストアップ画像から幾つか選び、圧縮して八代(やしろ)さんへと送信する。発信力のある『にじキャラ』さんが告知を手伝ってくれるというのなら大変心強いし、ありがたい。

 

 うにさんやミルクさん個人もさることながら……彼女らの所属事務所『にじキャラ』の看板は、それ以上の()()()を視聴者へともたらしているのだ。

 

 

 

『それでは、本日の打ち合わせ内容としては以上となりますが……『のわめでぃあ』様の方で、何か確認しておきたいこと等はございますか?』

 

「あっ、それじゃ一点。……あの、お誘いいただいた身の上でおこがましいのですが…………あの……まずわたしは個人勢の一年生、加えてまだコラボの実績もなく、しかも仮想(アンリアル)の皮を被ろうとした実在配信者(ユーキャスター)という複雑な立場でして……」

 

『ええ、存じております』

 

「恐縮です。……それでですね、わたしなんかとコラボすること……『にじキャラ』さんとしては、そのへん大丈夫だったのかな、って……話題性なんかも貢献できるとは思えませんし」

 

『? …………あぁ、そういうことですか』

 

 

 

 今回のコラボに関しては、村崎うにさんからの要望で実現して貰ったのだという。そこは解ったのだが……だがおれは同じ事務所の仲間ではなく、あるいは別の事務所の人気どころでもなく、話題沸騰中の個人勢というわけでもないのだ。

 おれが享受する恩恵に対して……正直いって、事務所としての『にじキャラ』が得るものが、あまりにも少ない気がする。

 

 ここでおれがもし話題性の高い配信者(キャスター)だったら、先方にもメリットはあるのだろうが……弱小個人配信者(キャスター)とコラボするにあたって、いわゆる『待った』のような声は上がらなかったのだろうか。

 『あの子と遊んじゃいけません!』じゃないけど……そんな感じのニュアンスの声は、運営側から掛からなかったのだろうか。

 

 

 

『うちはなぁ……結構のびのびやらせて(もろ)てるからなぁ』

 

『……そうですね。けっこう奔放ですよ、『にじキャラ』って』

 

 

 二人の配信者(キャスター)から返ってきた声は、とても『言わされている』ような感覚は無く……運営元である『にじキャラ』社に対する確かな信頼と、大きな安心感が伝わってくるようで。

 事実、二人よりも運営サイドに近しい立場の八代(やしろ)さんからも、安心とも苦笑とも取れる笑い声が溢れる。

 

 

『コラボに関しては、完全に配信者(キャスター)各位の自主性に任せています。もちろん我々側から『この子とコラボしてほしい』と持ち掛けることもありますけど……逆に配信者(キャスター)個人が『やりたい』と言ったことを咎めることは、そうそう無いですね』

 

『あたしも『ユアライブ』の子とよく絡んどるしなぁ』

 

『……生身の動画配信者(ユーキャスター)さんと共演してる先輩も居ますし……自称活動家の少年とコラボした例もありますので』

 

「お……おぉ……」

 

 

 おおらかというか何というか……どうやらおれの心配は、全くもって杞憂だったらしい。

 大御所ならではの余裕、などと斜に構えて受け取ることも出来てしまうだろうけど……余裕のある大御所だからこそ、できることもあるのだろう。

 

 

 

『何にせよ、配信者(キャスター)達には()()()()と活動して欲しいと考えています。彼ら彼女らの楽しそうな姿を見せることで、視聴者さん達は安心して付いてきてくれますし……そうであることが『にじキャラ』全体としてのプラスであると考えます。配信者(キャスター)達の要望に対しては、取れそうな手段は全て検討する。我々マネージャーはそのための努力は惜しまない。……そういう変わり者の集まりですので』

 

『いつもお世話になってまぁーす』

 

『私たちの……自慢の運営さんです』

 

「……すごい、ですね。……ありがとうございます。本当に」

 

 

 

 ……今までのおれは、勝手に一線を引いて引き籠っていただけなのだろう。仮想(アンリアル)生身(リアル)のコラボなんて不可能だと勝手に決めきって、可能性を探ることさえ諦めていた。

 

 落ち着いて考えてみれば、不可能な理由なんて全く無い。なにも『どつき漫才』や『組体操』をやれと言われたわけじゃないのだ。

 手を握れなくても、身体に触れられなくても……場を共有することは出来る。共に並び立つことは出来る。

 

 そう教えてもらえただけでも、今日『にじキャラ』社の方々とお話しできて良かった。

 

 

 

「……今からもう、とても楽しみになってきました。……改めて、宜しくお願いします」

 

『ええ。こちらからも、重ねて。今後とも宜しくお願い致します』

 

『じゃあノワちゃん! さっそく練習しよっか!』

 

「ふぁぁ!?」

 

『ミルもええよな? この後ひまやろ?』

 

『ふぁぁ!?』

 

「あー……この二人なんか波長合いそう」

 

『そうやろー。あたしもそう思っとった』

 

 

 

 ま、まぁ……今日の配信は夜だし、夕方から準備すれば間に合うだろうし……二時間か三時間くらいなら大丈夫か。

 単純におれがゲームを練習するためにも、またコラボ相手であるお二方との交流を深めるためにも、今回はご相伴にあずかるとしよう。

 

 新しい可能性を広げてくれた、ほかでもない恩人のお誘いだ。無下に断っては男が(すた)るというものだ。

 

 

 男が(すた)るというものだ!!

 

 

 

 男が!!!!!(念押し)

 

 

 


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