【本編完結】コントラクト・スプラウト ~ おじさんでしたが実在合法美少女エルフになったので配信者やりながら世界救うことにしました ~   作:縁樹

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198【日曜某日】魔法的土木作業

 

 

「…………範囲指定。深度指定。魔法規模調整。……よし。【領地(シューレス)掌握(コンダクト)】!」

 

「おぉ、きれいきれい。……やっぱ丁寧だね、ノワの魔法」

 

「……御見逸(おみそ)れしました、御屋形様」

 

 

 前方地面に流し込んだおれの魔力を起点として、大地に類する魔法が発動する。

 掌握した地面を意のままに操る【領地(シューレス)掌握(コンダクト)】によって、幅八メートル・奥行き六メートルに渡り地面が浅く掘り下げられる。

 

 

「ラニおねがい。まずは『ガラ』を半分……いや、とりあえず四分の一くらいかな?」

 

「おっけー。穴の中に出せばいいんだよね。我は紡ぐ(メイプライグス)蔵守(ラーガホルター)】」

 

「うぉ! ……うん、いったんこれで転圧しよう。【加圧(グヴェルクラフ)】」

 

「おーすごいすごい。……はぁ、ボクも穴の中に出したかったなぁ、夜とか(ちらっ)」

 

「聞かなかったことにするね!!!!」

 

 

 掘り下げた地面の底面に、粗く砕いた廃コンクリートのガラを敷き詰め、魔法でまんべんなく【加圧】して踏み固める。

 そこへもう一度ガラを砕いて敷き詰めてもらい、再び魔法を使って充分に【加圧】。……これで基礎を打つための下準備が整った。

 

 

「……大の大人が数人掛かりで、相応の機材を用いて数日掛ける行程なのですが……」

 

「まぁ……魔法ですから。反則(チート)使いまくってるので、そりゃ早いですよ」

 

「ねぇノワ、次は?」

 

「えーっと……じゃあ鉄筋メッシュお願い。端からちょっとだけ空けて、あとは敷き詰める感じで」

 

「ほいほい!」

 

 

 テグリさんがボソリと呟いたように……人手も工期も機材さえも大幅に省略して、非常識な速度で基礎工事は進んでいく。身体強化魔法を施したおれはもとより、テグリさんの速度と精度はかなりのものなのだが……自由自在に宙を駆けるラニの【義肢(プロティーサ)】は、テグリさんに勝るとも劣らない働きを見せた。

 あっという間に格子状に組まれた鉄筋メッシュが敷き詰められ、ワイヤーで結ばれ固定されていく。上部構造との『つなぎ』になる異形鉄筋アンカーもまっすぐ必要な場所に立てたので、あとはここにコンクリートを流し込めばいい。

 

 ……というわけで、再びおれの出番だ。

 

 

「ラニ、つぎお願い。えっと……セメントと砂利と硬化剤と、あと細かいガラ」

 

「おっけー準備できた。……そっちは?」

 

「ちょっと待ってね。……範囲指定。容量指定。重力値設定。……【空間(キュリーア)掌握(コンダクト)】。いいよラニ、()()()に投げ込んじゃって!」

 

「わかった、いくよ! 我は紡ぐ(メイプライグス)……【蔵守(ラーガホルター)】!」

 

「んん、ッ! ……よっし、(とら)え……ン、グぅッ!? (おも)ぉ……っ! お、おも……んぎぎぎ……みず、みず……【流水(ヴァルサー)】! ……あと、そして……【旋渦(ヴォルティーク)】!! うおおおお耐えろおれ! 耐えろおれ!!」

 

「ま……まじでやりやがった! 無茶苦茶だよノワ……!!」

 

「……概算ですが……恐らくは、三十t(トン)は在ろうかと」

 

「うおおおおお! おれ今めっちゃ魔法使い! めっちゃ魔法使ってるおれ!」

 

 

 空中のいち領域を支配下におき、そこへ投じられた部材……セメント粉と砂利と硬化剤とガラの重力数値を書き換え、更にそこへ必要分の【流水(ヴァルサー)】を加え、仕上げに【旋渦(ヴォルティーク)】でよーくかき混ぜる。

 一般の人が目撃すれば、もちろん何事かと思われるであろう。物々しい騒音を撒き散らしながら空中に浮かぶ、重い灰色の大きな渦。……とても異様な光景である。

 

 灰色の泥をかき混ぜ、おれが一体なにをやっているかというと……ずばり、コンクリートを作ろうとしている。

 専用の攪拌ミキサーなんて用意して無いので、おれの有り余る魔力と魔法知識にモノを言わせて、いろんな魔法を駆使してあの手この手で再現しようとしているところなのだが……正直びっくりなことに、何とかなってしまいそうだ。

 まあ……材料と分量さえ合っていれば、あとは混ぜて流して固めるだけだし。

 

 

 というわけで。よーく混ざった自家製コンクリートを丁寧に、先程鉄筋メッシュとアンカーボルトを設置した地面へと流していく。

 同時に魔法で微振動を加え、気泡を吐き出させることも忘れない。あらかた気泡が抜けたら低出力の【加圧(グヴェルクラフ)】を駆使して表面に軽く圧力をかけ、排水勾配を意識しながらしっかりと(なら)していく。

 

 しかし……()()()。作ったコンクリートの分量が少し多かったのだろうか。一番最初に整地して、【領地(シューレス)掌握(コンダクト)】で掘り下げた分を埋め戻してなお、混成した自家製コンクリートには余りがある。

 とはいえ()()の用途を考えると……段差さえなければある程度追加で()()()おいても大丈夫だろう。むしろ高さを稼いでおいたほうが、雨水の流入を防げるかもしれない。……よし。盛ろう。盛った。(なら)した。

 

 

 

「…………一日、いえ……ほんの数刻で、基礎コンクリート打設まで終えてしまうとは……手前の常識が覆されそうです」

 

「まぁノワは常識はずれだからね。テグリちゃんの感想が正しいよ。気を強くもって」

 

「べんり反則(チート)技の申し子であるラニちゃんに言われたか無いよ。……ところでラニ、ラニの【蔵】って時間経過止められるの? 生コン仕舞ってもらってもいい……?」

 

「『ナマコン』ってその……石になるっていう、泥? ……まぁ時間は経過しないから、大丈夫だけど」

 

「まじで……うわ最高。これ建築業界の革命だよどう考えても」

 

「ボクはノワ専用だからね。エッチクギョーカイのことは知らないなぁ」

 

 

 コンクリートは日干しレンガなんかとは異なり、化学反応で硬化が進む。たとえ雨に降られても水に浸かっても、反応が進む時間さえ経過すればカッチコチに固まってしまうのだ。

 つまり、コンクリートを生コンのまま保存することは不可能、ふつうはコンクリート打設のたびに生コンを練る必要があるのだが……われらが万能美少女アシスタント妖精さんはなんと、格納物の時間経過――つまりは生コンの硬化――を停止させることができるという。

 

 コンクリートを打ちたくなったら、ラニに【蔵】から生コンを取り出してもらい、拡げるだけ。規模にもよるが、ほんの数分で打ち終わってしまう。やばすぎるな!

 

 

 

「まぁ、とりあえず……これで基礎工事は完了ですね!」

 

「イェーイおつかれ! ……つづきは硬化待ちかぁ。早く固まるといいね」

 

「……一昼夜である程度は硬化しますが、車両乗り入れとなると……この季節であれば、二週間程度は見ておきたいところでしょうか」

 

「むー……仕方ない、しばらくは露天駐車だね。……停める場所ならいくらでもあるし」

 

「納車は……火曜日っていってたっけ? あさって?」

 

「うん、十一時。場所変更してもらって、モリアキの駐車場借りることにした」

 

「まぁそっか、『ミナミク』のおうち目の前ふつうに道路だもんね。……たのしみ?」

 

「めっっっちゃたのしみ!!」

 

 

 バンコン車両を収めるガレージを作っておきたかったのだが……出来ないものは仕方ない。

 コンクリートの硬化が間に合わない以上はどうしようもないので……続きの作業はおよそ二週間後、基礎をガッチリ硬化させてから進めていくことにする。

 

 というわけでガレージ作戦、本日の作業はここまで。

 時間的にもそろそろお昼なので……今日のところは、これくらいで勘弁してあげようじゃないか!!

 

 


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