【本編完結】コントラクト・スプラウト ~ おじさんでしたが実在合法美少女エルフになったので配信者やりながら世界救うことにしました ~   作:縁樹

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215【祝日騒乱】ただでは起きない

 

 特定人物に対して(まじな)いを行使するにあたり、髪の毛というものは非常に効果的な媒介となってくれる。……らしい。

 

 言われてみれば確かに、この日本において『(のろ)い』と聞いて真っ先に思い浮かぶ『丑の刻参り』。あれは五寸釘で打ち付ける藁人形に、(のろ)いたい相手の毛髪を入れ込むことで、藁人形を被術者の形代に仕立て上げている。……とかいう話を以前どこかで聞いたような気がする。

 

 

「つまりこの髪の毛さえあれば、あの子……『すてらちゃん』っていうらしいんだけど、その子の所在地を掴めるようになる……かも」

 

「おぉ…………かも?」

 

「なにせ、術の構成はこれからだからね。上手く行くかは解らない。……でもまぁ、しばらくは危ない行動控えてくれると思うよ」

 

「…………あんだけ噂になっちゃってるんだもんね」

 

「そうだね。この世界は情報の伝播がとにかく速い。人目につくと宜しくないのは、あの子達だって同じだろう」

 

 

 他ならぬおれ自身が色々と苦労しているのだ。あの子達がおれと同様に『異能』を会得していたとしても、そう大っぴらにそれを行使することはできないだろう。

 いつ、どこに、どんな形で目撃者の『目』があるか……そしてそれがどんな早さで拡散していくのか。あの子は身をもって実感したハズだ。

 

 

 

『―――こちら、視聴者から寄せられた画像です。住宅街の緑地公園にて、突如巻き上がった巨大な『落ち葉の渦』と……それを巡って対峙する二つの人影。白い鎧のようなもので全身を包んだ大柄な人物と、もう一人……小さな女の子のような人物の後ろ姿が、画像にははっきりと写し出されています』

 

『漫画やアニメじじゃあるまいし……こんな馬鹿げたことが実際に起きるだなんて、にわかには考えづらいですがねぇ? ……こないだから世間を騒がせてる『魔法使い』のしわざでしょうけど、私ら市民にとってはいい迷惑ですよ。警察はホントなぁ~にをやってるんだって感じしちゃうんですが、どうですか池下さん』

 

 

「コイツほんっと喋り方むっかつくなぁ!」

 

「どうどうラニどうどう」

 

 

 おおっぴらに行動すると、このように悪目立ちしてしまう恐れがある。

 彼女たちの……『魔王』メイルスの狙いは不明だが、自分たちが異能者集団であると露見するのは、さすがに避けようとするだろう。

 

 これに懲りて行動頻度を下げて、大人しくしていてくれれば良いんだけど。

 

 

「……とにかく、セイセツさんたちに協力を仰いで、この『髪』をどうにか役立てる手段がないか探ってみる」

 

「あとは……その『つくしちゃん』っていう、食いしんぼちゃんね。……まともに当たるのは危険なんでしょ?」

 

「そうだね……効率最優先で考えるなら、あの『隠れ家』ごと広域殲滅魔法で灼き尽くせば片付くんだけど……正直、考えたくないかな」

 

「それがどれだけの人を絶望に追いやるか、わかったもんじゃないもんね」

 

「そゆこと。……この世界、この国は……人死にに対する免疫が無さすぎる」

 

 

 

 最後の手段は、あくまでも最後の手段。それの使用を前提として作戦を立てるわけにはいかない。

 ほんの僅かな間だが、この世界について理解を深めてくれたラニの配慮をありがたく思いながら……作戦や技術的な部分は頼れる相棒に任せ、おれはおれのやるべきことに集中する。

 

 

 あまりにもいろんなことがあって、危うく流れてしまいそうになったが……このあと二十一時からは、たのしいたのしいライブ配信が始まるのだ。

 

 

 

 

 

「きりえちゃんお待たせ。ルール見れた?」

 

「わっ、若芽様! お疲れさまでございます」

 

 

 スタジオルームの扉を開き、にっこり笑顔の霧衣(きりえ)ちゃんに出迎えられる。相変わらずの彼女の笑顔に心がぽかぽかしながらも、その様子から『予習』は良い感じなのだろうと胸を撫で下ろす。

 ラニとの打ち合わせを行っている間、霧衣(きりえ)ちゃんには申し訳ないが、今夜やる予定の演目について少々『予習』してもらっていたのだ。少々の不安こそあったが、賢明な彼女はおれの期待通りにばっちりとルールを会得してくれていたようだ。

 

 

「その様子だと……大丈夫そう? ちょっとほったらかしにしちゃって、ごめんね」

 

「いえ、お気になさいませぬよう。わたくしもお勉強、がんばりましてございまする」

 

「良い子だね、きりえちゃん。ゲームの進め方と基本ルールさえ覚えとけば、あとはやりながら身に付けてく感じで大丈夫だと思うから」

 

「はいっ! わたくし、ご期待に応えてご覧にいれまする!」

 

 

 

 霧衣(きりえ)ちゃんの気合も充分、あとはお相手の方々のほうだが……どうやらおれが退席している間に、あちら様も準備を終えてくれていたようだ。Deb-CODE(会議通話ソフト)のチャット欄には、本番の手順と大まかな流れが事細かに記され、会場となるルームへのわかりやすい道順が添えられている。

 おまけに……『準備が出来たら一度通話でミーティングでもどうか』とのお誘いまで。

 

 なんという万全のバックアップ体制……ありがてぇ。

 

 

「えーっと……後ろ幕おっけー。マイクおっけー。霧衣(きりえ)ちゃんおっけー」

 

「お、おっけー」

 

「ンフャァ可愛い!! よしじゃあ……ミーティング始めよっか」

 

「は、はいっ!」

 

 

 ドキドキを抑えきれずにチャットを入力して、送信。……しばらくすると反応があり、その直後Deb-CODE(会議通話ソフト)が軽快な呼び出し音声を流し始める。

 

 大きく二回、いや三回深呼吸して……震える手でマウスを操り『応答』ボタンをクリック。

 

 

『のわちゃーん! こんばわー!』

 

『どもー。お晩方ですー』

 

『わかめちゃんこんばんわっす!』

 

「あわわわわこわわわわわばわわわわわ」

 

「あわわわんわんわうわうわうわうわう」

 

『『『??????』』』

 

 

 

 完全に取り乱し『ポンコツ』と化したおれたちの、会議通話相手。

 霧衣(きりえ)ちゃんを巻き込んだ今夜の演目における、心強い救いの手。

 

 

『どうどうどう、のわちゃん落ち着いて。まだ始まっとらんよー』

 

『そだな。此処には俺様らしか居ねぇ。心配しなさんな』

 

『まだ放送開始まで時間ありますし……リラックスしときましょ、わかめちゃん、と……きりえちゃん、ですっけ?』

 

「「は、はいっ!!」」

 

 

 

 村崎うにさん、ハデスさん、そして刀郷剣治さん。

 畏れ多くもおれが連絡先を交換させていただき……そして今夜行う演目を得意とする、たいへん場馴れしたお三方である。

 

 


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