【本編完結】コントラクト・スプラウト ~ おじさんでしたが実在合法美少女エルフになったので配信者やりながら世界救うことにしました ~   作:縁樹

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254【在宅勤務】わーけーしょん

 

 

 ラニに【蔵】の扉を開いてもらい、収録機材一式が収められたモコモコの袋を取り出す。

 続いて、動画中で設置するハンモックも取り出す。木にぐるりと回して吊るすためのベルトも準備オッケー。

 

 モコモコ袋からゴップロ(小型カメラ)と三脚を取りだし、小川と砂地とその奥の景色、緑の木々が映せる絶妙な角度を吟味しながら、液晶画面を確認しつつ設置する。

 小さめの三脚を取り出して広げ、TR-07X(高精度マイク)をアタッチメントでセット。水面に近づけて良い水音が聞こえる場所を探り、ぐらつかないことを確認してこちらも設置。

 マイクとカメラをケーブルで繋ぎ、ポータブルバッテリーからも給電ケーブルを伸ばし……これで一時間以上の録画および高精度録音を行う準備が整った。ラニちゃんさまさまである。

 

 

 

「さてノワ、大丈夫? 手筈は解ってる?」

 

「えーっと、まずはコントローラーの録画ボタンを押して…………えっと、あとは騒音立てないように意識しながら、カメラの撮影範囲内で一時間ほど()()()()する」

 

「そんなに大きな音じゃなければ、足音とか物音とか立てても大丈夫だよ。ハンモック掛けるんでしょ?」

 

「あっ、そうだ! えっとじゃあ……録画ボタン押して、ふつうに撮影エリアに入って、ふつうにハンモック掛けるのに挑戦して……ふつうにのんびりすればいい?」

 

「そうそう。別に手際良くなくても大丈夫だからね。ノワのもたもたも()(だか)なので」

 

「そ、そんなもたもたしないよぉ」

 

「ウフフ。……じゃあ、始めちゃう?」

 

「……ん。そだね」

 

 

 

 

 カメラとマイク、ふたつの三脚の配置を指差し確認し、おれはいよいよ録画ボタンを押す。高精度マイクが涼しげな水音を拾い始め、およそ一時間の環境音動画の収録が始まる。

 

 

 まずは編集用に十秒程度の余白部分を冒頭に設けてから、おれは行動を開始する。カメラの後ろから姿を表し、ちらちらとカメラを気にしながらハンモック片手に定位置へと向かっていく。

 ここから先は……特にカメラの存在を気にする必要は無いようだ。気持ちを楽にしてハンモックの設営に取りかかることにする。

 

 まずは太くて頑丈な木を二本、できれば三メートルほどの間隔で生えているところを探す。今回はあらかじめ見繕っておいたので問題ない。

 つぎに専用のベルトを木の幹にぐるりと、二本の木それぞれに巻いて金具で留め、最後にハンモック本体とそれぞれのベルトの金具を繋げば……ゆらゆらと揺れる心地よい寝床が出来上がる。

 

 

「…………っ、んっ!」

 

 

 思わず歓声を上げそうになるのをぐっとこらえ、静かに喜びを表現する。ばんざいっ。

 

 さっそくいそいそとよじ登るために、まずは上半身をハンモックへ預ける。そのまま全身を載っけようとしたのだが……やっぱりゆらゆらするハンモックでは、なかなかうまく踏ん張れない。

 ハンモックへと両手を突っ張ったまま、まるでお尻を突き出すような姿勢でガクガクガクと不格好に震えるばかりで……まって、むずかしい。これうまく乗れないぞ。

 

 

(うわぁ…………なんて無様な格好)

 

(だ、だってこれ、こわっ…………むず!!)

 

 

 おれの予定では颯爽と寝転がるはずだったのだが、なかなか予定通りにはいかない。

 カメラにお尻を向けてガクガクする不格好を晒し続けるわけにもいかず、意を決して勢いよく飛び乗る。……つもりだったんだけどなぁ。

 跳躍が足りなかった(というかほんの十センチくらいしか跳べてなかった)らしく、しかし重心を上半身に傾けていたせいでバランスを大きく崩してしまい、肘が曲がって顔が布地に激突して膝が地面について、そのままべしゃっと尻餅をついて、ごろんと仰向けに転がってしまう。……ぐぬぬ、かっこわるいところが映ってしまった。

 

 

(ブフッ、……踏み台とか使う?)

 

(ねえいまわらったでしょ)

 

(ほらノワ、いい感じの丸太のブフッ)

 

(ねえわらったよね? わらったでしょ? おれそういうの聞き逃さないよ?)

 

(使わないの? 踏み台)

 

(………………つかう)

 

(……………………ぷっ)

 

(もおおおおおおお!!)

 

 

 

 顔の表情に不機嫌さが現れてしまったかもしれないが……気にせずそのまま行動を続ける。なぜなら若芽ちゃんはぷんぷん顔もかわいいので。

 カメラの後ろがわへ一旦はけて、そこでラニがわざわざいい感じに形を整えてくれた丸太を受け取り、両手で抱えてハンモック付近へと戻る。カメラの目の前、あからさまな体力強化(フィジカルバフ)魔法は控えたほうが良さそうなので、これはおれの生の体力だ。

 つまりは……ひょこひょことぼとぼと、とてもゆっくり……かつ、とても一生懸命なのだ。

 

 十メートルそこらの距離を一分くらいかけて、ゆっくりと丸太を運び終える。

 ラニが光剣で加工してくれたのだろうか。丸太を横倒しにしたようなつくりの踏み台は、ちゃんと踏み面の幅もしっかり広くとられており、それでいてしっかりと安定するように底面が加工されていた。

 なるほど、これであれば……ぶざまに『すってんころりん』することもなくハンモックに乗れそうだ。

 

 

「…………んっ!」

 

(おー、よくできました)

 

(のれた! 乗れました! おほほーっ!!)

 

 

 なるほど、これは良いぞ!

 ゆるやかに身体全体を包まれる感触は、リクライニングシートともまた違うが、体勢的には似たような感じかもしれない。小柄なおれなら身体を『ぐーっ』と伸ばすこともできるので、とにかくとてもリラックスできる形だ。

 

 

 

 ゆらゆらと揺れる感覚も心地よく、これはなかなかクセになりそう。

 

 

 ハンモックへと持ち込んでいたブランケットのおかげで肌寒さも軽減でき、木漏れ日とそよ風がまたきもちいい。

 

 

 

 

 ゆーら、ゆーら、ゆーら。

 

 

 

 

 あっ、あっ……あー…………これ、いい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(………オイオイオイ、寝たわアイツ)

 

(スヤァ……)

 

 


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