【本編完結】コントラクト・スプラウト ~ おじさんでしたが実在合法美少女エルフになったので配信者やりながら世界救うことにしました ~   作:縁樹

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296【第三関門】突発ロケの気配

 

 

 共演(コラボ)相手との顔合わせを済ませ、ミルさんの身の上を説明し終え、共演(コラボ)当日へ向けた打ち合わせも済ませ…………

 そしてランチへ拉致られ、今晩の夜会(サバト)へ招かれ……いや、あらためて後半の急転直下っぷりやべーな。

 

 まぁともかく、おれと霧衣(きりえ)ちゃんは幸運にも、【Sea's(シーズ)】の方々との会食にご一緒させていただけることになったわけだ。

 

 

 

「とりあえずここの三人と、海月(ミズ)と……『コガっち』と『ういちゃん』と、あと『ちふりん』と『アヤくん』が来れるって言うとったで」

 

「勢揃いじゃないですか!! なんなんですかその布陣!! わたしたちをどうしようっていうんですか!!」

 

「そらもう……思う存分可愛がりたいなぁ、って」

 

「ぬ……ぬわーー!!」

 

「ま、そうゆうことや。……ラニちゃんは……また()()のお楽しみにさせてもらおか。とりあえず合計十名の大所帯やからな、賑やかに楽しもーや。なぁ霧衣(きりえ)っちゃん! いろんなお料理たのしみやろ!」

 

「はいっ! 楽しみでございまする!」

 

「んふゥーええなぁ和服美少女。んいはんが好きそうなタイプやなぁ」

 

「あぁ……そやねぇ、和装同盟。……霧衣(きりえ)っちゃんともコラボしたいよなぁ」

 

「あの、えっと……わたしたちは、コラボいつでも大歓迎ですので……」

 

「…………ラニちゃんの【魔法】。うまくいくとええな」

 

「…………そう、ですね」

 

 

 

 一人でも多くの人々におれたちの『演目』を楽しんでもらい、生きる気力を沸き上がらせてほしい。それが、おれが配信者(キャスター)としてがんばる理由だ。

 そうすることで、負の感情に反応して寄生する『種』の発芽と増殖を抑制し、それによる世界の危機を防ぐ……というのが、おれたちの行動原理となっている。

 ただ――もちろん、おれの手で人々を楽しませることも重要なのだが――視聴者さんに『次の配信も見たい』『明日からも頑張りたい』とプラスの意欲を漲らせてもらうにあたっては、なにもおれの配信()()を見て満足してもらう必要は無いのだ。

 

 このご時世どこででも気軽に繋がるインターネットを利用して、視聴者それぞれの『好き』にコミットできる、多種多様な『楽しい』をお届けする……刺々しい言葉や批判的な論調の多いテレビや新聞とは異なり、純度百パーセントの『好き』や『楽しい』が摂取できるコンテンツであること。

 それこそが仮想配信者(アンリアルキャスター)の強みであり、この世界の『侵食』を防ぐ鍵になる……と、おれたちは踏んでいる。

 つまりは……この仮想配信者(アンリアルキャスター)――また活動内容や活動範囲を一部同じくする動画配信者(ユーキャスター)――界隈が盛り上がれば盛り上がるほど、世界は快方へ向かうはずなのだ。

 

 

 であれば、おれたちがそこに協力しない理由は無い。

 おれたちは出来うる限り界隈を盛り上げ、ひねり出せるだけの知恵をひねり出し、ときには異世界(ラニちゃん)頼みの新機軸を投入して、一人でも多くの人々に楽しんでもらいたいのだ。

 

 おれが共演(コラボ)させていただけるなら、界隈の盛り上がりは少しでも加速されることだろう。

 そこにラニが研究してくれる【変身】魔法が加われば、よりリアルな……今まで見たこと無いほどリアリティに溢れ、実在芸能人のバラエティ番組もビックリな共演(コラボ)を披露することができるはずだ。

 

 

 それはまさに、エンターテイメントの革命・革新といって差し支えないだろう。

 そんな新世代の『楽しい』を目のあたりにして……それでもなお死にたくなるひとなんて、いるはずがない(……と思いたい)。

 

 

 

「わたしも……ラニの研究を、がんばってサポートします。……なのですみませんが、【変身】含めた魔法……と、ラニのことに関しては……」

 

「他の子らには……もうちょっとお預けってことやな。あの子らには悪いけど……んふふ、うちらだけの秘密ってわけや」

 

「うちが【変身】お披露目の第一号ってわけやろ? んふふゥー楽しみー」

 

「……そうすれば、ぼくの()()も……相対的に目立たなくなるんですね」

 

「そうですね。……もう少しの辛抱です、ミルさん」

 

「……ふふっ。大丈夫です。若芽さんのおかげで……とっても、心強いですよ」

 

 

 

 ミルさんの容姿についてだが……とりあえず取り急ぎ『にじキャラ』さん側から『新たなプロモーション活動の一貫として、特殊メイク技術による配信者(キャスター)再現の実証試験を先行して行っている』という体裁での声明を出してもらえるらしい。

 なので……正直、いまこのときも向けられているスマホカメラと、そこに撮られた写真のSNS流出に関しては、ある程度の誤魔化しは効くのではないかと思われる。

 

 ……奥まった位置のボックス席に通して貰えたお陰で、奥がわに座っているうにさんとくろさんのお顔は撮られる心配無いだろうが……出るときはおれが()()()()()()()()()した方が良さそうだな。

 ちなみに話し声に関しては、おれが違和感無い程度に【静寂(シュウィーゲ)】を張ってある。無音にすると違和感を感じられるかもしれないので控えめだが、会話内容を聞き取れない程度の強度は確保されている。抜かりは無い。

 

 

 

「ほいじゃあ、まぁ……夜はそういうことで。十八時からで押さえてあるから、後で店の場所REIN送っとくわ」

 

「ほーい」「わかりました」「はいっ!」

 

「…………で、かめちゃんかめちゃん」

 

「は、はいっ! なんでしょう? くろさん」

 

 

 

 楽しい楽しいランチの席も、そろそろお開きだろう……というところで、おれはくろさんから声を掛けられる。

 にこにこ顔の彼女の視線は……お手拭きでお上品におくちを拭っている、いい脱力笑顔の和装美少女……霧衣(きりえ)ちゃんへと注がれており。

 

 

()()()()()()()()()。撮ろうや」

 

「………………えっ!?」

 

「りえっちゃんの、洋服。可愛(かぁい)いの選んだるから。撮影もちゃーんと手伝うたるから。……んにはんが」

 

「ウチかーい!? まぁええけど!」

 

「いいんかーい!?」

 

「んふふゥー」

 

 

 

 

 ……ここで説明しよう! 『きりえクローゼット』とは!

 

 われらが『のわめでぃあ』期待の新人れぽーたーこと霧衣(きりえ)ちゃん(かわいい)の魅力を余すところなく伝える新企画プレゼンにおいて、多くの視聴者さんの支持のもと勝利を納めた……まぁようするに、『霧衣(きりえ)ちゃん着飾ろう企画』である!

 詳しい経緯と企画内容は百九十四話【週末配信】あたりを確認してくれたまえ!

 

 とまあ、そういうわけで……おれも撮ろう撮ろうとは思っていたのだが、ハープ回収にかこつけた北陸旅行とか、急遽舞い込んだ東京出張とか……そんなこんなで、実はまだ取りかかれていなかったりするのだ。

 いわれてみれば確かに、現役女子であるうにさんくろさんの力添えが得られるなら、お店のチョイスもかなり楽ができるだろう。

 それにあたりまえだが、首都東京には多くの……それこそ、遺憾ながらわれらが浪越市以上に豊富な、若者向け衣料品店が軒を連ねているのだ。おしゃれなお洋服を見繕うにあたり、これ以上の好条件は無いのではなかろうか。

 

 

「のわっちゃんのカメラ、うちが借りて……うちらの姿が見えんようにして撮れば、まぁ大丈夫ちゃう?」

 

「……そうですね。確かに、見ず知らずの店員さんのアドバイスよりかは……」

 

「うちらのほうが頼りになる?」

 

「それは、もう…………はい」

 

「ッシャァ! 気合入ってきたぁ!!」

 

「元気ですね、うにさん……」

 

 

 幸いなことに……この喫茶店の割と近く、というか渋谷駅の周囲に、おあつらえ向きのエリアがあるらしい。

 夜のお約束まではまだまだ時間があることだし……正直、おれも着飾った霧衣(きりえ)ちゃん見てみたいし。

 

 

「……? 若芽様?」

 

「…………うん。決めた。そうしましょう」

 

「「いぇーーい!!」」「あははは……」

 

「…………?? わ、若芽様!?」

 

 

 

 いい笑顔でハイタッチを交わすうにさんくろさんと、どこか疲れたような乾いた笑みをこぼすミルさん。

 お三方はいそいそと帰り支度を整えると、伝票をもってレジへ向かい(あわてて認識阻害の魔法を掛けたのでセーフ)ぱぱっとお会計を済ませてしまった(あわてておれと霧衣(きりえ)ちゃん分のお金は押し付けたのでセーフ)。

 

 

 ……というわけで。

 一応、うにさんとくろさんには認識阻害の魔法(顔を見た人でも記憶に残りづらくなる・カメラ等にはピンボケしたように写る)を掛けさせて貰った上で。

 未だに事態をのみ込めておらず、きょとんとした顔のままの霧衣(きりえ)ちゃん(かわいい)を囲み……可愛いお洋服を求め、おれたちは行動を開始した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 なお、このとき。

 

 『霧衣(きりえ)ちゃんが着たものと同じものをわたし(若芽ちゃん)も着る』という宣言を、他ならぬ自分の口から言い出していたことを、綺麗さっぱり忘れていた……ということは、賢明な視聴者さんにはお分かりいただけたのではないだろうか。

 

 

 

 もしおれがそのことを覚えていたら……あんなにあっさり同意したりはしなかった。

 

 

 

 ええ、しませんでしたとも。

 

 

 


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