【本編完結】コントラクト・スプラウト ~ おじさんでしたが実在合法美少女エルフになったので配信者やりながら世界救うことにしました ~   作:縁樹

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299【第四関門】……の途中ですが

 

 

 トーキューの洋服やさんにて、二人仲良く試着を済ませた後……おれはもとのエルフ装束に着替え直し、二人分のお会計を済ませてお店を後にした。

 ただ……あのコクーンコート。やっぱりあれはいいお値段する代物だったようで……二人合わせて(いち)のわめでぃあから()のわめでぃあ程度のお金は吹っ飛んでいったけど、しかたない。

 ほかでもない、かわいい霧衣ちゃんのためだ。がんばってお金稼ごう。

 

 ということで、現在の装いだが……もとの服に着替えてしまったおれとは異なり、霧衣(きりえ)ちゃんはなんと試着したコーディネートのままだ。

 店員さんにタグを丁寧に取り除いて貰い、着てきた和服と履き物を逆に袋に詰めてもらい……おれたちのみならずその場に居合わせた人々全員に大絶賛された装いそのまま、嬉しそうにほころんだ笑みを浮かべて付いてきてくれている。くっそかわいいが。

 

 

 

 

「カントクカントク、どや? ええ感じに撮れとる?」

 

「完璧っすよスタイリスト先生(センセ)ェ……この調子でも一丁(いっちょ)お願いしますわぁ」

 

「んふゥーまかしときー。じゃあ今度は……かめちゃんメインで組んでみるかねぇ」

 

 

 背後から聞こえてくるひそひそ声をバッチリ拾いつつ、おれたち二人は仲よさそうにつぎの目的地へと向かっていく。なんでもその複合商業施設、お洋服を売っているお店だけでもいろんなテイストのお店が揃っているらしい。たのしみだ。

 マップとにらめっこしながら教えてもらった限りでは、大雑把に駅方面へと向かっている形になるので……平日の昼間とはいえ、なかなかに人通りが多い通路を通ることとなる。

 

 

 あぁ……そういえば、おれたち四人が四人とも(見た目は)女の子だった。

 今は後続の二人はちょっと離れているので、先行するおれと霧衣ちゃんなんかは……緑髪の幼女と白髪少女の二人組。めっちゃ異様に映るだろう。

 

 うーん……失敗したな、()()()をちゃんと考えてくるべきだったか。いつもはモリアキ(マネージャーさん)が目を光らせてくれてたからなぁ。

 

 

 

 

「お嬢ちゃん可愛いね。今日どしたの? 学校は?」

 

「あれ、もしかしてサボり? 見かけによらず(ワル)()だぁ~」

 

「じゃあさ、じゃあさ、お兄さんたちと遊んじゃう? 楽しいことシちゃう?」

 

「良いトコ連れてったげるからさ、ちょーっと付き合ってくれない?」

 

 

 

「ちょ、っ……クロ、あれ」

 

「っ、ンの野郎ォ……」

 

 

 おれたちの進路を塞ぐように姿を表した――失礼だが、ちょっと賢そうには見えない――男性が四名。彼らにおれたちが絡まれたことを察知したのだろう、背後の二人が息を呑む……というか剣呑な気配を纏ったのが、おれにはわかった。

 

 おれたちの身を案じ、怒ってくれた。不埒者に狼藉を働かれるのではと、心配してくれた。

 少し前までは住む世界が違う、憧れの存在だった彼女たちに……そんなにも大切に想ってもらえることが、不謹慎だがとても嬉しい。

 

 

 そのお気持ちは、とっても嬉しい……んだけど。

 

 

 

 

「あはは、大丈夫です。わたしこう見えて、ちゃんと三十越えてるので」

 

「…………ぅええ!? ウッソぉ!?」

 

「いやいやいや無理があるって! ……え、マジで?」

 

「えっ? いや、その…………ゴメンナサイ」

 

「いえいえ、おかまいなく。……いやぁ実際、よく職質……ていうか、補導されかけるんですよ。えーと……ほらっ、ちゃんと昭和生まれですし」

 

「…………スンマセンっした!」

 

「てっきり迷子かと!」

 

「ワケアリの不登校児かと!」

 

「いや、あの……大変失礼しました。ホントスミマセン」

 

「いえいえ」

 

 

 

 てっきり……タチの悪い軟派男どもに絡まれた、と思われてしまったのだろう。

 いきなりけらけらと笑い出したおれの様子を見て、後方の二人の動きがピタリと止まり、唖然としているような気配が感じられる。

 

 ……そう、気配。

 おれのこの身体の『人付き合いが得意』『対人スキルが高い』とかいう設定のせいか、それとも取って付けたような『たくさんの人に好かれる愛されキャラ』とかいう赤面ものの走り書きのせいか……とにかくおれは、相対したひとと認識の齟齬無くコミュニケーションを取れる、という特技がある。

 極めて端的に、あえて一側面のみを誇張して表現すると……おれが直接顔を見た相手であれば、その感情が『なんとなく』わかるのだ。……ちゃんと落ち着いていられれば、だが。

 

 それによって、おれたちの行く手を遮った男性四人組が――そりゃあお世辞にも賢そうには見えない風体だけど――おれたちを『心配』してくれているのはわかったし、うにさんくろさんが危惧したほどの危険が無いこともわかった。

 こうしてお話ししてみれば……ただの賑やか好きで、派手好きで、楽しいことが好きで、そしてこの街が大好きな……今どきの兄ちゃんたちだ。

 

 

 

「へぇー! 配信者(キャスター)やってるんスか! すごいっスね!」

 

「そうなんですよー。今日もこっちの……この子のお洋服を買いに」

 

「……アレッ? もしかしてアレじゃないスか? 実在エルフ動画配信者(ユーキャスター)、って……」

 

「あっ、たぶんそれです。……ほら、お耳」

 

「「ウェェェェェェェ!!?」」

 

「調べれば出てくると思うので、お兄さんたちもぜひ『のわめでぃあ』をよろしくお願いしますね!」

 

「「う、ウッス!」」

 

 

 

 せっかくなので宣伝もバッチリ済ませ、目を白黒させている霧衣(きりえ)ちゃんの手を引き、意外と面倒見の良いお兄さんたちと別れる。

 そのまま歩道をもうしばし歩き続け……おれたちは二つ目の目的地である複合商業施設前にて、後続のうに(カントク)さんくろ(スタイリスト)さんと再合流を果たした。

 

 半ば勘違いだったとはいえ……おれたちのことを心配してくれて、ありがとう。そうお礼を告げようとしていたおれに……渋面を滲ませた二人の顔が、ずずいっと近づいてくる。……アレッ『おこ』だ。ナンデ。

 

 

「のわっちゃん……『悪女』って言われたこと無い?」

 

「もしくは『人たらし』とか? アレはなかなかやと思うでー」

 

「ホエエエエ!?」

 

 

 どうやら……彼女たち二人には、かなり心配をかけてしまったようだ。

 そうか、この身体は見た目だけでいえば、小さく華奢で可愛らしい幼女だもんな。会話内容もよく聞こえなかっただろうし、端から見るとかなり危なっかしく見えたのかもしれない。……悪いことをしてしまった。

 

 

「……ごめんなさい。ご心配おかけしました」

 

「ほんとに反省しとる?」

 

「はい……してます……」

 

「すまない、って思うとる?」

 

「はい……思ってます……」

 

「お詫びになんでも言うこと聞いてくれる?」

 

「はい……聞きま……す………………ん?」

 

「「イェーーーーイ!!」」

 

「ちょっと!!?」

 

 

 ちくしょう! やりやがった! 油断も隙もあったもんじゃねえ!!

 

 せめて、せめてどうか公序良俗に反しない範囲で!

 のわめでぃあは健全な放送局なので!!

 

 


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