【本編完結】コントラクト・スプラウト ~ おじさんでしたが実在合法美少女エルフになったので配信者やりながら世界救うことにしました ~   作:縁樹

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343【企画撮影】旅番組といえばお部屋

 

 

 さてさてさて……そうは言っても『伊逗(いず)半島』ですよ、視聴者さん。

 

 日中はディレクター陣からの壮絶な虐めに逢い、途中シーカヤック体験中にはちょっとした騒動もあったけれど。

 

 ここまで来たからには。

 せっかく地学的資料の宝庫である『ジオパーク』と名高い、この伊逗(いず)半島に来たんなら。

 

 偉大なる火山活動の恩恵に(あずか)らなきゃ……そりゃあバチが当たるってもんでしょうよ!!

 

 

 

「いいですか? 解ってますね? もう『ボケ』とか『のわ虐』とか要りませんからね? この期に及んで撮れ高なんて要りませんからね? 常識的に考えてくださいね?」

 

「し、信用ないなぁ……わかってるって」

 

 

 

 マネージャーにして今回のカメラマンであるモリアキが運転し、ヒトを模した姿となったイマドキ猫耳神使ガール(なつめ)ちゃんが助手席に収まり、われらがハイベース号は本日の最終目的地へと、その力強い駆動音を響かせていく。

 刻一刻と表情を変える夕焼け空の下、彼女がキョロキョロと興味深げに観察しているのを微笑ましく眺めながら……おれたちはセカンドシートにて、今晩泊まる宿に対しての期待を膨らませていた。

 

 なお『せっかくなので』とミルさんも誘ってみたのだが……残念なことに、今晩はうにさんとゲームの配信予定を組んでいるのだとか。

 なのでうにさん宛に『明日のお昼、楽しみにしててね』と伝言をお願いし、助っ人ミルさんには【門】にて直帰していただく形となった。

 報酬は後で例の口座(※まだ聞いてない)に振り込んでおこう(※言ってみただけ)。

 

 

 そんなこんなで(ハイベース号)を走らせること……ほんの数分。

 それこそ……つい先ほどまでシーカヤックを堪能していた『月ヶ浜』を見下ろす絶景の高台に、今晩お世話になるお宿は佇んでいた。

 

 ……ということで。

 お宿の駐車場に車を停めて、チェックイン前の最後の撮影を始めていく。

 

 

 

「……はい。正直ボクらもね、ちょーっとノワを虐めすぎたかなって反省してたので」

 

「いま反省したって言ったよね?」

 

「なので、お宿のほうはね……うん。張り切って選ばせていただきました」

 

「わかってるね? 宿はほんとみんな道連れだからね? 霧衣(きりえ)ちゃんに変なとこで寝させないでよね?」

 

「わ、わぅ……」

 

「『変なとこ』かどうか、その目で確かめてもらおうかな。つぶやいたーネーム『チョベリア』さんからの『せっかくスポット』……嘉茂(かも)南伊逗(みなみいず)町の『時之戯(ときのあそび)』さんに是非泊まってみてください、とのことで……はい! 今晩はなんと温泉旅館です!」

 

「うぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

 

「わ、わうぅぅぅ!?」

 

 

 

 

 いそいそと撮影を終えて、旅行鞄を引っ掴んで、モリアキを『はやくはやく』と急かしながらぞろぞろと車を降りて、温泉旅館『時之戯(ときのあそび)』さんへとお邪魔していく。

 見た感じはそこまで、高層建築って感じの建物ではないみたいだ。恐らく敷地内に幾つもの宿泊棟が建ち並ぶ、回遊形式のお宿なのだろう。落ち着いて過ごすことができそうで、なんだかとってもわくわくしてきた。

 

 

 

「お世話になります。先程予約させていただいた『烏森(かすもり)』です」

 

「はい。お待ちしておりました。()()()()()()()()()()でお伺いしております」

 

(…………んん???)

 

(ふっふっふ。ナツメちゃんの歓迎会、ってわけじゃないけどね)

 

 

 ふと傍らを見てみると……和服姿の霧衣(きりえ)ちゃんのすぐ隣に、イマドキっぽいへそ出しルックのおかっぱ少女が、ちょこんと佇んでいる。

 

 髪の色や服装の趣味(やお耳やしっぽの形)は異なるけど、まるで姉妹のようになかよしだ。霧衣(きりえ)ちゃんも嬉しそうににこにこ顔で、とても可愛らしい。

 おれが見とれてる間に、モリアキはスムーズにチェックイン手続きを済ませ……木製のホルダーに収められたカードキーを二枚、バッチリ受け取っていた。

 

 軽く館内の案内も受けていたようで、彼自信も『ワクワク』を抑えきれなさそうな表情でおれたちを先導し始めたので……おれは逸る気持ちをおさえて、おしとやかを心がけて後に続いた。

 

 

 

 

 えーっと、ですね。

 こうして辿り着いた、本日のお部屋。温泉旅館【時之戯(ときのあそび)】さんの複層特別室……メゾネットスイートというやつですね。

 

 先に申し上げておきましょう。一泊二食付き大人三名子ども一名で、ギリッギリ五桁に収まるくらいです。

 とはいえ、非常に評価と満足の高いお宿なので、つまりこのお値段が適切な価格ということなのでしょう。

 ……先日大田さんに押さえてもらった都心の会員制リゾートホテルが、どんだけぶっ壊れなのかよくわかりますね。あれ二泊で四名ですよ。

 

 

 

「先輩先輩。お部屋レビュー動画的なの、撮ります?」

 

「アッ、撮りたい! 許可とってこないと……」

 

「聞いてきたんで、大丈夫す。部屋ん中とバルコニーなら基本的に大丈夫、ネットへのアップもオッケーとのことです」

 

「やだイケメンかよたすかる」

 

 

 やはりというか想像した通り、おれたちのお部屋は広い敷地内に点在する宿泊棟のひとつであるらしく……二階建ての建物を縦にまっぷたつに割った部分が、我々がお世話になる『典雅』の間らしい。

 この棟はこの『典雅』の間と、そのお隣の『閑雅(かんが)』の間の二部屋しかないらしい。庭園の中にこのような棟がいくつもあり、落ち着いた静けさで安らぎのひとときを過ごすことができる……ということなのだとか。とても贅沢なつくりだ。ちなみにお部屋の読み方はご想像にお任せします。とても上品な様を表す言葉だよ。けんぜんだよ。

 

 

 

 というわけで、みんなさっさとお部屋で休みたいことだろう。

 おれは『典雅』の間の前で霧衣(きりえ)ちゃんと並び、自撮りモードでパパッと前枠を撮り、そのままカメラを構えて扉(風情ある引き戸だ)のリーダーに鍵をかざして……ついにお部屋に足を踏み入れる。

 

 

 お部屋は……うん、すごかったよ。

 

 この敷地そのものが傾斜地に広がっているらしく、入り口はなんと二階部分。ひろびろとした玄関ホールで靴を脱ぎ、足触りのよい畳敷の廊下を進むと……左手にはこれまたひろびろとした洗面室を備えたお手洗い、右手には下層へと降りる階段が口を開けており……そしてそして、その奥だよ。出たよ出たよ出ましたよ!

 

 ごつごつした岩がワイルドな内湯と……洗い場からフラットで続く、ウッドテラスと(ひのき)の露天風呂!

 廊下部分とはガラス戸で区切られており、浴室がわのブラインドで目隠しも可能(じゃないとさすがに恥ずかしい)!!

 もちろん源泉掛け流し、当然ながら完全貸切り、部外者が入ってくるはずもない。露天風呂だって程よい高さの塀で囲まれ、景色は堪能しながらも他の客室からの視線は完全シャットアウト!

 傾斜地という立地が項を奏し……なんと、三日月状の砂浜が夕闇に映える月ヶ浜を眺めながらの入浴が可能なのだ!

 

 

 すぐにでも服を脱ぎ捨てたい気持ちをおさえつつ、カメラがぶれないよう必死に平静を保って廊下を引き返し、下り階段へ……おっと、上へ続く急勾配な階段もありますね。

 ははーん小屋裏にも畳敷でおふとん敷けるスペースですか。大したものですね。お子さまこういうところ大好きでしょ。おれも大好きだもん。お子さまじゃないが。

 

 気を取り直して……階段を降りて、一階へ。一階っていうか地下っていうか悩むとこだがまあいいか。階段降りたところはちょっとしたホールになっていて、正面にはひろびろ洗面台を備えた洗面室とトイレ。ふたつあるのは助かる。

 そしてそして、右手方向には十畳の畳の間。これはごろ寝に最適なスペース。例によって傾斜地の恩恵もあって眺望良好、露天風呂同様に月ヶ浜がよく見える。

 一方の反対側、位置的には玄関の真下だが、こちらは落ち着いた雰囲気のベッドルーム。ひろびろダブルベッドが存在感と安心感をひたすらにアピールしており、とてもくつろげそうなお部屋ですね。

 

 うーん……宿紹介単品で動画作れるな、これは。作るか。

 

 

 

 

「……はい撮影終了!! 解散!!」

 

「「わぁぁーーーい!!」」

 

「わ、わぁーい!」「をぉっ!?」

 

 

 一通りカメラを回し終えたので、これで晴れてみんな自由にお部屋を満喫することができる。……本当なら一目散にベッドダイブとかしたかっただろうに、みんなの協力に感謝だわ。

 

 お部屋の様子も撮れたし、あとはベランダからの景色なんかを追加で撮れば良さそうだ。

 それに……カメラ回している間みんなの感嘆の声がめっちゃ入ってたので、そこはあとで音声編集することにしよう。ナレーション的に声を入れてもいいだろうな。

 

 

「……のですが…………いかがでしょう、わかめさま!」

 

「んー………」

 

「わ…………わかめ、さま……」

 

「ぇあぁ!? ごめん霧衣(きりえ)ちゃん! 大丈夫だよ!」

 

「わ、わかめさま! 宜しいのですか!?」

 

「も、もちろん!」(ねぇラニ何があった?)

 

(えっ? ボク知らないけど……)

 

(えっ?)

 

(えっ?)

 

 

 内心の動揺を朗らかな笑みで隠しながら、歓喜にその身を震わせている霧衣(きりえ)ちゃん。

 おれは少しだけ嫌な予感を感じながらも、あえてそのことは考えないように、願わくばそうじゃありませんようにと密かに祈っていたのだが……

 

 

 事態は、ゆうに、二回りは、深刻だった。

 

 

 

 

「お任せくださいませ、なつめ様! わかめ様共々、(わたくし)が丁寧にご奉仕させていただきまする!」

 

「「えっ!!?!?」」

 

「それは助かる。我輩らは普段の姿が()()であるからして、『風呂』など数える程しか経験が在らぬゆえ」

 

「「えっ!?!?!!??」」

 

「おふろ、おふろ! わかめさまと、なつめさまと……いっしょにお風呂にございまする!」

 

「アッ!!!」「エッッ!!!!」

 

「オレにはどうすることも出来ないんで、頑張って下さいね。ちなみに夕食は夜七時半からの予約なんで、余裕もって行動お願いします。裸んぼのまま出てこないで下さいね」

 

「うわああああああん薄情者ォォォォ!!」

 

「オレにどうしろっていうんすか……」

 

 

 

 おれには……おれには、この子の笑顔を裏切るなんてこと…………できるはずが、ない。

 

 やるしかないのか。受けて立つしかないのか。

 がんばれ、こらえろ、おれの理性。

 

 

 

 あとラニちゃんは後でお話があります。

 覚悟の準備をしておいて下さいね。にがさないぞ。

 

 

 


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