【本編完結】コントラクト・スプラウト ~ おじさんでしたが実在合法美少女エルフになったので配信者やりながら世界救うことにしました ~   作:縁樹

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350【完成披露】本日おすすめの商品

 

 

 この現代日本において、近年特に培われた概念として……『変身アイテム』というジャンルが存在する。

 

 

 古くは百万ワットの輝きを放つペンライトや、テクマクでラミパスな化粧道具……最近ではバックルに剣が収められたベルトやら妖精の石をセットして使うショートステッキやら、その形状や効果は多岐に渡る。

 日本のアニメーション作品や特撮ドラマ作品において、特に日曜日の朝には欠かせないそれらアイテムは、近年においては殊更に趣向が凝らされた機能・デザインの玩具が商品化されたりと……特にサブカル分野においては大変馴染み深いものとなっているのだ。

 

 

 

 ……というわけで。

 今回おれたち(というか特にラニ)が用意した『新世代演出技術』のキモともいえるキーアイテムこそ、こちらの特製『変身アイテム』というわけだ。

 

 

 

「とりあえず、現状用意できたのは三つです。動力源はこの、三式蓄魔筒(バッテリー)が四本。裏側の蓋をはずして挿入します」

 

 

 四角く扁平の、手のひらからはそれなりにはみ出るサイズの……なんていうか、板。身近なもので似た形のものはといえば、みんな持ってる(と思われる)スマートフォンだろう。

 ただし三式蓄魔筒(バッテリー)(まんま単三電池サイズ)を挿入する都合上、その厚みもやや厚め。どちらかというとモバイルバッテリーの方が近いだろうか。

 

 

「テスト品なので、インターフェースとかは必要最低限です。登録してあるコマンドは【書込(インストール)】、【登録(セットアップ)】、そして……【変身(キャスト)】と、【解除(シャットダウン)】。側面のボタンを押しながらコマンドを発声すると……発動します」

 

 

 用意してもらったホワイトボードに、四つのコマンド名を順番に書いていく。……しかしボードの上のほうに手が届かなかったので、筆記エリアは下半分だ。いまおれを笑ったな。だれだ……うにさんやんけ!!

 ちょっと立場というものを理解(わか)らせてあげる必要があるようなので、おれはニヤリとほくそ笑みながら説明を続けていく。

 

 

「実際に、どなたかに()って頂いたほうがわかりやすいと思うので……どなたか、お手伝いをお願いできませんか?」

 

「「「「はぁーーい!!」」」」

 

「オォゥ……えっと、では……」

 

 

 勢いよく、ほぼ全員の手が挙げられる。第Ⅰ期生の方々は半数以上、第Ⅳ期生に至っては……全員だ。

 とりあえず、おれがお話ししたことある方であればやりやすい。というわけで先ほどの悪巧みを加味して……うん。決めた。

 

 

「……では、おそれながら………ティーさま」

 

「やったぁー!」「そんなぁー!」

 

 

 ふっふっふ……うにさんよ。キミはいい友人だったが、わたしを笑ったのがいけないのだよ。はっはっはっは!

 ……いえ、すみません。今後ともよろしければお付き合いのほどお願いしたく存じます。はい。

 

 

 

 というわけで、ティーさま(の(なかのひと))にご協力いただき、こちらの【変身】デバイス『L2T3』(仮称)のデモンストレーションを開始します。

 

 まず第一段階の【書込(インストール)】。これは変身デバイスそのものに、【変身】で参照するディテールを記録する作業だ。

 術者が想像した姿に【変身】させるのがこのデバイスの本懐だが……そう毎回毎回【変身】を使うたびにアバターの細部ディテールを想像するのは、さすがに骨が折れる。疲れてるときなんかは集中力が持続できず、再現度がいまひとつの『コレジャナイ』状態になってしまう恐れがあるのだ。

 もちろん【変身】をやり直せば問題ないのだが、やり直せばそれだけ蓄魔筒(バッテリー)は消費される。集中力もどんどん下がっていく可能性だってあるし、つまりは非効率的だ。

 

 というわけで、あとあとショートカットコマンドで呼び出せるようにするための下準備というわけだ。

 予めティーさま(の(なかのひと))に正確なディテールを想像してもらい、それをデバイスへ【書込(インストール)】を行う工程。

 アバターの姿を思い描けたら、ボタンを長押しながら発声コマンド【書込(インストール)】、続いてファイル名……キャラクターの名前を唱えてもらう。……一回コマンド練習してみましょうか。

 

 

「んん……書込(インストール)、トールア・ド・ショットヘーゼ・ル・ナッツバニラ」

 

「どうどうどうどう! ティーさま略称! 略称で大丈夫です! ファイル名ですんでわかれば大丈夫です!」

 

「さ、さきに言ってほしかったわぁ……!」

 

「すすすすみません……失礼しました……!」

 

(かわいい)

 

(それな)

 

 

 ともあれ無事に【書込(インストール)】ができたようなので、次のフェーズへと進もうと思う。

 現在の段階は、ティーさまが想像したアバターデータをデバイスが仮保存している状態だ。まずはこのデータが正確かどうかを確認したいので……そう、出力してみようと思う。

 

 お待ちかねの……【変身(キャスト)】コマンド、そして新技術初お披露目の瞬間である。

 

 

「感覚としては、さっきと同じです。もうアバターは仮保存されてるので、あとはさっきのファイル名と同じ名前を発声コマンドで読み込んでもらえれば」

 

「ん……やってみる。…………すーー、はーー、…………【変身(キャスト)】、【トールア・R・ティーリット】」

 

「「「「「―――!!!!??」」」」」

 

 

 

 いや、まぁ、その……新世代演出技術だなんだと取り繕っちゃ居ますけども……要するに結局は【魔法】なわけですよ。

 

 登録されたプログラムの実行コードを受領し、変身デバイスが試験通りに動作を開始し……図柄化されたプログラムコードが宙を(はし)り、術者たるティーさまを中心に【変身】の魔法陣が生成される。

 ラニが元居た世界で確立され、体系化された魔法技術……それはこの世界の現代日本へと持ち込まれ、デジタルネットワーク時代のプログラミング技術の片鱗を取り込み、こうしてひとつの形へと昇華したのだ。

 

 

 純粋なるこの世界(の神様)の魔力(神力)を糧とし、現代に最適化された魔法詠唱(プログラムコード)にて発動し、特別に(あつら)えた魔法媒体によって紡ぎ出される……数多の人々を楽しませ、幸せを与えるための『魔法』。

 

 その記念すべき初お披露目の日、初となる【変身】魔法……立体魔法陣(プログラムコード)の光が収まったその場所、先ほどまでティーさまの(なかのひと)が立っていた、その場所には。

 

 

「……ご気分は、いかがですか? ティーリットさま」

 

「…………………………」

 

「………………えっと、あの……」

 

「…………ねぇ、わかめちゃん?」

 

「は、はいっ! なんでしょう!?」

 

 

 

 プラチナブロンドの長い髪をひとつに纏め、小さいながらも精緻な髪飾りで彩り、艶かしくも大胆に肩を晒したパールホワイトのロングドレスを華奢なその身に纏い、上品な黄金色に輝くストールをふんわりと巻いて。

 

 人間にはあり得ない……今のおれ同様長く尖った耳をもった、高貴な装いのエルフの少女が。

 

 

 

「…………わち、どうなっとるん?」

 

「えっ…………えっ!?」

 

「んっと、な? …………鏡、とか……なぁい?」

 

「あっ!!!!」

 

 

 

 ほんのりと眉根を寄せた、困ったような表情をそのお顔に浮かべながら……

 

 興奮と歓喜を隠しきれない笑みとともに、堂々と佇んでいた。

 

 

 


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