【本編完結】コントラクト・スプラウト ~ おじさんでしたが実在合法美少女エルフになったので配信者やりながら世界救うことにしました ~   作:縁樹

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391【後日話題】あれから数日

 

 

 あの一件以降……『にじキャラ』さんご一行は、とてもとても精力的に行動していった。

 

 

 おれとくろさんのカラオケコラボに続けとばかりに、また違う組み合わせのメンバーでのカラオケや、会場に集まってのゲーム配信、どこからか早押しボタンなんかを調達してのクイズ大会、多人数でのお料理対決などなど。

 今や仮想配信者(アンリアルキャスター)としての軛から解き放たれた『にじキャラ』配信者(キャスター)たちは、とてもとても精力的に活動の幅を拡げてくれていた。

 

 そんな彼らの提供するコンテンツは、回を重ねるごとにどんどんと研鑽されていき、(また手応えを感じたことで予算も増えていったのだろう)やがてはテレビのバラエティー番組と比べても決して引けを取らない、まさに『プロの域』のレベルにまで到達していった。

 

 

 

 そんなとてもおもしろいコンテンツを提供する『にじキャラ』と所属配信者(キャスター)は、その人気はまさに『うなぎ登り』といったところだろう。

 

 もともと多くの視聴者を擁していたⅠ期生、中でも『売れっ子』だったティーリットさまやハデスさまは、実体化プログラム解禁から間もなく登録視聴者数百万人の大台に到達。

 その他の方々もお二人に続かんばかりに、八十万台や九十万台へと立て続けに辿り着いていた。

 

 

 そんな中で、間もなく百万人到達となりそうなのが……その体格ゆえ()()()()を講じさせていただいた、Ⅰ期生の『天使』モチーフであるセラフさん。

 彼女にはその大きすぎるディスアドバンテージを払拭するため、共用デバイスとは別に首飾り型の専用デバイス(蓄魔筒(バッテリー)一本がギリギリ収まるサイズ)をご用意させていただいたのだが……それに先行入力(プリインストール)させて頂いた秘策こそ、とっておきの【浮遊】魔法(アプリケーション)である。

 

 

 

『セラちゃんずるい! わちもおそら飛びたい!!』

 

『ティーちゃんだって処刑(しねどす)の魔法貰ったじゃん! 私はこれがあってようやく一人前なの!!』

 

「あ、あの……べつに飛行魔法ってわけじゃないので……せいぜい床から一メートル弱浮かぶだけですし、セラフさんはこうでもないと厳しいでしょうし……」

 

『むぅーーーー』

 

『むぅーじゃ無いの。……まったく、この三桁歳児は……』

 

 

 なんていう一幕こそあったものの……念願の上方修正(アップデート)を経たセラフさんは、並々ならぬ努力もあって【浮遊】の扱いを完全にモノにして見せた。

 喜怒哀楽とともにふわふわと高度を変えたり、器用に空中でくるくると回って愛嬌を振り撒いてみせたりと、以前にもまして可愛らしい表現をしてみせる彼女。

 これでようやく()()を必要とせず、独りで配信できるようになったというわけだ。

 

 

 そして一方……われらが(?)エルフの国の王女様にして、このたび晴れてゴールドの配信者ランクに到達した、ティーリットさま。

 日頃からおれたちにとてもよくしてくれている彼女には……お祝いというわけではないが、ラニちゃん謹製の専用杖型変身デバイスを進呈させてもらってたりする。

 こちらは従来のデバイス同様【変身(キャスト)】まわりの機能を一通り備えているほか、セラフさんの【浮遊】に該当する追加機能として、専用処刑魔法【しねどす】を実装したものだ。

 その効果は至ってシンプル……杖を向けた人物にコミカルな炎上エフェクトを三秒間発生させ、その後対象のテクスチャを一定時間『真っ黒』に差し替え……要は黒コゲ(もちろん見た目だけ)にしてしまうというものだ。

 

 内蔵蓄魔筒(バッテリー)の都合上、乱用は出来ないのだが……新たなる(おもちゃ)を手に入れた王女様はとても嬉しそうに、(共演者が居るコラボ等においては)その(しねどす)を存分に振るっていた。

 なおその矛先は九割がた刀郷(とーごー)さんに向いていた模様。しってたわ。

 

 

 

 また……ここへきて、実在仮想配信者(アンリアルキャスター)第二号であるミルさんも、無事配信業の戦線に復帰するに至った。

 同僚の方々とは異なり、普段の身体が『ミルク・イシェル』になってしまった彼は、おれに倣っていち早く自宅の配信環境を一新。変身デバイスを必要としない手軽さも相俟ってか配信の機会も多く、ぐんぐんと支持者を増やしている。

 

 加えて最近では、大手を振って共演(コラボ)配信にも顔を出せるようになった。なにせ周りの同僚たちは皆【変身(キャスト)】の魔法を使いこなし、ことごとくが実在仮想配信者(アンリアルキャスター)(※姿のみ)となっているのだ。

 この世ならざる魔力(ちから)を備えた『本物』の実在配信者(キャスター)がお呼ばれしても……木を隠す森が出来上がった以上、その姿を奇特に思われることは二度と無い。

 

 ただし……そのスカートの中、脚の間にぶら下がっているとされる器官の存在に関しては、以前にも増して熱い議論が繰り広げられているのだとかいないのだとか。

 

 

 

 

 そしてそして……おれたちの変化についても、せっかくなので添えておこうかな。

 

 まずは、チャンネルの登録者(フォロワー)数。こちらがですね、この度なんとシルバーアワード……つまりは、十万人の大台に到達いたしまして。

 

 別次元である百万人(ゴールド)は除くとしても、とりあえず『配信者(キャスター)』として一人前と呼べる位までは到達できたのではないだろうか。

 特にここ最近、一月末から二月にかけての伸び率が半端無い。考えるまでもなく『にじキャラ』の皆さんと接する機会が得られたからであり、彼ら彼女らの影響力のおかげである。

 ……ほんとうに、感謝してもしきれない。

 

 十万人(シルバー)到達の証となるマイルストーン……つまりは表彰盾も、そう遠くないうちに送って頂けるらしい。

 受け取ったら記念配信でもさせていただこうかな。

 

 

 そんな大きな出来事と、いつも通りの小さな出来事――天繰(てぐり)さんと烏天狗ちゃんズによる『ごほうび』や、山代先生の音楽教室や、金曜夜の定例配信や、寄せられたスパチャのお礼録音などなど――を繰り返し。

 

 

 

 ――――本日は、三月六日の金曜日。

 

 浪越市南区のおれの部屋の前では……白と黒のツートンカラーに塗り分けられ、屋根の上には赤色灯が設えられた、とても速そうな車が一台、おれのことを待ち受けていた。

 

 

「お早うございます、若芽さん。本日は宜しくお願いします」

 

「おはようございます。わざわざありがとうございます、春日井さん」

 

 

 

 春日井さんと、彼に付き従うもう一人のおまわりさんによって、おれは後部座席へと案内される。

 とはいえ当然『たいほ』とか『にんいどうこう』とかそういうのじゃないので、そこんところは安心してほしい。わたくし木乃若芽、後ろ暗いところなんて(あんまり)ございません。悪いことなんてしてないし、税金だって滞納してないもん。

 

 

 そんな模範的な市民(どや)であるおれを乗せたパトカーが向かう先は……浪越中央警察署。

 おれこと木乃若芽(きのわかめ)ちゃんが、本日一日署長を務めさせていただく『お仕事現場』なのである。

 

 


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