【本編完結】コントラクト・スプラウト ~ おじさんでしたが実在合法美少女エルフになったので配信者やりながら世界救うことにしました ~   作:縁樹

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394【一日署長】行動分岐点

 

 

「――――あなたは、愛智県警察署主催『交通安全啓発ポスターコンクール』において、大変素晴らしい作品を創作なされました。その功績と栄誉を称え、ここに表彰致します。……おめでとうございます。すてきな作品を、ありがとうございます」

 

「あり、っ……がとう、ございますっ!」

 

 

 

 おれは介添人(おまわりさん)から手渡された賞状を読み上げ、目の前でガチガチに緊張している男の子へと手渡し、お礼を告げる。

 期待通り『お立ち台』を用意してくれていたおかげで、賞状を手渡す相手のほうが背が高いという悲しい事態は回避することができたわけだが……残念なことに『もうひとつの予想』のほうもあながち見当違いとは言えず、そしてこっちのほうは回避することができなかった。

 

 

(罪な女だねぇ、ノワ。たろう君の『感情』、何色だって?)

 

(うぅーー…………その、混じりっけなしの……『好意』)

 

(ひゅーーーー!!)

 

(ちくしょうおぼえとけよ!!!!)

 

 

 

 賞状を渡して、お辞儀にお辞儀を返して、くるりと後ろを向いて定位置に戻るたろう君の真っ赤な耳たぶを見送りながら……おれは次の賞状を受け取り、二人目の受賞者へと授与を行う。

 

 今回のコンクールだが……大賞を受賞したたろう君を筆頭に、全部で六名の受賞者がいるとのこと。

 つまりは賞状も六枚用意されており、その後も表彰式は続いていったわけだが……しめて男の子が二人と女の子が四人、その全員の耳たぶを真っ赤に染めることに成功してしまったわけだよ、おれは。

 

 

(いや、これは……おれ悪女かもしれん……)

 

(ノワ……恐ろしい子……)

 

 

 いとも容易く六名の男女全員をノックアウトしてしまったおれは、自分の見通しの甘さに少なからず自責の念に囚われながら、それでも無事に総評という大役を片付けることができた。

 

 コンクールの審査員長を務めたおまわりさんが取材陣に色々とお話を聞かれている様子を、おれはその傍らでにこにこ笑顔で眺めている。

 あとはおれ以外のおまわりさん――コンクールの実行委員会の皆さん――に任せていればいいわけで、実際カメラのほとんどはあちらを向いているはずなのだが……未だにおれの一挙手一投足を注視してるカメラもあるんだよなぁ。

 ちゃんと『いい子』アピールしとかないとな。油断して脚開いたりしないよう気を付けないと。

 

 

 今はまだ数台だからいいけど……この後には『記者会見』とかいう、ぶっちゃけ少々気が重いイベントが待ち受けているのだ。

 

 

 

「――――では以上で、愛智県警察署主催『交通安全啓発ポスターコンクール』優秀作品表彰式を終了致します。……報道の皆様へご連絡です。この後十四時半より、本日一日警察署長をお務め頂いた『木乃若芽』さんを交え、会見を執り行う予定です」

 

 

 一斉に注目がこちらに向くのを感じるが、せいいっぱいの愛想(良い)笑いを顔に張り付けて軽く会釈する。途端に切られるシャッターの数々(※フラッシュの明滅にご注意ください)。

 ……いやあの、ちょっと、皆様少々お待ちあそばせ。まだ記者会見には早くてよ。何してやがりますの。

 

 

「それでは時間までの間、木乃若芽さんは一旦退室となります。有り難うございました」

 

「はいっ。ありがとうございました」

 

 

 そんなおれの戸惑いを察してくれたのだろうか。広報担当のトヨカワさんに救われる形で、おれは席を立って一旦退室させていただく。

 去りぎわにも皆様に会釈をして愛想を振り撒いておいたのだが、これがまたシャッターを加速させる結果となった(※フラッシュの明滅にご注意ください)。

 

 

 

 と、いうわけで。

 

 本日の、そして『一日署長』としての最後のスケジュールである『記者会見』。現在時刻は午後二時少し前なので、あと三十分くらいしたらさっきの大会議室に戻り、そこで記者会見が行われることになる。

 質問は基本的に定番なもので纏められているはずで、おれのプライベートな質問は(あんまり)無いはずなのだが……先日『にじキャラ』さんとこで大ハシャぎしたもんな。正直いって、それ系の質問が来るような気はしている。

 

 一方で、進行や記者の指名なんかも任せっきりでいいらしいので……なんていうか(ラク)っていうよりも、むしろ逆にそわそわしちゃいそうだ。

 なんてったって……普段は自分達だけで、司会進行とか段取りとか進めてるもんな。至れり尽くせりは()()()()てないんだよなぁ。職業病ってやつかな。

 

 

 ともあれ、あと三十分後。本日最後の山場を前にした休憩時間、今は少しでもリラックスしたいところだ。

 ……よって。

 

 

 

 

『――――ふたりぶんの 影法師

 

 ――――君と 手を繋いだ』

 

 

「ノワ本当クロちゃんの歌好きだね」

 

「だいしゅき」

 

「案の定切り抜き出てたっすか……まぁそりゃ出るっすよね。良かったっすね」

 

「いっぱいしゅき」

 

 

 先日行われた『おうたコラボ』は、参加者それぞれのおうた部分をはじめ数多くの『切り抜き動画』が投稿されていた。

 

 これらは主として、配信時間が長時間になりがちな仮想配信者(アンリアルキャスター)の『ここすこ』ポイントをピックアップし、見所を短く纏めて取っ付きやすくしたものだ。

 推しを効率的に摂取、あるいは他者への布教に用いるため、視聴者さん側が自主的に編集してくれたものになる。

 

 大多数のケースでは権利元、つまり『にじキャラ』さんには無許可になるので……厳密にいうとグレー、もしくは黒なのかもしれない。

 しかしその一方で、これら『切り抜き』で投稿主が直接的に金銭を得ているわけでは無いこと、また演者の宣伝という観点では確かにプラスに働くこと、あるいは単純に数が多く対処には手間が掛かること……等といった理由から、半ば黙認されているのが現状である。

 

 まぁ……放置しておけば、勝手に見所を纏めた動画を作ってくれて、しかも宣伝してくれるというのだ。

 よほど悪意があるものでもない限り、配信者(キャスター)がわにとっても悪い話ではないのだろう。

 

 

「ノワノワ、スピーカーにして。ボクも聞きたい」

 

「ぅえ!? うるさくないかなぁ」

 

「大丈夫だよ。【静寂(シュウィーゲ)】張ってるし」

 

「うーん……それもそっか」

 

 

 というわけでおれたちは、玄間(くろま)くろさんのおうたの力をお借りして心を落ち着かせつつ、また気力を高めていく。

 やはりおうたは偉大だ、おうたの力で宇宙を平和に。おまえたちがおれの翼だ。

 

 

 

 

 ……なーんて調子にのりながら、おれたちはタイムキーパーさんからのREIN(メッセージ)を受けとるまで『おうた』を満喫していたのだが。

 

 このときの『のんびり』のせいで、初動の対処が遅れてしまったのは……残念ながら、疑いようがないだろう。

 

 

 

 

 『あのときああしていれば』『こうしておけば』なんて言い出したらキリがないのは解っているけど。

 周到に存在を隠された()()に気付けなかったことを、咎めることなど出来やしないと解っているけど。

 

 あのとき……少しでも控え室から出て、少しでも周囲の様子を窺っておけば、()()()()()()また違う結末だったんじゃないかと……そう思わずにはいられなかった。

 

 

 

 

 今のおれには……ただ祈ることしかできない。

 

 


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