【本編完結】コントラクト・スプラウト ~ おじさんでしたが実在合法美少女エルフになったので配信者やりながら世界救うことにしました ~   作:縁樹

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41【調理収録】続・若芽のおしゃべり(自粛)

「…………はい! というわけで、今回挑戦している『若鶏の墓』ですが……もともとこのお料理は『角兎の墓(エンキッド・グリーフ)』と呼ばれるお料理を、この世界の皆さん向けにアレンジしたものなんですね」

 

 

 ゆっくりと鍋をかき回す絵面()()……というのはあまりにも酷なので、お喋りをして時間を潰そうと画策してみる。

 ……ぶっちゃけトークの出来がいまいちだったら、そのときは編集の際に何とかすれば良い。いっそのこと丸々カットして『出来上がったものがこちらになります』とかでも良いのだ。

 今回はライブ配信ではなく、動画の素材を集めている段階なのだ。割と自由にやってみても、それこそ割とどうにでもなるだろう。

 

 せっかくカメラを回しているのだ。素材が足りなくなって構成に困るよりは、『やっぱ要らなかったか』と笑って削除する方がいい。

 ……いや削除しなくてもいいか。とりあえずいっぱい撮って取っとこう。撮っておいて取っておこう。

 

 

「『角兎の墓(エンキッド・グリーフ)』……物騒な名前だと思ったでしょう? 何でそんなおどろおどろしい名前が付いたのか、というとですね……このお料理の()()()に由来するんですね。もう一度お鍋をちょっと見てみましょう」

 

「まだ煮詰まってないけど……」

 

「はい、まだみたいですね。じゃあもう少しお楽しみということで。……ええと、このお料理は端的にいうと『葡萄酒煮込み』なわけですね。葡萄酒……特に赤ワインを使って煮込んで、じっくりと煮込んでいくと……煮汁がどんどんと煮詰まってですね、赤黒く粘りけを帯びてくるんです」

 

「葡萄酒が空気に触れると、黒く濁る……火に掛けられ熱されて、それが早まった感じだね」

 

「そうですね。赤黒いドロドロしたものに沈む、バラバラにされた角兎(エンキッド)……まぁ今回は鶏肉なんですけど。ともあれ、なるほど確かに『(グリーフ)』と呼びたくなるのも仕方無いかもしれませんね」

 

「その『墓』ごと食べちゃうってんだから……びっくりだねぇ」

 

「お肉になっちゃった……今日は鳥さんですね。この鳥さんに感謝して、無駄にしないようおいしく仕上げていきましょうね」

 

 

 会話の合間もちょくちょく鍋をかき混ぜ、火の通りと煮詰まり具合を確認していく。……やはりというか水気が飛ぶにはなかなか時間が掛かるらしく、まだまだ小ネタを挟み込む余裕はありそうだ。

 あまり火を強めすぎて焦がしてしまっては、せっかくの手料理が台無しである。若芽ちゃんとして初めて作った料理は……やはりきちんと完成させてあげたいのだ。

 

 ……というわけで。またしてもフリーな時間が出来てしまった。

 時間魔法を使う(編集でトバす)ことも出来なくは無いのだが……せっかくなのでちょっと悪ノリしてみようと思う。

 

 

 

「煮汁が煮詰まっていくまで、すこし時間がありそうなので……先日の『はじめまして』放送で頂いていた質問にですね、遅ればせながら幾つかお答えしていこうと思います!」

 

「おぉー。じゃあまぁ……鍋見ておくから、安心してやっておいで」

 

「ありがとうございます! ……こほん、それではひとつめ!」

 

 

 時間潰しといえば……定番だが、質疑応答コーナーだろう。こんなこともあろうかと、SNS(つぶやいたー)に寄せられた質問にもバッチリ目を通しておいたのだ。

 姿無き謎の声こと白谷さんのフォローに感謝しつつ、質問に答えながらお喋りで時間を潰す。

 愛用のスマホを手に取り、リストアップしておいた質問一覧のテキストファイルを呼び出し、目を通す。

 

 

 

「『趣味や特技はありますか』。あるよあるよーあるあるですよー! 趣味はですね……旅をすることです! 一人旅! 最近は放送局の立ち上げでご無沙汰ですが、またあちこち行ってみたいですねー……この国は温泉とかいっぱいあるって聞きますし。特技はですね、先日ちょこっとやってみましたが……お歌ですかね! 幸運にもお褒めいただいたので、またやってみようと思います!」

 

「『出身はどこですか。日本ですか』。日本じゃないですね……ここではない別の世界です。こう……『えいっ』て感じで、世界の壁を越えてきました。うふふ……超熟練の魔法使いであるわたしにしか出来ない芸当でしょう……さっすがわたしですね! 褒めてもいいんですよ!」

 

「『お友達や親しい人や他のエルフはいるんですか』。……んんー……わたしと同郷のエルフは、どうやら居ないみたいですね。別の異世界から来た子はちらほら見かけますので、いつか会ってみたいです。親しい人は……絵描きの『モリアキ』さんですかね! わたしがこの世界に来たばっかりのとき助けて貰いました!」

 

「『お兄ちゃん、って言ってください』。質問なんですかこれ!? ……まぁいっか…………こほん。……おにぃ、さん」

 

「『甘えさせてください』。質問じゃねえですねこれ!? いや採用リストに上げたのわたしなんですけど! ……こほん。…………しょうがないなぁ……おいで? よし、よし。いいこいいこ。……こんな感じですか?」

 

「『スリーサイズを教えて下さい』。ちょっと正気ですか人間種諸君!? 会って間もない女の子ですよ!? …………まぁリストに上げたのわたしなんですけどね。もぉ……一度だけ、ですよ? …………684966」

 

 

 

「ノワーー、いい感じだよーー」

 

「ああっ! ありがとうございます! ……というわけで、今回の質問コーナーは以上です! またの機会をおたのしみに!」

 

 

 

 しばらく寄せられていた質問に答えていた間に、どうやら良い感じに煮詰まったようだ。ほかでもない白谷さんが判断を下したのだから、恐らく間違いないだろう。

 質問コーナーのために移設していたハンディカメラを手に取り、ぱたぱたと鍋の前に戻って覗き込むと……なるほど確かに、赤黒く粘度を増した汁がふつふつと煮立っている。

 

 これまでは白谷さんの説明を聞いただけで、正直に言うと想像するしかなかった見てくれだったが……実際に見てみるとなるほど確かに、『墓』という表現も当てはまりそうな様相だった。

 

 

 

「……はい! それではお料理を再開していきましょう! ここまで来ればあともう一息、焦がさないように注意しながら水けを更に飛ばし……ここからは『煮る』というよりも『炒める』になるくらいまで、更に火を入れていきます」

 

「『火を強くして一気に加熱したい』という気持ちもわかりますが……ここで焦がしちゃったら苦味が出てしまうので、もうすこしの我慢です。我慢……まだだめですよ、もうちょっとだけ我慢しましょう」

 

 

 などと口では言っておきながら……このお料理に限っては、我慢する必要はなさそうだ。

 どうやら白谷さんが魔法を使って時短してくれていたらしく……【熱】と【風】に類する魔法を器用に使い、食材を余計に刺激することなく水けのみを飛ばしてくれたようだ。

 

 こっそりと白谷さんへ視線を向けると、口元に人差し指をあててイタズラっぽく微笑んで見せた。何この子めっちゃ可愛いんだけど。まだお披露目できないのがもったいないわ。

 

 

「…………そろそろ、ですかね?」

 

「んー……そうだね、良い感じだ」

 

「それでは。……こんな感じに、お鍋の底が見えるくらいになったら……ついに火から下ろします!!」

 

「はい。お疲れ様」

 

「んふふ、お疲れ様です。それでは、お皿に盛り付けて……ここにセージの葉っぱを彩りに載っけます。ちょっとで大丈夫ですよ」

 

「生の香草の過剰摂取は毒になる……こともあるからね」

 

「そんなモリモリムシャムシャ食べなきゃ大丈夫ですので、心配しないでくださいね! 適量を摂取する分には、非常に優秀な良い子なので! ……それでは、最初の材料には入れてませんでしたが……生クリームをですね、こう……たーってやると……ほら良い感じでしょう? 無くてももちろん美味しいですが、コントラストがまた美味しそうでしょう!」

 

「おおー……良いね。上手だよ、ノワ」

 

「えへへへ。……というわけで、角兎の墓(エンキッド・グリーフ)改め『若鶏の墓』完成! です! いぇーい!」

 

「い……いぇーい」

 

 

 


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