【本編完結】コントラクト・スプラウト ~ おじさんでしたが実在合法美少女エルフになったので配信者やりながら世界救うことにしました ~   作:縁樹

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491【驚天動地】獅子身中の蟲

 

 

 おれが【食欲の使徒】に攻撃を仕掛けた直後、彼女を守るように割り込みを掛けた……佐久馬(さくま)(すてら)ちゃん。

 

 溜め込んでいた魔力の大半を喪ったとはいえ、【愛欲の使徒】の肩書きを持つ彼女である。当初はまた【魔王】サイドへ返り咲いてしまったのか、とも思ったのだが……その後の(すてら)ちゃんの言動を見るに、その心配はどうやら杞憂だったらしい。

 

 

 そして同時に……彼女が何をしようとしているのか、また何を望んでいるのかを、賢いおれは理解することができた。

 

 

 

 かつての【魔王】をよく知るラニと、現在の【魔王】をよく知る(すてら)ちゃん。両者の証言をもとに推測すると……ろくでもない【魔王】の計画の全容が、朧気にだけど見えてきた。

 

 どうやらあの【魔王】は、自身の配下に魔力をしこたま溜め込ませ……それを起爆剤として【世界の境界を抉じ開ける魔法】を、再び行使するつもりであるらしい。

 

 

 およそ一年近く前、あの大嵐の日に……滅び行く『異世界』から、おれたちの住まうこちらの世界へと渡ってきたときのように。

 

 

 

 【魔王】メイルス本人が消耗していたせいか、はたまたこの世界の魔素(イーサ)が絶望的に乏しかったせいか……とにかく【魔王】単独では、世界を渡る魔法を再び行使することは出来なくなってしまったという。

 だからこそ彼は、大規模魔法を使うための外部リソースとして、(すてら)ちゃんたち三人の【使徒】を見繕った。

 

 ニンゲンの秘める中でもひときわ強力な願い『三大欲求』に基づく渇望を抱えた子を探し出し、その欲望を満たすための異能を授け、魔力を溜め込むための道具として仕立て上げた、三人の生贄(使徒)を揃え。

 いずれは自らの糧とし、世界跳躍魔法の触媒として使うために……魔力をひたすらに溜めさせ続け。

 

 

 その傍らで……この世界の環境を『異世界』に近付けるため、大気中に魔素を増やしたり魔物を増やしたりと暗躍していた、と。

 

 

 

 最後のひとつに関しては、悔しいが一手先を行かれてしまったけれども。

 もうひとつのろくでもない計画……世界跳躍魔法の行使に必要な触媒(イケニエ)の完成を阻止することは、まだ可能なのだ。

 

 

 だからこそ、(すてら)ちゃんは今まさに無茶をしようとしている。

 おれたちが【愛欲の使徒】にそうしたように……ともすると『暴走』と呼べる段階にまで【食欲の使徒】を追い込み、溜め込んだ魔力を一気に消費・放出させる。

 

 それはつまり……理性を失い一切の手加減を望めない【食欲の使徒】の本気に晒されるということであり。

 当然ながら、安全の保証なんて一切無いということなのだ。

 

 

 

『ボクが突っ込んで引っ掻き回す。二人は遠くから削って。安全第一だよ』

 

「了解。まぁあんなにデカい(マト)だもんね、撃ち放題の当て放題だよ」

 

「……ありがと。……気を付けてね。ラニ、ちゃん。…………全部終わったら、あたしが()()()()シてあげるから」

 

『ボクこの戦いが終わったらステラちゃんとエッチするんだ!!』

 

「おいバカやめろばか! 変なフラグ立てんな馬鹿えっち!!」

 

 

 

 威圧感が無いとはもちろん言えないが……幸か不幸か、()()と相対するのは二回目だ。

 かつて感じたときの恐怖や不安は、不思議なことに今日はそれほど感じていない。

 

 おれたち三人、力を合わせれば……たぶん、できる。

 

 

 

≪―――繧ャ繧「繧「繧「繧「繧「繧「繧「繧「繧「繧「繧「繧「繧「繧「繧「繧「繧「繧「繧「!!!!!!!!!!!!!≫

 

 

「…………前より……デカくない?」

 

『だよね? ちょっとヤバくない?』

 

「はは…………いっつも食べてたからなぁ、つくしちゃん」

 

 

 

 星さえ霞む真っ暗な真夜中。大都会ど真ん中の緑地公園を覆う、殊更に暗い【隔世(カクリヨ)】の天蓋の下。

 【魔王】の企みを挫き、また大切な仲間の妹を助けるための、一発逆転・一石二鳥・一球入魂の戦いが……

 

 

 巨大な拳が地面を砕く轟音と共に、騒々しく幕を開けた。

 

 

 

 

 

 

 















「………………結構な……お手前で」

「おそまつさま。……来てくれると思ってたよ、シズちゃん」

「…………ん。てれる」



 合歓木(ねむのき)公園内の各地にて、そこかしこに沸いて出てきた『獣』や『鳥』や『龍』を迎撃していた神使のみなさんをお手伝いして回る、エルフの上級魔法使いことおれ(わかめちゃん)

 手強そうな『龍』の駆除が終わったあたりで、人心地ついたおれの背中に……戦場には場違いなダウナーロリボイスが、突如として投げ掛けられた。


 とはいえ……彼女の出現ならびに関与そのものは、ある程度予想できていた。
 ここまで大規模で、色々と手の込んだ襲撃である。幹部格が【食欲の使徒】独りだけである保証はもともと無かったし、それなりのリソースを投じた大規模作戦であれば、なおのこと万全を期しておきたいところだろう。



「ちなみに……【魔王】って()()()()知ってるの?」

「…………ん。ボクたち……魔王の計画の【使徒】、だから。【感覚同期】の起点にされたら……拒めない」

「あー、うー…………朽羅(くちら)ちゃんを介してヨミさまが覗いてる、みたいな感じか」

「たぶん、それ。……筒抜け、だから…………気を付けたほうが、いい」

「かわいいおんなのこの私生活を覗くとか最低だ(うらやましい)な【魔王】め!!」

「…………さすがに……いつも、繋ぎっぱ……じゃ、ないから」

「あ、そうなの」



 九月から十月に、神無月になって……神様の影響力が落ちたタイミングを見計らっての、大規模な作戦行動。
 おそらくは(すてら)ちゃんの奪還を主目的としたこの襲撃は、やはり【魔王】本人の与り知るところであるらしい。


 神様が居ないから『神無月』……後世の歴史家が後付けで設定した一説とはいえ、広く人々に信じられてしまえば()()()()のだという。
 とはいえ実際のところ、翌年のお話をするには確かに丁度良い時期であるのは確からしく……つまりは現在囘珠(まわたま)のモタマさまはおろか、鶴城(つるぎ)のフツノさまも神々見(かがみ)のヨミさまも、それどころかそこかしこの神社の神様も、皆様こぞってお留守のようなのだ。


 つまりは、主神であるモタマさまの神力にちなんだ術――捕虜である【愛欲の使徒】を拘束する結界――も効力が低下しているらしく……【魔王】もそこを狙ったのだろう。

 神様不在の隙を突き、手駒を再び揃えたかった……といったところか。
 しかしながら現在、(すてら)ちゃんの魔力は大幅に目減りしてしまっているし、現にこうしてお留守番の神使でもある程度対処できてしまっているのだ。
 確かにビックリしたし、普段よりかは勝算がありそうなのものだけど……詰めが甘いというか、お粗末な感じが否めない。



 ……まぁそれは、この【睡眠欲の使徒】が、【魔王】本人から全幅の信頼を措かれていたことの現れでもあるのだろうが。
 恐らくは作戦が()()()()()()()、ブレーンを務めるシズちゃんが積極的に誘導を図ったのだろう。

 『神無月ってこういう月だから神様居ないし、狙うなら今だよ』とか囁いたのかもしれない。……やだ悪女だわ。


 最強の手札である彼女が、こうして意に反する行動を取るなど……あの【魔王】にとっては到底想定外であったに違いない。と思う。



「…………ん。……たぶん、キミが思ってる通り。キミたちは、【魔王】にとって……最大の障害。…………排除しに……動くよ、【魔王】。……覚悟は、いい?」

「………………怖くは、無いの? 別の手段は無いの?」

「無い。……すてら……は、未完成だったみたいだけど…………つくしが呑まれた『巨人』は……成長すれば、『核』の権能さえも使いこなす。…………ボクの【睡眠欲(ソルムヌフィス)】は…………理性の無い『巨人』が振るうには…………あまりにも、危険」

「……そっか。…………そう、だね」

「大丈夫。……ボク…………最近いろいろ、無駄遣いしてた……から。…………全盛期より、たぶん……(らく)



 魔法使い(おれ)の探知魔法が、斥候(おれ)たちがいる付近での急激な魔力反応を捉える。

 ほんの半月ほど前、奇しくも同じ囘珠(まわたま)神域で直面した事態と同じような……いや、そのときよりも濃密な【再誕】の気配。


 良くも悪くも無垢でまっすぐな【食欲の使徒】を『核』とした『巨人』が、今まさに生まれようとしており。

 その『巨人』を滅し、溜め込んだ魔力を霧消させ、呑まれた少女を助けるための戦いが、今まさに始まろうとしており。




「じゃあ、あとのことは…………ボクの、可愛い妹たちを……頼む、ね。『正義の魔法使い』さん」

「…………あっちは任せて。……ただまぁ、()()()は…………お手柔らかに頼むね」

「ふふっ。…………それは……【魔王】本人に言ってもらわないと」

「だよねぇー…………」



 おれが初めて目にする、宇多方(うたかた)(しず)ちゃんの可愛らしい笑顔。

 清楚で清廉で儚げで愛らしい、その微笑の向こう側。



 そこには……いったい、いつの間に姿を現したのだろうか。
 赤黒く禍々しい魔力の渦を迸らせた、優雅な佇まいの老紳士が。

 ……いや、老紳士の皮を被った【魔王】が。



 完全な『無』の相で、真っ直ぐこちらを凝視していた。


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