【本編完結】コントラクト・スプラウト ~ おじさんでしたが実在合法美少女エルフになったので配信者やりながら世界救うことにしました ~   作:縁樹

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 【魔王】の依代と化した少女、宇多方(うたかた)(しず)の身体が……突如として糸の切られた操り人形のように『かくん』と力を喪う。
 腰後ろから生える幹で、その小柄な身体を宙吊りのように支えられてこそいるものの……傍目から見る限りでは、とてもそこに『魂』が宿っているようには感じられない。


 ときを同じくして……少女の腰後ろから繋がっていた異色の大樹が不気味にざわめき、脈動するかのように全身を震わせる。
 大きく伸ばされた枝の一つ一つ、葉の一枚一枚に至るまで、この『神域』から奪ったのであろう高密度の魔力が行き渡っていく。


 ぼんやりと光って見えるのは、表面に浮かんだ微細で緻密な魔法陣。
 あるものは【防御】、あるものは【結界】、あるものは【熱線魔法】……そしてまたあるものは【飛翔】と【爆破】。



 幹に、枝に、葉に、それら数多の魔法陣が一斉に(あか)りを(とも)していき……この世ならざる異界【隔世(カクリヨ)】の夜闇に浮かぶ明かりは、さながら神秘に満ちた神木のようで。
 しかしてその実態は……この世界の(ことわり)をぶち壊し、侵略を試みる異世界の魔手。



 かつて世界ひとつを崩壊させた、【魔王】と呼ばれる異界の大樹が。

 数えきれぬ程の【熱線魔法】を束ね、『勇者』たる白亜の鎧を撃ち落とさんと……殺意に満ちた目覚めの叫声を上げる。



(ラニ!!?)

(…………ッ!! ボクに構うな! ()()!)

(く、ぅ、……ッ!)



 本来の身体である大樹へと、その意識を戻したらしい【魔王】メイルス。

 つい先程まで身体を好き勝手弄ばれていた少女の、今や『がっくり』と項垂れるその身体のすぐ傍らで。


 おれはおもむろに姿を曝し……親愛なる勇者に託された()()()()を両手で掲げ、思いっきり振り下ろす。



「ぬェありゃァァァ!!!」

≪――――縺舌≦縺」!!!?!??!?≫



 攻城砲と化したミルさんによる大規模攻撃魔法と、足元をチョロチョロしながら煽りまくる因縁の相手……【魔王】にとってやっかい極まりないであろう、二つの懸念事項を隠れ蓑に。

 入念かつ執拗な【隠形】【隠蔽】【静寂】を纏い、相棒から伝家の宝刀を借り受けたエルフの魔法使いが……こうして、こっそりと『囚われのお姫様』へと近付いていたのだ。


 【魔王】の意識が『大樹』へと移った今こそ、依代となっていた彼女を奪還する最大の好機である。
 果たしておれたちの作戦通りに、接続部の幹を断ち切ることに成功。軽く華奢な少女の身体をしっかりと抱き止め、おれは追撃を警戒しつつ全速で撤退を図る。



『よくやったノワ! あとは任せろ!』

「い、一旦下がるから! 絶対に…………ぜったいに、気をつけてよね!!」

『ははっ! 誰に向かって言ってるのさ! 我こそは『勇者』……【天幻】のニコラぞ!』


 心強い相棒の声に背中を押され、おれは一時的に主戦場を後にする。
 奪還に成功した彼女の安全を確保し、身体と心のケアをするためにも……戦場と化したこの結界内で最も安全な場所へと急行する。




 それこそが……悪辣なる【魔王】の最後の策であると、ついに気づくことの無いまま。












497【驚天動地】トロイの木馬

 

 

 

 

 

『魔法使い殿は……【檻顎草(ディオナクラプトゥス)】は、ご存知無いかな? …………あぁ、なるほど。こちらの世界由来の植生(モノ)では……『ハエトリソウ』という(しゅ)が近しいか?』

 

「ぐ、ぎ、……っ! 誰が『ハエ』だ、失礼な……!」

 

『これは失礼した。……いや何、美味しそうな餌に釣られてふらふらと飛んでくる様が、ね。あまりにも滑稽だったもので』

 

「ぅぐァ……ッ!?」

 

 

 

 ……まぉ、おれが()()なった原因は……ひどく単純なものだ。

 

 全身を弛緩させた彼女の身体を落とさぬようにと、ぎゅっと()(かか)えて飛んでいたおれの身体を……突如()()()()()()()、ガッチリとホールドし返してきたのだ。

 

 一瞬感じた違和感、そして背筋が凍るような悪寒に、おれが行動を移す前に。

 幼げな少女の四肢でガッチリと拘束され、【飛翔】魔法の構築に失敗したおれの身体に……彼女の身体から現れたトラバサミのような葉が喰らい付く。

 

 

「『ハエトリソウ』は、こんな……握力強くなッ、…………ッ!?」

 

『そこはほら、【檻顎草(ディオナクラプトゥス)】と言っただろう? ふらふらと餌に近付く憐れな亡者を捕らえ糧とする……愛らしい女神の睫毛(まつげ)だよ』

 

「……ッ!? ちょ、……ッ!!」

 

 

 一本、二本、そして三本。勇者(ラニ)印の防具のお陰で皮膚を喰い破られることこそ無いが、その握力とトゲトゲのせいで逃れることは難しい。

 

 そうして完全に『捕まった』憐れなる獲物の末路は……まぁ言うまでもないだろう。

 思えば最初に会ったときから、あの【魔王】は度々口にしていた。

 

 

 おれのこの身体を……最上の素材を、計画のために是非とも手に入れたい、と。

 

 

 

 

『君のその身体があれば、『我等が世界』との跳躍は容易い。開かれし【門】は我が身のみならず、多くのヒトビトをも容易に送り込めるだろう』

 

「…………っ、ふ………ッ!?」

 

 

 

 おれの全身に十重二十重(とえはたえ)に絡み付く、【魔王】の全身から伸びる赤黒い(ツタ)

 みるみるうちに勢いを増し、次から次へと押し寄せてくる『植生』の末端器官。

 

 シズちゃんの身体もろとも、根っこの『繭』へと閉じ込められたおれの身体は……もはや身じろぎさえ叶わない。

 

 

 それに加えて……極めて遺憾なことに。

 この『繭』の中では、魔法の行使を阻害する結界のようなものが張られているらしく。

 

 おれが全力でヤれば、ブチ破れないことは無いかもしれないが……そうなるとゼロ距離で密着する少女の身体は、恐らく助かるまい。

 ……まぁ、こうして躊躇した隙を突かれて窮地に陥ってりゃあ、まるで格好つかないわけですけどね。

 

 

 

『……赦しは、乞わん。せいぜい恨み、呪ってくれたまえ。……だがそれでも……『この世界』にどれ程恨まれようと、私は…………()()()()を滅ぼした張本人である、私だけは』

 

 

 

 か弱いおれ本来の力では振りほどけず、頼みの綱の魔法でもぶち破れず。

 

 完全に()()の状況へと追い込まれ、今まさに身体を乗っ取られようとしているおれの耳に。

 

 

 

 

『…………他の何を犠牲にしてでも……()()()()を、()()()()()()を…………私が、元通りに直さねばならないのだ……!』

 

 

 

 

 

 

 ひとりぼっちの【魔王】の、さびしい勝利宣言(懺悔)が。

 

 とてもむなしく……届けられ。

 

 

 

 おれの意識が、塗りつぶされた。

 

 

 












※ネタバレ:逆転勝利します(主人公なので)




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