【本編完結】コントラクト・スプラウト ~ おじさんでしたが実在合法美少女エルフになったので配信者やりながら世界救うことにしました ~ 作:縁樹
「…………確認なんだけど」
「ハイ! なんでしょう!」
「…………『焼き』工程、ちゃんと……大丈夫だよね? ……この量、普通のオーブンは……」
「……ええ、ご心配は
「自覚あったの」
「アッ、いえあのそのえー、ハイ。……なのでもう、ほんと、なんといいますかご心配はご
「…………ふぅーん? ……まぁ、がんばって」
「ウッス! あと一息……ガンバリマス!」
「期待してるからね」
「アッ! えがお! すき!」
「………………きも」
「ヴッ!!!」
大変長らくお待たせいたしました!
……ええ、本当に。まさかここまでもたつくとは思いませんでしたが……ここへきてやっと、注目の目玉である『成形』へと取り掛かることができます!
まぁここからは正直『ご自由に整形してね』でも大丈夫なんですけど、参考までにちょこーっと撮影しておきますね。
ここでご用意しますのは……こちら! アクリル角棒と……麺棒!
ちょっと音だけだと何言ってんのかわかりにくいですが、
まずクッキングシートを敷きまして、そこへ冷やして固めたクッキー生地を適量。アクリル棒を左右に置いて、麺棒をこうして……橋渡しするような感じで、生地を伸ばしていきます。
こうすることで…………ほら! アクリル棒の厚さでクッキー生地を均一に
……ころころころ。
……ぐいぐい。
……ころころころ。
……ぺたぺた。
……ころころ。
これを、他の色の生地も同様に
均一の厚さに延ばした生地を、今度は厚さと同じ幅で、包丁で棒状に切り揃えていきます。……要するに、クッキー生地の角棒を作っていくわけですね。
……すっ。
……とん。
……すーっ。
……すとん。
別の色の生地も同様に、角棒で切り揃えまして……あとはこの角棒を、例の市松模様になるように四本束ねて、つぶれないように気をつけながら圧着していきます。
クッキングシートで包んで、まな板のような平らな板で両側から押さえるようにするといいかもしれません。
……ぎゅっぎゅ。
……ぎゅむ、ぎゅむ。
…………ぐいぐい。
……スッスッス。
そうして四本束ねて、ニ色の太い角棒ができましたら……あとはこれを、五ミリくらいの厚さで輪切りにしていきます!
……とん。
……とん。
……とん。
…………はい! こうして断面を見てみると……じゃーん! きれいな市松模様ができました!
プレーンとココアとイチゴと抹茶、今回は生地を四色用意してあるので、いろいろ組み合わせるのも楽しそうです!
定番の『プレーン✕ココア』『プレーン✕イチゴ』はもちろん、
色の組み合わせパターンは……えっと、四色の重複しない二色の組み合わせになるので三の階乗で、えーっとえーっと……八通りですね!!(※ちがいます)
それにちょうど四色ですので、いっそのこと四色全部束ねちゃって、カラフルクッキーなんかもおもしろいかもしれません! ……ちょっとウィンドウズみたいですけど。
市松模様の他にも、うずまき模様とか同心円模様とか……それこそ『金太郎飴』みたいな感じで、絵柄を作ることも出来ちゃうかもしれません! 余った切れ端を束ねてマーブル模様なんかも作れそうですね!
要するに『何色かを束ねて棒状の生地をつくる』『まとめた棒状生地をスライスする』のがベースになるので、それさえ満たせればそれ以外はどうでもいいんですよね。
……というかぶっちゃけ、あとは焼けばクッキーになるので、いつものように薄く伸ばしてクッキー型で抜いてもそれはそれで良いと思いますので……つまりは自由、フリーダムです! 楽しくやりましょう! お菓子作りですし、楽しいが一番です!
というわけで、皆さんのクッキーの可能性に思いを馳せながら…………
わたしはですね。
この、大量のクッキー生地をですね。
これからですね。
片っ端からですね。
成型していきますね。
…………二〇キロですね。
うおおおおおおおお!!!
…………………………………………
………………………………
……………………
「はぁ…………はぁ…………はぁ………………これで、やっと……」
「…………ん。……すごい量……いっぱいできたね」
「ング、っ…………手伝って……れて…………ありがと、ござます……」
「………………まぁ、さすがに……ね」
ひたすら延々とクッキー生地の成型を続け、さすがに見かねたシズちゃんの手を借りつつ、なんとかかんとか全部やっつけることに成功し……気がつけば、そこそこ時間が経ってしまっていた。
まぁ、量が量だもんな。二〇キロ
とりま成果としては、先述のようにかんぺきだ。スチールの調理バットに敷かれたクッキングシートの上にクッキーが敷き詰められ、その上にクッキングシートを挟んで更に敷き詰められ、そのさらに上にも同様に重ねられ……複層構造を採用し、バットそのものも数を増やし総動員させ、どうにかこうにかぜんぶやっつけた。
なので……あとは、焼くだけだ。
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「ではこれから! こちらの
先程から場所をやや移しまして、珍しくお目々を見開いてびっくり顔してるシズちゃんが見つめる先。
おうちの隣、かつておれが砂利を敷き詰め造成した、露天駐車スペース兼屋外多目的ひろば(
つい先週完成に漕ぎ着けたばかりの、秘蔵の新兵器。モルタルはバッチリ硬化しているし、火入れも試し焼きも落成パーティーも済んでいる。ピザまじうまかった。
「……お待ちしておりました、御屋形様」
「準備ありがとうございます
「……上々に御座います。……内部温度も頂いた資料を基に調整して御座います故、直ぐにでも焼き始められるかと」
「ありがとうございます!! ……というわけで、じゃあ量も量なので! どんどん焼いていきましょう! よろしくお願いします!!」
「「「御意」」」
メイド美少女さんたち四名の手によって、アウトドアテーブル(『おにわ部』作)の上に運び込まれた大量のクッキー……の載ったスチールバットが、どんどん釜の中へと飲み込まれていく。
さすがに一度に全部は入らないが、それでも家庭用オーブンとは比べ物にならないほどの容量を誇る。耐火レンガを使って上げ底にしたり、隙間を開けつつバットを重ねたり、縦方向をうまく使えばもっと詰め込むことが可能だ。
薪を燃やして得られる熱は、ご家庭のオーブンに比べて火力も高い。もちろんコゲないように注意する必要はあるが、素早く一気に焼き上げることができるのだ!
「………………ふしぎなにおい……良い」
「これが『くっきー』に御座いますか! めっちゃ美味しそうですね! 御屋形様!」
「集中しろお前達。
「「……ッ!!」」
「いえあのそんなガチになってもらわなくても大丈夫ですので!!」
頃合いを見計らってスチールバットを引っ張り出し、焼き上がったクッキーをクーラーボックス(徹底洗浄・消毒済)へと丁寧に移し、また次の焼成前クッキーをシートごと乗せて、再び
練度充分、気合も充分な助っ人を得て、こんがり窯焼きクッキーがどんどん焼き上がっていく。
ちなみに『クーラー』と名は付いているものの、コレは根本的には『断熱性能の高い蓋付き容器』だ。保冷剤と共に入れればひんやりを持続できるし、温かいものを詰めればほかほかを持続できるわけだ。
あと何よりも量が入るからな。今回は特にそこが重要なのだ。
……っとまぁ、助っ人の手を借りたことで一気に効率を上げ、驚異のハイペースでクッキーを焼き上げてきたおれたちだったが。
残念ながらというか、むしろよくここまで時間を稼いでくれたというべきか。
おうちを挟んで向こう側、位置的にはおうちの玄関前、撮影現場からは死角になる位置にて……おれもよく慣れ親しんだ魔力の気配を感じる。
おれがカメラをそちらに向けるかもしれない、と気を利かせてくれたのだろうか。シズちゃんが魔力の気配の反対側へ、音もなく移動していく。
……いや、うん。本当よくできたお姉ちゃんだわ。気配りとか空気読むスキルとかがすげーのよこの美幼女。
「……まぁ、時間切れみたいですね。……いえ、ここまでよく仕上げたというべきでしょう」
「……申し訳御座いませぬ、御屋形様。手前共が至らぬばかりに」
「いえいえいえそんな! ……大丈夫です、あの子たちに食べさせたげる分は……こうしてきちんと仕上げてくれたんですから」
「わかめさまっ!
「わかめどの! わかめどの! なにやら
「ごしゅじんどのぉー! かわいい可愛い小生が『おかえり』の
(ごめぇんノワぁー……! さすがに引き止められなかったって……めっちゃ悲しそうな顔で『ノワに会いたい』って呟くんだもんこの子らぁ……)
(ヴッ……! いいのよラニちゃん! よく頑張ってくれたね……! ご褒美のクッキーいっぱい焼けたよ!)
(うぅ、ノワぁーー…………? う、うわァーーーー!? な、ななっ、なんじゃこりゃァーーーー!!!)
……………………………………………
………………………………
……………………
「…………ほんとに、これ…………あとぜんぶ貰ってっちゃって、いいの?」
「大丈夫ですよ。ウチのみんなは満足してくれたし、お持ち帰り分もちゃんと包んでたし、備蓄分も確保しましたし……わたしが各方面にお納めする分も、キレイに焼けたのをちゃーんと貰ってありますし。……むしろ、そんな……ワレとかコゲとか、ワケアリ品ばっかで」
「ん…………問題ない。すてらは……
「…………やっぱり……そう、なんですね」
「……そう。…………あの子は、味
「…………!!」
「だから…………うん。とても、喜ぶ。ありがとうね」
「アッ!! えがお!!」
この世ならざる異能を持ち、しかし姉妹思い(でちょっとボケに対して冷徹)な小さなお姉ちゃんは……そうしてお花の綻ぶような愛らしい笑みを見せ。
デッカいクーラーボックス(※クーラーじゃない)をシッカリと肩から掛け、愛する妹たちの元へと帰っていった。
「また、こんど…………遊びに来て、いい?」
「……っ!! もちろん! 大歓迎です、けど……」
「けど?」
「…………今度は、あの……わたしの部屋じゃなく、玄関から入って来て下さい……ね?」
「ん。わかった」
「アッあと事前予約もください! おもてなし準備とかあるので!」
「話が早いね。……今度は、二人も連れてくるから…………たのむね、ごはん」
「わかりまし………………ッ!!? ちょ、あのシズちゃん!? ごはんってまさか、つくしちゃ…………アァ!? きえた!! シズちゃん!!? ねえ!! つくしちゃんのごはんって!!?」
去り際に……デッカい爆弾を落としていくことも、忘れない。
……まったく、本当に……本当にあの子は相変わらず、最後まで気が抜けない。
「ノワしずかに! キリちゃんたちが一生懸命お片付けしてるんだよ! 手伝おうと思わないの!?」
「だ、だってラニ! つくしちゃんが! ごはん!」
「『だって』じゃないんだよオトナでしょ! 娘たちにお手本見せなきゃでしょう! バケツだって汚しっぱなしじゃん!」
「ねえきいて! ウチの食費の! エンゲル係数の危機なの!! ……あとそれバケツじゃなくてボウルだから!!」
……はい! これは本格的にお仕事頑張らなきゃいけなさそうですね!
依頼中の『おにわ部ピザ窯製作』動画と、今回の『おかえしクッキー焼きまくり』動画と……ほかにもまだまだお仕事しないといけなさそうです!!
まったくもう! 次から次へと大変で大変で、忙しくて忙しくて!
そんなの……そんなの、楽しくなってきちゃうじゃないか!