【本編完結】コントラクト・スプラウト ~ おじさんでしたが実在合法美少女エルフになったので配信者やりながら世界救うことにしました ~   作:縁樹

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59【途中退出】撲殺無双系魔法使い

 

 

 『そのまま左……ちがう、電波塔方向に。あと三十メートルくらい先』

 

 「……すーごいね。人垣が綺麗に割れてくよ」

 

 『あと十メートル…………そこ! 左側の金髪の兄ちゃん! そうその人! そこで()()()()()()!』

 

 

 眼下……大勢の人々でごった返し、今や自動車道路としての機能を喪失している大通り。

 俯瞰するおれの【伝声(コムカツィオ)】による誘導で人波を掻き分け進んでいた重装警官隊は……百貨店内へ向かわずに、とある一人の男性の前へと到達した。

 

 にわかに顔をひきつらせる男性を、重装警官隊の指揮官であろう男性――たしか春日井さん――が引っ掴み、同時に周囲に対して警告とも威嚇とも取れる大声を張り上げる。

 シールドを構え声を張り上げる警官隊に押されるがまま、じりじりと後退していく周囲の人々。なにせ下がろうにも後ろにみっちり人が詰まっているのだ、お世辞にも迅速とは言いがたかったが……やがて春日井さんと彼に確保された男性を中心として、人垣の只中に半径十メートル程度の空間がぽっかりと口を開けた。

 

 あれくらいの空間があれば……あの『葉』程度の運動能力であれば、白谷さんに助けてもらえば何とかなるだろう。

 警官隊だって盾を構えているのだ、周囲の人々の安全は守られる……と思いたい。

 

 

 

 「さて……ボクらの出番かな」

 

 「そだね。……あー緊張する」

 

 「大丈夫落ちついて。ノワは演者なんだろう? 人前で演じるのは慣れてるじゃないか」

 

 「そ、う、かも……? うう、がんばろう。【陽炎(ミルエルジュ)】」

 

 「了解。じゃあボクは隠れて……補助に徹するよ。自由にやってくれ」

 

 「……うん。お願い」

 

 

 頬を両手でぺしんと張り、萎えそうな身体を奮い起こして気合いを入れる。これは()()()の仕事……()()()にしかできない仕事なんだ。

 ……やるしか、ない。

 

 覚悟を決めたわたしは、心強い相棒とともに宙に身を投げ……眼下の包囲網へと落下していった。

 

 

 

 

 既に何人か、わたしを仰ぎ見て指差している人が散見される。身を投げた際はそれこそ悲鳴もちらほら上がっていたようだったが……そんな異変を『苗』の保持者は察知してしまったようだ。

 警官隊に確保されたことで、精神的にも追い詰められていたのだろうか……わたし達が恐れていたことが、どうやら現実となってしまったらしい。

 

 

 「下がって!!」

 

 「ッ!?」

 

 「離れて! 早く!!」

 

 

 おれがアスファルトに着地するのとほぼ同時、保持者の周囲の地面から赤黒い芽が急速に生えてくる。それらはみるみるうちに大人ほどの丈まで生育すると、不格好なヒトの形を模した葉っぱの塊へと変貌する。

 その数……じつに七体。おれにとってはまるで脅威にならなかった『葉』だが、生身の人間相手ではどうなることか。咄嗟に春日井さんに声を飛ばして下がらせ、彼に身の安全を確保させる。

 

 あいつらの……『葉』ならびに『苗』の行動原理は、外部の魔素(イーサ)を吸収して自身を生育させることだ。つまり目の前に上質な魔素(イーサ)の持ち主が居ればそれを狙ってくるハズであり、つまりはわたしを狙ってくるハズなので、一般人の方々は距離さえ取っておけばとりあえず安全のハズ。……そのハズ。

 とはいえ不意打ちで片を付けた浪越銀行の一件とは……保持者に意思の疎通が図れるほどの自我が残っていた前回とは異なり、今回は完全に()り合うしかない。本格的に事を構えるのは初めてなのだ、正直どう転ぶか全くわからない。

 

 とりあえず確かなことは、勝利条件と敗北条件。

 勝利条件は、保持者の延髄から延びる『苗』を除去すること。

 そして敗北条件は……保持者を含め、人的被害が生じてしまうこと。

 

 

 

 「【加速(アルケート)】【防壁(グランツァ)(アルス)】」

 

 

 何はともあれ、これ以上『葉』を産み出させるわけにはいかない。時間は有限、一時停止は不可能。行動は迅速に行うべきだ。

 そこらの十歳児以下の体力しかない身体を強化(バフ)魔法で補強し、光の防盾を従えて『葉』の一体へ肉薄する。

 

 

 さっきまで振り回していた聖命樹の(リグナムバイタ)霊象弓(ショートボウ)は白谷さんに返却してしまった。小型軽量で取り回しに優れる上、実質無料で遠距離攻撃が出来る優れものだが……周囲全てに保護対象が存在するこんな場所で使えるわけがない。万が一にでも的を外せば確実に怪我人が出る。百発百中を気取るほど自惚れているつもりは無い。

 

 代わりに借り受けたのは、これまた小型軽量な近接用武器。分類としては鈍器になるのだろうか、緩くうねった直線状の硬木製で、長さは六十センチ程度。形状としてはチアリーダーが使うようなバトン……トワリングバトンが近いだろう、細い軸の両端には綺麗な装飾の施された一回(ひとまわ)り太い球状の部分があり……なんだろうこれ。水晶のような、綺麗な石のようなものが固定されている。

 

 銘は『銀檀の(サンタルム)片手短杖(フォロウロッド)』。殆んどが木製なだけあって非常に軽い上に、全体に緻密な魔法紋様が刻まれているお陰なのか、非常に手と身体に馴染む。

 使い方は極めて単純……長めに持って、魔力を込めて、殴る。それだけ。打撃の瞬間に一種の炸裂魔法が展開され、打撃対象へ一方的に衝撃をブチ撒ける。使いこなせばそれこそトワリングのようにくるくる回し乱打したりそのまま投擲したり、投擲後の軌道さえも意のままに操れるらしいが……とりあえずは鈍器でいいと思う。

 白谷さんの触れ込み通り、実際腹部に打撃を受けた『葉』はものの一撃で爆散していった。

 

 ……なんだこれ。つよいぞ。

 

 

 「おお、いける……!」

 

 (そりゃそうだろうね)

 

 

 真っ二つというか粉々になった一体目の『葉』が風化していくのを視界の端に捉えながら、そのまますぐ近くに呆立(ぼった)ちしていた二体目の『葉』に殴り掛かる。これまた打撃の瞬間に魔紋と水晶が淡く光り、頭部どころか上半身を消し飛ばされた『葉』がゆっくりと崩れていく。

 三体目がわたしに手を伸ばしてくるのが見えたので、ゆっくりと迫るその両腕を下から短杖(ロッド)で跳ね上げ……るつもりが勢い余って消し飛ばし、両腕を失い体制を崩した三体目のガラ空きの胴体に遠慮なく突き込んで爆散させる。

 勢いそのまま三体目の後方に突き抜け、四体目の目の前へ着地。どこを見ているのか対処らしい対処の出来ない四体目の脚を蹴り払い、倒れようとしているそいつへと短杖(ロッド)を振り上げる。ヒトでいうところの腰後ろに痛烈な打撃を受けた四体目は、腹の中身(詰め込まれた蔓や茎や葉)を撒き散らしながら四散する。

 

 

 「……なんか解ってきた気がする」

 

 (さっすが! やっぱ学習が早いね)

 

 

 振り回すうちに短杖(ロッド)と波長が合ってきた気がしたので、次の標的の後方に白谷さんが待機している(万が一の際はフォローして貰える)のを確認した上で、ひとつ試してみる。短杖(ロッド)の中央付近を摘まむように保持し、指を動かし短杖(ロッド)をくるくると高速回転させて遠心力を稼ぎ出し……それを投げる。

 

 円盤のように飛翔する短杖(ロッド)は狙い通りに五体目へと向かっていき、その胸部から上を容易に斬り飛ばす。その後はわたしがイメージした通りの、ブーメランのように弧を描いた軌道を飛翔し……『ぱしっ』と小気味の良い音と共に、わたしの手のひらに帰還する。

 ……なんだこれ、めっちゃ良い子じゃん。

 

 

 とりあえずこれで五体……保持者の彼よりも前方に展開されていた『葉』は駆除し終えた。接敵からここまで僅か五秒程度……十秒には満たない短期間での殲滅。ここまではなかなか良い手際だったと思う。

 

 今のところ残る『葉』は、あと二体。彼がこれ以上『葉』を広げる前に制圧し、苗を引っこ抜く。

 そうすれば……わたしたちの勝ちだ。

 

 

 


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