【本編完結】コントラクト・スプラウト ~ おじさんでしたが実在合法美少女エルフになったので配信者やりながら世界救うことにしました ~   作:縁樹

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※ あの人のママに会いには行きません



71【参拝計画】今二人電車に乗ったの

 

 自宅から(けやき)駅までの道中は、万が一ご通行中の皆さまに見られてしまった際に備えて【エルフ隠しVer2.0】を掛けて貰っていたのだが……監視カメラが据え付けられている改札をくぐるにあたって、それは解除して貰っている。

 つまり今のおれは長耳と緑髪と翠眼の幼女であり、身に纏う衣類こそこの時代・この国において違和感の無い装いとなっているが……まぁ、つまりは控えめに言って『とても目立つ』容姿なのだろう。

 乗客の数自体はそう多くないとはいえ、先程から少なくない周囲の視線がチラチラこちらへ向けられているのを感じる。

 

 ここからは【エルフ隠しVer2.0】を纏うことは出来ないので、外出中はこの状況に慣れる必要がある。今でこそまだカメラを向けられてはいないが、これまでの経験から言って時間の問題だろう。

 ちくしょう、背中ポスター付けてくれば良かったか。でもあれちょっとダサいんだよな、あれ着けたまま電車とかやっぱ嫌だ。……いや、歩く看板だもんな。ちょっとどころじゃないか。めっちゃダサい。

 

 

 「写真……諦めなきゃダメだよなぁ」

 

 『ノワの写真を無料(タダ)で撮ってかれるなんて……ちょっと良い気分はしないけどね』

 

 「んー……でもま、仕方ないよ。ルールだマナーだモラルだ言ったところで、ほとんどの人はそんなの気にしないもん。明確な罰則とかあるわけでもないし、全員が全員罪に問われるわけでもないし」

 

 『やったもん勝ち、ってやつか。……嫌だなあ』

 

 「……そう、だね。……だからこそ、ちゃんと礼を尽くしてくれる視聴者さんは大切にしないと。……あっそだ、SNS(やいたー)やんないと。コメント返しコメント返し」

 

 『大変だねぇ、あれやったりこれやったり』

 

 「んへへ、そうでもないよ? やっぱ何だかんだ言って、見てもらえるのって嬉しいし。話題に上げて貰えるのはもっと嬉しい。……あのニュースみたいな言い方する人は……さすがにちょっと嫌だけど」

 

 『アイツね、縦長顔で偉そうなダミ声の。……名前覚えたよ。あとはアイツの毛の一本でも引っこ抜ければ』

 

 「呪ったりしないでよね!?」

 

 

 各駅停車の浪鉄線はのんびりと進み、神宮東門駅までは……残すところ、およそ十分。

 おれのSNS(つぶやいたー)アカウントへ寄せられた膨大なコメントの中から、ほんの僅か一部。申し訳程度ではあるが、おれは真摯にお返事を返していった。

 

 

 

 『歌声めっちゃ綺麗!! またおうたお願いします!!』

 『ありがとうございます! 権利的に大丈夫そうな楽曲があれば、積極的に歌ってみたいと思います!』

 

 『髪アップわかめちゃんかわいい……エプロン姿すき……』

 『ありがとうございます! 正装以外にも状況が許せば、いろんな服に挑戦してみたいと思っています! 待っていてください!』

 

 『仮想(アンリアル)って嘘でしょ? どう見ても実在ですよね?』

 『コメントありがとうございます! アンリアル出身ですが、頑張って色々できるようになりました! エルフなので!!』

 

 『モリアキ神の公式エッッッ見ました。かわいいぱんつはいてるんですね』

 『タレコミありがとうございます!! ちょっと文句言ってきますね!! 出来れば記憶を失くして頂けると助かります!!』

 

 『サンタコス可愛かったです。また季節のコスプレ動画お願いします』

 『ありがとうございます! モデル用意の兼合とか色々あるので軽率にお約束はできませんが、可能な範囲で前向きに頑張ります!』

 

 『後発組ですがお布施したいです。どうすれば良いですか?』

 『ご声援ありがとうございます! 現在ユースクさんへ収益支援プログラムの申請中です。もう少々お待ちいただくか……フォロウボックスの月額コースもご検討いただけると泣いて喜びます!』

 

 『お料理動画見ました! 若鶏の墓っておどろおどろしいネーミングわらう。ところで時々入り込んでる声、誰ですか?』

 『コメントありがとうございます! 少しでも楽しんで貰えたなら幸いです! 謎の声に関してはもう少々お待ちください!』

 

 『若芽のおはなしクッキング拝見しました。若芽ちゃんではない声が随所に入り込んでいるのですが、誰の声ですか? ママですか?』

 『コメントありがとうございます! 謎の声に関しましては、すみませんもう少しだけお待ち下さい! モリアキさんではないです!』

 

 

 

 「白谷さんほらほら。白谷さんの声めっちゃ反応来てるよ。かわいいって」

 

 『…………へぇ、これは……ふぅん』

 

 「んふふ……嬉しい? かわいい、って」

 

 『そうだね。……せっかくノワがくれたこの身体だ。早くお披露目して……たくさん称えて貰いたいね。ノワを』

 

 「え!? おれ!? …………っと……わ、わたし?」

 

 『そりゃあ勿論。ボクの身体に対する称賛は、この身体の作り手に向けられるべきだろう? 楽しみだよ』

 

 「うーん…………まぁ、お……わたしも楽しみ。早く共演したいねぇ」

 

 『そうだね。精一杯お手伝いさせて貰うよ、色々と』

 

 「うん。……よろしくね」

 

 

 

 和やかな雰囲気のまま車輌はがたごとと進んでいき……やがて線路は大きくカーブを描いたかと思うと、そのままゆるゆると速度を落として停車する。

 車内アナウンスが目的地であることを告げ、おれは肩掛け鞄と肩の上の人物を確かめ、忘れ物がないことも確認し……神宮東門駅へと降り立った。

 

 鬱蒼と繁る木々の姿が、このホームからもはっきりと見てとれる。あの森の中に佇む社が、中部日本有数のパワースポット……三大神器のひとつを祀る鶴城(つるぎ)神宮。

 白谷さんたっての希望により足を運んだ、本日の目的地である。

 

 

 


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