【本編完結】コントラクト・スプラウト ~ おじさんでしたが実在合法美少女エルフになったので配信者やりながら世界救うことにしました ~   作:縁樹

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72【参拝計画】神の宮

 

 

 (けやき)駅とは比べ物にならないほどの規模と利用者数を誇る、ここは浪越鉄道神宮東門(じんぐうひがしもん)駅。

 改札口は地上二階部分に位置し、四階建ての駅ビルには数多くの土産物店や飲食店、果ては生鮮食料品を扱うスーパーマーケット『なみてつストア』までもが入っている。

 随所の汚れや造りの古さなど年季を感じさせる建物ではあるが、鉄筋コンクリート造の駅舎は何だかんだ言ってやっぱりタフだ。まだまだ現役で働いてくれることだろう。

 

 

 電車から降り、登り階段を登り、自動改札機を通過し、鶴城(つるぎ)神宮方面の出口に向かっている間――そう、今まさにこの瞬間も――周囲四方八方より人々の視線が向けられているのを、おれの知覚はしっかりと捉えている。

 やはりというか……黒髪黒眼が大多数を占める日本人の波の中において、緑髪翠眼のおれは非常に目立つようだ。

 長い髪のほとんどを帽子の中に仕舞い込んだとはいえ、前髪やうなじのあたりは髪が露出している。その派手な髪色で集められた周囲の視線は、長く尖ったおれの()を認識したことで……すぐ逸らされることはなく、ガッチリと固定されてしまっているようだ。

 

 

 『めっちゃ見られてるね。……大丈夫? ノワ』

 

 「ん……へいき。視聴者さんだって思い込んでればイケそう」

 

 『無理しないでね。……きつかったら、ボクが傍に居るから』

 

 「うん。だから安心だよ。……大丈夫」

 

 

 おれ本人の知名度なんて、有って無きが如しだろう。モリアキ繋がりで知ってくれていた鳥神(とりがみ)さんは例外として……動画配信者(ユーキャスター)としてはオブシディアンランクに上がったばかりの、有象無象のなかの一人にすぎない。

 なので、今現在向けられている視線は単純に『なぁにあの子、ずいぶんヤンチャな髪の毛しちゃって……』の類いの視線だろう。好奇の視線ってやつだ。

 

 すみません。白昼堂々と()()()()()()()()してます。ほんとすみません。迷惑かけないのでゆるして。

 着ている服も普通の(子ども)服だし、ファンタジーな正装で徘徊していた伊養町のときよりかは違和感も迷惑も少ないはずなんです。

 

 

 「……まぁでも実際、思ってたほどじゃないな。まわりの視線全部『視聴者』だって思うの、結構イケるわ」

 

 『それはよかった。あ、信号青だよ。足元段差気を付けてね』

 

 「んう。……っと、そうそうあれ。正面のあれが鶴城(つるぎ)さんだよ」

 

 『へぇ……まぁ木々の枝振りも立派だし、枝葉の勢いも良い。確かに魔素が…………まぁ、うん。他の地点よりは豊富なようだね』

 

 

 鳥の鳴き声を模した電子音声に導かれるように、おれ達はいそいそと横断歩道を渡る。おれの暮らすこの県はお世辞にも交通マナーが良いとは言えないので、横断歩行者が居ようとお構いなしに車が曲がってくる可能性も大いにあるのだ。

 お社の森とその入り口を守る大鳥居がどんどん近づくが……肩の上の白谷さんの言葉は、なんだか少しばかり歯切れが悪い。

 

 

 「えーっと……足りなそうな感じ?」

 

 『……いや。時間を掛けるか、何度かに分けるかすれば大丈夫そうだ。せっかくノワが案内してくれたんだ、無駄にはしないさ』

 

 「うーん……なんか、ごめんね?」

 

 『ノワが謝ることじゃないよ。……ここの『神様』とやらには、ちょっとばかり思うところあるけど』

 

 「ははは…………あんま悪く言わないであげてね」

 

 

 横断歩道を渡りきって、社の森の入り口である大鳥居の前に辿り着く。コンクリート製ではあるものの高さは十五メートルにも達し、存在感はかなり大きい。

 作法に(のっと)って鳥居の手前で会釈をし、見よう見まねで可愛らしく会釈をする白谷さんを見て和みながらも、おれ達は大鳥居を潜り抜けて鶴城(つるぎ)神宮の境内に足を踏み入れ、

 

 

 

 

 

 

 『――――ッ!!?』

 

 「……え?」

 

 『なん、ッ……だ? …………何だ、これ……!?』

 

 「し……白谷さん? 顔色悪いよ? 大丈夫!?」

 

 

 大鳥居の内側に……鶴城(つるぎ)神宮の境内へと足を踏み入れた途端、突如白谷さんはその眼を大きく見開き、せわしなく周囲を見回し始めた。

 いったい何があったのか。おれ自身には感じ取れない『何か』を、白谷さんは感じ取ったのだろうか。思わず周囲を見回すものの……いきなり大きな声を出したおれを何事かと凝視する、一般の参拝客の方々がいるばかり。

 

 ……危ない、通話してるフリしないと。

 耳につけた無線ヘッドセットをやんわりとアピールしながら、不審にならないよう気を付けつつ白谷さんの様子を窺う。

 

 

 「白谷さん……?」

 

 『…………ははっ。……誰だよ、『他の地点よりは豊富なようだね』とか偉そうなこと言ったヤツは。……ボクだよ』

 

 「ちょ、ちょっと……白谷さん? 大丈夫? おっぱい揉む?」

 

 『揉む揉む。……じゃなくて。ごめんノワ。……そして、ありがとう。この地を紹介してくれて』

 

 「………………えっ? それって……魔素が?」

 

 『うん。凄いよ、これは。この森全体が一種の結界だ。魔素の密度も質も半端ない。この……()がそのまま、ツルギの結界の出入り口になってるわけだ』

 

 「あーそういえばなんか聞いたことあるような……じゃあさっきまでの『よそよりはマシだね』みたいなのは」

 

 『そうだね。この結界から外へと漏れ出た……ほんのひと欠片に過ぎなかったんだろう。この()はまるで格が違う』

 

 「え…………そんなに?」

 

 『そんなに、だよ。外周部でさえ()()なんだ。結界の中心なんかは……すごいね、文字通りの『神域』と化してる。これはもう……神様の住処だよ』

 

 「……………………わあ」

 

 

 

 浪越市民憩いの場である、神宮(かみや)区の鶴城(つるぎ)神宮。

 

 その森の奥、中心は……神様の領域だったようです。

 

 

 


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