【本編完結】コントラクト・スプラウト ~ おじさんでしたが実在合法美少女エルフになったので配信者やりながら世界救うことにしました ~   作:縁樹

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90【配信準備】頼りになるアシスタント

 

 

 およそ一週間ぶりとなる生配信……身体いじめに終始した前回を大きく上回るほどに、盛り込むべき内容は膨大だ。細部はこの身体のアドリブ(りょく)に任せるにしても、全体の流れとタイムスケジュールはしっかりと固めておくべきだろう。

 白谷さんの【門】を通って一瞬で帰宅を果たしたおれは、明日の配信の台本を纏めるべくいつものように愛機(PC)を起動する。

 

 

「待って待って待って。ノワノワ、その格好のまま作業するの?」

 

「ん? その格好…………あー」

 

「シワとかなったらマズいよ。ちゃんと畳むか、ハンガーに掛けといて。浄化とかはボクが済ませるから」

 

「ありがとうたすかる。絶対洗濯機で洗っちゃマズいやつでしょこれ……」

 

 

 着るのはまだちょっとぎこちないので、シロちゃんに手伝って貰いたいところだが……脱ぐ分には何も問題無い。

 各所の括り紐をほどいて千早と袴を脱いでハンガーに掛け、小袖と襦袢も脱いで同様に掛けておく。……パンツは別に脱がなくて良いだろう。紐じゃなきゃいけないなんて指定は無いだろうし、白を指定されたとしても何枚かある。

 部屋着であるモコモコあったかパジャマに袖と脚を通し、今度こそ作業机へと着座する。衣服よし。

 

 それではあらためて……作業開始だ。

 なんてったって大切な相棒、白谷さん(ラニ)の御披露目である。絶対に下手を打つわけにはいかない。

 デスク横の保冷庫からファイト一発なドリンクを一つ取り出して『ぐいっ』と(あお)り、撮影したデータをゴップロ(カメラ)から取り込みながらテキストエディタを開く。

 

 

「気負いすぎないようにね、ノワ」

 

「んえ? やー大丈夫。おれは頑張れるよ」

 

「……キミがそう言うなら、今は止めないけど…………これだけは覚えておいて。キミはひと(たび)のめり込んだら、周りが見えなくなる傾向がある」

 

「…………ん。……自覚はあるよ」

 

 

 ほんの先日。飲まず食わず脇目も振らず、およそ六時間ぶっ通しで愛機(PC)にかじりついていたのは記憶に新しい。

 あのときは白谷さん(の設定したおふろアラーム)によって我に返ったが……その途端に封印していた生理現象が、『待ってました』とばかりに立て続けに騒ぎ出したのだ。

 

 それこそ、もう少し我慢して作業を続けていたら……()()とは言わないが漏れていたかもしれない程に。

 

 この『動画編集にかかわる動作をひたすらに最適化する』呪い(設定)は、ものすごい進捗ペースで作業を進められる強みがある一方で……その反面、その他の動作は優先度下位に設定されてしまうらしく、下手をすれば体調不良や尊厳の危機に陥る可能性が高いのだ。

 

 

「一つのことに集中できるのは長所でもあるけど……キミの場合は、その加減が極端に過ぎる。……ボクから見て『やばそう』って感じたら、そのときは()()()でも止めるから。良いね?」

 

「……うん。すごいね、マネージャーさんだ」

 

「当然。ボクは頼りになるアシスタント妖精だからね」

 

「心強いけど……おれの胸なんて揉んでも楽しくないでしょ。そんなに好き?」

 

「勿論。ノワの身体は全部好き」

 

「…………えっちだなぁ、白谷さんは」

 

 

 ……なので、そんなときに白谷さんの助力はとてもありがたい。ちょっとえっちなところもあるけど、そこはご愛嬌だ。

 おれ自身が作業にのめり込んでしまっても、おれの体調をマネジメントしてくれる白谷さんが適宜ペース配分や休憩を指示してくれる。

 おれは自身の心配をせずに最大効率で作業に取り組めるし、精神的被害を被ることも避けられるのだ。

 

 可愛くて、賢くて、とても頼りになる。

 本当に得がたい、大切な相棒だ。……ちょっとえっちだけど。

 

 

「とりあえずは明日の段取りだね。二十一時スタートで二時間の予定だから、その百二十分の割振りを考えなきゃいけない。白谷さんのお披露目と紹介と、年末年始の更新スケジュールの公開と……巫女さんアルバイトの報告と、鶴城さんのPRも盛り込まないと」

 

「おうたも入れないとだよ。ノワのおうた大人気だったじゃん。民謡アカペラなら準備も要らないんだろ? 毎回ひとつずつ定番化してみても良いんじゃない?」

 

「あー…………ありかも。でもまあ、あくまで前回同様『そこまで言うなら……しかたありませんね!』な感じで。わかめちゃんの()()()()()みたいになれば良いなぁ」

 

「モリアキ氏にサクラ頼んどこうよ。……まぁ尤も、仕込むまでもなくオネダリされると思うけどね」

 

「んへへへ。だったら嬉しいなぁ。……でもま、念のため頼んどこう。モリアキきっと見てくれるだろうし」

 

「そうだね。彼はそういう子だ」

 

 

 やっぱり、白谷さんは頼りになる。おれが見落としがちなところを、しっかりばっちりフォローしてくれる。

 ひとりぼっちで原稿を考えているときよりも、良い考えがどんどん出てくる。三人寄ればなんとやら……まぁおれたちは二人なんだけど、それでも効果は目ざましい。おかげで作業の進みが明らかに早いのだ。

 おれはキーボードをだかだかと打ちならし、それらを文書データとして纏めていく。おれたちの目的のためにも、そして白谷さんのためにも……明日の配信はなおのこと張り切って臨まなければ。

 

 

 この身体の集中技能を遺憾なく発揮した原稿作りは、なんと早々に完了してしまった。

 これ幸いとそのまま鶴城(つるぎ)さん動画の編集作業に移ったのだったが……今日は白谷さんによる万全の支援体制により、一時間ごとの休憩を挟みながら零時まで問題なく作業を進めることができた。

 

 

 この進捗ペース…………すごいよぉ!

 さすがアシスタント妖精さんン!!

 

 

 


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