ある日の事だった。
「真二くんに頼みがあるんだけど?」
「どうかしたの?」
「お父さんに会ってほしいの」
「えっ?ちょっと待て、結婚の挨拶か?」
「違う!何勘違いしているの?とにかく、聞いて」
「わかった!」
真二は絵名の話を聞くことになった。
「そういうことだったのか…」
「だから…真二くんからも、言ってほしい」
「わかった、彰人にも迷惑かけそうだし、
俺も、イラストや絵は、時々描いていたけど、
絵名ちゃんには、及ばないけどね」
「うんうん、さすがは、あたしの彼氏ね」
「だろ?自慢の彼氏だからな!」
正午、東雲家にて。
「それで、肝心の親父は?」
「もうすぐ来るよ」
すると、東雲姉弟の父親がリビングにやって来た。
「ふむ、客か、ゆっくりしていってほしい」
「言われなくても、そうしてます」
「君が絵名の彼氏だね」
「まぁ、一応そうなっていますけど」
「そうなっているんじゃなくて、
実際、彼氏だし」
「そうか、それで、何しに来た」
「単刀直入に言います、
絵名ちゃんを認めあげてください」
「そうか、だが、絵名が画家になるのは、
勝手だが、今まで以上の苦労と苦悩が続くだろう
才能のある者と、才能の無い者が、
同じステージで渡り合っていくのは、
想像以上に、辛いことだ」
「…!!」
絵名と真二は目の前が真っ暗になった。
認められない日々、誰にも相手にされない毎日、
こんな、地獄のような日々があるなら、
死んだ方がマシと思った…しかし、死を選んではいけなかった。
決して。
(今は違う、俺には、えななん…
いや、絵名ちゃんがいるから、こうやって生きている。
でも、この人は違う、何だろう…
絵名ちゃんのことは、どうでもいいような、そういう風に感じ取った)
と、真二の直感だった。
「じゃあ、一つ聞くが、何で、キツく当たる?」
「画家は孤独だ」
「孤独?」
「あぁ、簡単な事ではない。
生半可な努力と才能では、本物と渡り合うことはできない
だが、それでも、画家になることを望むなら、
生涯もがき苦しむことになるだろう」
「…うぅ…」
絵名は、真二の前で怒って泣いていた。
「技術の話だけじゃない、
絵名が乗り越えられるとは、思えれない、
コンクールの時もそうだ、結果は落選だ」
「…」
「うるさいんだよ!アンタ、そうやって、真二くんに
馬鹿にするつもり!?」
「そんな、つもりはない。とても、過酷だからな。
俺は一人の画家として、忠告しておくべきだった」
「でも、今、絵名ちゃんが求めているコトバは、
もっと、単純なのだと、思います」
「なに?」
「絵名ちゃんは、親父さんと一緒で、絵が好きなんだよ。
好きなことで、才能が無いって、
言われたら、傷つくのは、当然だろうが
画家としてじゃなくて、父親として、
もっと、単純に、絵名ちゃんの絵を見てやってほしいです」
「…」
絵名の父親の心に響く事を願い祈るばかりである。