リムルたちに追い出されたフォビオたちは、悪態をつきながら野営をしていた。
「くそっ……許せねぇ……!俺を誰だと思ってる……黒豹牙のフォビオだぞ……!」
「魔王ミリムが相手では、不可抗力というものです。たとえ、魔王カリオン様でも……」
自身の失態と、カリオンの名を出されて声を荒げるフォビオ。
「馬鹿野郎!カリオン様ならこんな無様は晒さなかっただろうぜ、俺が未熟だった話よ。しかし、このまま成果なく戻るのは、俺の誇りが許さんのだ」
怒りに燃えるフォビオ。それは自身の未熟さと、無様を晒したことによるプライドの傷から来るものであった。
「――そういえばアイツら、自分たちの町を作ってやがったな……。下等生物だと侮っていたが、俺達でも及ばぬような技術も持っていやがる……」
「まったくです。配下に加えるなど言わず、我らがユーラザニアと国交を結びたい程ですな」
テンペストの技術力の高さに、今更になって関心を寄せるフォビオ一行。
「ああ……魔王ミリムがいなかったとしても、俺の対応は間違っていた。頭ごなしに支配しても、ヤツラの信頼は得られなかっただろうからな」
自身の悪かったところを見直すフォビオだったが……
「だが今更だぜ。魔王ミリムにやられた屈辱は、ケガが癒えても消えやしねぇ。カリオン様には迷惑をかけねーように、なんとかして復習してやりたいんだよ!」
自身の根底を揺るがされたフォビオはなお感情的になり続ける。
「そうは申されましても、復讐など現実的では――」
「分かってんだよ!頭では無理だって!だけどこればっかりは理屈じゃねぇんだよ!」
止めようとする部下に声を荒らげ、その方法を模索する。
「なるほど、いい怒りの波動ですね」
そこへピエロの格好をした男が暗闇から話しかけてくる。
「何者だ!?」
「いやいや、この悔しい気持ち、この私にもよ~く理解出来ますねぇ~」
そう言いながら一人のピエロは暗闇から姿を表す。
「私が誰だなんてどうでもいいじゃないですか。そんなことより、魔王ミリムに復讐したいのでしょう?ちょうどいい話があるんですよ。少し聞いていただけませんか?」
「……フォビオ様、このような者の話を聴く必要はございません。排除してもよろしいですか?」
ピエロがフレンドリーに話しかけるが、フォビオの部下たちは一切話を聞かずに排除に動こうとする。
「そうは言わずに、ほんの少しでいいのです。嫌なら断ってくれて構いませんので」
「何をたわけたことを。我々は魔王カリオンの獣王戦士団に属する者。野良の魔人程度が相手になるとでも思ったか?」
自らの主の名を出し、自身もそれなりの実力だと牽制する。
「力が欲しいのでしょう?ございますよ……とっておきの力が。当然ですが、危険も大きい。しかし、その危険に打ち勝った時、得られる力も絶大です」
「――ほう?」
「フォビオ様……!」
力の話をされ、興味を持つフォビオ。それを部下が止めようとするが……
「勝ちたいのでしょう?魔王ミリムに?」
「魔……王……!」
再度魔王の言葉に揺れるフォビオ。そこに後ひと押しと言わんばかりに、例の話を取り出すピエロ。
「カリュブディス。ご存知ありませんか?」
「カリュブディス、だと……!」
魔王に匹敵する魔物の存在をチラつかされ、同様を隠せないフォビオ。
「ええ、あの大怪魚の力なら、魔王に匹敵するのです!どうです?要らないなら別にいいのですが?」
「――まて」
「なりません、フォビオ様!」
そして押してダメなら引いてみろと言わんばかりに話を引っ込めようとする。すると呆気ないぐらいフォビオはピエロを引き止めた。
「俺は最初から面白くなかった。なんでオークロードのようなザコが魔王に抜擢されるんだ、ふざけるな!新しい魔王が必要だというなら、俺が――俺が強くなるのなら、カリオン様だって笑って許してくれるだろうぜ!」
「フォビオ様……」
何も言えなくなった部下を置いて、詳細を聞こうとフォビオはピエロに話しかける。
「おお!流石にフォビオ様ですねえ。お目が高い!そうでしょうとも。魔王になるのが、貴方をおいて他にいませんとも!」
「この話……テメーに何の得がある?目的は何だ?」
聞いてみて、乗りたいと思ったが、まだ残っていた理性で最低限のことを聞き出そうとするフォビオ。流石にそこは譲れないようだ。
「魔王になったら、私をヒイキにしてくれたらそれでいいですよ。当然、色々と便宜にしてもらいたいですね。なんせ私だけでは、カリュブディスを従えるのは難しいですから」
「……なるほど、な。だが俺がカリュブディスを従える事ができるかどうかは――」
ここに来てカリュブディスの名に根負けしそうになるフォビオ。なんせ相手は伝説級の相手なのだ。それも仕方がないだろう。だがピエロはそれを見逃さない。
「大丈夫ですよ。フォビオ様なら必ずや成功するでしょう!……どうせならこれもおつけしますよ」
「それは?」
とある水晶玉を取り出し、フォビオに見せる。
「これを使うとあら不思議!体の芯から力が湧いてくるのです!さぁどうです?」
「……俺が魔王になった時、自分たちが、最も役に立ったって実績が欲しいってことか……。その話、引き受けようじゃねーか!エリオン、お前はカリオン様の本へ戻れ」
「フォビオ様!」
止まることの出来ないフォビオ。
「事の顛末を伝えるのだ」
「しかし……」
「カリオン様には迷惑はかけられねえ。三獣士のちいは返上し、野に降ると伝えてくれ」
しかし、最低限の事は考えているようで、部下へとそう声をかける。
「今まで仕えてくれて、感謝する。俺は修羅となり……俺の力を魔王ミリムに認めさせてやる!」
「フォビオ様……わかりました。カリオン様にご報告致します。しかし、カリュブディスの力は未知数。くれぐれもお気をつけてください」
仕方がないと諦めるしかない部下たちは、最後にそう言葉をかわし去っていく。
「……」
「では、向うとしましょう」
仲間の気配がなくなったのを確認したフェビオは、ピエロにそう言われる。
「――ああ、俺とカリュブディスの力を合わせたら、あの魔王ミリムの憎たらしい面を、泣きっ面に変えてやれるだろうぜ」
「ほっほっほ、その意気です!」
愉快に囃し立てるようにそう言うピエロは、早速かの封印場所にフォビオを連れて行く。
「……ここに?」
「そうですね。、まだ復活していませんが、破壊への渇望が漏れ出ています。次期に復活するでしょう。ですからその前に、フォビオ様に取り込んで頂きたいのです」
カリュブディスの封印場所を覗き込む二人、そこからは異様な妖気が漏れ出しており、目を見開くフェビオ。そして言われるがままに水晶を持たされ、洞窟の奥へと進んでいった。
「馬鹿ですねぇ。あの程度でカリュブディスを制御できるわけないじゃないですか。流石は頭が筋肉で出来てるカリオンの部下と言ったところでしょうか?」
フォビオがカリュブディスの取り込みに失敗し、意識が途絶えたのを確認してから、変装を解いた男はそう呟いた。
「まぁ、カリュブディスの件はこれでいいでしょう。中途半端とは言え、あの転生者から奪った知識では、これが正常なのだから……」
クロノから奪った記憶を思い返し、色々と考える。
「あの女のせいで、クレイマンが支配から逃れておかしくなってますからね。それ以外にも原初に手を出したりと、これでは丹精込めて作った計画がおじゃんですよ、ホント。どうしましょうか?」
男の狙いが何なのかはわからない。だがある程度は、原作通り進めないといけない計画を立てているようで、少々困っていた。
「せめてワルプルギスまでは正常に進んでいただかないと……って、そうだ!私がクレイマンを支配すれば……と思いましたが難しいでしょうね。いくら私でも、覚醒魔王、それも究極能力持ちをバレずに完全に支配することなんてできませんし」
自身がクレイマンを支配し、ワルプルギスを開かせようと画策する男だったが、流石に無理があるようで考え直す。
「でも困りましたね。私はあそこ以外で魔王たちが集まる機会を知らない。魔王たちを始末するには、あの時、あの場所が最適なのですが……」
魔王全員を相手して、勝つ自信があるのか、男は他の機会を思い起こす。だが見つからないようで、また思考が一周していた。
「せっかくあの方に力を引き出して貰って、都合の良い世界に転生させて貰ったというのに。邪魔者が多くて困ったものです。まぁ、楽しくないと言えば嘘になりますが、それ以前にあの方との契約がありますからね。私の目的も含めて、必ずや魔王たちを始末しなければいけません」
男の目的には、魔王たちが邪魔だった。もっと正確に言うと、自身よりも強い、又はその可能性がある存在が邪魔だった。だから先に、魔王たちの始末に乗り出したのだ。
「人類側は、東の帝国やら西側諸国やらルミナス教がありますが、利用するだけ利用して、潰し合わせればいいだけです。ですが、魔王側はギィ・クリムゾンがいますからね。彼が一番邪魔です。今行っても勝てなくはないですが、できるだけ勝率を上げて置いたほうがいいでしょうしね」
ギィにも勝てると自負する男は、ワルプルギスの開催方法について考え直す。するととある名案が浮かんできた。
「そうだ。東の帝国を強化すればいいんだ。そしたらそれの対策に、クレイマンは仲間を利用してワルプルギスをするように仕向けるはず。ルドラのこともあるから、ギィも動かざるおえなくなるはず」
一気に道が開け、早速準備を開始する男。
「そうと決まれば早速行動ですね。多重存在っと」
そう言うと三人に分かれる男。
「分かってると思うが、お前は東の帝国の強化と傀儡化をやってくれ、俺は西側諸国にちょっかいかけとくから。で、お前は雲隠れしといてくれ、ないとは思うが俺達が殺られた時のためにな」
「わかった。じゃ、行ってくるよ」
「そうですね。万が一に備えるのは当然です」
とりあえずと男たちは、速攻で組み立てた計画を実行する為に、各地へと散っていくのであった。