カリュブディスを倒し、その日の夜は宴会となった。クマラたちにも良い返事ができ、条約を結ぶ事が約束され、フューズたちも仕事と報告のために明日には旅立つ予定だ。
そんな楽しげな宴の中、来客たちの相手はリムルにでも任せて、エリアとクロノはこれからのことについて話し合っていた。
「クロノ、少し話がある」
「ん?なんだ?」
誰にも聞かれないように、人気のない場所で結界を張るエリア。
「実はわたし、これから異界に籠もって、力を蓄えようと思ってるの」
「え……なんで?」
唐突の発現に困惑するクロノ。
「ちょっと敵対している奴が強すぎるから、今のままじゃ勝てない気がしてね」
「誰だよそんなヤツ。まさか竜種とかギィとか言わないだろうな」
何処からか敵を作ってきたのかと心配するクロノ。もしクロノの言った相手たちだったなら、この町もただではすまない。
「ええ、その程度ならどうにかなったのだけどね。もっと恐ろしくて凶悪な相手よ」
「……冗談よせよ。この世界にそんなヤツいないだろ?」
一瞬話しに聞いていたピエロの事が浮かんだが、その割には何もしてこないので、考えすぎだと思っていた。だが……
「前に、五大サイキョウって話したでしょ。そいつらについて今話すわ」
「五大サイキョウ……」
それを聞いた瞬間、息を呑むクロノ。それを知らないクロノでさえ、エリアの深刻そうな表情を見ては、楽観的にいられない。
「五大サイキョウ。その名の通り、五人いるわたしの世界サイキョウ格の怪物たち。世界側にいたり、力が出せない三竦みの三強たちと違って、いつでもその力を自分のためだけに発揮できる者たちよ」
五大サイキョウは実際上から二番目の立ち位置だ。だが一番上の存在は、滅多なことがないと力を発揮できない。だが五大サイキョウは違う。その圧倒的な力をいつでも自由に発揮できる者たちのことだ。
「ヤツラに上下なんてないわ。ただ好きなように生きて、好きな事をするだけの無秩序なヤツラよ。そしてそれをやり遂げる力も合わせているわ」
「……」
黙り込むクロノ。その高い能力で、エリアの言いたい事を察していて、言葉が出なくなっていた。
「最も強き者 呪人 カーセル
最も脅威ある者 厄災 古内 明理
最も凶悪な者 合成獣 キメラ
最も恐るべき者 破壊神
そして、最も狂っている者 転生神 アネスト・サイエンス」
淡々と話すエリア。そして最後の人物だけは特別視しているようで、それも危険視と言う形でだ。
「最狂 転生神 アネスト・サイエンス。やつがこの世界に手を出している。直接でないことが唯一の救いだけど、それでも看過できないわ」
エリアを敗北寸前まで追い込んだサイキョウ。同時に、五大サイキョウの中で最も危険な存在。そいつを、取り出した携帯端末で映し出す。
「こいつが……」
キレイなピンク髪の身長が低い白衣を着た女神。神性を持ったエルフのように見え、まさに優しき女神のように見えるが……
「やつは自分の知識欲を満たすためなら何でもするわ。それはもう、例外なんて存在しないほどにね。やってないことといえば、思いついてないことぐらいよ」
その中身は、暗黒よりも暗く、深淵よりも闇深く、混沌よりも無茶苦茶な存在。気になったこと、思いついた事を全て調べ試そうとする怪物。そこに倫理観や罪悪感など一切なく、すべてを玩具か実験体としか見ていない碌でもないやつなのだ。
「こいつが、この世界に手を出してる……のか?」
「ええ、こいつは転生神。だから転生者をかえして、この世界になにかする気なのよ。フォビオが出会ったのは多分、その転生者よ」
アネストにより送り込まれた刺客。おれがあのピエロの正体だった。
「神がなんでそんな……」
「あいつは元々神なんかじゃなかったの。元はただのエルフの変種よ。神になったのも、その貪欲な知識欲を満たすため。そのためだけに転生神になったの」
異世界の知識を得るために、ちまちま転生者を探し当てるより、大本となり転生者を扱ったほうが効率がいいと判断した。ただそれだけの理由で、様々な事をして無理やり神になったのだ。
「なるほど、神が興味を持ったんじゃなくて、興味を持ったから神になったと……無茶苦茶だな」
「その上、倫理観も罪悪感も欠片ほども持ち合わせてないわ。新しい知識と自らの発展のことしか頭にないの」
神になる前も、なった後も、そのぶっ飛んだ感性には誰もが顔を歪めるだろう。知識を得るために滅ぼしはしないが、逆に言えば滅びなければ何をしてもいいと思っている。しかもその範囲は、自身が気に入っているものと、未知のものにしか適応されない。
知り尽くした、実験し尽くしたものは、不要なものとみなし、いつでも滅ぼせるように仕掛けを施し放置する。その理由もまた、思いもよらない産物を生み出してくれるのでは?と言う期待からでしかない。
「特に悪い関係でもなかった同じ集落に住む同族が滅びそうで、助けも求められているのに、邪魔だキエロなんて言うやついる?終いには自分が滅ぼしてやってもいいとか、必要になればクローンでもなんでも作るとか言い出すのよ」
「ただのヤベェやつじゃねぇか!」
そんなもの序の口でしかないが、これだけでアネストがどれほど狂っているか分かるだろう。
「で、そんなやつの眷属かなんかがこの世界に送り込まれて来たと」
「そう、そいつがいつ本格的に動き出すかわからないから、今のうちに力を溜め込みたくてね。多分、別世界ってのもあって、確実に勝てる奴を送り込んでるだろうし」
本調子にならなければ勝ち目がないだろうと予測するエリア。それほどまでにアネストの眷属は危険極まりないのだ。
「でも本調子でも勝てるのか?こっちに合わせて送り込まれてるなら、究極能力だって持ってるだろうし、竜種にだって届く可能性があるんだろ?」
「ええ、それぐらいやってくるわね、あいつなら」
本来人間の魂程度では竜種に届く力は出せない。だがアネストならば、人体のみならず魂の改造さえお手の物、その圧倒的知識力でそれを解決する事ができる。とは言え素材のこともあって一人しか送り込めてはいないようだが、それだけでも十分なほど強大な存在だった。
「そういやエリア、お前最大が2000万ちょっとだったよな?それでどうにかなるのか?」
「ええ、わたしが安定して出せる力が、2000万ちょっとだから、そんな不安定な存在、本調子なら問題ないわ」
それを聞いて、え?と言う顔をするクロノ。
「最大が2000万じゃなくて、安定して出せるのが2000万?」
「そうよ。何言ってるの?そんなの当然でしょ」
普通なんでもそうだが、使えば減るのだ。だが目の前のエリアは、そうでないと言いたげにクロノを見ていた。
「じゃ、じゃあさ。本気出せば何処まで出せるんだ?」
「ざぁ、試したことないわね。てか、こっちじゃそれが当然よ。何考えてたの?」
エリアだけでなく、超越種以上は、皆そうなのだ。あまり消耗せずに出せる力が2000万というだけで、ホントはもっと多い。だが全てを出すと暴走してしまうので、滅多に使わないのだ。
「り、竜種超え……だと……」
「え?こっちはそうじゃないの?」
どうやらエリアは、こっちも同じだと思っていたようだ。特に竜種は自分たちと同じ、超越種に匹敵する存在だとも認識していた。
「普通な。使ったらなくなるんだ。回復するだろうけど、そんなすぐには戻らないぞ」
「効率上げればいいだけじゃ?」
超越種の時点で、あらゆる効率が99%以上が当たり前で、同格以上と戦わない限り消耗とは無縁なのだ。そしてエリアのように内部空間を持っている奴だと、そこから無尽蔵にエネルギーが供給されるので、尚更であった。
「普通な。そんな効率で戦えないから。てか日常生活でも難しいわ」
「え?多次元から回収すればすぐ貯まるよ?」
お前は何を言っているんだと呆れるクロノ。そんなこと普通の……と言いかけて
「ああ、お前、超越種だったか」
「空間精霊の超越種であり、世界を内包する世霊だよ。星の方じゃないからね。間違えないように」
改めて自身の種族を教え、半分納得するクロノ。
「で、なんだけど、あなたの中で休ませて欲しいの。出口は固定されちゃうからさ」
「分かった。こういうことか」
クロノの亜空間の中に入り口を作ることで、クロノのいる場所に出てこれるようにすると言うエリア。これによりいざという時にすぐに対応できるようになるのだ。
「その代わり、わたしの加護を付けてあげる、これで並の覚醒魔王程度なら渡り合える様になると思うよ」
「並の覚醒魔王って……」
要は、聖人程度なら一人で倒せる様になるということである。
「ま、大丈夫だよ。中から見てるし、時々顔出すからさ。それに、クロノはリムルに着いていくだろうから、都合がいいわよね」
「そうだな。リムルも狙われる可能性があるから、近くにいたいし。でも町もな」
今回の件ファルムスの襲撃もある。後者はさておき、前者は致命的であった。
「多分仕掛けてこないわよ。今までの行動を見るに、誰かを操ってってのが大半だし、やるとするならファルムスの件と絡めてくるだろうしね」
「そうか……わかった。そうしよう」
そうして、エリアとクロノの話し合いが終わり、次の日の朝、リムルに説明しに行ったのであった。