異界から出たエリアは、ユウキが来るまでの間、リムルたちに挨拶をしていた。
「久々ね。外は……」
「随分と長く籠もってたな。力は取り戻せたか?」
リムルの言葉に、エリアは
「半分ぐらいかしら。結構戻ってきたわよ」
「それは良かった。で、話はクロノから聞いてるよな?」
勿論と返したその時、扉が開く。
「お待たせしました。初めまして、僕が自由組合総帥のユウキ カグラザカ……」
「こちらこそ初めまして、リムル・テンペストだ。ジュラの大森林にて、魔物の国、ジュラ・テンペスト連邦国の盟主をさせて貰っている」
リムルたちの姿をみたユウキは、言葉を失い、リムルの返答を待つ。
「その仮面……シズ先生の……」
「そうだよ。俺の正体をしってるだろ?俺はスライムで、喰った魔物の姿に擬態できるんだ」
言い方悪いんじゃない?と思うエリアだが、なんか割って入るのも悪い気がして、クロノと共に端で構えておく。
「喰った……魔物の姿……」
そうして二人は向かい合い、いきなり蹴りでの挨拶を交わした。
(部屋の中でそんな事するから……)
吹き飛ぶ家財に響き渡る衝撃波。そしてそれを呆れたように見ているエリア。
「落ち着け小僧――『僕は悪いスライムじゃないよ』」
「……!そのセリフは……」
一旦離れ、警戒体勢を解くユウキ。その顔は驚愕の表情に変わっている。
「あのゲームは俺もクリアしたぜ。お前がシズさんに教えたんだろ?」
「……詳しい話を聞かせてもらえますかね?」
そっからリムルのこの世界に来てからの話やエリアたちの紹介。シズさんのことなど、様々な説明をし、ユウキも納得した。
だが――
「なるほど!最終回はそんな展開なんですね!そうか、あの漫画は……うん、うん!」
「ふっふっふ、他に聞きたいことはないかね?俺が転生した時点で、ユウキ君の知りたい漫画やアニメは、ほぼ完結しておる!無論だが、俺様はその辺りは抜かりない。抑えるべきは抑える、それが真摯の嗜みだからな!」
前世の話題になり、一気に元気を取り戻したユウキは、もっともっととリムルにグイグイ行く。それに機嫌を良くしたのか、リムルも調子良く話していく。
挙句の果てには、紙を用意させ、漫画を大量に作り出す始末……
そんな時だった。新たなる人物がドン!と扉を開けて出てきたのは
「ユウキ!ドタバタうるさいし、紙を大量に持っていくと思ったら!こんな面白そうなこと、私を無視してやってるなんて、酷い!」
「ね、姉さん!い、いや違うんだ!これには事情が……」
そこには、ユウキを女体化させたような高身長、長髪の美人が立っていた。
「あっ!初めまして、そこの弟の姉。ユウカ カグラザカと申します。リムルさんたちだったかな?アイリスから聞いてるよ。シズさんの最後を看取ってくれたんだって。私からも感謝を申し上げます」
リムルたちに気づいて、礼儀正しく頭を下げるユウカ。
「で、お前はいったい何をやっていたんだ。こっちは山のように積み重なった書類と戦っていたと言うのに……」
「いや、それは姉さんがガガガッッ!!」
ユウカに締め上げられるユウキ。その腕力は凄まじく、ユウキが全力で足掻いているのに緩みすらしない。
「その辺で止してあげなよ、ユウカ。それに君にはまだ仕事が残ってるでしょ?」
「あ、ヴィオレ。ごめんね、急にいなくなっちゃって」
そこに紫髪の女の子が入ってきて、ユウカの動きが止まる。
(……なんで原初がここにいるの?)
(あれが原初ね。まぁそこそこ強そう)
そんな光景をは?と言った風に見ているクロノと、原初を推し量るエリア。
「止めてくれてありがとう、ヴィオレ。危うく窒息するところだったよ」
「その程度じゃ死なないでしょ?まぁいいや。とりあえず遊ぶにしても仕事が終わってからだよ、ユウカ。そもそもこの仕事は、君のせいで発生してるんだから」
「え~そうだけど……わかった分かった!行くから」
ヴィオレが核撃魔法を放とうと力を込めたのを見て、急いでユウキを離し、ヴィオレと共に仕事に戻るユウカ。
「じゃ、また後でね」
「はいはい、行くよ。はぁ~なんでボクがこんな事を……」
嵐のような登場と退場に呆然とするリムルたち。
「え~と彼女たちは……」
「……すみません。僕の姉と、その友達です。一応補佐をやって貰ってるんでっすが、自由奔放でよくああやって仕事を持ってくるんですよ。正義感が強いのはいいことなんですが……」
そう言ってユウキは、姉 ユウカについて話し出す。どうやら双子の姉のようで、すごく優秀だが自由奔放で正義感の強い性格のせいで、よく厄介事を持ってくるようだ。実際ユウキ自身も姉の行動を全て把握しているわけではなく、どこまでやっているのかわからない様子。
「制御不能の兵器みたいね」
「そうですね。確かに言われてみればそうかも知れません。僕、姉さんには頭が上がらないので」
フレンドリーでアクティブ過ぎて、上に立ったりなにかの役職についたりするのが苦手で、しかもよくいなくなることから、神出鬼没のお姉さんなんて呼ばれているようだ。だがそんな姉に助けられることも多く、ユウキはユウカに頭が上がらないような。
「……ところで、今回ここに来た目的はなんですか?例えば、帰還方法を探してる、とか?」
「いや、違うが……帰還って、できそうなのか?」
押し黙るユウキに、悟ったリムル。
「まぁ、可能ならとっくに帰ってるだろうからな。俺はもう諦めてるよ、火葬されてるかもしれないし……」
「そうだな。俺達転生者だし……」
リムルとクロノがそう言う。
「一方通行みたいでしてね。ですが、僕は可能性がないとは思っていません」
「え?」
その理由を話し出すユウキ。どうやら、元の世界にも鬼や悪魔など様々な伝承があり、どこかでつながっているのでは?と思ってのことらしい。
「帰還が目的でないとすると、一体、何をしに?」
「俺はのんびりした生活ができたらそれでいいんだけどな。町も作ったし、仲間と一緒に楽しくやるつもりだった。だけど、ちょっと気になる事があってさ。シズ先生の未練さ……」
そこでリムルは、シズ先生の未練について語る。
「なるほど、シズ先生の未練、自由学園の子どもたちですか……これかシズ先生の意思だと言うなら……そうですね……。リムルさん、僕も貴方に託してみることにします」
そうしてリムルたちは、ユウキに連れられ自由学園に行くことになった。どうやらリムルを、その子どもたちの先生にしてくれるそうだ。
「元はシズ先生がやっていましたが、シズ先生が亡くなってからはアイリスさんがやっているんです。だから、わからないことがあれば彼女へ聞いてください」
「そうか。あの人が……」
シズさんが亡くなったあと、そのあとを継ぐかのように先生になりたいと申し出て、今は彼女が担任をしているようだ。しかし子どもたちとは上手くやってるようだが、どうやら教えるのが苦手らしく、四苦八苦している様子。それを二人でなんとか……との話だった。
「……リムルさん、ヒナタ・サカグチを知っていますか?」
「ヒナタ・サカグチ?」
聞き覚えのない名前を聞いて、記憶を探るリムル。
「かつてはシズ先生の教え子でした」
「ああ……もしかして、シズさんのもとを去って行ったという子か?」
どうやら探り当てたようで、話が続く。
「そうです。全盛期のシズ先生は、上位精霊のイフリートを完全に使役していましたが……ヒナタは十五歳にして、そんなシズ先生を上回る強さを得ていました。それだけで、彼女の強さが推し量れると思います」
よく分かっていなさそうな三人。それもそうだろう。シズさんの全盛期などだれも知らないのだから。
「なんでこんな話をしているか疑問に思うかもしれませんが、ヒナタや僕たちのように、自然と世界を渡ってしまった『異世界人』と、五人の生徒たち……『召喚者』の違いを知って欲しいのです」
「召喚者……」
「何らかの目的を持って呼び出される『召喚者』には、必ずその目的に見合う力が与えられます。それこそ、人類の切り札になり得る『勇者』のように。世界を渡る際に肉体を作り変えられるのですが、その際に大量のエネルギーを取り込んで、能力の取得が行われるようです」
ヴェルドラから聞いた話を思い出し、エリアが先に答える。
「で、召喚時に、子供だと身の丈に合わない力を得て長持ちしないと?」
「そうです」
持って五年だと伝えられる。そこでリムルは……
「それじゃあその子たちを俺がどうしようと文句は出ないんだな?」
「なにかするつもりなんですか?」
「ああ。それがシズさんの願いなら、俺が引き継いでやるさ!」
「――お願いします!もしできるのならば、あの子たちを救ってください……」
そうして必ず救うと心に決めたリムルは、その面持ちのまま教室に向うのだった。