次元が震え、時空が歪むほどの力を出す男。それとは対象的に何の力も出さないエリア。
「はぁぁッ!!」
「中々やるわね」
拳と剣、能力と異粒子、高速で衝撃波と斬撃波が飛び交うその空間で、二人は互角に戦い合っていた。
「なぜだ!なぜ勝てないっ!!竜種を上回る出力を出しているですよッ!!」
「だから力だけだからよ」
神速を上回る速度で、無限に等しい斬撃が改竄混じりに放たれる。だが全てが防がれいなされる。これは別に男の技量が低いわけではない。それどころかこの世界最強格にすら届く技量を使っていた。単にエリアが異常すぎるだけだ。
「あら?次は逃げるのね。どうせなら反撃の一つでもすれば?」
「くっ!舐めッ!!」
異粒子を振りまくエリアの軽い反撃に、大げさに飛び退く男。そっから反撃を取ろうとするが、動きがブレて更に離れる。
「消し飛ばせないのがそんなに悔しい?そりゃね。結界を壊せばギィが来るものね。無闇に範囲攻撃……どころか強力な攻撃一つ撃てないでしょ?」
「……それは貴方も同じでしょう」
この個体ではギィに勝てない。それどころか力を与えかねない。それがわかっている男は、攻撃を出し渋っていた。
「別にワタシはそうでもないわよ。どうせ出ていく世界だし、あの子が嫌がってるからそうしているだけ。後で喚かれてもうるさいだけだしね」
そう言いつつ、手を振り斬撃波で男を斬り刻もうとする。それを回避した男は、距離を改竄しゼロ距離で斬撃を振るう。
「ッ!?ホントに厄介ですね。改竄の効き目が悪いですよ」
「当たり前じゃない。理解もできなきゃ影響力を上回ることすらできないんだからさ」
能力は知能戦でもあり知識や賢さ、理解力が必須だ。その上で改変系能力は特に、対象の影響力を上回る事が最前提である。そして改変し易いものがあれば、そっから切り崩し塗り替えて行くものだ。だがここにはそれがない。小さな事象ですら、異粒子が邪魔をして上手く改変させてくれない。だから近い事象の単調な改竄しかできないのだ。
「じゃ、異界へ行きましょうか。そこならホンキで戦えるでしょ?渡しを楽しませて頂戴」
「ふっ!舐められたものですね。いいでしょう、乗ってあげましょう!」
異界の中に飲み込まれた二人は、この世から姿を消す。だが消えた中心に目には見えない歪みがあり、そこが外と繋がる入り口だとわかる。
「さっ、ホンキできなさい。次いつ出れるかわからないから、存分に楽しませてもらうからさ」
「言われなくとも!」
溢れ出る莫大なエネルギーで、異界の一部を改竄し次元を捻じ曲げ大地へと叩きつける。すると周囲が消し飛び、地平線の彼方まで平地が続く大地が出来上がっていた。
「障害物がない方がやりやすいの?まぁなんでもいいけどね」
「無傷か。流石は非実体ですね。では、超位魔導 天地崩雷!」
迸る雷電撃が眩しく世界を包み込み、すべてを塵芥へと返す。
「回避の隙間すらない雷撃に焼き殺されるがッ!?」
「その程度?」
容赦なく顔面を殴り飛ばされ、魔導が解除される。そこには一面焼け焦げた大地が広がっていたが、エリアは相変わらず無傷だった。
「クッ!?最上位魔導 風塵波!」
「くだらない」
超高速で飛来する風刃を叩き割り、体勢をギリギリで立て直した男に拳を防がれる。
「下位魔導 地弱」
「あっ?」
気を抜いたほうが一瞬で殺されるほどの攻防を繰り返す二人。そこで男がまたも魔導を使い足場を崩し、エリアの体勢を崩す。
「逃さん!改竄ッ!?」
「やるね」
回避が失敗し、体が削られるエリアだったが、吹き出る異粒子を棘のように生やして男へ反撃をした。
「実体がないってことは、どんな形にでもなれるってことだからね。わかってるでしょ?」
「忘れかけてましたよ……」
あくまでエリアの姿は取り繕っているだけである。彼女にとって、体勢や負傷の有無は大して問題ではない。
「だからこういう事もできるのよね」
「ふん、関係ありませんね。消し飛ばせばいいのです」
翼のように異粒子を展開させるエリアに、更に自身を強化して突っ込んでくる男。その一撃により、受け止めたエリアの腕が地形とともに抉れ、吹き飛ばされる。
「まだ終わりませんよ!」
「速いわね!」
先回りした男の斬撃を翼で受け止め、そちらを向くが何度も背後を取られていた。
「これでもダエですか。では、超位魔導 無限圧縮」
だがエリアを切り崩せない男は、結界でエリアを閉じ込めそれを一点に収束させる。同時に超重力が発生し周囲のあらゆるモノが吸い込まれていく。
「ッッ!?なりかけとは言え重力特異点ですよ!」
「なりかけだったらどうにでもなるわよ。所詮は魔導だしね」
安々と破壊し飛び出してきたエリアは、男を翼で貫き、改竄で逃げた先へ次々に斬撃を放っていく。それに反撃として飛斬を撃ちまくってくるが、エリアには何の影響もない。
「ガアァッッ!?」
「もうネタ切れ?それとも高出力に体が耐えられなくなった?」
強引な力の引き出しに体が耐えられず、能力の発動が鈍くなる。そこを狙われ胸を貫かれた男は、吐血をしながら抵抗を試みるが……
「グガッ!?」
「何も使わせないわよ。と言うか、貴方の能力が一方的に通じるの格下ぐらいでしょ?同格以上とは補助とか回避にしか使い道ないのよね。わかってるでしょ?」
地面に叩きつけ、地面が陥没する程の重圧を加える。
「それでも十分に強いけど、前線に出てくるべきじゃなかったわね。特にワタシみたいな相手とは相性最悪じゃない。次があるならちゃんと考えるべきね」
男が特別こうなったのではなく、エリアと戦えば大抵こうなるのだ。それほどまでに異界は強すぎるのだ。
「ば、バケモノめ……だが、いいだろう。次は、活かしてみせ……」
「バカね。ここに入った時点で情報は送り出せないのよ。貴方はただ一体、手駒を失っただけで終わるの」
更に荷重を加え、音すら聞こえずグチャグチャに潰れる男。
「イ、イヤ、そウでも、ナイゾ……改、竄――」
「今更……」
何に改竄をかけようと言うのかと、エリアは考える。だがその前に視界……と言うより世界が歪み、抗いようがなく意識が遠のきそうになった。
「……なにを、したの?」
「ヒナ、タが……死ん……」
そこですべての意識が途絶えたのだった。