神聖法皇国ルベリオスを襲ったのは、背中に結晶を浮かべた白い聖霊のような一人の可憐な少女だった。そいつによって、十大聖人含む騎士たちの多くは戦闘不能にされ、町にも小さくない被害が出ていた。
「情けないわね。それでも聖人なの、貴方たち?」
「よくやった方だろ、あんなバケモノ相手にな」
ユウカの影響もあってか、全員が聖人に達した十大聖人だったが、それでも目の前の少女に時間稼ぎしかできず、ヒナタとヴァジュを待っていたのだ。逆にここまで被害を減らしたのは凄い方だろう。
「ヒナタ……」
「後は任せなさい。私たちでどうにかするわ」
「ま、倒せるかどうかわからないがな。逃げる準備でもしといてくれ」
サーレの言葉を遮るようにそう言い、二人は前に出る。
「最近は本当に厄介事が多いわ」
「そうだな。さて、勝てるだろうか?」
呆れるヒナタに、少女を見つめ軽口を叩くヴァジュ。だがその様子とは裏腹に、決して警戒は怠らず、それぞれの伝説級にまで達した武器を構える二人。すると少女の周囲がほんのり光り、その範囲は徐々に広がり始める。
「あれは……自身の領域を広げているのか?」
「そうみたいね。早くしないとここ一帯……いえ、ルベリオス全体が飲み込まれていまうわね」
エリアと似た能力をもつ目の前の聖霊 サンクチュアリエレメントは、すべてを侵食し、聖域を広げにかかってきていた。
そして両者は同時に動き出した。
「「ッ!?」」
ヒナタとヴァジュが同時にサンクチュアリエレメントを捉えかける。だがその攻撃はすり抜け、生み出された結晶槍により反撃を受けた。だがヴァジュの予言により間一髪回避に成功する二人。
「すり抜けるとは、予言がなかったらやられていたな」
「解析の効かない相手は面倒ね。演算が大変だわ」
即座に切り返し、能力を最大限に高め、余裕を持って戦う二人。だが攻撃は掠りすらせずに、逆に予備動作もなく空間に発生する斬撃に、次第に苦しい表情を浮かべ始める。
「相殺してこれか。魔法に関しては発動すらできないぞ」
「強奪も精霊もダメね。びくともしないわ」
空間操作でサンクチュアリエレメントの攻撃を相殺させ、魔法や能力を試す二人。だが効き目は薄く、それどころか殆どのものが発動すらしない。
「これが聖域の力ってところかしら?」
「俺達の聖浄化結界の完全上位互換かよ……」
ヒナタの言う通り、これは聖域の影響であった。その効果は、聖浄化結界の上位互換。サンクチュアリエレメントにとっての不純物を、強制浄化もとい消滅させるものであった。
「まあいいわ」
「これだけで十分だ」
能力を諦め、純粋な近接戦で戦おうとしたその瞬間、サンクチュアリエレメントはそれに勘付き、結晶羽を広げる。そしてそれを使い、周囲を一気に薙ぎ払った。
「「はぁぁ!!」」
回避からの反撃を繰り出す二人。超連撃とも言える攻撃の数々に、サンクチュアリエレメントはなにも反応せず、ただ淡々とすり抜け反撃を返し続ける。だが本気を出した二人には当たらず、攻撃の嵐は止むことがない。
「「ッ!?」」
その時、サンクチュアリエレメント本人が動いた。それはただの腕振りだったが、空間を巻き込んだその一撃は、地形ごと広範囲を削り落とす。
「なんてッ!?」
「なんだッ!?」
一瞬だが体勢を崩す二人、だがその隙がサンクチュアリエレメントにとっては十分すぎたのだ。容易く二人は結晶羽に貫かれ、投げ捨てられる。これにより精神体にまで深い傷を負った二人は立ち上がれずに、止めと言わんばかりに放たれた光線を見ることしかできなかった……かに思えた。
「「助かった?」」
攻撃がパタリと消え――
『異世界からの侵攻を確認しました』
世界の声が響き渡るのだった。