八幡「恋人のフリ?」   作:ハッサン

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随分と間が空きましたが続きです。


余計なお世話

 

 高校生のイベントといえば何であろうか。

 まず思い浮かべるのは文化祭だろう。各クラスがそれぞれの出し物を企画するだけでなく、学校全体で盛り上がるイベントだろう。文化祭に託つけて異性に告白する者共もいる。多くの生徒が楽しみにしていることだろう。

 …ちなみに中学の文化祭ではクラスで俺ハブられてたけどね!

 

 つまるところ、俺はハナから高校でのイベントなんぞに期待はしていなかったのだ。イベントなんてせいぜい定期テストぐらいしか興味を持っていなかった。だから目前に迫っていたイベントにも意識が向いていなかったのだ。

 

「僕、千葉村に来るのなんて小学校ぶりだなぁ~」

 

「…まあ高校生にもなって林間学校があるとは思わなんだ」

 

「確かにそうだね。…あれ、もしかして比企谷君体調悪い?」

 

「いや、体調は万全だから気にすんな」

 

 そう?と言いつつもこちらを気にかけてくれているのは大天使トツカエル。俺が険しい顔をしていたのを見られていたようだ。

 確かに俺は健康であるが、今の俺の心は全然健康ではない。

 

 その原因は遡ること一週間前のことであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

       ◇   ◇

 

 

 

「さて、貴方の期末試験の出来具合を教えてもらおうかしら」

 

「…い、今のところ赤点は取ってないぞ」

 

「つまり…、著しく良くない成績だったというわけね」

 

 期末試験が終わった日の昼、雪ノ下は俺のベストプレイスに現れた。もちろん要件はテストのことである。五日間ある期末試験のうち、前半にあった教科については既に点数が返却されていたためだろう。なぜか、赤点がないという言葉だけから俺の点数を推察してきた雪ノ下であるが、実際のところ間違っていないので俺は黙るしかない。

 今回も俺は雪ノ下から勉強を教えてもらったため、テストに失敗していることには責任を感じる。別に彼氏(仮)だからとかそういうわけでなく、単純に人から教わっておいて成績が振るっていないことに対してである。

 

「前にも言った通り、一応私の恋人ということなのだからしっかりして欲しいのだけれど」

 

「別に好きでなった訳じゃないんですけどね…」

 

「あら、言い訳かしら?そもそもテストで良い成績を取ろうと努めることは当然だと思うけれど?」

 

「うぐっ……」

 

 

 雪ノ下からの鳩尾ストレートが突き刺さる。そこまで言わなくてもいいでしょうが。食べてた物今ここで吐き出してやろうか?

 不満ありげに睨むと、雪ノ下は既にこちらには目もくれず何か考えるような仕草をしていた。暫くの沈黙の後、ため息をついて再度こちらに向き直った。

 

「…私の母親に貴方のこと既に知られていることは覚えているわよね?」

 

「それは前にも聞いたな。結局何の作戦も練らなかったが」

 

 こいつはそのことを話し合うためだけにわざわざ家まで来たからな。いや、猫に会うためだけだった気もするが…。まあ別に今はそのことは置いておこう。

 

「夏休み……、そこまでがタイムリミットになったわ」

 

「タイムリミット?…何、爆発でもすんの」

 

「言ったでしょう、母は貴方に会いたがっていると」

 

「そういやそうでしたね…」

 

 こちらとしては全く会いたくないのだが。雪ノ下の母親とか絶対性格キツそうなんだもん。そもそも娘の結婚相手を勝手に決めるような人だしね、そこはかとなく昭和感が漂っている。今はもう令和なのよ!!!????

 

 

「とにかく、夏休みまでに準備をしなくてはならないわ。」

 

「準備って…、より恋人らしく見えるようにってか?無理じゃね?」

 

「いえ、貴方に最低限の礼儀というものを叩き込むのよ」

 

「いや、敬語ぐらいは使えるんですけど…」

 

「テーブルマナーなんて貴方は知らないでしょう」

 

「えぇ…」

 

 そんなことよりも問題にしなければいけないことは沢山あるのでは?という疑問が浮かんでくる。

 そもそも俺たちはどこからどう見てもカップルには見えないだろう。なぜなら恋愛経験が皆無であるからである。雪ノ下はどうか知らんが、普段の振る舞いを見るに多分無い。…こいつ美人の癖になんで恋愛においてこんなに頼りないのだろうか。いつかは忘れたが『恋愛とは』みたいな新書持ってたもんな…

 

「そんなもんは自分で勝手に調べるからいいだろ…。それよりもどうやって偽物の恋人だと見破られないか考えるべきじゃねぇの」

 

 俺がそう言うと、雪ノ下は確かにそうね…と腕を組んで納得していた。勉強できるんだからそのぐらいわかってくれよ…。

 

「けれど、どうすればいいのかしら。実際、貴方とは今のところただの他人だし…」

 

「せめて同級生って言ってくれませんかね?」

 

「嫌よ。貴方と同じ学力レベルだと思われたくないわ」

 

「そんなこと言ったらお前の同級生数人になるだろうが…」

 

 

 クスクスと笑う雪ノ下を横目に、俺はうなだれるしかなかった。

 こんな調子で全く話が進まない。わざとやってるんじゃないかとも思うが、これが雪ノ下雪乃の平常運転である。

 

 結局本来話すべき内容とは離れたことをダラダラ話しているうちに昼休みは終わってしまったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「比企谷、ちょっといいか?」

 

「あ?…葉山か。悪い、帰るからまた今度頼むわ」

 

 自転車置き場へと向かう途中、葉山隼人に呼び止められる。

 こいつとは雪ノ下との一件があってからそれなりに話すようになっていた。といっても内容はだいたい「最近雪ノ下さんとは上手くいっているか」という趣旨のことだが…。

 そんな訳で、どうせしょうもないことだろうと思い葉山を無視して自転車を取りに行く。しかし俺が自転車のハンドルを握ると同時に、片腕が葉山に握られた。

 

「少し時間をもらえないか?」

 

「俺、今から帰るんだけど…」

 

「それは見れば分かるさ。まあ、さっそく本題に入ろうか」

 

 葉山は俺の非難をガン無視して勝手に話を進めてくる。…相変わらず俺の腕を握ったままで。

 そして一呼吸置いてから話し始めた。…相変わらず俺の腕を握ったままで。

 

「最近の君は雪ノ下さんとうまくやっているように見えていた。テスト期間中は二人で勉強しているのをよく見たしね」

 

「…はぁ」

 

「それなのに…それなのに…」

 

 なぜか急に顔をこわばらせる葉山。それと同時に手にも力が入り、俺の腕が強く締め付けられる。早く話してくんねえかな…。

 そんな俺の心情はよそに、葉山は声を荒げた。

 

「なんで何も進展していないんだ!!??」

 

「…は?」

 

「今日もそうだ…。何故君たちは一緒に帰らないんだ?何故一緒に登校して来ない!?」

 

「そりゃそうだろ…家の方向違うし」

 

「そういう問題じゃないだろ…」

 

 そこまで言うと、葉山は荒げた息を整えてこちらへと向き直る。ようやく腕も離してくれた。

 

「とにかくだ。今のままじゃ君たちは恋人に見えるはずがない。」

 

「まあそうだろうな」

 

「自信満々に言うことじゃないだろ…」

 

 別にそんな風に振舞ったつもりは無かったが、葉山にはそう見えたらしい。実際そのことで俺は悩んでいるのだから、切実な思いなのだが。

 

 葉山はやれやれといった感じだったので話はそれで終わりかと思い、ハンドルを両手で持って自転車に乗ろうとすると、再び俺の進路を塞いでくる。…なんだよコイツ、しつこいな。

 

「話はまだ終わってないぞ…。比企谷、もうすぐ林間学校があるのは分かっているよな?」

 

「いや、全然。初耳なんだが」

 

「なんだって?」

 

 そういうと葉山は信じられないものを見るかのような目をしてきた。なんで俺がおかしいみたいになってるんだよ…。(実際おかしい)

 葉山は雰囲気を元に戻したいのか、一旦わざとらしく咳ばらいをしてから話を続けた。

 

「まあとにかく、その林間学校で君にはドカンと一発雪ノ下さんに決めてもらわなけらばならない」

 

「なんでそんなことしなきゃなんないんだよ…」

 

 というか一発決めるって何やるんですかね…?一発芸でも仕込むのかしら。それなら俺は絶対にやらないけど。

 

「そこでだ、そのシチュエーションは俺が用意しよう。あとは君次第さ。」

 

「は?おい、ちょっと待てよ…」

 

 

 そう言い残して葉山は颯爽と去って行ってしまった。その姿はなぜかターミネーターを彷彿とさせて気に障った。

 

 

 

 

                   ◇  ◇

 

これが林間学校の一週間前の話である。

 

 あの後葉山には不思議な力でも働いたのか何故か会うことができず、結局この日になってしまったという訳だ。あいつの連絡先なんて持ってないしね!聞く友達もいないし!!…いや、もしかしたら由比ヶ浜なら知っていたかもしれないけれど。そんなことは後の祭りである。

 

 どうやら俺は何か一発、雪ノ下に決めなければならなくなったようだ。

 

 

 多分、最近の嫌な予感はこのことだったのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 
 ここらでいっちょ関係を進展させちゃえ!!!
 頑張れ比企谷八幡。
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