八幡「恋人のフリ?」 作:ハッサン
八幡があんまり捻くれてないかもしれない
「…うーん…」
「お兄ちゃん、何難しい顔して見てるの?」
「…いや、別に何も」
俺がしかめっ面をしているのに気づいた小町が問いかけてくる。
現在、由比ヶ浜との会合から数日が経った。あの後俺は由比ヶ浜とメアドを交換したのだ。メアド自体は中学時代も交換したことがあるのでそこまではいいのだが…
『おはよー比企谷君!あたしんちは昨日ハンバーグだったんだ!☆比企谷君は退院したら何を食べるつもりなの?(・・?』
何なんだこれ。ヒエログリフですか?
まさか本当に向こうからメールが来るとは思っていなかったし、更に言えばメールの内容が心底どうでもいいことなのである。
こういうメールは俺がよく中学の時にしてたやつに似ている。…まあ、次の日の朝に『ごめん寝てた』って返ってくるだけだったけどね!
そんなわけで俺はこのメールをどうするか悩んでいたのだ。
しかし、悩みの種はそれだけではない。
『こんにちは比企谷君、由比ヶ浜さんからメールが来たのだけれど、何て返すのがいいのかしら』
いや、お前。俺に聞くなよ。
実は雪ノ下ともメアドを交換したのだが、まあ、先々の為にも持っていた方がいいのでそこには文句はない。
現状俺はニ通のメールを滞らせてしまっている。このまま返さないのは頂けないないだろう。メールを無視される苦しみは俺が一番知ってるからね…。泣けてくる。
取り敢えずここは雪ノ下の方へと返信することにした。
『俺も由比ヶ浜からメール来て困ってるから一緒に考えてくれ』
よし、これで雪ノ下のメールに答えつつも由比ヶ浜への返信を考えることもできる。お互いにメリットしかない。Win-Winというやつだ。ワンダフルなパートナーシップをビルドできるとグレイトだよね!
なんて考えていると、俺の行動を不審がった小町が再び話しかけてくる。
「どしたのお兄ちゃん?もしかしてメールしてるの?」
「ば、ばっか言え。俺にメール相手なんぞいるわけねーだろ」
「うーん、それもそっか。ま、お兄ちゃんだもんね〜」
なんて虚しい言い訳なんだ…。
因みに小町は今日も見舞いに来てくれている。良くできた妹だけど言葉の節々に棘あるんだよね…。意識して言ってないよね?
などと考えていると手に持った携帯が震えた。どれどれ…。
しかし、携帯の画面を見ると来ていたのはメールの返信ではなく着信だった。…知らない番号なんだけど。
宣伝か?と思いつつも仕方なく出ると、聞き慣れた声が聞こえてきた。
『もしもし、雪ノ下です。比企谷君の携帯でしょうか?』
「…何でお前が番号知ってるの?」
『その声は比企谷君ね。簡単よ。父から聞いたわ』
「あ、そう…」
そういえば聞かれたことがあったような無かったような。まあどっちでもいいけど、個人情報はもう少し手厚く管理してもらえませんかね?
「それで、何か用か?」
『…?貴方が由比ヶ浜さんのメールについて考えようって送ってきたじゃない。入院生活で目だけでなく頭まで腐ってしまったのかしら』
「…精神までもとっくに腐ってるよ。つーかそれだけなら文面でいいだろうが。わざわざ電話でする意味あるか?」
『…自慢じゃないけど私、文字を打つのが苦手なのよ』
「…そうか」
本当に自慢じゃなかった。多分普段メールとかしないからだろうな。多分パソコン打つのは滅茶苦茶早いんだろうな。俺と同じで。
最近地雷多くて困るんだけど…。
感傷に浸るのも程々にして、俺は取り敢えず話を進める。
「それで、由比ヶ浜からはどんなメールが来たんだよ?」
『趣味について聞かれたわ』
「ほーん…、それで雪ノ下には趣味が無いのか?」
『…あるけれど』
俺の質問に対してかなり溜めてから雪ノ下は答えた。その言い方じゃ、人様に言えないような趣味をお持ちだということだろうか。いや、でもこの人小説ばっか持ってなかったか?どう見ても読書好きだろ、あれは。
「何か問題あるのか?読書が趣味だって言えばいいんじゃねぇの?」
『いえ、それはもう言ったわ。…読書以外の趣味は無いのか、と聞かれたわ』
「そうか…別に言いにくい物なら言わなきゃいいんじゃ?」
『そうね…』
俺にも人には言えない趣味など沢山ある。まあ、言う相手が居ないので困ってなかったけど。
雪ノ下は何を困っているのだろうか。
『けれど、彼女は…初めての友達だもの。あまり隠し事はしたくないわ』
「…」
雪ノ下は恐らく怖いのだろう。由比ヶ浜という友達が出来て嬉しい反面、趣味のことで避けられるようになるのは怖い。しかし彼女の性格上、物事を隠すことは嫌う。
…贅沢な悩みだ。しかし否定する気にもならない。ここは、恋人(偽)として人肌脱いでやろう。
「言いたくないならいいが…その趣味ってのは何なんだ?」
『いいえ。私は相談している側なのだし…。貴方には言っておくわ。』
「…おう」
『私の趣味は…』
「…」
『ね…』
「ね?」
随分ためた後に雪ノ下は言い放った。
『ね、猫の動画を見る…ことよ』
「…なぁ、お前は何に悩んでたんだよ」
別に全然普通の趣味だった。怖かった…もしこれでリスカが趣味だとか言われたらどうしようと思っていた。
しかし、電話越しでも分かるほど雪ノ下は声が上ずっていた。まあ、彼女の基準では恥ずかしいことのようだ。…ここは真実を教えた方がいいな。
『何って…私は真剣に悩んでいるのだけれど』
「へ!?い、いや…そういうことじゃなくてな…」
雪ノ下さんの声が怖い。なんか一瞬耳が凍った気がした。というか身震いした。慌てて言い訳をする。
「その趣味で引かれるなんてことはねーよ。猫の動画なんてうちの家族全員良く見てるぞ」
『…そうなのね』
まあ、家では猫飼ってるからな。とは言わないでおく。多分こいつ相当の猫好きっぽいからな。見せろとか言われたら厄介だし。
「だから心配なく言えばいい。逆にもっと仲良くなれたりするんじゃねぇの、知らんけど」
由比ヶ浜なら『かわいい!』とか言いそうだし。まあ、俺が言ったらキモがられるかもしれんけどな。
雪ノ下は暫く黙った後、話を続けた。
『貴方に助けられたのは誠に遺憾だけれど…
ありがとう…比企谷君。』
「そこは普通に言えよ…何で遺憾砲打つの?」
日本の政治家かよ。まあ、実力行使よりマシだけど。
聞いたところによれば雪ノ下は合気道習ってたらしいからな。力でも負けたら俺がアイツに勝っている所って…もしかして無いんじゃね?
『…それともう一つ、貴方に言わなければならないことがあるのだけれど』
「え?まだなんかあんの?」
今度は打って変わって声色を変えてきた。何か真剣な話だろうか。そう思っていると、雪ノ下は言った。
『…貴方のこと、母に知られてしまったわ』
「…ゑ?」
ちょっと待て、今なんて言った?もう雪ノ下母に言っちゃったの?全然準備できて無いんだけど?
『それで、家に連れてこい…とも言われたわ』
「まじかよ…」
どうしよう、ボロを出す自身しか無いんだけど。バレたら俺って一体どうなっちゃうの?処刑されたりしないよね?思わず手が震えてしまう。
『詳しい話はまた追って話すわ。
………今日はありがとう』
「…え?」
そう言うと電話は切れてしまった。
なんだよアイツ…最後普通にお礼いいやがって。そういうのはズルくない?
そんな憤りを感じていると、横から視線をかんじた。
「むふふ〜」
「あ…小町さん」
忘れてたぁーーーッ!
そういや最初から小町いたじゃねぇか!こんなミス、この間もしたってのに何でまた同じことを…
携帯を布団へと叩きつけて、頭を抱える。しかし小町はそんなことお構いなしに質問してくる。
「ねえ!今のって雪乃さんだよね!?やっぱり仲良くなってんじゃん!!もしかして彼女なの??」
「…ンなわけあるかよ。し、試験の範囲聞いてただけだ。」
「ふーん…そっか……これは義姉ちゃん候補かな?」
後半の方は良く聞こえなかったが、コイツは絶対に納得していない。小町に恋人のフリのことを知られたらメンタル持たないから気をつけなければ…
電話で疲れ、今のでも精神的に疲れて参ってしまい、俺は布団の中へと入ってそっと目を閉じる。
…そういえば、由比ヶ浜への返信のこと聞けてないじゃん。
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学校編はもうすぐ始まります。