八幡「恋人のフリ?」   作:ハッサン

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誤解は誤解を生む

 

 

 

 

 桜も散り、路端の木々には緑が目立つようになったこの頃。相変わらず俺はクラスに友達は出来ず、脳内の季節感的には既に冬が到来している。決して言い訳などでは無いが、俺の席が廊下側で有ることが現状に起因しているのではないかと思う。春という季節において、暖かな日差しの当たらない廊下側には人が集まりにくい。だから、俺に誰も話しかけてこないというわけなのである。…本当に言い訳じゃないよ?

 

 確かにクラスメイト達は誰も話しかけてこない。しかし、それ以外はどうかと言えば…

 

 

 

 

 

 

 

「…ん?」

 

 何かの気配を感じ目が醒め、机に突っ伏していた体を起こすと窓の向こうの廊下からこちらに『こっちへ来い』と手配せしている者が一人。

 

 

 

 

 雪ノ下雪乃である。

 

 

 彼女の名は既に一年生中に轟いているらしく、俺がこうしてクラスで一人でいても雪ノ下の噂話が耳に入るぐらいである。やれ美人だのやれ賢いだの、更には運動神経抜群だとか。

 まだ6月になったばかりだというのに何でこんなに知れ渡ってんのよ。

 

 方や俺はと言えば、自己紹介から盛大に噛むようなコミュ症で根暗な奴だと周りからは思われているだろう。

 

 つまり彼女と俺は周囲からの評価は正反対と言うわけだ。…俺は評価さえもされてない気もするけど今はそこはいい。

 そんな高嶺の花のような彼女が俺みたいなやつを呼びに来るのだからクラスの奴らは当惑していた。というか俺も困惑してるんですけど…。

 

 そんなわけで暫くの間固まっていると、痺れを切らしたのか雪ノ下は窓を開けて身を乗り出してきた。

 

「早くして頂戴」

 

「……分かったから先行っててくれ」

 

 何でコイツはこんなに堂々としてるのだろう。自分が何やってるのかわからないのかね…。

 まあ彼女にとって周囲の目などは塵に同じというわけなのだろう。そこまで真っ直ぐだと尊敬を通り越して少し引くけど。

 

 雪ノ下とは違って周りの視線が気になる俺は小動物のようにビクつきながら教室を出たのだった。何の話をされるのだろうか。

 雪ノ下母と会わなきゃいけなくなった件については、別に今すぐという訳ではないらしく気にしなくていい、ということになったのだが…。

 

 他にまだ何かあるのかよ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「呼んでから随分時間がかかったじゃない」

 

「…無茶言うなよ」

 

 着いていった先は校舎裏だった。いつもの俺なら校舎裏なんて中学時代の嘘告白のトラウマで近づけないが、今は相手が雪ノ下なので何の感情も浮かばなかった。

 

 …いや、正確には何か面倒なことが起こりそうな予感はしているけどね。

 

「それで、何の用だよ」

 

 本題に入れと言わんばかりに睨みつける。こちらとて時間は有限であり、貴重な睡眠時間を削られて連れて来られている訳なのだ。まあ家で寝ろって話だけど。

 一方雪ノ下はこちらの睨みなど意に介さず、淡々と話し始めた。

 

「あなたには私の縁談の相手について詳しく話してなかったわよね」

 

「ああ……まあ、総武にいるってことだけは知ってるな」

 

 入院中に一度聞いた覚えがある。

 

 というかよく考えたら縁談相手の情報って凄い重要事項じゃないの?なんで今まで詳細を伝えてくれなかったんだろうか。

 

「名前は葉山隼人、貴方とは…同じ組かしら?」

 

「誰…?というか何でお前も知らないの?」

 

「興味がないもの」

 

「えぇ…」

 

 そういう問題じゃないだろ…。というか興味持てよ。もう2ヶ月経つというのに把握してないのは怠慢とか言うレベルじゃねぇよ。

 まあ俺もクラスメイトの名前とか何も覚えてないけどね!

 ボッチ同士だとこうも上手く行かないのか…と落胆していると、雪ノ下は更に話を続けてきた。

 

「確か金髪に染めていたわね。…あと貴方とは真逆のタイプの人間よ」

 

「…まあこちらでなんとかしとくわ」

 

 これ以上聞いても有益な話は聞けなさそうなので適当に話題をぶった斬る。

 

 つーかよく考えたら俺、人を尋ねるにしてもクラスに友達いないから無理じゃね?

『葉山隼人…って人知ってる?』なんて急に俺から話しかけても変だよな…

 

 そんな風に悩んでいる俺を気にも止めず、雪ノ下は身を翻した。

 

「そう…それじゃあ私は行くわ」

 

「お、おう…」

 

 そう言って彼女は校舎の方へ戻っていった。

 

 

 …俺、なんのために呼び出されたんだ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 そのまま暫く立ち尽くしたせいで5時限目の授業に遅れたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

           ◇ ◇

 

 

「んん……………あれ?」

 

 目が覚めて辺りを見回すと、教室はもぬけの殻だった。

 どうやら帰りのstの後そのまま寝過ごしたようだ。

 あたりはまだ明るいとはいえ、教室の窓からは夕焼けが見えていた。外からは有象無象の喧噪が聞こえてくる。…もしかして部活終了時刻なんじゃないの?

 誰も起こしてくれなかったのね…。

 

 

 昼休みの一件のせいで先生には小言を言われた上、苦手な数学の授業で当てられる…といった具合で散々であった。

 今こそ…なんて日だ!って叫びたい。今なら教室に誰もいないしやろうと思えば出来なくもない。

 

 未だぼやけている目を擦りながら席を立ち、大声を出そうと息を吸い込んだ時だった。

 

「あ…」

 

「…え」

 

 ドアが開く音がした。

 

 そこには小柄な少女がこちらを恐る恐る伺っていた。

 

 …ちゃんと周りに気を配る癖を付けよう。こんな風に何度も失敗してるじゃねぇか。

 

 何とも言えない空気になり、俺がどうしたものかと思案していると、向こうの方から声をかけてきた。

 

「あの…えっと、比企谷君は何やってたの?」

 

「え!?いや…まあ勉強…?」

 

 彼女が俺の名前を知っていることに驚いた。

 また、正直に寝ていたと打ち明けることが憚られたので勉強していたと嘘をついてしまった。

 雪ノ下との会話の中で少しはコミュ症が治ったかと錯覚していたが、全然進歩してませんねこれ。アイツとの会話ってよく考えたら会話になってない気がする…。

 

 俺の返答にどう思ったかはわからないが、少女は

『そっか』と言って俯いてしまう。

 

 …多分同じクラスの人なんだろうな。しかし俺は全くクラスメイトを覚えていないのだ。向こうが俺のことを認知しているだけに申し訳ない気持ちになる。

 

 そうして暫く膠着状態になっていたが、ふと少女の着ているジャージを見ると、腕の部分に『tosuka』と刺繍されているのが見えた。…多分戸塚って名字だな。

 

「…と、とつかさんは教室に何の用事だったんですかね」

 

 勇気を振り絞り沈黙打破のため声を出す。するととつかさんとやらはハッと何かに気がついたように顔を上げた。

 

「あ!…そ、そうだ、僕荷物を置きに来たんだ」 

 

 そう言って教室の中へと入ってくる。…いや、待て。

今『僕』って言わなかったか?僕っ娘なの?

 

 とつかさんはいそいそと自分の席に向かい荷物を置いていた。…そこは男子の列の席だよな。

 

 俺の疑念は一瞬にして確信に変わった。

 

「なあ、とつかさ…いや、戸塚」

 

「え?どうしたの?」

 

 声をかけられるとは思っていなかったのか『彼』は少し肩をビクつかせる。

 

「この階のトイレの小便器、詰まってるよな?」

 

「え?そ、そうだね。いつも流すとき困っちゃうよね〜」

 

「…それな」

 

 

 

 やはり彼は男だったようだ。容姿は恐らく百人中百人が女子と答えるぐらいに女性らしかったが、世の中にはいろんな人がいるもんだなぁ…

 

 そんな具合で感心していると彼は不思議に思ったのかこちらを見て首を傾げていた。…かわいい。相手は男の筈なのに何なのこのトキメキ。

 

「あ、そう言えば…」

 

「…?」

 

 今度は戸塚から話しかけてきた。控えめに体の前で手をいじりながら、申し訳無さそうな顔をしていた。

 

 何を聞かれるのだろうと身構えていると、戸塚はハッと顔を上げて言った。

 

 

 

 

「比企谷君ってさ、雪ノ下さんと付き合ってるの?」

 

 

 

 

「…はい?」

 

 質問が予想外過ぎて素っ頓狂な声が出る。

 

 しかし、思い当たる節があるのも事実だ。…多分昼休みのアレのせいだろうな。いや、多分とかじゃなくて絶対にアレだ。というか今考えても何だったんだあの時間。

 

「あ…ごめん、聞かれたくなかったよね…」

 

 俺が沈黙したのを見て戸塚は気を遣ってくる。その心づかいが今は痛い。

 

「いや、昼のあれはなんつーか………」

 

 言ってから考える。アレをなんて言い訳すればいいのだろう。傍から見て俺と雪ノ下の接点など皆無だろうし、だからといって事故の話をここでするのも憚られる。

 今こそ頭をフル回転させなければ。授業中に変な妄想しているときの回転率を舐めるなよ…!!

 

「お…」

 

「お?」

 

 

 

 

 

 

「お、落とし物を拾ってくれたらしい…」

 

 何これ。普通落とし物拾ったら職員室に届けるだろ。何いってんの俺。馬鹿じゃねぇの、嘘なのバレバレだろうが。

 

「へぇ〜そうだったんだね!」

 

 しかし戸塚は俺の言ったことを信じてくれたようだ。なんて純粋なんでしょうか、これからは天使って呼ぶことにしよう。勿論心の中でだけどね!

 

 

 

 

 そんな俺の心の叫びは余所に、戸塚は「皆にも誤解を解いておくね」と言ってにっこり笑う。頼もしいなぁ…、可能なら毎日味噌汁作って欲しいですねぇ。

 

 

「あ、あとさ…」

 

「あ?どうした?」

 

 戸塚はまだ疑問に思うことがあるのか、話を続ける。

まあ、流石にもう変なことは聞かれないだろうと安心して向き直る。

 時間が経っているせいか夕焼けが逆光になっていて戸塚の表情はよく分からない。というか眩しくて目が浄化されそうなんですが…

 

 そんな感じでよく見えなかったが、戸塚は何か意を決したかのように息を吸い込んで言った。

 

「この後暇なら一緒に帰ろうよ」

 

「え…?俺と?」

 

「うん、どうかな?」

 

 思わぬ誘いに困惑する。というか傍から見たら凄いアオハルしてない?男同士の普通の会話の筈なのにドキドキしちゃうんですけど。もう戸塚ルートでいいや。

 

「…いいぞ、別に他に友達いないし」

 

「そ、そっか…僕も多い方じゃないんだ」

 

「そうなのか…。まあ人それぞれだよな」

 

「そうだね。そういえば、今日の数学って…」

 

「それは…」

 

 

 

 

 

 そうして俺は机の荷物を掴み、戸塚と共に教室を出てそのまま一緒に帰ったのだった。他人と一緒にかえったのは何時ぶりだっただろうか。

 らしくないが、久しぶりの経験に心を踊らせた。

 

 

 

 

 

 

 しかし、これがまた別の事件を引き起こすことになるとは思わなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 暫く間を開けてすみません。大学の合格発表やその後の手続きなどがあり、忙しくしてました。
 あとこの作品はアンチ要素は無いので悪しからず。
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